反・マッチョイズム的公認会計士短答式試験対策(後編)


勉強する際に留意すべき点

 前編でも触れた不確実性に関連して、この試験の怖さの2つ目の要素として、「勉強が成績に反映されるまでにかなりの時間を要する」、つまりは、勉強方法が自分に合っているのか十分な量なのかそうでないのかわかるのにも時間がかかるというのがあります。
 また、相対試験であるがゆえに、客観的に自分の立ち位置(受験生の中での相対順位)を掴むのは試験の直前期までできません
 これらが悪魔合体することで、直前の模試で実力が不十分なことに気付くも挽回困難……というパターンに嵌ってしまうのも容易に想像できます。
 ですので、直前期に周囲の霧が晴れるまで、暗い霧の中をひとりで進むが如く、足を踏み外さないか慎重に、しかし針路に自信を持って素早く歩いていかなければなりません。この過程はかなりメンタルにキます。

各期間の方針と実践

この記事では、以下3期に分割して学習方針と内容を振り返ります。
導入期(2024.3〜8末)
 …講義を聞いてインプット。勉強する環境・習慣を作る。
理解期(2024.9頭〜10末)
 …講義で学んだ内容を消化整理するとともに、短答式試験の形式に慣れて点数の不確実性を減らしていく。
直前期(2024.11頭〜12初旬)
 …基本的に理解期の繰り返し(特別なことはしない、苦手な箇所はやんわり補強する)。

〇導入期

・使用教材・講義
 レギュラー講義+レギュラー答練
  財務計算…植田先生
  財務理論…植田先生
  管理会計…植田先生
  監査論 …松本先生
  企業法 …青木先生
・かけた時間
  4月…208時間
  5月…191時間
  6月…91時間←引っ越しもあり少なめ
  7月…130時間
  8月…135時間

・勉強する環境と習慣をつくる
 6月までは自治体の図書館で勉強していたのですが、やはり席取り争いなど無用な心配があったため、家族の理解を得て、CPA自習室の徒歩圏内に引っ越しました。
 また、勉強習慣については3日勉強したら1日育児、勉強日は朝10時から17時半まで休憩抜きで7時間の勉強を目安としていました。

・とにかく講義を聞く
 2倍速だと聞いて理解するのが厳しかったため、1.7倍速で聞いていました。
 財務と管理は8月末まで、監査と企業は9月中旬頃に講義を完走し、かかった時間は750時間(復習等込み)でした。
 なお、一度聞いた講義をもう一度しっかり聞くことはまずない(改めて聞くとしても、聞いたことあるような内容が多い中、全体をガッツリ聞くのはしんどいため)ので、初見が最初で最後のチャンスだと思って聞きましょう

・適度な復習
 この段階での復習は、この先の期間からみて滅茶苦茶大事です。講義内で言われた教材(財務計算では例題及び個別問題集、管理計算では例題と個別問題集と短答対策問題集、理論科目では短答対策問題集)を翌勉強日までに1周していましたが、計算科目は3周が推奨らしいです。
 ただ、受験生メンタル的にはなるべく先に進んだ方が進捗を感じられて良く、また、この試験全体に通じる話として、勉強範囲が広がるほど以前わからなかったところがわかるようになりやすいため、ある程度は講義を聞き置いてガンガン先に進むというのも大事かと思います(そのメリハリが難しいのですが…)。

・理論科目(特に財務理論、企業法)の骨格を後回しにしない
 財務理論について、他の科目より優先度を下げていたところ、他の科目が出来上がっていく中で中々仕上がらず、本番まで尾を引く結果となりました(財務全体で理論のみ2ミス)。見た目に反して非常に学習範囲が広く、計算が理解できたからと言って得点できるものではない為、早いうちから本腰を入れて取り組むべきだと思います。
 企業法については、青木先生のレギュラー講義を取っていたため、1回の講義が4時間超あったりする、論文式試験まで見据えたかなりボリュームのある講義を受けていましたが、短答に対しても非常にためになりました。
 よく言われる理論科目が後からなんとかなるというのは、先に大枠を握っているから細かい論点が詰め込みやすいという意味であり、まっさらな状態から入れていくには計算と同様にかなりの時間を要することになります。

・レギュラー答練を確実に受ける
 CPAの初学者コースにはレギュラー答練という、それまでに勉強した範囲から構成される定期的なミニテストがあり、こちらで、自分の絶対的な理解度を把握することができます。
 上記のような不確実性の管理や、現時点でどこまで理解しておけばいいか、という進捗管理の点で極めて大事ですので、馬鹿にせずしっかり受けましょう。

・目標半年前の短答のお試し受験
 短答式試験は1年に2回あるので、滅茶苦茶速習じゃなければ半年前の試験も受験申し込みできると思います。(試験の3ヶ月前に出願締め切り)
 5月短答は5%くらいは受かるかなと思いながら、予行演習として受けてました(結果は64%)。
 試験会場の雰囲気、試験特有の時間感覚などが掴めるので、1回は受けておいて損はないと思います。

〇理解期

・使用教材
【財務計算】
 短答対策問題集(9/9~10/28までに2周+苦手論点は多め)
【財務理論】
 コンサマぱらぱら←今思えば早めに問題集をやっておくべきでした
【管理計算】
 短答対策問題集(9/5~10/28までに2周+苦手論点は多め)
【監査論】
 コンサマ
 短答対策問題集(10/4~10/28までに1周)
【企業法】
 コンサマ
 短答対策問題集(10/6~10/28までに1周)

・かけた時間
 9月…162時間
 10月…150時間

・短答式試験での不確実性を下げる
 導入期のレギュラー答練が毎回悪くない成績だったとしても、すぐに短答式試験の形式で良い点数が取れるわけではありません。前編で言及した不確実性が大きいため、講義で触れられた例題が解けるとしても、直ちに答練・試験の点数に直結しないためです。このため、ここからは苦手意識のある分野を補強するとともに、以下のような不確実性を下げるための勉強を進めることになります。
 後述しますが、直前期になると逆に勉強能率が下がるような気がするため、実は初学受験生の間で最も差がつくのは、やることがほぼ変わらない導入が終わったあとの理解期における立ち回りだと思っています。

(計算)短答対策問題集をぶん回すことで形式に慣れる
 頻出の問題形式に慣れることで、答練における安定した得点源となるとともに、試験時間に余裕ができ、初見の問題にもビビらずに取り組めるようになります。また、表面上の理解しかしていなかった分野でも、何度も何度も回すことで徐々に深まっていることはままあります。
(計算)解法と背景、理論の接続を意識する
 植田先生の財務計算の講義では「神下書き」なる解答にあたっての解法メモがしばしば紹介されます。初学者にとっては非常に有用で、型にはまった問題なら神下書きの書き方さえ身に付けておけば簡単に解けてしまうのですが、実際の試験ではより本源的な理解を問う問題も出されやすいため、神下書きと会計上あるべき仕訳の関係及び理論的になにがどう処理されているのか、という点を常に意識して問題を解くことにより、初見問題への対応力を付けていきたいです。
 特に事業分離は神下書きと仕訳の対応関係がかなり不明瞭なので、毎回仕訳も書き出してました。
(計算)論点まとめ、ミスノート
 財務計算については論点が多いことから、リース会計や連結除外、企業結合などの難解な論点については自分なりに神下書き⇔仕訳⇔問題文をリンクさせたり、ひっかけ箇所の分岐を整理した論点まとめペーパーを作成していました。
 また、計算にあたってミスした部分を書き溜めることで、どのような点でミスしやすいのかを明確にし、次に解く際の戒めとしていました。
 なお、企業法についても似た処理をする項目を比較したり、同じ処理になりそうだけど違うところ(新株発行と新株予約権発行等)を自分でまとめて綴じ込んでました。
(理論)コンサマ加工
 たまに滅茶苦茶カラフルに参考書本文を加工している方がいますが、後から見返して見辛くないのかなと思っています。コンサマについては、講義で要注意とされていたり、それまでの答練で間違って印象に残っている箇所、問題集1周目に間違った箇所に青下線で引き、問題集2周目や直前期の答練で間違った箇所は赤下線で引くことで、間違いやすさや理解不足を明示する形で加工していました。

〇直前期

・使用教材
【財務計算】
 短答対策問題集(本番までに1周、頻出論点は直前2週間に後回し)
 短対集に載っていない論点はテキスト例題(親子合併、金融商品の消滅等)
【財務理論】
 テキスト再読
 コンサマ
 スマートコアチェック(本番までに1周、AB論点はさらに1周)
 2日前に過去問1周
【管理計算】
 短答対策問題集(本番までに1周した上で頻出論点は抜粋して直前に追加実施)
【管理理論】
 原価計算基準解説
 コンサマ
 短答対策問題集(本番までに1周)
 4日前に過去問1周
【監査論】
 コンサマ
 短答対策問題集(本番までに1周)
【企業法】
 コンサマ
 短答対策問題集(本番までに1周)

・かけた時間
 11月…147時間
 12月…38時間
 ここまでの合計1250時間程度

・加速するとは限らない
 CPAでは本番の2、4、6週間前にそれぞれ本番形式の模試(答練)が設定されます。1発目の6週間前の答練から、講師陣や自習室の雰囲気が直前期のそれに変わっていきます
 直前期になると俄然やる気が出る…と思っていたのですが、自分の場合、逆に身が入りにくくなりました。短距離走で力みすぎると空回りして逆に遅くなるみたいなことが、試験勉強でもあるんだなと気付かされました。
 幸いにも模試の成績が上位安定していたためメンタル影響は小さかったためですが、成績が不安定だとメンタルもそれにつられて不安定になり、学習効率にまで影響しかねないと思います。
 そのことから、直前期に負荷をかけすぎないよう、また、勉強方法を試行錯誤しないよう、理解期に各科目の自分に合った勉強方法を少なくとも1周して確立しておくのが肝要だと考えています。
 一時期、本番の試験順に毎日の勉強の順番を合わせようとしましたが、財務計算が1日の最後となり学習効率が落ちたことが明らかだったためすぐに止めました。

・論点を分野ごと切らない
 昨今の短答式試験は他の受験生が取れる問題の取りこぼしに厳しい試験となっていることから、論点を分野ごと切ること自体が不確実性の大きな要素(心配要素)となってしまいます。また、メジャー分野の重要度C論点よりもマイナー分野の重要度A論点の方ができるようになりやすいため、1回は軽く触れておいた方が精神衛生上よいのではないかと思います。

この試験に臨む上で一番大事なことは(長期の学習を支える)メンタル管理

 この試験で最も大事なことはどれだけ学習を継続できるかであり、そのために一番必要なのは長期間勉強に向き合えるメンタルとそのコントロールだと思っています。長い試験勉強中、すべてが上手くいくわけではなく、誰しもしんどい時期が必ずやってくるからです。

・勉強以外の不安定要因をなるべく排除
 人間、あまりにも不安定要素が多いとふとしたタイミングで壊れてしまいます。

・小さな成功を大事に
 この試験は最後まで全クリ不可能です。ですから、ゲームをやる人で最初から隠し要素とかコンプ要素を全てやりこみながら進まないと気が済まない人は要注意なのですが、とにかく100%を目指さない、答練の結果が凹んでも気負いすぎない、毎日の小さな積み上げを自分で褒めるということがメンタル管理上とても大事です。

・勉強時間管理アプリを活用
 短答のときは導入しておらず論文に向けてやり始めたのですが、やった時間がはっきりとわかるようになり、「自分はここまでやってきたんだ」と努力が可視化されるので非常にポジティブな効果があると思っています。

・管理可能な不確実性と管理不能な不確実性を切り分けて
 上記の100%クリアが不可能という話に通じるところで、合格するうえで無視しても良い不確実性もあるわけです(例えばR7-Ⅰ試験では予備校の間で正答が割れた問題がありました)。自分がここまではできるべき、ここからはできる必要はないというのを明確にしておかないと、いつまで経っても勉強したことが自信になりません。

・無理難題を吹っ掛けられてるわけではない
 短答式は相対試験である上に、超絶技巧的な難題を解かないと受からないわけではなく、全受験生の40%が取れる問題を全部取れれば受かるわけです。ということは、決して1問1問は無理難題なわけではなく、不確実性に起因して取れるはずだった問題を取りこぼしてしまうこと、それがこの試験の難しさに繋がっています。それを強く意識して勉強すべきだと思います。

・計画を細かく決めすぎなくても良い
 どのような教材でどのように勉強するか、という中長期的な計画は必要ですが、それを毎日の勉強に細かく割り付けすぎると、日々の目標達成未達に気が取られてより大事な内容が疎かになるタイプでした。
 また、不確実性の大きい試験がゆえに、日々目標を守ったからといって見返りとしての得点がすぐ発生するわけでもないため、計画を細かく設定して守って行きたい人と、そうでない(日々できるところまでやり、進捗は中長期的に管理していくのが向いている)人に分かれると思います。
 細かい日々の計画を設定するのはそれ以外の何かと勉強を両立するために、勉強をここまでやれば他のことをやっていいという水準を自分で定めるのが一番大きな目的であり、育児のように先に枠が取られ、残った時間の殆どを注ぎ込む場合、真面目にやりさえすれば細かい計画管理は不要でしょう。
 マッチョである必要はないですが、ストイックである必要はあると思っています。

・勉強を楽しむ
 長い期間、同じことを繰り返し続けるのは楽しくなければ苦痛でしかないので、色んなところで楽しみを見付けて行きましょう。
 財務の答練でひねくれまくった問題を見たとき、出題者はめちゃ性格悪いなぁとよく思ってましたが、それくらいでいいんだと思います。

・撤退先の目星
 正直、この試験には特有の不確実性があるため、どれだけ勉強したとしても1回きりの受験で100%受かるという状況にはなりません。ですから、今から参入したいという奇特な方は万が一撤退した際の逃げ道をうっすらとでも作っておいた方が、メンタルの安定につながり結果的に受かりやすいのではないかと思います。
 自分の場合、辞める前にいた業界が全国的に人手不足のため、待遇を問わなければどこでも拾ってくれるような状況でした。そんな背景があって、でも1度くらいは挑戦してみようかと思い勉強を開始しています。具体的な道筋がなくてもそれくらいの保険はあったほうがプラスに働くと思います。


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