イルカが離れていく!何でだ!①(新人トレーナー応援バージョン)
「離れ」という言葉に過剰反応する人がいたら、絶対に海洋哺乳動物系のトレーナーですね、多分イルカトレーナーです。むしろ「離れ」に恐怖を感じているトレーナーも多いのではないでしょうか。多くの皆様にはなじみが無いと思いますので、あらためて離れとは何か復習しましょう。
「離れ」とは、
ショートやレーニングや取材中にコントロールが効かずイルカがトレーナーの前からいなくなってしまう事。絶対に失敗してはいけない場面や、絶対に大丈夫と慢心した瞬間になぜか多く発生する。動物を離すと、その場の空気が瞬間的に凍り付き、後で上司や先輩からこっぴどく怒られる。「絶対離すな」と厳しく指導されるが、具体的に離さない方法を教えてもらえることは皆無。離れは自然発生し原因の特定が困難で、加速度的に頻度が上昇する。何もせず給餌しているだけでも発生することもある。
いかがですか、どれだけ離れが怖いか伝わりましたでしょうか。
ほとんどの新人の皆様は困っているのではないでしょうか。原因は離れに対するテクニックを教えてもらっていないからだと思います。
せっかくなので、ここでは特別に、自分の事しか考えていない既得権益を必死に守ろうとしている経験者が密かに行っている、だれも教えてくれない貴重なテクニックについてご紹介します、ぜひトライしてみてください。
イルカを離さないこのテクニックは、イルカを騙すことで成り立っています。したがって、このテクニックをマスターするには、良心を捨てる必要があります。イルカの為とか、良いチームワークづくりといった考え方は不要です、「自分さえよければいい」という考え方に徹してください。イルカのトレーニングと、他のスタッフとの情報共有、そしてお互いの切磋琢磨は放棄してください。このテクニックは、沢山使うと効果が極端に低下します。他のスタッフが使い始めると、自分が使える分量が減少してしまいます。したがって自分以外のスタッフにテクニックを使っていることを知られてはいけません。最大の効果を引き出すには、それなりの技術が必要ですが、試行錯誤しながら最適な方法を探してみてください。ポイントはイルカをどれだけ騙せるかです。もともと離れる状況なので、失敗しても見つからないので大丈夫です。
ブラック度合の違いはありますが、代表的なテクニックを紹介します。
・テクニック1 餌をすっごく小さくする
餌が大きすぎると餌をもらった直後に離れる頻度が高くなることがあります。適切な餌の大きさを探ってください。イルカが餌と認識できる最小限まで小さくしましょう。ただし、小さくしすぎると離れます。もちろん行動を強化することは考えないでください。
・テクニック2 餌をあげない
テクニック1をより過激にした発展形です。餌が出るまではイルカは離れずサインに反応します。テクニック1、2、ともに十分な強化子を得た事による反応休止を避ける事が目的です。テクニック2ではさらに消去抵抗としての効果も狙いの一つです、限界までイルカを混乱。何種目騙すことが出来るか挑戦しましょう。ただし、やりすぎると餌が出ないこと学習し、すべて崩壊するので注意してください。また、餌をあげた直後は高確率でイルカが離れますので覚悟してください。
・テクニック3 餌をあげる基準
餌をあげてもそのあと離れないと予想されるときにだけ餌をあげてください。種目のOKは餌をあげる基準ではありません。餌は種目の強化を目的としては使いません。離さないことが目的です。
・テクニック4 餌をあげるタイミングを早く
餌をあげるタイミングを早くしましょう。例えば種目の戻り途中で餌を投げてください。餌を食べたイルカはそのままのコースを維持してトレーナーの前に戻ってくる確立が高いです。トレーナーから離れるコースの時に餌を投げると逆に高確率で餌を咥えたまま戻ってこないので要注意です。
・テクニック5 餌はスムーズにあげましょう
ボックスに手を入れてから、イルカの口に餌が届くまでの時間が長いと、餌をもらった直後に離れる確率が高くなります。スムーズにあげられるように、イルカのいないところで、餌の持ち方やあげ方を練習しましょう。
・テクニック6 サインはヘッドアップする前に出す
戻ってきたらしっかりヘッドアップする前に次ぎのサインを出しましょう。タイミングが遅れると(イルカを待たせると)離れの原因になります。早すぎるとサイン反応しません。最適なタイミングは一瞬です、見逃さないように。
・テクニック7 時々餌をあげない
テクニック1~4の複合技。種目レベルがOKでも、時々ホイッスルだけで餌をあげずに次の種目に進む、またはホイッスルも餌も無し、イルカを混乱させてください。適度な混乱はイルカの集中力を高めます。全体的にトレーナーのテンポが速いほうが効果が大きいような気がします。
・テクニック8 離れやすい状況で離れやすい種目のサインは出さない
徹底した逃げのテクニックです。イルカをよく観察して、離れやすい状況や離れやすい種目は避けてください、採血のトレーニングなんかもやめたほうが良いです。自分が危険を回避することで、ほかのスタッフがイルカを担当したときにイルカが離れる確立が高くなります。ほかのスタッフを生け贄にすると、自分が怒られる頻度が下がります。
・テクニック9 条件性強化子の有効活用(不自然な動き)
イルカが離れそうなとき、移動の準備(自分の体の体重移動)や、ターゲットの準備(取ろうとする)、餌をあげる準備(バケツに手を伸ばそうとする)など、条件性強化子となっているトレーナーの動作を行う事で、かなりの確率でイルカの離れを止めることが出来ます。
何が効果があるか試してください。ただし、やりすぎると、イルカの離れを止める効果が消失しますので注意してください。ちなみに、バケツを持って後ろに下がることも効果的です(タイムアウトなのか?条件性強化子なのか?カオスですね)。
・テクニック10 効果的なイルカの呼び戻し方
イルカが離れた時には、より近い位置、より早い時間のほうが戻ってくる確立が高いです。呼び戻すなら早いタイミングで躊躇せずに呼びましょう。イルカの吻先の動きが5㎝以内が良いと思います。また、離れている時にも、戻ってきやすいタイミングがあるので、しっかり見抜いてサイン1発で戻しましょう。一例としては、遊泳方向がトレーナーに向いた瞬間は効果的です。
・テクニック11 摂餌制限
お腹が空くと、離れが少なくなります。効果は大きいですが、適切な摂餌制限の設定は、思った以上にデータと経験と勘が必要です。やりすぎると、体重減少、脱水、免疫低下、餓死、他個体やトレーナーへの威嚇増加など副作用が大きいのであまりおすすめはしません。
いかがでしょうか、周囲に見つからずに出来そうですか?
他にもテクニックはありそうですね。探してみましょう。
これは、あなたがなりたかった理想のトレーナーですか?
さらに、経験者の非道なふるまいについて。
経験者は自分のトレーニングを進めたいので、離れる確率の高いイルカを新人に充てることがあります。しかも、これはやっちゃダメ、あれもダメって条件が沢山付いてきます。なぜ、条件が沢山付けられるのでしょうか?経験者がそのイルカを担当したときに、自分だけ効果的にテクニックを使うためです。自分の事しか考えていない経験者たちの中で鍛えられている新人の皆様は、もちろん自分の事だけ考えましょう。設定された条件は全てを網羅しているわけではありません、必ず抜け穴があります。真面目に言われた事だけやってたら損しますよ。
新人の皆様へ
イルカが離れるのはアナタのせいではありません。
アナタは正しい、間違っていません、大丈夫です。
テクニックを教えず、対処方法も伝えず、やってよい事に制限をかけ、離れやすいイルカを担当させ、そしてイルカが離れたら怒る、理不尽なのはアナタの上司と、近くにいる経験者や先輩です。
このままやられっぱなしで良いですか?
教えてもらえないということは、自分で体得し、発見出来るチャンスです。
自分のやりたかったこと、理想、夢を思い出してください、諦めず追求してください。離れた後どうするかではなく、イルカを離さないためにどうするかです。出来る人達が何をしているかよく観察してください、そして真似してみてください。やったらダメと言われているなら、やっても良い事の範囲に入るようアレンジしてやってみてください。もしくはバレないようにやってみてください(どうせ見ていないから大丈夫です)。失敗しても大丈夫、被害は何もしなかったときと同程度ですから。怒られらたときにはすべてを許してもらえる素敵な言葉を使いましょう「バルス!」もしくは「ごめんなさい」。同じように苦しんでいる人が沢山います、あなただけではありません、大丈夫。苦労した分、素晴らしいものが手に入ります。
大丈夫です、トライしましょう。何とか今を乗り越えるためには、テクニックは使ってもいいんです。ただし、テクニックに飲み込まれないように。アナタはどんなトレーナーになりたいですか?
経験者の皆様へ
アナタの培ってきたテクニックはたとえその場しのぎであっても貴重な技術です。考え方と使い方次第では、素敵なイルカを育てるために必要となる技術です。もったいないです、多くの人に広めませんか。ちなみに、テクニックを独り占めしていること、大切な事を他人に教えていないこと、自分さえよければ良いと考えていること、これらは上司にはバレないかもしれませんが、部下には完全にバレてますよ。このまま現状に居座り続けますか?
アナタが必死に既得権益を守ることで、手に入るはずだった大切なもの、素晴らしいものを得る事が出来なくなっています。それでも、現状維持にこだわるのであれば、それも一つのトレーナーの姿ですね。多様性は生物の持つ素晴らしさの一つです、そんなトレーナーが居ることで良い事もあるかもしれません、否定はしませんが・・・一緒に仕事してても、自分は楽しくはないです。
経営者、管理者の皆様
施設の思想や理念や目標がスタッフの動きに影響し、イルカの動きの違いとして現れます。人を使うのは難しいですね。どんな施設にしたいですか、どんなスタッフになってもらいたいですか。
テクニックはトレーナーにとって必要で高等な技術です。騙すなんて表現をしてすいません、正確にはイルカに考えさせるですね。わざと過激な表現を使いました、誤解させて申し訳ございません。テクニックがなぜ効果を発揮するか理解し、どう使うか、目的や思想が大切だと思います。あれ、それって最新科学技術なんかと一緒ですね。
さて、今回のまとめ
「新人の皆さん、アナタは悪くない」
次回、テクニックからの脱出、経験者の皆様応援バージョンを予定しております、ご期待ください。またねー。