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キミは何故会社を辞めたのか?#4「外資カンマネE社編」

E社は自分でも結構良い結果が出せたんではないかと思っているのですが、大っぴらにはあまり語れない苦難のエピソードも沢山ありました。

外資のカントリーマネージャ(日本法人代表)の選考がどんなものかも、あまり表には出ないので、今回は入社前の選考プロセスから物語を始めてみますね。


おっちょこちょいな候補者

月曜朝一でE社のCEOと日本担当役員A氏の一次面接に、10名以上いる候補者のトップバッターとして臨みました。そこは上々の首尾で通過し、最終候補者は二人に絞られ、その週の金曜日が二次面接となります。

E社のビジネスは自分には全く未知のビジネスモデルだった事もあり月曜日の面接で話すネタがほぼつきていました。二次面接前日の夕方、何を話せばいいかを知り合いのGに相談しておりました。ネタになりそうなものをいくつ教えてもらえたので、彼を送り出してからコーヒーを片付けに給湯室に向かいました。そこで椅子に左足を引っ掛け、右足を出そうとしたらその椅子が可動式でうまく右足にもタックルしてきて、両手はコーヒーで塞がっていた為、手もつけず、顔面からタイルの床に落ちるという惨事が発生します。
タイルがみるみる鮮血にそまり、そのまま外科クリニックに直行です。
額を稲妻型に4針縫い、魔法の使えないハリーポッター状態となります。
お医者さんに
「明日重要な打ち合わせがあるので、目立たない様にできませんか?」
と聞いたんですが、
「流石に絆創膏をはらないとグロすぎますね〜。」
と言われ、
仕方なく大きな絆創膏を貼ってもらいました。

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そもそもエージェントからは
「熱意があってとてもよい一次面接の評価なんですが、すこし落ち着きがない印象を受けているようなので、金曜日はどっしり感を出してください。」
とアドバイスを受けていたのに、なんたる失態。

Gからいただいたネタよりも、どうやってこのおっちょこちょいなところを誤魔化すかの方に頭を絞ることになりました。
金曜日の二次面接でA氏に会った瞬間に、
「ハーイ、また会えて嬉しいよ、今日は宜しくね。それと昨日、椅子に足ひっかけて、しこたま転んで4針縫ったけど、まったくノープロブレムだよ!」
とめっちゃ明るく英語で淀みなく言い放ってやりました。
それ以上相手に質問させない作戦がよかったのか、なんとか日本面接シリーズを突破します。

次はアメリカ本社での幹部面接となります。
木曜日の午後の便で飛べば、現地に木曜の夕方に着いて、金曜日1日面接をして、土曜の便で日曜に帰国ができます。
その日程で手配をしていたところ、
「あれ、パスポート切れてるやん!」、、、
またまたおっちょこちょいです。
裏技を駆使しありえないスピードでパスポート更新をやったのですが、結局会社を突然4日休むという一番気まずいスケジュールで米国に旅立ちます。
1日で8人の面接に臨むことになるのですが、午後になると時差ぼけもあって、5人目くらいから目が回りそうになるのを必死にこらえ、険しい目つきで、会話をつづけておりました。ヘロヘロになりながらも弾丸米国面接ツアーも無事クリアでき、めでたくオファーを貰えました。

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ローンチイベント大失敗

日本市場責任者として着任した翌日に最初のプロジェクトで障害が発生します。これは自分が着任する前に本社と日本のパートナーで進めてもらっていたプロジェクトでした。自分はほぼ関与していなかった為、
「なんで、いきなり謝罪しないといけないんですか?」
という態度でいたら、パートナーの営業担当役員にめっちゃ怖い顔で睨まれました。定番の第一印象悪っというエピソードです。

そのプロジェクトはグローバルなイベントで、これを起爆剤にユーザを増やしていく目論見だったのですが、開始から1ヶ月に渡り、何度も障害が発生し、逆に出来たばかりの日本法人存亡の危機がやってきます。
その対応の為、本社に緊急出張して、現地でエンジニアと対応を協議し、日本側とは深夜にかけて電話で協議することを不眠不休で1週間続けていました。その週の間も、ある新機能を突貫工事で実装し、今度はその機能が原因でまたも障害が発生します。
まさに泣きっ面に蜂とはこの事です。
障害の発生当初、連携する他社サービスが原因かと鷹を括っていたのですが、実際には新規に実装した機能が原因だったことをインド系の女性エンジニアからこんな風に教えられます。
「だってアンタがすぐ実装しろというからやったんだけど、時間もないからテストできないので、こういう事態も発生するわよ。」
致命的なミスに打ちのめされふらふらと廊下に出ていき、そこで倒れ込んでしまいました。
アメリカ人はどんなトラブルが発生しても大概残業しないで帰ってしまうんですが、その夜は上司のA氏が最後まで付き合ってくれました。寝不足とショックでぐしゃぐしゃな私に、ぬるいビールを奢ってくれたことを思い出します。

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安定しない組織

中々売上が伸びないまま1年が経過した頃、またトラブルが多発します。日本のトラフィックは伸びていないのに、世界のトラフィックは倍々ゲームで増えており、いつの間にかシステムの限界が近づいていたのです。
鎮火しない山火事のような事態に、ほぼ全員の心が折れそうになります。そうした中早々に船から脱出していく者もいましたが、時間をかけてシステムを刷新することで、傷つきながらもなんとかシステムは安定化の兆しを見せ始めます。

日本法人といってもグローバル企業の中では、イチ営業部門の扱いです。クォーター(四半期)毎に売上目標が設定され、それをどうクリアしていくかに一喜一憂する事になります。あるクォーターは目標達成できたら、日本チーム全員で高級日本料理屋で豪遊するというインセンティブ を設定しておりました。しかしながらそのクォーターは目標数字の半分以下の惨憺たる結果となってしまいました。超格安居酒屋の「Kの蔵」しかもジュニアの方で打ち上げをする事になり、やけに味が薄いビールで乾杯しました。
そうしたシステム障害や営業不振を乗り越えながら、ようやく営業体制も整い一息つけるかなと思った頃、ベテランセールスのSが不振に陥り、彼の数字のプレッシャーも厳しくなってきて、ここで続けられるかどうか微妙な空気が漂い出します。もしかしたらSは辞めるかもしれないと思っていたのですが、ある日もう一人のベテランセールスKが
「古巣に戻るから辞めさせてください。」
と言ってきたのです。引き止める事もできず、了承した5分後、今度はSが私の部屋に入ってきます。
そしてスーツの内ポケットに手を入れようとした時に、
「さっきKが辞めることになった。今出そうとしている辞表は出すんじゃない。」
とキッサキを制しました。
Sは本当に辞表を持っていました。
なんとかSは引き止めることができ、その後復活して、日本法人の成長に大きな貢献をしてくれました。
現在Sはビジネス本のベストセラー作家になっています。
またKは古巣に戻り、伝説の営業マンと呼ばれるほどの活躍で、毎年ラスベガスで会社から表彰され帰りにハワイで豪遊しています。
他にも「龍の目を引き抜く事件」「関ヶ原の戦的抗争」等沢山面白いエピソードはあるのですが、残念ながら支障がありすぎて書けません。

何が問題だったのか?

そしてとうとうIPOします。
だんだん幹部も変わっていきます。
そうこうするうちにAPAC管掌のバイスプレジデントが昇格し、自分の上司になります。もともと同列でしたので、あまり気分のよいものではありません。まぁそろそろ潮時かなと思っていたところ、ちょうど当時の日本法人でどうしても開拓できていない分野をメインビジネスとしている外資スタートアップが日本進出するいう話があり、それに乗ることにしました。
事業も立ち上がったし、IPOもできたし、自分に非はないと思っていましたが、出世競争に勝てなかったのにはやはりいくつか要因があったと思います。

まず、本社へのレポート等で、透明性が低いということは何度も指摘されていました。
そもそも人に指示を仰ぐということが苦手で、だいたい勝手に進めておいて事後報告というパターンが多かったと思います。
それでだいたい仕事としては時間も節約されてうまくいったりするんですが、実際アメリカの経営陣からは何をやっているかわからなかったようで、イマイチ信頼できなかったのでしょう。
あと直接の上司のA氏とはウマがあっていたのですが、それに頼りすぎて直接幹部やら重要メンバーとの関係を構築するのを面倒くさがっておりました。それは英語力にも起因しているかと思います。 まったく英語圏で暮らしたことがない自分は、メールや喋るのはまだなんとかいけても、ネイティブスピーカーの英語は30%位聞き取れておりません。それでどうしてもコミュニケーションをとるのが億劫になってしまうのです。意外にこの部分は影響するものです。

今回はそんなに自責な理由は大きくないかなと思いますが、どんなにかっこよい理由を言っていても、裏には一つや二つ話しづらい恥ずかしい事があったりする例として書いてみました。

理想の上司

余談ではありますが、E社最後の米国出張で、元上司のA氏とランチをとることになります。
「実はそろそろ、次のチャレンジに踏み出したいと思っているところです。」
と退職を切り出したところ、
「E社の幹部として、引き留めないといけないところだが、それでQzがハッピーになるのなら、一人の友人として応援するよ」
と思いがけない言葉をかけてもらいます。
涙腺がゆるんで、A氏の顔がぼやけてしまいました。
彼は今も最高の友人です。


次回の北野武監督風キミは何故会社を辞めたのか?#5「アウトレイジA社編」こちらから

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