春色
ジモティーで募集した交換日記相手と初対面の日。
正直なところ、本当に現れるのかは半信半疑だった。だから、私が怠惰によって「十分遅れます、申し訳ありません」と連絡したとき、「慌てず安全に来てください」とちゃんと返信が来たのにびっくりした。
市役所前でその方と会った。ぱっと見て誠実そうな方で、喋っていてもまったく無害そうであった。お店を探して長々と歩くのも気まずいため、すぐに視界に入ったHolly‘s Caféを提案した。
入店して、私はホットコーヒーのLを、彼はRを頼んだ。(普段は個人経営の喫茶店ばかりに行くので、ここのコーヒーの安さに驚いた。)いちばん明るい窓際の席に座って、お互いのことを和やかに話した。
社会人三年目だという彼は、大学からずっと理系らしいが、美術に造詣が深いようだった。ルノワールの肖像画について私が今まで気にも留めなかった要点を教えてくださり、目から鱗だった。また大学生のときもさまざまに活動的で、旅行で47都道府県を制覇したと言っていた。
知識の多い彼と思考を共有することにわくわくしながら、持ってきた交換日記用のノートを渡した。そしてその場で、次に会う一ヶ月後の日付を仮に設定した。
彼はこのあと、仲間とボードゲーム会をするのだと言った。もしご予定が無ければ一緒に来ませんか?とお誘いしてくださったから、こんな機会はないと思って、行きます!と答えた。ゼストにあるべつのカフェにはいって、ふたりともケーキを食べつつ時間を潰した。彼はそこで、ボードゲーム初心者の私にルールを解説してくれた。
駄菓子屋さんでお菓子を買い込み、地下鉄で京都駅まで下った。ボードゲーム会は、近くのレンタルスペースで14時に開始された。
集まったのは、彼と私を含めて六人。おそらく二十〜三十代で、私が最年少だった。下の名前で呼び合い、正確な年齢も職業も、どんな性格かもわからなかったが、みなさん穏やかで気を遣われる印象だった。最初にナンジャモンジャをして私が勝ち(このゲームはウォームアップとして最適だった)、Itoという協力型ゲームで盛り上がり、ごきぶりポーカーで騙し合って笑った。
一段落したところでちょうど15時半になった。次の予定に行くために私は抜けさせてもらった。しかしこのボードゲーム会はなかなか楽しかったから、また参加できたら嬉しい。
地下鉄四条駅まで行き、相手を待った。これも交換日記に応募してくださった方で、よって私は一日に新規二人と会ったのである。
対面したあと、一緒に地下二階のイノダコーヒに入った。だいぶ年齢が上の方だったので、パパ活に見られないかしらと、心中ずっと失礼なことを思っていた。
それぞれアイスコーヒーを注文し、いろいろと話した。やさしい笑顔の方だったが、就活の話になったとき、新卒で入る会社は大事だとか同期はいた方が良いのだとかおっしゃって、ありがたい意見ではあるものの少し居心地が悪くなった。
また、ジモティーであらゆるジャンルのメンバー募集に参加されていた話や、本を読まないこと・文章を書かないことなどを聞いて、このひとは特に私と交換日記をやる必要がないと思った。そして丁重にその旨を伝えた。彼の顔がこわばっていくのがわかったけれど、わかりました、と返してくださった。
ひとりになって、四条を歩いた。気を張って愛想良くしていたせいか、身体に重みを感じた。
ドラッグストアで諸々の消耗品を買った。そのあと寄った古着屋さんで、一目見てときめいた春色ニットを買った。すると幾分心が晴れた。