特別

たしか10時とか11時に起きた。

朝ご飯を食べながら、クリシュナムルティの思想を紹介した小本を読み終えた。清潔で理想的だとは思ったけれど、隠遁者にしかできない生き方だろうとも思った。

とくに何もせず部屋で過ごしてながい時間を溶かしたあと、ふと思い立ちhibiのお香を焚いた。これは日記祭のときにいただいた差し入れのひとつである。部屋を出入りするたび、やさしくあわい香りが身をつつんだ。


今夜は恋人と会う。
何を着ていこうかと考え、しかしクローゼットにあるものすべてが彼に見せたことのある服だと気づいて途方に暮れた。一時間悩んでようやく決定し、新しい眼鏡をかけて外へ出た。

百メートルほど歩いたところで、きびしい寒さに耐えられず引き返した。ゼミ発表で使う文献を精華大の図書館へ探しにいこうと思っていたのだが、この寒さのなか一時間かけて行くのはどうにも躊躇われた。

部屋にもどって肌着を一枚追加し、昨年の誕生日に友人からもらったチェックのマフラーを取り出した。マフラーは山中瑶子監督の宣材写真を思い浮かべて、それと同様に頭にぐるぐると巻きつけた。


図書館の代わりに、京都BALの地下にある本屋さんへ行った。研究したいテーマと合いそうな本を一冊購入した。

それからフランソア喫茶室まで歩いた。突き当たりのテーブル席にすわり、ホットミルクを注文した。ホットミルクはコーヒーや紅茶よりもコストパフォーマンスが悪そうではあるが、両方に勝るやさしい安心感がある。
17時を過ぎ、話に花を咲かせていたお客さんたちが減っていくにつれて、店内に流れるクラシックピアノの存在感は増していった。面白いくらい頭に入ってこない課題の英語長文を読みながら、クリスマスシーズンにピアノの音は合うなあとぼんやり思っていた。

17時20分、恋人と合流した。

ふたりで阪急に乗って十三駅まで行った。目的は、Helsinki Lambda Clubのフロアライブ。

Helsinki Lambda Club

ステージは中央にあり、そのすぐ近くを観客がコの字で囲むようになっていた。だから演者の表情まではっきり見えた。

「午時葵」で始まったライブでは、盛り上がる定番曲はもちろん、色んなアルバムの曲が披露された。京都人が沸く「宵山ミラーボール」や、ずっと好きだった「メリールウ」を聴けるとは思わなかったので歓喜した。

ヘルシンキのライブは撮影録音が可能で、私は「PIZZASHAKE」を、恋人はラインミュージックにもしている「ロックンロール・プランクスター」を軽快なリズムに乗りながら撮っていた。

たまに観客自由参加の掛け声を出していた彼に、私が絶対にできない楽しみ方を会得している尊敬と微笑ましさをいだいた。彼は今日が初ライブハウスだったらしく、初めての人はフォーーー!!!とか言わないだろと思った。

なみなみと注がれたラム・コークのせいか、後半には御手洗いに行きたいとばかり考えていたが、アンコールの高揚感はそれすら薄めた(消してはいない)。
All My Loving !!

君に出会ったあの日のこと 思い出しちゃうよ

All My Loving (作詞:橋本薫)

私が恋人と知り合うきっかけはヘルシンキだったといっても過言ではないため、今夜は特別だった。出会ったあの日に私が付けていたヘルシンキのスマホリングを、今度は彼が物販で買った。


楽しい時間というものがすべてそうであるように、今日のライブもあっという間に過ぎた。余韻もそこそこに京都河原町駅まで帰った。

商店街の先にある三条のラーメン屋さんで遅めの晩ご飯にした。あっさりとした熱いスープが、じんわりと体内にはいった。最後に残ったしじみの身を削ぐのに集中していた私に、苦戦してるねと彼は笑った。

彼はきっと疲れているしこれでお開きかなと思っていたところ、うちに来ますか?と言ってくれて無論快諾した。
ふたりとも自転車ループに乗り、文字通り凍える風を切って、寒い!!!と言い合いながら必死に進んだ。調整を間違えたサドルが私には高すぎて腰を痛めた。


一緒に毛布をかぶり、お互いが今日撮った動画や演奏された曲をひとつひとつ再生した。

彼はトトロのアイマスク(タイマーやヒーターのある多機能なものにもかかわらずたぶん非正規品)を付けて寝た。暗闇でもトトロの丸い目が浮かび上がってこわかった。


50週目

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