スポーツにおいてパワーを最大に高める理由
「スポーツ」と「パワー」は切っても切り離せない関係です。
もっとパワーを向上させてジャンプ力を上げたい、パワーをつけてキック力を上げたい、
パワー向上=パフォーマンス向上
と言ってもいいくらいスポーツにおいてパワーは重要です。
では、この「パワー」を向上させるにはどうしたらいいのでしょうか?
また、パワーって言葉をなんとなく使っているけど本当はどういう意味?
など「パワー」に関する疑問を紐解いていきます。
パワーを知れば、
追い込めば追い込むほどいいという時代はもう終わりました。
生理学的、解剖学的、運動学的、そしてエビデンスをもとに考えてパワーを向上させる要因を見ていきましょう。
スポーツで使われるパワーとは
では、まずパワーという言葉の意味を確認していきます。「パワー」はよく「力」と同義語で使われることが多いですが、バイオメカニクス的に考えればこの2つは別の意味になります。
パワーとは物体が移動した距離とそれを行うのに必要な力の積となります。
パワー=力×速度
と表すことができます。
この公式を見てもらうとパワーの中に力があります。
そして力をかけた「速度」の結果がパワーとなります。
つまり、パワーとは力の大きさだけでなく速度も関係してくるということです。
「短い時間」で「めちゃくちゃ強い力」を発揮できることがパワーを高める要因になります。
そしてこの「めちゃくちゃ強い力」を発揮できるのは筋肉です。
骨格筋の仕組みと力発揮のメカニズム
パワーを発揮するためには筋肉が必要です。では、どうすれば筋肉が力を発揮できるのか?これは筋肉の仕組みから理解しなくてはいけません。
筋肉はマトリョーシカのような構造で筋束・筋線維(筋鞘に包まれ基底膜・形質膜の間に筋サテライト細胞が存在)・筋原線維(筋小胞体・ミトコンドリア)・ミオシン、アクチンが存在しています。
そしてアクチンがミオシンに滑り込むことによって筋肉が収縮すると考えられています。
この中で重要なのが「筋線維」です。
一定以上の負荷をトレーニングによって体に加えることで筋肉は傷つきます。傷ついた筋肉は回復を促そうと普段はおとなしい筋サテライト細胞が活性化します。
因みに、筋サテライト細胞とは筋線維の基底膜と形質膜の間に存在する細胞です。
筋サテライト細胞は筋肉が傷つくと筋線維を新しくしたり、筋線維を太くしようと働きます。
その結果、筋肥大が起こり筋横断面積が増加し発揮できる力が大きくなるのです。
力を発揮するポイントもう一つが運動単位です。
運動単位とは、α運動ニューロンとその神経支配を受ける筋線維群からなるもの。です。
もっとかみ砕くと1つの運動神経が支配している筋線維です。
筋肉が動くのは脳からの指令が脊髄を通りそれが筋肉へと信号を送っているからです。この脊髄から出ている運動神経が筋肉を動かしています。
そしてこの運動神経は一本一本が筋線維と繋がっているわけではなく、一本の運動神経が複数の筋線維を支配しています。
支配される筋線維が多ければ多いほど筋肉は力を発揮しやすくなります。
逆に少ない場合は力を発揮しにくくなります。
その為、運動単位の動員を高めることも大きな力を発揮するためには必要なことです。
ただ、先ほどもお話ししたようにパワーを高めるにはこれだけでは足りません。
ほとんどのスポーツは「短い時間に大きな力を発揮する」ことが重要です。
つまり、「短い時間」の部分を強化する必要があります。それが速度です。
筋線維タイプ~速筋と遅筋とは~
筋肉には発揮できる力や収縮速度によってタイプ分けされます。
速筋線維(typeⅡ):収縮速度が速く大きな力を発揮しやすい
遅筋線維(typeⅠ):大きな力は発揮できないが持久性に優れている
さらにここから、速筋はtypeⅡaとtypeⅡxに分けられます。
筋線維のタイプ分類について詳しくはこちら↓↓
つまり、力発揮は小さいけど長持ちするtypeⅠと遅筋と速筋の混合のtypeⅡaと速筋中の速筋タイプのtypeⅡxの3つに分けられます。
ヒトの体にはこの速筋と遅筋は50%ずつの比率で存在していると言われています。
そして、スポーツの種類によっても筋線維のタイプは変わってきます。
例えば、トップスプリンターは速筋が90%存在するという報告やマラソンなどの長距離競技者は70%ほど遅筋が存在するという報告もあります。
基本的に筋線維タイプは遺伝的な要因なので後天的に変わるということは考えにくいですが、
遅筋→速筋、
に変化することは考えにくいですが
速筋(typeⅡx)→速筋(typeⅡa)、
に変化することは確認されています。
じゃあ速筋が元々少ない人はスプリンターや跳躍種目に向いていないのかというとそうではありません。
確かに筋線維タイプが遅筋から速筋に変化することは考えにくいですが、速筋線維自体をトレーニングによって肥大または動員させることによって速筋の筋出力を高めることは可能です。
先天的に速筋と遅筋の比率は決まっているけど努力でどうにでもなるということですね。
以上のことから「短い時間」で大きな力を発揮する大事なポイントは、
【速筋線維をできるだけ動員させること】
です。※あくまでパワーを高めるためには、です。
ここまでをまとめると、
・筋肥大を起こして筋横断面積を増加させる
・運動単位を動員させて大きな力を発揮できるようにする
・速筋線維の肥大または動員させる
・多くのスポーツは短い時間に大きな力を発揮する必要がある
これがパワーを高めるために必要なことです。
具体的にどんなトレーニングをすればパワーは高まるの?
トレーニングの組み立ては順序立てて考える必要があります。
神経系の適応→筋肥大→最大筋力向上→パワー
この順序でトレーニングを組み立てていきます。
時期を分けてトレーニング設定を行うピリオダイゼーションについてはこちら↓↓
準備期についてはこちら↓↓
神経系の適応はいわゆる体を運動に慣れさせる、動きを覚える段階なので今回は省略します。
筋肥大させるには、1RM(1回持ち上げられる最大の重さ)の60~80%で8~10回×3セット繰り返します。
例えば、最大で100㎏挙上できるのであれば、80㎏×10回×3セット
これで筋に負荷をかけていきます。
そして大事なことは全力ですべての回数行うことです。筋自体のボリュームを大きくすることは筋出力を向上させるには重要です。
次に最大筋力向上です。
最大筋力を向上させるには筋肥大そして運動単位の動員です。
筋は大きくなったもののその筋肉が力を発揮できなくては意味がありません。力を発揮できるようにするために運動単位を動員させます。
運動単位の動員を高めるには1RMの90%ほどの負荷でトレーニングすることが必要です。
運動強度が低い場合は遅筋線維の動員、収縮され、運動強度が高くなるにつれて速筋の動員される割合が高くなるという報告があります。
またウエイトトレーニングによって遅筋の肥大率が20%であるのに対して速筋の肥大率は35%を超えているという報告がされています。
これらの報告から最大筋力に近いトレーニングを行うことで運動単位を高め、速筋の肥大、動員をすることができると考えられます。
筋肥大させた後に運動単位を高め、速筋線維の肥大、動員をすることで筋肉は、「使える筋肉」に変化していきます。
そしていよいよパワーを高めます。
最大筋力でのトレーニングがある程度できたら次はプライオメトリクストレーニングに移ってきます。
プライオメトリクストレーニングとは簡単に言えば爆発的な力を発揮させるトレーニングです。
重い重りを挙上できるけどそれが競技に生きなければ何の意味もありません。
「短い時間で大きな力を発揮する」
何度も出てきますがこれが大半のスポーツにおいては重要です。
ボックスやバーを使ったジャンプトレーニングを中心にメニューを工夫しながらやっていきましょう。
パワーを高めるためにはこれだけやればいい!というものは無くて結局体の土台から大切になってきます。まずは基礎から地道にやっていくことが大事です。
まとめ
・筋肥大をして筋横断面積を増加させる
・運動単位を高めて、速筋線維の肥大、動員で力発揮を高める
・パワーを高めるには土台が大切
参考文献
勝田、征矢:第3版 運動生理学20講
プロメテウス解剖学アトラス
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