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動物との信頼関係について考える(4)

弁別と信頼の悪い融合=執着?
信頼関係の成立や維持にとって「見分ける事(弁別)」は非常に重要です。信頼する対象を間違えると自身に危険が及ぶこともあり、イルカ(動物)は弁別に多くのエネルギーを使っていることが想像出来ます。弁別の目的は、信頼できるものを選択する事、そして信頼できないものを回避する事です。弁別と信頼は常に連動しています。この弁別と信頼が悪い形で融合すると、信頼できる人だけに執着し、その他は排除するというかなりヤヤコシイ事態が発生します。執着から脱出し、信頼関係を広げていくにはどうすれば良いのでしょうか。
 
例えば、αイルカについて、信頼関係が築かれたAさんとまだまだ不十分なBさんがいたとします。Aさんの信頼関係を壊さずに、Bさんの信頼関係を向上するにはどうすれば良いでしょうか。
 
まずはBさんの取り組みから。
 
方法1:Aさんの衣服や髪形をまねてみる
イルカを対象とした場合、結論から言うとあまり効果はありませんでした。そもそも、一番目立つ身長や体のボリュームなどの変更はほぼ不可能です。イルカを驚かせるようなものがあれば改善する必要がありますが、そのほかはあまり気にする必要は無く、出来る範囲で努力する程度で十分です。
 
方法2:Aさんの動作をコピーする
αイルカが「動作」の違いに注目して弁別しているのであれば、BさんはAさんの動作をコピーすることが一番の近道です。もちろんサインの出し方だけではなく、歩き方、扉の触り方、ブリッジのタイミング、餌の量、立ち位置とかも含めとにかく全部。かなり効果はありますが、限界があります。
 
方法3:Aさんの判断をコピーする
OKにする基準、サインを出す基準、OKやNGの時に何をするかの判断、トレーニングを終了するタイミングの判断など、全ての状況においてAさんが行う判断をコピーする。これはかなり効果的で、人側の動作の違いも吸収してくれる可能性があります。
 
方法4:知識や思想をコピーする
Aさんが何を目標としているのか、何を大切にしているのか、なぜこの判断をするのか、αイルカの行動をどのように解釈しているのかなど、根本となる知識や考え方や思想について教えてもらいましょう。納得するまでAさんとコミュニケーションを取ってからコピーすると効果はさらに大きくなります。このようなコミュニケーションは、Aさんの知識や思想にも良い影響を与え、Aさん自身の成長や拡張にもつながります。知識と思想のコピーは、判断や行動の精度向上や、αイルカ以外の個体にも応用が効きます。
*何も考えずセンスと直感だけで高い信頼関係を結ぶことが出来る恵まれた才能を持つ人が稀にいます。このような人の思考回路を理解しコピーすることは非常に難しいので、まずは行動のコピーに徹することが近道かもしれません。行動のコピーが出来てくると、感覚的なものも理解できるかもしれません。
 
今度はAさんの取り組み。
Bさんの努力だけでは不十分、Aさんも頑張りましょう。
 
方法1:自分のやり方をBさんに近づける
自分とBさんはどこが違うのか、Bさんには解らない事でもAさんには解ることがあるはずです。αイルカと相談しながら、自分のやり方をBさんに近づけていきましょう。不可能ではないはずです、Aさんとαイルカの信頼関係はより広がるはずです。
 
方法2:Bさんがαイルカと接する時間を増やす
信頼関係は過ごした時間に比例して深まっていく傾向もあります。自分がαイルカと過ごす時間をもう少しBさんにも分けてあげましょう。
 
方法3:Aさん自身の思考を変える
信頼関係には中毒性があります。信頼関係を深く結んだイルカ(動物)と過ごす時間は魅力的で心地よく、どうしても独占したくなります。また、他人が割り込んでくると、イルカ(動物)との関係がギクシャクする事もあり、他人を排除しがちです。これは人がイルカに執着している状況です。信頼関係が成立する過程でイルカ(動物)側に生じる「執着」が、実は人側にも発生するという事が言えそうです。
動物側の執着問題を解消するには、まずは人側の執着を手放なければなりません。信頼関係で得られる利益は当事者以外へも広く波及する必要があります。Aさんとαイルカの間に信頼関係が構築されたのであれば、今度は執着を手放して信頼関係をBさんへ広げていく事がAさんの次の課題です、もちろんAさんが作り上げた信頼関係を維持したままで。
 
そして、チーム全体としての取り組みへ
信頼関係の広がりはイルカにとって利益しかありません。
信頼関係は、AさんとBさんだけにとどまらず、チーム全体、施設全体、さらにはゲストにまでも広がるといいなと思います。
トレーナーと過ごす時間だけでなく、どんなゲストが来るか楽しみにしているイルカが暮らしている施設を想像してみてください。ワクワクしますね。
信頼関係を拡張する取り組みの本質に迫ってみましょう。

・明確に目的と目標を設定し、
・対等な意見交換を頻繁に行い、
・知識の吸収に貪欲で、
・動作・判断・考え方を統一し、
・現状に満足せず(まだ不十分、もっと出来るはず)、
・さらに良いものを目指しで努力する。

結局どこにでもありそうな話になってしまいました。
 
 
信頼関係という、つかみどころのないものについて、4回に分けて強引に踏み込んでみました。
私自身、実際にイルカを前にしていると科学的に説明のつかない信頼関係的な何かを感じる事があります。行動形成がググっと伸びる瞬間、タイミングがぴったり合った瞬間、やってほしい事とイルカの行動がぴったり合った瞬間など、うまくいっている時に多く感じます。
良い関係性(信頼関係)の構築は、行動形成への良い影響だけでなく、健康維持やゲスト満足度向上など、様々な良い効果をもたらす可能性を秘めています。
思い込みや個人の感覚にとらわれず、動物の行動に注目することはトレーナーの基本です。しかし、行動に注目することだけが重要視された結果、行動形成以外の価値が見落とされるようにも感じます。
素晴らしい動きを見せる動物の陰には、トレーナーとの本物の信頼関係が見え隠れしています。行動形成を突き詰めると、信頼関係の必要性が見えてくるかもしれません。
トレーナーの身を守るために使われる信頼関係という言葉に騙されず、本物の信頼関係を追い続けていきたいものです。
 
信頼関係について考えるシリーズは一旦これでお終いです。
何か思いついたら再開するかも・・・。

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