オープンデスク体験記―代表との面談①―

突然告げられた面談

今日は雨だった。
事務所の最寄駅を降り、
小さな折り畳み傘を開き、
足早に事務所へと向かう。
朝もうちょっと寝ようと思ったせいで、
時間は結構ギリギリだ。
朝の掃除の時間に間に合うだろうか。

途中、交差点の信号に引っ掛かった。
心の中では足踏みをしていた。

青になった。
横から所員さんが現れ、歩く速度を緩めた。
正直、ちょっと安心した。

「おはようございます!」
「おはよう!いきなりの伝達で申し訳ないんだけど、
 今日○○さん(代表)と面談あるので
 よろしくおねがいします!」

お~い、まじか。
面談をすることは事前に聞いていたけど、
先にオープンデスクに参加した同期は
2週目の終盤にやってた気がするぞ。
今日まだ2週間目の始まりだぞ。

いつも通り掃除を終える。
「またごめんね、
 もう今すぐ面談始まることになったから
 準備お願いします!」

「(お~いおいおい、まじか。)
 …わかりました!」

準備はしていないけど、している。
自分が聞きたいのはある程度定まっている。
進路選択についてだ。
メモを取れるようにiPadを持ち、
所員さんについていった。

インターン生から見た事務所の印象

まず聞かれたのは、事務所の印象だった。
事務所をより良いものにしていくために、
ということらしい。

「自分はこういう設計事務所の
インターンに行ったことがなかったので、
あんまり比較対象はないんですけど…」

自分が約1週間の中で見てきた
所員さん同士のコミュニケーション、
上下関係は強くなくて風通しがよさそう、
模型の作り込み度合、
プランニングで驚いたこと、
などを話した。
詳細は一日ごとの日記で書きます。
たぶん。

自分の作りたい建築に、少しの変化を

いよいよ、こちらから質問をするチャンスがやってきた。
事務所のことでも、自分のことでもいいらしい。
いきなり自分のことを話すのもなんかあれだし、
事務所のプランニングのことで
気になったことを聞くことにした。

自分が模型を手伝った増築のプロジェクトで、
すごく特徴的で
賢いやり方だと思ったものがあり、
それがこの事務所の色なのか、
お施主さんの色が入っているのか
ということを聞いた。

回答は、
「このプロジェクトに関しては」
ほぼ100%事務所側からの提案だ、
とのことだった。

今、自分にはやりたい建築というものはない。
だから、今のところは極論、
お施主さんの作りたい建築が
そのまま自分の作りたい建築なんですよね、と伝えた。

代表は、
「お施主さんに合わせて
そこは変えていくべきなんじゃない?」
とおっしゃった。
お施主さんは建築のプロではない。
だから対価を払ってプロである設計者に
設計を依頼する。
自分の理想もそれぞれ持っているけど、
それがより良い価値をもつ建築にはつながらない。
重要なのは、お施主さんがどの程度
自分の理想を持っていて、
どの部分を設計者に任せたいと思っているのか。
その境界線を探る、見極めることだと言う。

もしお施主さんが
「この建築家が設計した建築なら全部好きです!
 この建築家の考えで設計した、ということに
 すべての価値を置きます!」
と言うのであれば、
(つまり、お施主さんの理想が全くなく、
設計者が100%デザインするのであれば)
設計者がやりたい建築を自由にやることを
代表は引き止めたりはしない。
お施主さんがそこに価値を置き対価を払っているからである。

けれど、それだとよい建築にはならない
ということもおっしゃった。
オスカー・ニーマイヤーのブラジリアの都市開発
を例に挙げて説明してくれた。
その時その設計者が理想とするものを作ったとしても
時代は移り変わって想定しなかったスラムができたりする。
一人の考えではうまくいかない。
だから、「対話」が必要なのだ。

「対話」というのは、
設計者の理想を押し出すこと
(設計者:お施主さん=100:0)
ではもちろんないし、
自分の考えに近い
お施主さんの理想をそのまま叶えること
(設計者:お施主さん=0:100)
でもない。

「対話」によって複数の視点を混ぜ合わせ、
ひとつの状況に対応するだけではない、
現代の複雑な状況をなるべくたくさん解決できるような
建築を作ることができる。

代表が「このプロジェクトに関しては」
と強調したのはそのためだったと理解した。
お施主さんの要求があまり多くなかったらしい。

だからこそ何となく他と違う印象を受けて
気になって質問してしまったのかもしれない。

はっきり言って、自分の考えは
間違いなのだ、と思った。
もっといろいろな考え方を知らないといけない。

それを察したのか、代表はさらに加える。

「学生のうちからトレーニングはできるよ」

なにか自分とは少し離れた考え方や建築に出会ったとき、
それがどうしてそうなったのか、
根底にその人のどういったコンテクストがあるのか、
一度考えてみるといいと言う。
すると、価値観の多様性を意識することができるし、
それがなぜいいのかを理解できるようになる。


これだけでも良い話が聞けて、
本題の進路選択の話に入るには
少し分量が多くなりそうなので、
ここでいったん終わろうと思います。

続き、本題は
「オープンデスク体験記-代表との面談②」
に書こうかなと思います。

今日も読んでくれてありがとうございます。
おやすみなさい。

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