各言語のラテン文字正書法に似せた日本語ローマ字表記8

3月14日はエストニア語の日で、エストニアで母語の日とされています。
エストニアでは各言語のラテン文字翻字が研究されていて、エストニアに合わせた翻字となっていますが、日本語は未対応です。

エストニア語ラテン文字における注意点

エストニア語ではフィンランド語のように長音は〈AA〉[ɑː アー]のようになりますが、超長音という通常の長音の倍の発音でカタカナで〈アーー〉, 国際音声記号で〈aːː〉となる表記があり、正書法では区別されないため、教科書や辞書などでは〈ˋAA, ˋ◌AA〉と合成しないグレーブアクセント《ˋ》を付加して示しています。

日本語の促音・撥音に当たる長子音は日本語ローマ字表記と同じく〈TT〉[tː ット/tʲː ッチ]や〈NN〉[nː ンヌ/nʲː ンニ]で示され、カタカナで〈ッット/ンンヌ〉, 国際音声記号で〈tːː/nːː〉と示される超長音が見られ、これも教科書や辞書などでは〈ˋTT, ˋ◌TT/ˋNN, ˋ◌NN〉と合成しないグレーブアクセント《ˋ》を付加して示しています。

破裂音は、語中では短子音は《B, D, G》[p プ, t ト~tʲ チ, k ク]、長子音は《P, T, K》[pː ップ, tː ット~tʲ ッチ, kː ック]、超長子音は《PP, TT, KK》[pːː ッップ, tːː ッット~tʲːː ッッチ, kːː ッック]と表記されますが、語末の《TT》は[tː ット, tːː ッット; tʲː ッチ, tʲːː ッッチ]と4種類の音素となります。

イ段《I》は《L, N, S, T》といった特定の子音の後では硬口蓋化[-ʲi]され、ニ〈NI〉[nʲi]やSI〉[sʲi]などになります。

エストニア風日本語ローマ字

エストニア語では日本語由来の固有名詞はヘボン式ローマ字で表記するのがルールとなっていますが《J》など一部は発音が著しく異なったり、エストニア語本来の長音表記で示されないことが多いため、エストニア語に合わせた日本語表記をまとめます。

エストニアのKNABのサイトに記載されているエストニア語翻字を参考にしました。

二重母音は母音と母音による表記です。
国際音声記号はエストニア語のものになっています。
促音は原則的に子音字の連字で示されますが、一部清音字は語中では促音になる場合があります。

A・a】ア[ɑ]/〖AA・aa〗アー[ɑː]/【I・i】イ[i]/【II・ii〗イー[iː]/
Õ・õ】(標準語に近い)ウ[ɤ~ə]/〖ÕÕ・Õõ・õõ〗ウー[ɤː~əː]/
U・u】ウ[u]/〖UU・uu〗ウー[uː]/【E・e】エ[e]/〖EE・ee〗エー[eː]/
EI・ei〗エイ[ei]/【O・O】オ[o]/〖OO・oo〗オー・オウ・オオ[oː].
AUA・aua〗アワ[a.wa]/〖UUA・uua〗ウワ[u.wa]/〖OUA・oua〗オワ[o.wa].

K・k】カ行[k-/-kː-]/【G・g】ガ行[ɡ̊/-k-]
S・s】サ行[s]/【SI・Si・si】シ・スィ[sʲi]/【Z・z】ザ行[s]/
Š・š】シャ行[ʃ]/〖DŽ・Dž・dž〗ジャ行[ʧ]/【Ž・ž】語中ジャ行[ʃ]/
DŽI・Dži・dži〗ジ・ヂ[ʧi]/〖ZU・Zu・zu〗ズ・ヅ[su]/
SÕ・Sõ・〗ス[sɤ]/〖ZÕ・Zõ・zõ〗ズ・ヅ[sɤ]/
T・t】タ行[t-/-tː-]/〖TI・Ti・ti〗チ・ティ[tʲi-/-tːʲi-]/
〖TŠ・Tš・tš〗チャ行[ʧ]/〖TS・Ts・ts〗ツァ行[ʦ]/
TSÕ・Tsõ・t〗ツ[ʦɤ]/【D・d】ダ行[d̥-/-t-]/
DI・Di・di〗ヂ・ディ[d̥ʲi-/-tʲi-]/〖DZ・Dz・dz〗ヅァ行[ʦ]/
N・n】ナ行・ン[n]/〖NI・Ni・ni〗ニ[nʲi-]/〖NJ・Nj・nj〗ニャ行[nʲ]/
H・h】ハ行[h-]/〖HHA・hha〗語中ハ[hːɑ]/〖HJ・Hj・hj〗ヒャ行[ç]/
F・f】ファ行[f]/【B・b】バ行[b̥-/-p-]/【P・p】パ行[p-/-pː-]/
M・m】マ行[m]/〖JA・Ja・ja〗ヤ[j]・ャ[-ʲa]/〖JI・Ji・ji〗イィ[ji]・ィ[-ʲi]/
JU・Ju・ju〗ユ[ju]・ュ[-ʲu]/〖JÕ・Jõ・jõ〗ユ[jɤ]・ュ[-ʲɤ]/
JE・Je・je〗イェ[je]・ェ[-ʲe]/〖JO・Jo・jo〗ヨ[jo]・ョ[-ʲo]/
R・r】ラ行[r]/【V・v】ワ行・ヴァ行[v]/
NK・nk〗ンク[-ŋkː-]/〖NG・ng〗ング・鼻濁音ガ行[-ŋk-]/
NT・nk〗ンク[-ŋkː-]/〖NG・ng〗ング[-ŋk-]/.
ŠŠ・šš〗ッシ[ʃː]/〖DDŽ・ddž〗ッジ[ʧː]/〖TTŠ・ttš〗ッチ[ʧː].

拡張ラテン文字及び日本語にない音の翻字

Ä・ä】アー[a ア/æ アェ] - 各種キリル文字使用言語ではヤー《Я・я》に対応。
Ö・ö】ヨー[ø オェ] - 各種キリル文字使用言語ではヨー《Ё・ё》に対応。
Ü・ü】ユー[y ユィ] - 各種キリル文字使用言語ではユー《Ю・ю》に対応。
Õ・õ】ウー[ɤ ヲ~ə ウ] - キリル文字使用言語のウィー《Ы・ы》, ウクライナ語キリル文字ウィー《И・и》の翻字に用いる。
Š・š】シャー[ʃ シュ]
Ž・ž】ジェー[ʒ ジュ/ʃ シュ]
L・l】エッル[l] - エストニアの首都〈Tallinn〉は日本語ではタッリンではなく〈タリン〉と表記される。

ヴォロ語ラテン文字

エストニアで使用される言語のひとつであるヴォロ語ラテン文字でエストニア語と異なる字母です。

Q・q】[ʔ ッ] - 声門閉鎖音。アッは〈AQ〉, アーッは〈AAQ〉で示される。なお、ユニコードの英語による字母名ではクメール文字QA》, タイ・ナ文字QA》, 新タイ・ロ文字HIGH QA》, バムン文字YOQ》などのように、声門閉鎖音が《Q》で示される。
Y・y】[ɨ ゥイ] - 各種キリル文字使用言語のウィー《Ы・ы》に対応。
'・ʼ・ˊ】[ʲ ィ] - キリル文字軟音符Ь・ь》に該当。エストニア語正書法では通常表記されない軟口蓋音を示す。手書きでは大文字にアキュートアクセントを付加し、小文字はx幅子音字に対してアキュートアクセントを付加し、上にはみ出る子音字では右肩にアキュートアクセントを配置する。
Ḱ・kˊ】キャ行[kʲ キ/-kʲː- ッキ] - ヴォロ語の手書きにおける小文字の表記は《》と異なる。
Ǵ・ǵ】ギャ行[kʲ キ]
Ś・ś】シャ行[sʲ- シ/-sʲː- ッシ] - 日本語のシャ行音を示す国際音声記号《ɕ》に近い。
DŹ・Dź・dź〗ジャ行[ʧʲ チ]
Ź・ź】語中ジャ行[sʲ シ]
TŚ・Tś・tś〗チャ行[ʧʲ チ/-ʧʲː- ッチ]
Ń・ń】ニャ行[nʲ ニ]
Ṕ・ṕ】ピャ行[pʲ- ピ/-pʲː- ッピ]
Ḿ・ḿ】ミャ行[mʲ ミ]
Ŕ・ŕ】リャ行[lʲ リ]
Ĺ・lˊ】リャ行[lʲ リ] - スロバキア語における小文字は《ĺ》[ʎ リ]だが、ヴォロ語の手書きにおける小文字の表記は異なる。
NḰ・nkˊ〗ンキ[-ŋkʲː- ンッキ]
NǴ・Nǵ・nǵ〗ンギ[ŋkʲ ンキ]
TTŚ・ttś〗ッチ[-ʧʲː- ッチ]