彼女
17時に起きた。
恋人から、「今日も寒いね」とラインがきて、今日も寒いのか、と暖房の効いた部屋で思った。
恋人との待ち合わせと、テイクアウトピザの予約時間はどちらも19時なのだが、ようやく動き始めたのは18時だった。急いで支度するあいだ、「丸の内サディスティック」の“ピザ屋の彼女になってみたい”がふと連想されてなかなか離れなかった。
「ピザ屋の彼女」はピザ屋のガールフレンドという意味だと解釈していたけれど、本当は「ピザ屋で働くあの娘」だったのではないか、などと真剣に考えたりした。
外に出たものの、自転車を大学に置いたままだと気づき、やってしまったと思った。慌ててピザ屋に電話をかけ、恋人にラインを返して、10分遅れると伝えてからバスに乗った。
しかしバスが百万遍に着いたのは、当初の時間通りだった。セブンイレブンで無意味にお茶を買うことで時間稼ぎして、5分後に交差点のピザ屋へ行った。そこで水牛マルゲリータと、恋人がえらんだ合鴨と九条ネギのピザを受け取った。
自転車に乗ってやってきた恋人と合流し(彼の金髪はワントーン明るくなっていた)、私はループに乗って、彼の自宅近くにある大きめのスーパーに向かった。ピザは、チーズが溢れないよう、彼が注意深く水平に携えてくれていた。
ディナーをよりクリスマス仕様にするため、生ハムとサラダ、トマトスープ、お刺身、スパークリングワイン、高めの缶ビールを買い足した。
彼の家の、コタツが付いたテーブルにそれらを並べ、『大豆田とわ子と三人の元夫』を観ながらふたりで頬張った。たまに頭を撫でられて、私は幸せそうな顔で応えた。ピザは一切れずつ残り、明日の朝ごはんにしますかと彼が言った。
第一話と第二話を観終えたとき、彼はおもむろに紙袋を差し出した。開けるとそれは帽子で、私の誕生日にどちらを買ってもらうか最後まで迷って選ばなかった方だった。前の帽子と対照的な、落ち着いた色のもの。
いつ彼にプレゼントを渡そうかと見計らっていたので、その機会が提供されたことに安堵しつつ、私も袋を取り出した。欲しいものを訊いたときに彼がこたえた、「裏起毛の革手袋」を贈った。(こうやって具体的に指定してくれたから選びやすかった。)彼は、ありがとうございます、と何度も言ったけれど、果たして真に喜んでいたのか私にはわからない。
酔ったまま一緒にシャワーを浴びた。上がったあとは、キレートレモンを買いにコンビニに行くという彼についていった。帰ってからはすぐにベッドに横になり、真っ暗な部屋でらぶいーずのショート動画やジャルジャルのYouTubeを流してふたりで笑った。
彼が付けたあまい匂いのヘアオイルは、隣にいてやけに心地良く香った。