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『ティーチングとコーチングは違う』が間違った指導を生む理由
少年サッカー指導者のリンです。
皆さんは「ティーチングとコーチングは違う」という言葉を聞いたことはありますか?スポーツの指導に関わる人以外でも人の指導や教育に関わった経験のある人なら一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
今回はこの「ティーチングとコーチング」に関することを書きたいと思います。分野・年齢にかかわらず、教育に携わっている人ならだれでも関係のある内容だと思いますので、ぜひ最後まで見ていってください。
序盤はティーチングとコーチングについての解説から入りますので、知っている方は初めの部分は読み飛ばしても大丈夫です。
ティーチングとコーチングは違う
ティーチングは英語の「teach=教える」で、コーチングは「coach=指導する」という意味です。ここでわかるようにコーチングとは指導・導くようなことをしてあげなければいけません。
子供に足し算を教えることを例に考えてみます。まず、1+1=2の答えを皆さんはどのように導いているでしょうか。おそらく皆さんは
「リンゴが一つありました。そこにたかしくんがもう一つのリンゴをー」
のような問題文を解いたことで、意識的か無意識的かはわかりませんが、足し算というものの概念を理解し、1+1を理解してきたと思います。
では、もし子供に「1+1は2」とだけ伝えたらどうでしょうか。これは1+1の答えを伝えているのでティーチングにあたります。
しかしこれは足し算を理解したことになるでしょうか?1+1の答えはわかると思いますが、2+3などが出てきたときに答えを導くことはできないと思います。
そこでコーチングが必要になります。
「リンゴが1個あるね。これは全部で何個だと思う?」
「1個?」
「そう。先生が今言ったけど1個だね。じゃあここにたかしくんがもう1個リンゴをもってきたら全部で何個になるかな?」
「2個になる!」
「正解!じゃあ今度は2個あるところにたかし君が3個のリンゴを持ってきたら?」
「今度は5個になる!」
上記のように「教えたいもの・ことの概念・内容・背景を自身で考え、理解するように導くこと」をコーチングと呼びます。指導するものはだれであれ、どの分野であれ、このコーチングをすることが重要になります。
「ティーチングとコーチングは違う」がなぜ間違った指導を生むのか
この記事の見出しであり、私の最も伝えたかった内容をお話します。
いきなり見出しと矛盾したことを言うのですが、「ティーチングとコーチングは違う」が直接間違った指導を生むのではありません(笑)
より詳細な見出しにするならば「ティーチングとコーチングは違うに対する間違った理解が間違った指導を生む」になります。ここではその間違った理解とは?についてお話します。
サッカーの現場を例にして考えます。
あなたのチームは指導方針として、ボールを相手に奪われないチームを定めていると仮定します。ボールを奪われないことで、攻撃の時間が長くなり、ゴールチャンスが増えると考えているからです。(指導方針の是非はここでは無視してください)
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そのような中、試合中に上の画像のような状況が発生しました。(青が自分のチームで赤が相手チーム)
あなたならどのようにプレーしてほしいと思うでしょうか。
ボールを持った選手の前には相手選手がいるが、隣にフリーの味方選手がいる。だからパスをだしたほうがボールを取られる可能性が低い。だからパスをだしてほしい。
このように考えるのではないでしょうか。ですが選手は子供です。
子供はボールを前に運ぶことしか頭にありません。結局相手にぶつかってボールを取られてしまいました。このような場合に以下のような、「ティーチングとコーチングは違うに対する間違った理解」が発生する可能性があります。
ティーチングとコーチングは違う。だから答えを教えても意味がない。この程度の問題なら自分で少し考えれば答えが出るはずだ。よし。
「考えてプレーしろ!!」
これこそが「ティーチングとコーチングは違うに対する間違った理解」であり、最悪な指導だと私は思います。コーチングは教えることではなく考えさせることですが、教えるのを放棄することではありません。これをやってしまった経験がある方、あるいはこの指導をしている人を見たことがある人は少なくないと思います。考えろとだけ言われ、答えを導き出すのは大人でも難しいですし、スポーツ以外においてもかなり雑で難易度の高いものです。ティーチング→コーチング→わからなければ再度ティーチング
こそが正しい指導だと私は考えています。ではこの状況での正しい指導はどうあるべきでしょうか。まず、練習の時点であらかじめ自身の指導方針を相手に伝えるところから始まります。
~練習~
コーチ「シュートを打てるのは自分たちがボールを持っている時と持っていないときどっちだとおもう?」
選手「持っている時!」
コーチ「そうだね。たくさんシュートを打つためにボールを取られたくないよね。相手にボールを取られないようにするにはどうすればいいだろう?」
選手「パスをする!」
コーチ「いいアイデアだね!じゃあどんな味方にパスをするのがいいかな?」
選手「マークのついていない味方!」
コーチ「正解!じゃあ周りをよく見てフリーの選手を見つけてみよう!」
~試合~
コーチ「いま目の前にボールを運んでどうなったかな?」
選手「取られちゃった」
コーチ「そうだね。ボールを取られないようにどんな練習をしたっけ?」
選手「パスの練習」
コーチ「どんな味方に?」
選手「マークのついていない味方にパスする練習」
コーチ「さっき周りにフリーの選手はいたかな?」
選手「わからない」
コーチ「さっき隣にフリーな味方がいたぞ!次からは味方の位置を見ながらプレーしてみよう!」
実際はこのようにスムーズにいくとは限りません。会話が苦手な子もいます。しかし、大体の流れで行くとこのようになると思います。
上記のように、練習でティーチングをし、試合でコーチングをする。そしてそれでも答えを導き出せなかった子にはもう一度ティーチングをする。このプロセスが非常に大事で、これをやっているチームとやっていないチームとでは思考力に雲泥の差が表れます。
私の指導している小学生年代でも実は勝つための正しいプレーを身に着けさせることはそこまで難しくはありません。
しかし、考えることを教えるのは非常に難しく、これこそが指導者の腕の見せ所であり、子供たちの成長の差に大きくかかわる要因になると思います。
この状況以外にも世の中には様々な指導・教育の現場があると思います。全ての指導現場で「考えろ」で終わる指導ではなく、ティーチングとコーチングを使い分ける正しい指導ができるようになると、教わる人間の成長速度は飛躍的に伸びると思います。