熱は、東北にある 5日目 〜秋田満喫〜
更新間隔が空きすぎてお忘れだろうが、2023年の東北旅行5日目の記事である。あまりに遅い、あまりに脈略のない更新だ。筆者もどこまで書いたか忘れたくらいなので、4日目までの記事を見返すのをおすすめする。
巨人族の祭、五所川原立佞武多と嶽温泉の熱い夜が明けたところから再開。
↑前回
硫黄の香りで目覚める。もはや窓の外から香る温泉の匂いなのか自身の体臭なのか定かではないが、何にせよ温泉旅館の朝ほど素晴らしいものは無いのだ。東北旅行も5日目である。
5日目
きみにくびっ嶽
まずは朝風呂である。嶽温泉のお湯は本当に気持ち良く、とろけるようである。露天風呂などは無いが、こじんまりとしたヒバ造りの綺麗な浴槽は無限に入っていられる。しかし、朝食の時間になったので名残惜しくも出た。
温泉旅館で食べる朝食の時間は、慌ただしい日常から離れた優雅なるひとときである。しかし優雅なふるまいというものをよくわかっていない上に食欲が高校時代から変わっていない我々は、とりあえず溢れんばかりに米が入っているおひつが空になるまで食べた。
本日も普段の行いが良いM氏のおかげか、私とT氏の負のエネルギーに打ち勝って快晴である。今日は津軽を離れ、秋田へと向かう。9時ごろ小島旅館を出発した。
そういえば、だいぶ前に某読者から「嶽温泉の読み方が分からない」という連絡をなぜか母親を経由して受けたが、「だけ」温泉と読みます。実に一年越しの返答。
juuniko and…
岩木山のふもとから秋田に向かうには、五能線沿いを行くか、奥羽本線沿いを行くかの二通りがある。一般人向けに言うと海沿いか、山中かである。後者の方が距離的には短いが、急ぐわけでもない我々は晴れてるから景色が良いだろうという理由で前者を選択した。
快適な海沿いの道をゆく。しばらくすると千畳敷という景勝地に着いた。平らな岩場が海岸に広がっている。日本には「千畳敷」という名称の場所が結構あるが、その中にはさすがに畳千枚は無理やろ、という場所も結構ある。でもここの千畳敷はたしかにがんばれば千畳敷けそうな広さがあり、名前負けしていない。
男子はいくつになっても少し間違えたら色々台無しになりそうな所に行きたがるものである。せっかく千畳敷なんだから畳を敷けそうな方に行けよ。
せっかく路線沿いなので一枚…と有名スポットで五能線の名物列車リゾートしらかみを撮影。自分に必要のない鉄分摂取でもM氏はニコニコしながら付いてきてくれる。優しすぎて将来だまされて変な所に連れて行かないか心配になる。というか今まさにそうなので。
次に向かったのは十二湖である。昨日は十三湖に行ったが、名前の由来は特に関係ない。十三湖は十三ほど川が流れ込んでいたから、十二湖は十二ほど小さい湖沼があると言われていたのが由来らしい。雑だ。しかも十二湖には実際は三十三個も湖沼がある。
十二湖で一番有名なのは青池である。湖ちゃうんかい、とツッコんでしまうが、光の当たり加減によって水が神秘的な青色に見えるらしく、世界遺産白神山地を代表する場所になっている。
駐車場から少し森の中を歩くと青池に着いた。たしかに不思議な青色をしており、神秘的で美しい。まあそれ以外は葉っぱや木片がたくさん浮いているただの小さい池なので、ひとしきり見て、ほぉー、という感想を漏らして帰路に就く。周囲の人も微妙な感想を漏らしており私も実際そうだが、自然遺産というものは自然のためにあり他所の人間が楽しめるかどうかはどうでもいいとも思うので、ここの駐車場代が環境維持の足しになればいいなと思う。時間があれば青池までじゃなく、ブナ林の中をハイキングしてみたかったな。
幾何学的絶景
十二湖を後にし海沿いの道をひた走り、しばらくすると能代の町に出た。だいぶ前から給油ランプが点いていたのでスタンドに入る。考えてみれば福島からここまで約1000km走って一回も給油していなかったので、不気味に思ってトヨタの公式ページで調べてみたところ、このカムリといういかつい黒塗りはタンクの容量が50Lもあるらしい。なんでガソリンメーターって具体的な数値書かないんだろう。能代の町はガソリンが高いように感じたので、ケチな私の提案でとりあえず10Lだけ入れた。
能代を出ると広大な田園風景が広がる。八郎潟の干拓地、大潟村である。日本で二番目の大きさを誇った湖を埋め立ててできた天下の米どころであり、農家一軒あたり東京ドーム4面分ほどの田んぼを持っているという。もはやピンと来ない規模である。
道の駅で昼飯を食べる。ホルモン焼き丼を食べたが、味が濃く本当にうまい。米を大量消費させるために開発されたような食べ物だと感じた。美味しすぎて写真を撮るのを完全に忘れていた。
食べ終わったら道の駅に併設された大潟村干拓博物館に立ち寄る。八郎潟干拓の歴史が詳しく展示されていた。
八郎潟はもともと琵琶湖につぐ日本で第二位の面積を誇る湖だったのが、埋め立てられて大潟村となったんですよおおおお。(土木学科なので事業の規模に比例してテンションが上がる。)干拓の方法や大潟村の町の形成などかなり詳しく展示されていて面白かった。
次に向かったのは男鹿半島にある寒風山という観光地である。私は煙などと同じく高い所からの展望できる場所が好きであるが、登山するほどの気力と体力の持ち主ではない。そのため、車道が山頂まで整備されている山に行きがちである。そして、そういう山の景色にはずれはない。
なぜかあまり知名度は高くないが、寒風山は東北屈指の展望だスポットと思う。緑色と水色で構成された非常に目に優しい景色でありいつまでも見ていられる。
水田はあらゆる人工物の中で最も自然に調和したもののひとつだと聞く。寒風山から見る大潟村の田んぼは自然というより、人工的な美しさがある。というか、ここから見える陸地の景色はほとんど人工物だと言っていいのではないだろうか。田んぼや水路、海沿いに広がる防風林、山頂付近の草原。どれも確実に人の手が加わってできている。
風力発電の風車もよく見える。太陽光発電のソーラーパネルよりも、いま自然エネルギーを使って発電してます、というキッパリとした見た目が好き。
ついたくさん写真を貼ってしまったが、とにかく秋田に行くなら寒風山はおすすめだ。人の3大欲求に展望台欲があるが(※注:無い)、それを完全に満たしてくれる場所である。
さて、寒風山を後にして男鹿半島のさらに先の方へ。時間はあまり無いが、見ておきたいものがあった。目潟のマール地形である。
マールは火山の水蒸気爆発でできた円形の火口のことで、ここには何と4つのマールがある。展望台からは、二ノ目潟と戸賀湾を見ることができた。地図でこの変な地形を見て気になっていたので見られて良かった。
男鹿半島には個人的に愚の集大成みたいな恥ずかしい思い出があったのだが、素晴らしい絶景で上塗りできて良かった。次はなまはげのリベンジに来たい。さて、観光の次は祭だ。
秋田竿灯まつり
竿灯まつり。写真で何度か見たことがあったが、The 奇祭 と言っていい。私は小学生の頃、手のひらの上に閉じた傘や箒など長い棒状のものを乗せてバランスを取るのが得意でよく立てていられる時間を友達と競ったりしていたのだが、それを意味が分からないほど巨大化・大規模化したような祭である。
混雑は思ったほどではなく、近くの駐車場にすんなり車を止めた後、祭が開催される大通りに座れるスペースを確保できた。通行止めで車の来ない大通りを見ながらしばらくボーッと待っていると、いったいどこにこんな数が隠れていたのか、さっきまでガランとしていた通りは法被を着て竿燈を横に担いだ集団や神輿を模したトラックなどで埋め尽くされていった。やがてスピーカーからいきなり市長の挨拶が聞こえ、開催が宣言された。
宣言と共に一斉に竿燈が立ち上がる。さっきまで横に倒して運ばれるのを目の前で見ていたわけだが、立てるとやはりそれ以上に巨大に見える。ゆらゆらと揺れる竿燈には、ねぶたとはまったく違った美しさと迫力がある。
祭の規模感は想像以上だった。写真の画角ではせいぜい数本しか入らないが、実際にはおそらく数百本の竿燈が通りを埋め尽くし、宵の空にせり立っている。見渡す限り、橙色に灯る稲穂の海だ。
並んで夕闇に優しく灯っている竿燈を遠目で眺め、笛や太鼓の音を聴くだけでも十分優美で楽しい祭だが、その根本では驚異のバランス芸が繰り広げられる。巨大な竿燈を手のひらや頭、特にやばい人は平気で腰なんかに載せている。額の一点に50kgの負荷をかけたことがないから比較が難しいが、ものすごく高度な技ということだけが分かる。
バランス技巧の宿命として倒れてしまう時もある。一度座っている方向に倒れてきて慌てたが周りに控えている一団が何とか支えてくれた。周りをみても結構な割合で倒れるようなのに、竿燈の明かりはすべてろうそくの火である。冷静に考えて巨大な可燃物を振り回してるのは狂気だが、普段平和に暮らす民の狂気の発散こそ、祭の役割なのかもしれない。
竿燈祭では10分ほどで芸の披露→移動を繰り返すので1点に留まったままでも多くの集団が見られる。最後に回ってきたのは特にとんでもない集団だった。まず、竿燈の棒の長さがとんでもない。それを持ってるだけでもとんでもないのに、頭や腰に乗せて扇子を振り回している。
もはやどうなっているのか分からない。物理現象を無視してるようにしか見えん。「そうはならんやろ!」と連呼してたらお祭りが終わってしまった。最高だった。
祭を見ていた所から少し行くと、数年前の大晦日、数々の愚行の末に打ちひしがれた我々を救った年越しラーメン屋と同じ店があったので食べた。美味しすぎた。もう秋田には完全にいい思い出しかない。
さて、本日のお宿だが秋田市から近くて安くて鄙びた温泉地は普通に存在しなかったので(今まであったのが不思議だ)、この日は秋田市街から南西に50kmほどの横手市にある異常に安いビジネスホテルに泊まった。この時期にも関わらず2000円台だったのでさすがにどんな所なんだ、と思って恐る恐る入ってみると、フロントの前の床がおそらく地震によるひび割れ?でかなり凹凸があって衝撃を受けた。が、それ以外は普通の古いビジホだったので助かった。
というわけで残念ながらこの記事にはほとんど温泉成分がない。だが案ずることはない。6日目はかの有名な、変な地名の温泉郷へ行く。中でも一番有名な場所に行った、まあ色々あったんだがとりあえず行きはしたので予告しておく。とはいえ次の記事ががいつになるのかはっきり言って皆目わからないが。
とにかく熱い旅もいよいよ最終局面である。書ききれるように頑張る…頑張りたい…頑張らなくもない…ので気長にお待ち下さい。