本音

ワイドデニムとメッシュのスカートをレイヤードにして履いた。お洒落な人がやってそう、という理由で。
私は流行やブランドを知らないので、毎回それっぽく見えるように安い服を組み合わせている。このことは、すれ違った本物のファッショニスタ ーたとえば、何食わぬ顔でハイブランドの全身真っ黒コーデを着こなすようなモード系のー には、秒でバレていることだろう。

服が好きなのではなく、着ることが好きだ。お酒が好きなのではなく、酔うことが好きなのと同じ。本質より見かけ、物の価値より行為。それが薄っぺらいとわかっていても。


通っている美容室で髪をブルーブラックに染め直し、毛先をそろえてもらった。
美容師さんに就活の話を振られて、あんまりやってないですと正直に言うと、やりたいことがない?と訊かれた。やりたいことは…海辺で穏やかに暮らす、それだけ。
ただ、もし本当にそれを叶えたいのなら、全国の海街を調べて移住を考えるとか、リモートで働けるスキルを身につけるとか、(馬鹿らしいが)わくわくする行動を取る余地はあると思う。私はいつも、人生への具体性と真剣さを欠いている。


岡崎に今年オープンした、jete‘というカフェに行った。『コーヒー&シガレッツ』に出てきそうな、クラシックですこし寂れた雰囲気の店内がかなり良かった。パスタを食べたかったけれど持ち合わせが少なく、現金決済のみだったので断念した。代わりに注文したホットコーヒーを、江國香織さんの『彼女たちの場合は』を読みながらいただいた。

「もう会わないっていうことと、もう会えないっていうことの、区別がうまくつかなくなる」
268ページの一文が好き。意味は掴めなかったけれど。

お店を出たあとは、京都国立近代美術館の展示、「LOVEファッション―私を着がえるとき」をざっと観て、それから高島屋のT8に行った。

一階の化粧品売り場で、友人の誕生日プレゼント用にリップを探した。三店舗で話を聴き、迷った挙句、結局最初に行ったRMKで買った。これは確実に美容部員さんの親しみやすさで選んでいる。冒頭にも書いたように、私はブランドものの違いを見分けられない。

四条通りに出ると、バス停付近に倒れている方がいて、大きなサイレンを鳴らす救急車が駆けつけてきていた。軽率に死を語りながら、自分だけは死なないと信じて生きているが、ぜんぶ幻想かもしれないと思った。


本当に感じていることと記した文章とのあいだには乖離があり、日記にも本音と建前がある。

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