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ンの字に関するいろいろな言語表記

4/9は円谷プロ『ウルトラ』シリーズ2作目としてTBS系列で放送された『ウルトラマン』最終回が放送された日で、仮名文字の《ん・ン》が名前の由来の一つになっている宇宙恐竜ゼットンが登場してから今年で55周年を迎えました。
4/14は1949年のこの日にンコ文字がマニンカ語で施行されたことにちなむンコ文字の日と4月と《》の字は奥深いものです。

今回はいろいろな言語に対応するンの字を取り上げます。
(※R6-05-12更新)


ンの字及びほぼ同じ音を示す字母

仮名文字の《ん・ン》は音節主音としては口蓋垂音の[ɴ̩]となります。ひらがなは《》に由来する字母となっています。
ンの後の子音字でカ行・ガ行の場合は[ŋ-], チャ行・ジャ行・ニャ行の場合は[ɲ-], タ行・ダ行・ナ行の場合は[n-], パ行・バ行・マ行の場合は[m-]などのように調音位置によって鼻音が変化します。
変体仮名ではN-MU-MO1𛄝》とN-MU-MO2𛄞》が用いられます。
東北弁などの方言仮名やフランス語などの発音仮名では小書き仮名文字ン𛅧》が用いられますが、東北弁の表記に必須である小書きひらがなンはユニコード未登録の状況です。

沖縄語仮名では《ん・ン》は音節主音として[ɴ̩]となります。
声門閉鎖音が付く〈っん・ッン〉[ʔɴ̩]もあります。

台湾語仮名では《》は音節主音として軟口蓋音の[ŋ̍]を示します。
台湾語仮名の声調記号はユニコード14.0で採用され、にしき的フォントなどで使用可能です。

  • Ń・ń, Ň・ň, Ǹ・ǹ】中国:ラテン文字[n̩ ン]

  • NG・Ng・ng, ŃG・Ńg・ńg, ǸG・Ǹg・ǹg, N̂G・N̂g・n̂g, N̄G・N̄g・n̄g】台湾:ラテン文字[ŋ̍ ン] - 教会ローマ字の字母名は〈Ngi〉。

  • NG¹・Ng¹・ng¹, NG²・Ng²・ng², NG³・Ng³・ng³, NG⁴・Ng⁴・ng⁴, NG⁵・Ng⁵・ng⁵, NG⁶・Ng⁶・ng⁶】広東:ラテン文字[ŋ̍ ン]

  • ŃG・Ńg・ńg, ŇG・Ňg・ňg, ǸG・Ǹg・ǹg】中国:ラテン文字[ŋ̍ ン]

  • 𠮾】中国:漢字[ŋ̍ ン/n̩ ン]

  • 】中国:漢字[ŋ̍ ン/n̩ ン]

  • 】中国:漢字[ŋ̍ ン/n̩ ン]

  • 】広東:漢字[ŋ̍ ン]

  • Ng⁴》】広東:漢字[ŋ̍ ン]

  • 央, 秧Ng》】台湾:漢字[ŋ̍˥ ン]

  • 影, 阮Ńg》】台湾:漢字[ŋ̍˥˩ ン]

  • Ǹg》】台湾:漢字[ŋ̍˧˩ ン]

  • 王, 黃N̂g》】台湾:漢字[ŋ̍˨˦ ン]

  • N̄g》】台湾:漢字[ŋ̍˧ ン]

  • Ǹg》】客家:漢字[ŋ̍ ン]

  • ㄋ, ㄋˊ, ㄋˇ, ㄋˋ】台湾華:注音符号[n̩ ン]

  • ㄫ, ㄫˊ, ㄫˇ, ㄫˋ】台湾華:注音符号[ŋ̍ ン] - 現行文字だが、字母表に含まれない。

  • ㆭ, ㆭˋ, ㆭ˪, ㆭˊ, ㆭ˫】台湾:注音符号[ŋ̍ ン]

  • ߒ】ンコ文字[ŋ̍ ン]

  • 】ヴァイ文字[ŋ̍ ン]

日本語《ン》の字母名の翻字:字母1文字

・【N・n】ラテン文字使用言語
・【Ν・ν】ギリシャ文字
・【Н・н】キリル文字使用言語
・【ن】アラビア文字使用言語
・【】パンジャブ[nə ナ]
・【ன்】タミル[n ン]
・【】マラヤラム[n ン]
・【】エチオピア文字使用言語[nɨ ヌ/ n ン]

日本語《ン》の字の翻字:字母名及び推測字母名

日本語の《ん・ン》の字母名は〈ウン〉[ɯɴ]で、タイ語・ラオ語・韓国語における字母名は発音を反映していますが、一部言語では字母名では発音が異なるものがあります。
また《ン》の字母名は通話表フォネチック・コードで〈おしまいのン〉と呼称され、韓国語では〈끝의 응〉[クチ・ウン]と呼称されます。
固有名詞で《N》と子音の連字で〈エン〉と表記される場合もあることから、その推測も含みます。

  • Uno】エスペラント[ウーノ]

  • Ըն】アルメニア[ən ウン]

  • נְ】ヘブライ[nə~ne ネ]

  • अन】ヒンディー[ən アン]

  • အန်】ビルマ[ã アン]

  • အံ / Aṃ, Aṁ】パーリ[ə̃ アン]

  • อึง】タイ[ɯŋ˨˩- ウン]

  • ອິງ】ラオ[ɯŋ ウン]

  • 无 / Wú, Mó】中国[u˧˥ ウー/mɔ˧˥ モー] - ひらがなの字源から。

  • 】韓国[ɯŋ ウン]

《ン》から始まる綴りの翻字

[n]・[m]系統そのものの綴りではなく母音及び子音の後に母音が付くものを中心に取り上げています。
英語では《N》の字母名エヌからエン[ɛn/ən]と短音エあるいは曖昧母音エから始まる傾向から、語頭がNの次から始まる場合で鼻音が発音できない言語の場合はNの字母名で発音される場合があります。
ンジャメナはスペイン語の〈Yamena〉[ジャメーナ]やチベット語の〈ཇ་མི་ན་ ; ཇ་མི་ན།〉[チャミナ/ヂャミナ]のように語頭のンが表記されない言語もあります。

  • En-】リトアニア[エン]、トルコ[エン]

  • In- / 𐒘𐒒-】ソマリ[イン]

  • N-, N'- / 𐑩𐑯-~, ·𐑯ʼ-~】イギリス英[ən-~əŋ- アン] - シェイヴィアン文字における固有名詞の場合、語頭に欧文中点U+00B7《·◌》が付加される。

  • N-, N'- / 𐐇𐑍-, 𐐥ʼ-】アメリカ英[ɛn-~ɛŋ- エン/ən-~əŋ- アン] - デセレット文字では曖昧母音シュワーə》[ə アまたはエ]を示す字母が存在しないため、語頭がNの次が子音字の場合はショートE𐐇・𐐯》[ɛ エ]で示されるか綴りが省略される。

  • Ne-】マオリ[ネ]

  • Ni-】ナワトル[ニ]、ニェエンガトゥ[ニ]

  • Nơ- / 𦀨-】ベトナム[nəː˧- ナー] - 現行正書法では〈Nơ-gia-mê-na➡N'Djamena〉[ナーザーメーナー]のように綴りは原語そのものに置き換えられる方針が多い。

  • Ny-】カインガング[nʌ̃- ナン]

  • Ν-】ギリシャ[有声音化] - ンジャメナの〈Ντζαμένα〉[ヂャメナ]のように元々有声子音である連字を含む綴りの場合、鼻子音字は無音となる場合が多い。

  • Ан-】アブハズ[an- アン]

  • Ꮎ- , Ꮒ- / Na- , Ni-】チェロキー[na- ナ/ni- ニ]

  • נ־】ヘブライ[ne- ネ/n- ン]

  • נ׳־】イディッシュ[n- ン] - 英語ラテン文字に合わせた表記。ゲレッシュ׳》を用いる。

  • نـ】西パンジャブ[nɪ- ニ]

  • انـ】エジプト・アラビア[ʔen- エン]、ペルシア[en- エン]、パシュトー[ən- アン]

  • إنـ】アラビア[ʔin- イン] - ンジャメナは〈انجمينا〉[インヂャミーナ/インジャミーナ]と短音イإ》[ʔi]を示すハムザ《ء》が省略される。

  • اینـ】ウルドゥー[eːn-~eːŋ- エーン]、西パンジャブ[ɛ̃-~ɛŋ-~ɛn- アェーン]

  • نىـ】ウイグル[nɨ- ヌ]

  • نئـ】北ロル[ネ]

  • نَـ】カシミール[na- ナ] - カシミール語アラビア文字は原則的に母音記号が必須であることから発音が明確化されることが多い。

  • نِـ】アラビア[ni- ニ] - 母音記号は教科書・辞書以外では省略される。冠詞が付く場合は〈النـ〉[an.ni- アン・ニ]。

  • अन- अं- , एन्-, एं-】ヒンディー[ən-~əŋ- アン/eːn-~eːŋ- エーン] - ンジャメナは〈अन जामेना〉[アン・ヂャーメーナー]と表記される。

  • इं- / 𑘂𑘽-】マラーティー[in-~iŋ- イン]

  • এন-, এং-, এঙ্-, এন্-】ベンガル[en-~eŋ- エン] - ベンガル語の場合、原綴が《N'》の場合は子音を合成しない。

  • এণ্-, এং-, এঙ্-, এন্-】アッサム[en-~eŋ- エン]

  • ਐਂ- , ਨਿ-】パンジャブ[ɛ̃-~ɛŋ-~ɛn- アェーン/nɪ- ニ]

  • 𑒢𑒹- / ने-】マイティリー[ne- ネ]

  • ନେ-】オリヤー[ne- ネ]

  • ᱱᱮ-】サンタル[ne- ネ]

  • நி-】タミル[ni- ニ]

  • ఎన్-】テルグ[en- エン]

  • ಎನ್-】カンナダ[en- エン]

  • ഇൻ-】マラヤラム[in- イン]

  • නි-】シンハラ[ni- ニ]

  • အွန်-】ビルマ[ũ- ウン]

  • 𑄆𑄚𑄴- , 𑄚ʻ-】チャクマ[en- エン]

  • อึง-, อึน-】タイ[ɯŋ˨˩- ウン/ɯn˨˩- ウン]

  • ອິງ-, ອິນ】ラオ[ɯŋ- ウン/ɯn- ウン]

  • 恩- / Ēn- / ㄣ-】中国[ən˥- エン]、台湾華[ən˥- エン]

  • 恩- / Jan¹-】広東[jɐn˥ ヤン]

  • 恩- / In-, Un- / ㄧㄣ-, ㄨㄣ-】台湾[in˦ イン/un˦ ウン]

  • 恩- / Èn-】上海[əŋ˥˧- エン]

  • ウン-, エン- / Un-, En-】アイヌ[un- ウン/en- エン]

  • 응-, 은-, 느-】韓国[ɯŋ- ウン/ɯn- ウン/nɯ- ヌ] - パッチムによって綴りが変化し、ンガは《응가》[ɯŋ.ɡa ウンガ]又は《응아》[ɯŋ.a ウンア], ンマは《음마》[ɯm.ma ウンマ]のようになる。

  • ን-】アムハラ[nɨ- ヌ/ n- ン]

  • ኤን-】ティグリニャ[en- エン]

  • 𞤐ـ】フラニ[n- ン]

仮名文字《ン》から始まる固有名詞など

日本語の単語で、《🐎》は本来〈ンマ〉[m̩.ma]と発音されるのですが、現代かなづかいでは〈ウマ〉が正しい綴りとなっているなど、音節主音の“ン”から始まる発音のある単語は古来からある単語では《》, 借用語では《》または《》に置き換えられる傾向があるのですが、近年は琉球語からの借用語で《》から始まる表記も見られることがあります。

  • ん音便N-ombin】: 言語学用語。

  • ンガNgaṄa》】: ほとんどのインド系文字における第5子音字の字母名で、ヒンディー語《》やビルマ語《》など。

  • ンガナサンNganasanӇәнәˮсанәˮ》】: ウラル語族の民族の名称。現地語でンガナサン語は〈Няˮ〉[nʲɐʔ ニャッ]。

  • ンガピーNgapiငါးပိ》】: ミャンマー料理の調味料で、魚醤。

  • ンクルマNkrumah】: 人名。但し、日本語ではガーナの〈クワメ・エンクルマ〉初代大統領のように〈エン〉[eŋ-]に置き換えられる場合が多い。

  • ンコNʼKo, N'koߒߞߏ》】: マニンカ語などで使用される文字体系。

  • ンゴー・ングアNgo Nguaງ ງົວ》】: ラオ文字第4字母《》の名称。字母名の由来は“牛のNg”で、ラオ語で[ŋ]から始まる代表的な単語である牛《🐮》に由来。

  • ンゴー・ングーNgo Nguง งู》】: タイ文字第7字母《》の名称。字母名の由来は“蛇のNg”で、タイ語で[ŋ]から始まる代表的な単語である蛇《🐍》に由来。

  • ンコソパNʼKosopa, N'kosopa】: 特撮『王様戦隊キングオージャー』に登場する架空国家。

  • ンゴロンゴロNgorongoro】: タンザニアの地名。

  • ンジャメナNʼDjamena, N'Djamena】: チャドの地名で、首都。

  • ンダホNdaho】: 人名。有名人では男性ユーチューバーグループ“フィッシャーズ”のボーカル〈ンダホ〉さん。

  • ンダモシテXNʼdamoshite X, N'damoshite X】: MBS系特撮『ウルトラマンダイナ』の兵器の名称及び第48話サブタイトル。

  • んちゃNcha】: 鳥山明先生の漫画『Dr.スランプ』から生まれたアラレちゃんの決めゼリフ。アラレちゃんの決め技に〈んちゃ砲〉がある。

  • んちゅNchu, Ncu》】: 沖縄語で“”。

  • ンデレバNdereba】: 人名。但し、日本語ではケニアの〈ヌデレバ〉選手のように《》[nɯ-]に置き換えられる場合が多い。

  • ンドゥールNʼDour, N'Dour】: 人名。荒木飛呂彦先生の漫画『ジョジョの奇妙な冒険~スターダストクルセイダース~』の登場人物などに見られる。

  • ンドゥバNʼDuba, N'Duba】: チュンソフトのゲーム『風雷のシレン』シリーズのモンスター。

  • ンドゥルーNʼDulu, N'Dulu】: ゲーム『風雷のシレン』シリーズのモンスター。

  • んねさかNnesaka兼坂》】: 名字。有名人ではコスプレイヤーの〈んねさか亜里沙〉さん。

  • んばばMbaba】: 柴田亜美先生の漫画『南国少年パプワくん』から生まれたパプワくんの決めゼリフ。TVアニメ版オープニングテーマの曲名は『んばば・ラブソング』。

  • ンバマNʼBama, N'Bama】: ゲーム『風雷のシレン』シリーズのモンスター。

  • ンバルーンNʼBalun, N'Balun】: ゲーム『風雷のシレン』シリーズのモンスター。

  • ンフーNfu】: ゲーム『風雷のシレン』シリーズのモンスター。

  • ン・マN Ma】: 特撮『魔法戦隊マジレンジャー』の登場人物。

  • ん廻しN-Mawashi】: 落語の一種。

  • ンヤダクNʼYadach, N'Yadach】: ゲームブック『ファイティング・ファンタジー』の架空の種族。