英語におけるダイアクリティカルマーク付き字母と特殊文字
4月23日は英語デーとスペイン語デーです。
今回は英語におけるダイアクリティカルマーク付き字母について取り上げます。
英語に使用されるダイアクリティカルマーク付きについて
近年、英語ラテン文字では固有名詞だけでなく一般名詞などにもダイアクリティカルマーク付き字母を含む綴りが増えてきています。
代表的なものではゲーム及びアニメ『ポケットモンスター』の英語タイトルでは『Pokémon』[ˈpoʊ.keɪ.ˌmɑn ポウケイマン/ˈpoʊ.kɪ.ˌmɑn ポウキマン/ˈpəʊ.keɪ.ˌmɒn ポウケイモン/ˈpəʊ.kə.ˌmɒn ポウカモン]とアキュート付きイーが含まれています。
ドイツ語では正書法改革以前に原語からドイツ語本来のラテン字母による綴りに置き換えて正しい発音を示す表記が許容されていたのですが、近年は原語を尊重した表記を用いる方針となったことから、ドイツ語に含まれないダイアクリティカルマークを表記するようになりました。
スペイン語由来の〈piñata〉「ピニャータ」の絵文字U+1FA85《🪅》はユニコード本来の字母名〈PINATA〉とは別扱いで、スペイン語本来の表記のままユニコードコンソーシアムのCLDR絵文字名称に採用されています。
アメリカ英語では〈garçon➡garcon〉[ɡɑ˞ː.ˈsɑn ガーサン]「ギャルソン」のように慣例で省略される傾向が多く、インド諸言語では英語の発音重視で借用語が取り入れられているため、綴りにダイアクリティカルマークが含まれる原語の発音と著しく異なる綴りになることが多いです。
ダイアクリティカル付き子音字
主にロマンス諸語由来の借用語を中心に用いられます。
言語によって著しく発音が異なっています。
ティルド
言語によってはティルデやティルと呼称されます。
エン・ティルド【Ñ・ñ】[nj ニ]
セディラ
フランス語でセディーユと呼称される特殊記号です。
シー・セディラ【Ç・ç】[s ス/ʧ チ]
エス・セディラ【Ş・ş , Ș・ș】[ʃ シュ]
ティー・セディラ【Ţ・ţ , Ț・ț】[ʦ ツ]
特殊文字:子音字
過去に英語に存在していた字母も含まれます。
エズ【Ð・ð】[ð ズ]
ディー・バー【Đ・đ】[ʤ ヂ/d ド]
エル・スラッシュ【Ł・ł】[w ゥ]
ソーン【Þ・þ〈TH・Th・th , Y・y〉】[θ ス/ð ズ/j ィ]
ロング・エス【S・ſ・s〈S・s〉】[s ス]
シャープ・エス【ẞ・ß〈SS・ss , SZ・sz〉】[s ス]
ウェン【Ƿ・ƿ〈W・w〉】[w ゥ]
ヨーグ【Ȝ・ȝ , Ʒ・ʒ〈GH・Gh・gh〉】[j ィ/ɡ グ]
オキナ【ʻ】[無音] - アラビア文字アイン《ع》[ʕ ァ]に対応。ハワイ語などポリネシア諸言語では声門閉鎖音[ʔ ッ]。
アポストロフィー【ʼ〈'〉】[無音/j ィ] - アラビア文字ハムザ《ء》[ʔ ッ]やキリル文字軟音符《Ь・ь》[ʲ ィ]に対応。
ダイアクリティカル付き母音字
中国語や日本語に由来する借用語では、ダイアクリティカルマークが省略される例外表記が多いです。
グレーブアクセント
フランス語やイタリア語由来に見られます。
エイ・グレーヴ【À・à】[ɑː アー/æ ア/ə ア]
イー・グレーヴ【È・è】[eɪ エイ/ɪ イ]
アイ・グレーヴ【Ì・ì】[iː イー]
オウ・グレーヴ【Ò・ò】[oʊ オウ]
ユー・グレーヴ【Ù・ù】[uː ウー]
アキュートアクセント
フランス語やスペイン語に由来する地名に見られます。
特にイー・アキュート《É・é》は英語では固有名詞だけでなく一般名詞にも多用されることから実質的な英語ラテン文字27番目の字母になってきているようです。
エイ・アキュート【Á・á】[ɑː アー]
イー・アキュート【É・é】[eɪ エイ/ɪ イ/i イ/ə ア]
アイ・アキュート【Í・í】[iː イー]
オウ・アキュート【Ó・ó】[oʊ オウ]
ユー・アキュート【Ú・ú】[uː ウー]
ワイ・アキュート【Ý・ý】[iː イー]
サーカムフレックスアクセント
フランス語やポルトガル語などに見られます。
日本語のヘボン式ローマ字におけるマクロンの代用表記として訓令式ローマ字のサーカムフレックスが用いられる場合があります。
エイ・サーカムフレックス【Â・â】[ɑː アー/ə ア]
イー・サーカムフレックス【Ê・ê】[ɛ エ/eɪ エイ]
アイ・サーカムフレックス【Î・î】[iː イー]
オウ・サーカムフレックス【Ô・ô】[oʊ オウ]
ユー・サーカムフレックス【Û・û】[uː ウー]
ティルド
ポルトガル語などに見られ、主に鼻母音を示します。
エストニア語では特殊な発音を示します。
エイ・ティルド【Ã・ã】[ɑːn~ɑːŋ アーン]
オウ・ティルド【Õ・õ】[ɜː アー/ɝː アー/ə ア/ɚ アァ]
ダイエレシス
ドイツ語のウムラウトやフランス語のトレマに由来する単語に用いられます。
ドイツ語ウムラウト由来の単語における代替表記はイー《E・e》が後に付く連字〈◌E・◌e〉となっています。
フランス語トレマ由来のものは、母音の区切りあるいは二重母音として発音を示します。
エイ・ダイエレシス【Ä・ä〈AE・Ae・ae〉】[ɛ エ/eɪ エイ]
イー・ダイエレシス【Ë・ë】[ɛ エ/ə ア/-.i イ]
アイ・ダイエレシス【Ï・ï】[ɪ イ]
オウ・ダイエレシス【Ö・ö〈OE・Oe・oe〉】[ɜː アー/ɝː アー/ə ア/ɚ アァ]
ユー・ダイエレシス【Ü・ü〈UE・Ue・ue〉】[juː ユー/jʊ~ju ユ]
ワイ・ダイエレシス【Ÿ・ÿ】[juː ユー/ʊ ウ]
マクロン
ニュージーランドの公用語であるマオリ語では、日本語由来の借用語と異なり、原語を尊重した綴りとして、英語文章でもマクロンがそのまま使用される方針となっています。
エイ・マクロン【Ā・ā〈AA・Aa・aa〉】[ɑː アー]
イー・マクロン【Ē・ē〈EE・Ee・ee〉】[eɪ エイ]
アイ・マクロン【Ī・ī〈II・Ii・ii〉】[iː イー]
オウ・マクロン【Ō・ō〈OH・Oh・oh〉】[oʊ オウ]
ユー・マクロン【Ū・ū】[uː ウー]
その他のダイアクリティカルマーク付き母音字
エイ・リング【Å・å〈AA・Aa・aa〉】[ɔː オー]
特殊文字:母音字
ゲルマン諸語やロマンス諸語のものが借用されます。
合字系は現行正書法では連字に置き換えられる傾向があります。
アッシュ【Æ・æ〈AE・Ae・ae〉】[ɛ エ/iː イー/æ ア]
シュワー【Ə・ǝ】[ə ア/æ ア/ɛ エ]
オー・スラッシュ【Ø・ø】[ɜː アー/ɝː アー/ə ア/ɚ アァ]
オー・ホーン【Ơ・ơ】[ɜː アー/ə ア/ʌ ア]
エゼル【Œ・œ〈OE・Oe・oe〉】[iː イー/ɜː アー/ɝː アー/ə ア/ɚ アァ]
吸着音及び放出音
小惑星229762番グンホムディーマの〈Gǃkúnǁʼhòmdímà〉[ˌɡuːn.hoʊm.ˈdiː.mə グーンホウムディーマ]―コサ語ラテン文字に置き換えた表記は〈Gqkunkxhomdima〉―のように吸着音を示す字母及び放出音を示すアポストロフィー《ʼ》は無音となりますが、吸着音が発音される場合はカ行音[k]となる傾向が多いです。
吸着音を示す子音記号とコサ語やズールー語などに用いられる吸着音を示すラテン字母を併記しています。
デンタル・クリック【ǀ〈C・c〉】[無音]
ポストアルベオラー・クリック【ǃ〈Q・q〉】[無音]
ラテラル・クリック【ǁ〈X・x〉】[無音/k ク]
アルベオラー・クリック【ǂ】[無音]