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グラフでわかるF1 番外編 ―国際F3規格って何?―

皆さんこんにちは、あ~る🍁です。
3月10日(日)に開幕した、全日本スーパーフォーミュラ選手権。F1日本GPより一足早く鈴鹿サーキットにエキゾーストノートが響き渡りました。そんな中いろんな意味で話題を呼んでいるのが、女性ドライバーの野田樹潤(Juju)です。タチアナ・カルデロン以来の女性ドライバーとして、今年度からスーパーフォーミュラ参戦を果たしました。
彼女の周りでよく耳にする言葉が、「国際F3規格」。世界中には様々なモータースポーツカテゴリーがありますが、「国際F3規格」とはどんな意味をもつのでしょうか?


1. はじめに

フォーミュラのピラミッド

FIA(国際自動車連盟)は、長く複雑化の一途をたどっていたフォーミュラカーレースを再定義し、カートからF4、F3、F2、F1を頂点としたピラミッドの再構築を計画しました。

2017年にスイスのジュネーブで行われた世界モータースポーツ協議会にて、GP2が「FIA フォーミュラ2選手権」に改称されることが決定し、GP3及びヨーロッパ・フォーミュラ3も2019年に「FIA フォーミュラ3選手権」へと統合されました。

また、カートとF3の間をつなぐカテゴリーとしてフォーミュラ4が2014年から新設され、世界各国・各地域でそれぞれの選手権が開催されています。

この一連の改革によって
F1 = FIA フォーミュラ1世界選手権
F2 = FIA フォーミュラ2選手権
F3 = FIA フォーミュラ3選手権
F4 = FIA公認かつ各国・各地域で開催されるフォーミュラ4選手権
を指すようになり、それ以外のカテゴリーは基本的に名乗ることができません。
『じゃあ、よく耳にする「国際F3規格」は「FIA フォーミュラ3選手権」のことなの?』と思った方、実は少し違うんです。ここからは、カテゴリーの名称が曖昧になった経緯を見ていきたいと思います。

2. 複雑な歴史

F2 変遷表
F3 変遷表

F2やF3という規格は、ともにF1世界選手権がスタートした1950年ごろに考案されました。F1直下のステップアップカテゴリーとしての地位を確立していたF2ですが、参戦費用等の高騰が問題になり、低コストで参戦が可能なF3000に移行しました。しかし、そのF3000もF1とレベルの差が大きく、F1へのステップアップがなかなか進みませんでした…

また、当時のF1は運営面をFIAが、興業面を実業家のバーニー・エクレストン率いるFOMが管理していましたが、政治的な対立が絶えませんでした。そんな中、バーニーがよりF1に近いカテゴリーとしてGP2を創設したことで、F3000はGP2に移行されました。

ただ、GP2も参戦費用の高騰が問題視され、またGP3(後述)との共食いによりその勢いは削がれました。また、FIAはより参戦費用の少ないカテゴリーとしてF2を復活させましたが、F1へのステップアップがなかなか進まずすぐ終了しました。

一方、世界各国・各地域でそれぞれの選手権を開催していたF3ですが、GP2の格下クラスとしてGP3が創設されて、似たカテゴリーが並列するという現象が発生しました。

こうした事態を受けて、GP2はF2に移行されGP3はF3に統合されることになりましたが、問題はここからでした…

3. F3と呼べなくなって…

FR 変遷表

2019年、FIAはF3の規定を大きく変更し従来のGP3及びヨーロッパ・フォーミュラ3選手権を合わせ「FIA フォーミュラ3選手権」を発足させました。この変更により、世界各国・各地域で開催されてきたF3カテゴリーは廃止を余儀なくされてしまったのです。
その結果、各国のローカルシリーズから独自シリーズの存続を求める意見が多く上がり、FIAは解決策としてF3とF4の中間カテゴリー「フォーミュラ・リージョナル(FR)」を創設しました。

F3がGP3の車両規程を引き継いだ一方、FRはF4由来の車両規程を採用したため、両者には大きな差ができたことになります。
FR規程のシリーズは2018年から世界各国・各地域でスタートし、廃止や統合を経て現在は5つの国と地域で開催されています。


では、これまでに紹介してきた主要シリーズをスペック順にまとめてみましたので、ご覧ください。

主要シリーズ スペック表

こうしてみると、それぞれのシリーズの力関係がはっきりして分かりやすいですよね~🙌もちろん、速いことが全てという訳ではなくどのシリーズにもそれぞれ魅力があります。

さて、ここからは野田樹潤(Juju)の略歴を振り返りながら「国際F3規格」という言葉の意味や報道の在り方について考えていきたいと思います……

4. 野田樹潤(Juju)の略歴

野田樹潤(Juju)は、日本の女性レーシングドライバーで、父は元レーシングドライバーの野田英樹です。
3歳からキッズカートに乗り始めた後、4歳でレースデビュー、9歳でフォーミュラカーをドライブしました。

2017年、野田樹潤は「FORMULA UNDER 17 & SENIOR RACE」に初めて参加しました。
このイベントは、野田家が拠点を構えている岡山国際サーキットが「次世代を担う10代のレーサー等にレースの機会を設けることで、モータースポーツの振興・発展を目指す」という目的で運営していました。主にスーパー耐久シリーズのサポートイベントとして運営され、旧F3やスーパーFJのマシンが混走し、数台が参加する非公式かつ小規模なイベントだった様です。
それでも、過去に前例がなかった女子中学生の参加はたくさんの注目を集め、旧F3クラスに転向した2018年から2019年にかけて、参加した11イベントでトップでゴールするなどの走りも見せました。

2020年、野田樹潤はヨーロッパに拠点を移し「F4 Danish Championship(現Nordic 4)」に参戦しました。このシリーズは、2014年にFIAが創設したF4規格に基づいていますが、クラスの違うマシンが混走するなど独自性もあり、同年は野田樹潤と同じクラスに3人がフル参戦しました。開幕戦でポール・トゥ・ウィンを飾り話題を呼びましたが、その後は低調なシーズンが続きました。
また、FIA主催のフェラーリ(FDA)若手女性ドライバー育成プログラム「FIA Girls on Track Rising Stars」の選考キャンプにも参加しましたが、最終選考には進むことはできませんでした。

2021年、野田樹潤は同じくF4規格に基づいた「Formula 4 United States Championship」に参戦を表明しましたが、開幕戦の予選直前に急遽参戦を取り止めました。理由については「諸事情による多岐にわたる問題が解決されないため」と公式ブログの連載で説明されています。
その後、前年に引き続きデンマークF4参戦を決めましたが、総合7位に終わりました。

2022年、野田樹潤は女性限定のフォーミュラカーレース「W Series」へ転向しました。第6戦でポイントを獲得しましたが、Wシリーズ自体が経営破綻・消滅したことで、思わぬ形でシーズンを終えました……

2023年、野田樹潤は「Euroformula Open Championship(EFO)」に参戦しました。全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権と同じく旧F3規格を基に行われ、第4ラウンドのレース1で見事初優勝を飾りました。
しかし、女性ドライバーに対する優遇措置が撤廃され、また日本製ホイールの使用許可も失効したことでEFO参戦を中断しました。

前年度から参戦している「2023 Zinox Laser  F2000 Italian Formula Trophy」では、女性として史上初めてシリーズ優勝を飾りました。この活躍をメディアが報道した際に多用された表現が「国際F3規格」です。
一見正しいように思えますが、2023年時点でF3を名乗ることができるのは「FIA Formula 3 Championship(FIAフォーミュラ3選手権)」だけで、このシリーズは旧イタリアF3を前身としているので「旧F3規格」と表現するのが正しいという意見が多く見受けられます。

また、同年に欧州の「BOSS GP Series」にも参加しました。こちらは旧F3やGP2、さらに2000年代のF1マシンなど多種多様なマシンが走り、高価なフォーミュラカーを維持できるような富豪やジェントルマンドライバーらが参加しています。元F1ドライバーのロマン・グロージャンは、2012年のF1復帰前にテストの為参加しました。

2024年、国内最高峰のフォーミュラシリーズ「全日本スーパーフォーミュラ選手権」参戦を果たしました。国内外から有力ドライバーが集まり、近年はF1候補生の最終選考の場となることも多くあります。シーズン前テストではクラッシュが続き、首の動きやタイムも心配されましたが、開幕戦の鈴鹿・決勝では無事に完走を決めました。

5. 女性ドライバーの活躍

モータースポーツで活躍する女性ドライバーは何も彼女だけではありません。
2023年、女性限定のフォーミュラシリーズである「F1 Academy」が創設されました。F4規程のマシンによって争われ、Wシリーズの後継シリーズとして、女性ドライバーの育成を担っています。

また、HRS(ホンダレーシングスクール)のカートスクール「HRS-Suzuka Kart」に入校していた女性ドライバーの松井沙麗が、2024年1月にF1チームのウイリアムズが運営する「Williams Driver Academy」加入を発表し、大きな注目を集めました。

他にも、世界中のあらゆるモータースポーツシリーズで多くの女性レーシングドライバーが驚異的な活躍を魅せています。

6. さいごに

さて、主要なモータースポーツカテゴリーの歴史と変遷を振り返りながら、国際F3規格という言葉の意味や重さを考えてきました。

野田樹潤をはじめ女性レーシングドライバーの目覚ましい活躍は、私たちファンにとっても嬉しい事ですよね~
ただ、彼女を取り巻く大人たちの目や報道は決して健全じゃないように私は思います……

野田樹潤の話題を日本の主要メディアが一斉に報じるなかで、不正確な情報が流れることが何度もありました。また、彼女がニュースに上がる裏で、前述の松井沙麗のニュースはほとんど報道されませんでした。
近年のF1は、コンストラクターやPUメーカーが独自の育成プログラムを擁し、幼い頃から支援を行うのが一般的です。そういった意味で、松井沙麗のような育成プログラムの加入はF1への最短ルートとされています。

更に、彼女がこれまで参戦してきたシリーズは、どれもスーパーライセンスポイント獲得が厳しいものや獲得できないものばかりで、それはF1の道を外れることも意味します。
また、活躍がメディアで報じられる一方で、その実力は不透明なままでした…

そんなわけで、彼女のスーパーフォーミュラ参戦は、いろんな意味で大きな注目を集めたのです。結果はトラブル・リタイアのマシン以外で最下位でしたが、無事に完走を果たしました……
(案の定とんでもないニュースも出ました)

男女平等が叫ばれるいま、女性ドライバーの活躍を過剰に報道するのは、他のドライバーたちへのリスペクトに欠けますし、本末転倒なんじゃないかな~と思います。

さて、全日本スーパーフォーミュラ選手権で開幕した、2024年の国内モタスポシーズン。4月5日から7日にかけては、鈴鹿サーキットでF1日本GPが開催されます。
たくさんのニュースで溢れるなか、私たちもメディアリテラシーを身につけてしっかりと情報の真偽を確かめながらモータースポーツを全力で楽しんでいきましょう!

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