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とっても素敵なイルカとの壮絶な戦い・バケツ倒し編3

バケツ倒すのやめてー。

イルカがバケツを狙ってアタックを仕掛けるポイントがわかってきました。
バケツを中心としたイルカとトレーナーの位置関係、そしてトレーナーの注意力。わざと隙を作って、それでもバケツを倒さず、きちんとできたら強化、強化。
ところが、やってみたら、意外と難しい。
見てないふり、よそ見しているふりに騙されて、バケツを倒しに来たのは最初だけ、そのあとバケツを倒しに来ないんです。イルカにとって、トレーナーがバケツに注意していないように見えないと(感じないと)トレーニングにならない。

なんだこいつ、全部見破っているのか?

たしか、イルカの空中視力はそんなに良くなかったはず、トレーナーの顔がどっちを向いているかぐらいは分かるかもしれないが、そもそも目線の違いまで見えているのか疑問。アイコンタクトが大切と先輩に言われたけれど、イルカの視力は人の黒目の動きまでわかるのか?
イルカはトレーナーのどこを見ている?なぜ見破られる?

一生懸命、様々な方法を試してみますが、一向にバケツを倒す気配はなく、しっかり種目を行っています。こんなことが続くと、トレーナーの集中力も落ちてきますね。

その瞬間、やられました、バケツ倒し。でも、途中でブロック、バケツとエサはステージに広がっただけです。

やっぱり、本当に注意力が落ちた時と、注意していないふりをしている時の違いを見破っているとしか考えられない。どこで見抜いている?
思い当たるのは・・・。

・体重の掛け方
 右足でブロックの時は左足に、左足でブロックの時は右足に体重が乗っていた。

・力の入れ具合
 イルカの動きに素早く対応しようとしていたので、いろんなところに力が入っていた。そのため、体の動きが急加速、急停止、しかも動きが直線的だった。

・その他
 何か解らないが変な雰囲気だった。

体重は左右ランダムに、時々足でブロック出来ない状況を自然にアピール。体の力を抜いて特に手足の動きを自然に。考えていることが体の動きに影響する可能性もあるのではと思って、バケツの事は極力忘れて「今この瞬間だけに集中」。
どうにか、少しづつ気配を消せるようになってきました(当社比)。

さて、もう一つやらなければならない事があります。
イルカMの動きをいち早く察知すること。
バケツを倒されてから気づくのではなく、起動しようとした瞬間に気づくことが出来れば、トレーナーが無防備でもバケツ倒しブロックが出来るのでは。イルカも起動するには準備が必要なはず、何としても見抜けるようになりたい。

さー迷走の始まりです。ここからはトレーニングじゃないですよ、騙しあいです。主観が入り込んできますので注意してください。

イルカMの微妙な変化を察知できるよう全神経を集中しつつ、注意散漫のフリ(これ最重要!)をする。イルカはバケツを倒そうと動き始めようとする(ほぼ動いていない)。トレーナーはイルカMの微妙な変化を察知し、瞬間的にブロック体制に入る気配を見せる(体重を左に少し動かすだけだったり、右腕全体の筋肉に力を入れる程度です)。イルカMはトレーナーに気づかれた事に気づいて瞬間的にブレーキをかけ何事もなかったかのように、ショーを続行。どうにかしてバケツを倒したいイルカMは、バケツ倒しをする気配をさらに消し、トレーナーの隙を狙う。トレーナーもバケツに注意していない雰囲気を出しつつ、バケツ倒しを誘う。

時間的にはほんの一瞬の出来事です。バケツを中心としたイルカMとトレーナーの激しい戦いはショー終了まで続きます。ものすごい集中力が必要で、ショーが終わったときにはぐったりします。

さらに、この戦いはどんどんエスカレートしていきます。
別の日には、バケツの中には魚2匹だけでイルカショーをスタート、開始直後のジャンプと個体紹介の吻タッチの後で、バケツへの注意をストンと抜きます。イルカMは予想通り美しいバケツ倒し。バケツはプール中央まで飛んでいきますが、すでに全ての餌を使い終わり、バケツは空っぽ。

「勝ったな」

イルカMにバケツ回収のサインを出すと、しっかり自分で回収できる、もちろん餌で強化です(本末転倒になっている?)。

バケツ倒しの戦いを繰り広げていた期間、不思議とイルカMの動きが最高に良かったんです。サイン反応は最高、種目レベルも最高、種目からの戻りも最高、待機も非の打ち所がない、完璧です。

でも、これって結局バケツを倒そうとしているだけ?ですよね、イルカM。

最終的にこの戦いはどうなったかというと、
「バケツはイルカの届かないところに置きましょう」
という事になりました、修正を諦めました、完全に敗北です。

戦いには敗北しましたが、私にとっては最高に楽しい時間でした。イルカMにとってはどんな時間だったのでしょうか、楽しんでくれていたら良いんですけど。

今更なんですが、このバケツ倒し、最初のきっかけをしっかり先輩に聞いていませんでした、なので推測です。

偶然イルカがバケツを倒したら、餌がいっぱい出てきたので、バケツを倒す行動が強化された、って強化の原理を勉強してる人は言いそうですが、嘘だろーって思うわけです。ショー中にいろんな行動が出現していれば、この解釈もわかりますよ。でも、ショー中に出現する行動は、サイン通りの種目か、ヘッドアップした待機か、はたまた離れていくか、これくらいです。ある日突然、偶然にバケツ倒しが発生する可能性は限りなくゼロに近いのではと思います。また、自然にシェイピングされた結果バケツ倒しが完成したのであれば途中で気づくはずです。バケツを倒して良い事が起きたという経験をしていないイルカがバケツを倒しに来たとしか考えられません。イルカは経験をしなくても、現在の状況から、どうすれば良いことが起きるかを思考して行動に移せる能力を持っているのではないかと思うわけです。すごい事を発見してしまった、と一瞬思ったのですが、よく考えてみると、これ当たり前の能力なんですよね。野生では、捕食者はこれくらいの事できないと獲物を捕まえる事はできないし、捕食される側もこれくらいの事出来ないとハンターから逃げられないですよね

さて、イルカMのバケツ倒しから学んだ事を、理論的で科学的っぽっく強引にまとめてみましょう(突っ込み禁止)。

1.イルカのもつ能力を甘く見てはいけない、

2.イルカはトレーナーの気配を察知することが出来る。

3.気配とは
①トレーナーの行動変化の先行刺激
行動を変えるために準備を行ったときにあらわれる状態の事で、体重移動や、筋肉の収縮、次の行動を起動しやすくする体勢作りなどである。
②通常とは違った動きである
イルカが予測した人の動きと違う動きの事で、急加速、急停止、通常の軌道からズレた異常軌道などがあげられる。

4.トレーナーの心理状態の変化は、トレーナーの行動の違いとして現れ、その違いをイルカは通常異なる状況として判断することが出来る。

5.通常行わない(頻度の少ない)片足体重、不自然な力の入り具合、急加速、急停止、予測できない軌道の変化はイルカを警戒させる

6.イルカからどう見えるか意識することはすごい大切である

7.イルカの行動は0.1秒単位(瞬間的にという意味です)でジャッジする必要がある。

8.イルカには勝てない、戦っても無駄である。イルカのもつ能力を甘く見てはいけない。

モーガンの公準に当てはめるとどうなるんですかね。シビアなデータ取りして分析するとどんな結果が出るのでしょうか、非常に興味あります。イルカM以外にも、各地にいるみたいですよ、バケツ倒しマニアのイルカ!どなたか研究してみませんか?

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