十二支に対応するヒエログリフ
10月24日は干支の記念日である十二支の日です。
岡書院・刊『埃漢文字同源考 : 一名東洋『ロセツタ』石』(板津七三郎・著, 1933年🔹Googleブックス内の解説)では、干支関連の漢字に対応する古代エジプト文字の考察がなされ、文字学的に興味深いものとなっています。
今回は『埃漢文字同源考』における十二支に対応するエジプト文字を取り上げます。
(※R6-09-13更新)
『埃漢文字同源考』で考察された十二支対応ヒエログリフ
S034【𓋹《子》】Ꜥnḫ〈𓋹𓈖𓐍〉[アンク/アネク] ……生命の象徴であるアンクの絵文字。子どもの象形文字である《子》に似ていることに由来。
S019【𓋨 《丑》】Sḏꜣw[セジャウ]……印章の絵文字。印章に付いているヒモから漢字《紐》に関連付けている。
A067【𓁌《寅》】Ἰnm[イネム/エネム]……太陽をあがめている人から“敬う”の意。ユニコードの定義ではドワーフの意とされ、この場合は“Nm[ネム]”と読む。
O032【𓊀《卯》】Sbꜣ〈𓋴𓃀𓇼𓄿𓉐〉[セバア]……門の象形文字で、門を開ける形に関連付けている。
F003【𓄁《辰》】Ꜣt〈𓄿𓏏𓄁𓇳〉[アト]……カバの頭。時を司る神様から。
M011【𓆻《巳》】Wdn〈𓅱𓂧𓈖𓆻〉[ウェデン/ウデン]……花のつぼみの絵文字。姿を現わす意。
F025【𓄙《午》】Wḥm〈𓄙𓅓〉[ウヘム]……繰り返しを意味する馬の脚。ユニコードでの解釈は牛の脚とされている。
M005【𓆴《未》】Tr〈𓏏𓂋𓆴𓇳〉[テル]……季節又は時期の意。『埃漢文字同源考』では“永久ノ年”あるいは“未来ノ年”と解釈し、未知に関連するつながりと思われる。
I012【𓆗《申》】Ἰꜥrt〈𓇋𓂝𓂋𓏏𓆗〉[イアレト]……立ち上がったコブラの姿をした女神ウラエウス。雷の形との関連性から。
W021【𓏉《酉》】Ἰrp〈𓇋𓂋𓊪〉[イレプ/エレプ]……ワインの容器をかたどった象形文字。ワインの意で、漢字《酒》とつながりがあると思われる。
T005【𓌌《戌》】Ḥḏ〈𓌉𓇳𓆓〉[ヘジュ]……白の意。ヒエログリフは儀式用のメイスとコブラの合字となっている。
F014【𓄍《亥》】Wpt-rnpt[ウペト・レンペト]〈𓄋𓈙𓏏𓆳𓏏𓏤〉……新年の意。エジプト語で正月は《𓄎/Wp-rntp》[ウプ・レンペト]、新年のごあいさつ“謹賀新年”は〈𓄋 𓆳 𓄤 𓈗/Wpt rnpt nfrt〉[ウペト・レンペト・ネフェレト]。
『埃漢文字同源考』の十二支対応ヒエログリフとは別字源説があるもの
S034【𓀔《子》】H̱rd〈𓄡𓂋𓂧𓀔〉[ケレド] ……子どものヒエログリフ。
『埃漢文字同源考』で考察された方角対応ヒエログリフ
D007【𓁼《艮》】Ꜥnw[アヌウ]……目の下に線がある形状。うしとら=北東。限界の意であることから漢字《限》と関連付けている。
N028【𓈍《乾》】Ḫꜥ[カア]……日の出。いぬい=北西。
『埃漢文字同源考』で考察された十干対応ヒエログリフ
S011【𓋝《甲》】Wsḫ[ウセフ/ウェセフ]……本来『埃漢文字同源考』では胸当てのヒエログリフに対応しているが、同書で漢字《柙》に対応する襟巻きの異体字として扱われているため、ユニコード未登録。
N011【𓇹《乙》】Spr〈𓇺𓂋𓂻〉[セペル]……三日月のヒエログリフで、到着の意。『埃漢文字同源考』では漢字《乙》を“魚骨”の象形文字と解釈し、ヒエログリフの別義である“肋骨”と関連付けている。
AA021【𓐣《丙》】Wḏʿ[ウジャア]……試秤器のヒエログリフ。漢字《丙》のピンと張ってある意に近い。
X001【𓏏《丁》】T〈𓏏𓏐𓏒𓏥〉[テ/エト]……パンのヒエログリフで、語末で女性形〈.t〉[-t エト]を示す。漢字《丁》は釘に由来する説がある。
T012【𓌗《戊》】Rwḏ〈𓂋𓎗𓌗〉[ルウジュ]……弓の弦のヒエログリフだが、『埃漢文字同源考』では植物とされている。安定あるいは繁盛の意。
O005【𓉕《己》】Mr[メル]……壁の配置から市内の¼を示し、方角を意味する。
F031【𓄟《庚》】Ms〈𓄟𓋴〉[メス]……本来は狐の毛皮を束ねたもので、『埃漢文字同源考』では“原始をなす”意と推測されている。
M010【𓇮《辛》】Spd〈𓋴𓊪𓂧𓏚〉[セペド]……トゲ・茨のヒエログリフ。苦しみの意から漢字の《辛》との関連性を与えている。
B002【𓁑《壬》】Bḳ[ベク]……妊婦のヒエログリフ。『埃漢文字同源考』では“beq”と読みを表記し、漢字の《妊》や《任》との関連性がある説が記載。
N015【𓇽《癸》】Dwꜣt〈𓂧𓍯𓏏𓇽〉[ドゥアト]……円に囲まれた星の形状で、地底世界の意。
十二支の動物に対応すると思われるヒエログリフ
全角ギュメ内の漢字は『埃漢文字同源考』での考察で対応するとされている漢字です。
十二支動物の名称は推測で、本来のヒエログリフの読みと異なるものがあります。
配列は十二支順となっています。
F028【𓄜《嘼➡鼠》】Pnw〈𓊪𓈖𓅱𓄛〉[ペヌウ]……子年。小動物の限定符。『埃漢文字同源考』では“未確定”と断言して、“嘼”に対応する正字のF027《𓄛》とは別に鼠の篆書体に当てて推測した。ネズミ《🐀》のヒエログリフが存在し、ユニコード16.0で採用された。
F027【𓄛《嘼》】Pnw〈𓊪𓈖𓅱𓄛〉[ペヌウ]……子年。本来は牛皮の意で、F028《𓄜》の正字。
E21-13B14【《鼠》】Pnw〈𓊪𓈖𓅱𓄛〉[ペヌウ]……子年。ネズミ。ユニコード16.0で採用された。
E001【𓃒《牛》】Kꜣ〈𓂓𓃒〉[カア]……丑年。牛。雌牛の意は“Ἰḥt〈𓇋𓎛𓏏𓃒〉[イヘト]”。
F001【𓃾《牛》】Ἰḥ〈𓇋𓎛𓏏𓃒〉[イフ/アフ]……丑年。雄牛《🐂》。フェニキア文字アルプ《𐤀》に対応。
E013【𓃠《虎》】Ꜣby〈𓍋𓃀𓇌𓃮〉[アビイ]……寅年。ヒエログリフは猫《🐈》だがヒョウ《🐆》の意。ベトナムの十二支では卯年がネコ年となっている。猫の意としてのヒエログリフの読みは“Mἰw〈𓏇𓇋𓅱𓃠〉[ミイウ]”。
E034【𓃹《兎》】Wn〈𓃹𓏤〉[ウン/ウェン]……卯年。野ウサギ《🐇》。同じ発音の〈𓃹𓈖𓉿𓂡〉は“開く”の意で、漢字《卯》が“門を開ける”意の象形文字であることにつながりがある。
I003【𓆊《龍》】Ꜥꜣpp〈𓉻𓊪𓊪𓆚〉[アペプ]……辰年。ワニ《🐊》。イランの十二支では辰年がワニ年となっている。エジプト語で竜《🐉》の意は蛇神アポフィスと推測される。ワニの意としてのヒエログリフの読みは“Msḥ〈𓅓𓋴𓎛𓆊〉[メセフ]”。
I010【𓆓《它》】Ḥfꜣw〈𓎛𓆑𓄫𓅱𓆙〉[ヘファウ]……巳年。コブラ《🐍》。本来のヒエログリフの読みは“Ḏ[ジェ/エジュ]”。
E006【𓃗《馬》】Ssm〈𓊃𓊃𓅓𓃗〉[セセム]……午年。馬。
E010【𓃝《羊》】Bꜣ〈𓊸𓃝〉[バア]……未年。牡羊。
E032【𓃷《禺》】Ky〈𓎡𓇌𓃷〉[キイ]……申年。聖なるヒヒ《🦧》。立ち上がって礼拝している異体字が『埃漢文字同源考』に記載されていて、ユニコード16.0で採用された。
E043【𓅱《雞》】H̱ms〈𓄡𓄟𓋴𓅭〉[ケメス/ヘメス]……酉年。ウズラの雛《🐤》。本来のヒエログリフの読みは“W[ウウ]”で、半母音字。
E014【𓃡《犬》】Ἰw〈𓃛𓅱𓃡〉[イウ]……戌年。犬《🐕》。
E012【𓃟《豕》】Rrἰ〈𓂋𓂋𓇋𓃟〉[レリイ]……亥年。豚《🐖》。猪《🐗》のヒエログリフは豚のものと統合され、ユニコードに採用されていない。
ユニコード16.0のヒエログリフ拡張-A及びユニコード未登録のヒエログリフ
ユニコードコンソーシアムではエジプト文字拡張-Aが、長年の調査により、令和6年9月10日にユニコード16.0に採用されました。
エジプト文字の外字が使用できるフォントではジミトリオス・ズロスさんが作成したAegyptusがあり、同じ作成者によるSymbolaフォントと同じくフリーフォントで、数年前までは商用目的利用OKだったのですが、現在は個人利用=非営利に限りフリーのライセンスになっています。
ユニコード未登録のエジプト文字で『埃漢文字同源考』に記載されている漢字《㣇》に対応するイノシシのヒエログリフは豚のヒエログリフE012《𓃟》の異体字とされ、統合されているのですが、同書の引用目的などでの追加の可能性が出てくる可能性がありそうです。