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情報過多の時代に忘れられがちな、「己を知る」ということ

年末になると「今年買ってよかったもの」や「ふるさと納税で買うべきもの」の情報で溢れかえる。それ以外の時期も、特に美容系のアイテムや美容医療のおすすめの施術、今季買うべきユニクロの新作、今読むべき本、仕事の効率が上がるアイテムと、もはや広告やPR案件ではないオーガニックの投稿すら、モノを買うための情報で溢れている。

梅田望夫が「ウェブ進化論」でインターネットによる情報化社会を「知の高速道路」と表現したのは2006年のことだが、そこからさらにSNSが発展したことで、もはや高速道路どころかリニアくらいのスピードで、効率よく「答え」を得られるようになった。

社会が高度化するに連れて、考えなければならないもの、摂取しなければならない情報は格段に増えた。効率よく働いて、暮らしも楽しみながら家族や友人との時間も持ち、美容やエンタメにもアンテナを張りながら、子どもによりよい人生を与えるための最適解を探らなければならない。やらなければならないこと、情報を精査しなければならない範囲があまりに広がりすぎて、ひとつひとつを自分で調べて精査していたらとてもではないが時間が足りない。

だから自分の専門外の分野については詳しい(とされている)人がおすすめするものに乗っかって、よい(とされている)ものをそのまま受け入れるのがもっとも効率の良い方法になる。

かくいう私も自分が詳しくない分野、しかもいちから学ぼうとすると果てしない時間がかかりそうなものはメディアやインフルエンサー、詳しい友人からの口コミなどを鵜呑みにして、あまり自分で考えることなく消費を繰り返してきた。

その筆頭が美容、特にスキンケアである。色味やデザインの好みで選びやすいファッションやコスメと違って、スキンケアはパッと見ただけでは良し悪しがわかりづらい。かといって、素人が成分を化学の面から理解したり、皮膚の構造を生理学の面から学ぶのは非現実的である。

結果として、巷でよいと言われているものはいいんだろう、というなんとなくの感覚で買い物を繰り返していた。

ちなみに、8月にスキンケアを頑張ってみた時期があったのだけど、その時も巷でいいと言われているものを使えばいいだろう!の精神で、ベスコス常連のアイテムで揃えて「頑張った」気になっていた。

私はあまり美容に詳しい部類ではないけれど、そんな人間でも今はSNSを眺めているだけでビタミンCが、レチノールが、セラミドが〜と成分についてなんとなくの知識が身についてくる。なので、こういう成分をめいっぱい使えばなんとなくいい感じになるんだろう、くらいのリテラシーで美容に向き合っていた。

そんな時にお声がけいただいたのがロート製薬さんのYouTube番組「お肌の偏愛ちゃんねる」のモデレーター役のお仕事だった。

美容イメージがない私に、なぜ美容関係のお仕事が…?と不思議に思ったのだけど、私が掲げている「知性ある消費」という言葉に共感してくださり、ロート製薬さんとしてももっと肌のことを深く知った上でよりよいものを選んでほしいという思いからこの番組を立ち上げたという経緯を伺い、一気に興味が高まった。何より、私自身が美容やスキンケアに関してはリテラシーが低いがゆえにマーケティングに踊らされているような感覚もあったので、これを機に勉強してみたい、という気持ちもあった。

9月に始まったこの動画シリーズはすでに8本の動画が上がっていて、毎回異なる研究員の方にお話を伺っているのだけど、どの方も「これさえやればOK!」というわかりやすい正解を示すのではなく、「人それぞれ」「自分なりの最適解を見つけることが大事」というスタンスでお話されるのが印象的だった。

私自身もコンテンツを作る側の人間なので、当初はモデレーターとして「もっとキラーフレーズを引き出すような質問をしなければ…!」と焦りを感じたりもしたのだけど、回を重ねるにつれて、「わかりやすくバズらない話こそが重要なのではないか」と感じるようになった。私自身、普段から極論やわかりやすさでバズることに疑問を持って、丁寧に語ることを心がけてきたはずなのに、気を抜くと自分もつい「わかりやすくバズる」ことを求めてしまいそうになるのだと気づかされた瞬間でもあった。

特にその意識の転換が起きたのが第4回の「お肌の付き合い方」の回。

前編の第3回ではそもそも肌は臓器であり、健康のバロメーターでもあるという話を伺ったのだけど、後編の第4回では人が本来持っているバリア機能やホメオスタシスを信頼する、という話が出てきた。

肌には自ら回復しようとする力があり、そのためには成分を与えるだけでなくあえてスキンケアもあえて引き算する必要がある。お二人が普段使っているスキンケアアイテムは3つくらい、と聞いたときは衝撃を受けた。私が「美容頑張ろう〜!」と7つくらい重ねていたのはなんだったのか、、、!!!!!!

そして何より、自分でその日のコンディションに合わせてスキンケアを足し引きできるようになるには自分の肌そのものを知らなければならない。季節が変わって乾燥しはじめてきたなとか、いつものアイテムだとピリピリした刺激を感じるようになってきたなとか、日々のコンディションの変化を敏感に感じとる必要がある。

私は自分の肌を知るといっても、鏡を見てなんとなく毛穴が目立たなくなってきたなとか肌が白くなってきたかも?といった見た目の変化しか気にしていなかったけれど、スキンケアは毎日自分の手で触って確かめる機会だからこそ、肌の調子によって自分の体全体の調子も感じ取ることができるバロメーターでもある。外からのアプローチももちろん重要だけど、食事や睡眠などの生活習慣が表れる部分だからこそ、日々の小さな変化を丁寧に感じとった上で、こういうときは何をすると回復できるのかを試行錯誤することが、結果的に肌だけでなく全身の健康にも寄与するのだと学んだ。

他にも、成分やアンチエイジングといった具体的なお話を伺った回も、私は素人目線でつい「何をどのくらい、どう取り入れるといいのか」といったわかりやすい正解を聞き出したくて質問を重ねてしまっていた。でも、成分を知り尽くした研究員の方であればあるほど万人にこれがいい!と勧められるものではなく、成分の特徴を知った上で自分にとっての最適解を見つけていくことが大切で、そのためにこういうことを知ってほしい、というお話のされ方をしていたのが印象的だった。

巷で溢れる情報は、毛穴悩みならこれ!乾燥肌にとってのベスコスはこれ!と、「わかりやすい」答えをくれる。でも同じ悩みを持っていても体質や肌質は人によって違うし、季節によって、体調によってもその時の最適解は変化してくる。

悩みに対してダイレクトに正解を教えてくれる情報に飛びつく方が楽なのでつい流されてしまいそうになるけれど、それは同時に、自分で学び試行錯誤する機会を奪われているということでもある。経験が伴わなければ、自分で考えて応用することはできない。ずっと誰かの情報に頼って、おすすめを思考停止で摂取するだけになっていってしまう。

もうひとつ、「己を知る」という観点で面白かったのが、「使用感」のお話。

成分や効能で選ぶ人が増えている今、実は私も収録前まで「使用感って効果にどのくらい関係あるんだろう?」と半信半疑だった。

でも、お話を伺っていくうちにスキンケアは毎日のことだからこそ、成分や効果効能だけでなく自分が心地よいと感じるテクスチャーや塗ったあとの感覚の重要性に気づかされた。

食べ物も、いくら栄養があるからといっておいしくないものを我慢して食べ続けていたら健やかとは言い難いのと同じで、スキンケアも成分だけで判断したり、いいと言われているからという理由だけで違和感があるものを使い続けるのは、スキンケア自体が「楽しむ時間」ではなく「義務感」になってしまう。

また、スキンケア製品にも香水と同じようにトップノートからラストノートまでの変化があり、付けてすぐだけでなく、しばらく経ってからの肌への馴染み方や質感も確認してほしいという話も興味深かった。

つけた直後はどの商品もだいたいしっかり潤っているけれど、時間が経って寝る頃になって乾燥を感じたり、逆に翌朝になってもベタつきを感じるといった時間の変化による使用感の違いはたしかにある。私はこれまで「まあでも成分がいいんだったらこんなもんなんだろうな」と何も考えずに受け入れていたけれど、それぞれのタイミングで「自分が調子がよい」と感じられる肌は、成分だけでなく時間経過を含めた使用感も重要なのだと気づかされた回だった。

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情報が溢れれば溢れるほど、私たちはよりよい情報を追いかけて精査することばかりに意識が向いてしまう。誰かが示した正解をなぞることで、より効率的で、より賢い生き方を選びとっている気分になれる。

でも、そうやって情報の波をうまく乗りこなしているつもりが、いつのまにか誰かがいいと言ったものを思考停止で受け入れて消費行動に直結させる「都合のいい消費者」になってしまっていないだろうか、と自戒を込めて思う。

誰かが決めた基準に合わせるために、誰かが示した最適解を選んで取り入れていった先に、自分らしい納得感、満足感はあるのだろうか、と。

インターネットによって、「自分以外を知る」ことはとても容易になった。でもその分、「己を知る」ことがどんどんおざなりになってしまっているのかもしれない。

誰かの最適解をなぞるのではなく、自分にとっての最適解に出会うためには、外側にばかりアンテナを向けるのではなく、自分自身を知ることにもしっかり向き合っていかなればならないのだと思う。


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最所あさみ
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