各メディアにおけるゼットあるいはゼータの字が存続の危機に
ロシア軍のウクライナ侵攻の影響で、ラテン語や英語などにおけるローマ字=ラテン文字最終字母のゼット《Z》及びギリシャ文字第6字母且つギリシャ数字で“7”を意味するゼータ《Ζ》が各メディアで存続の危機を迎えつつある状況です。
ゼットの字がロシア軍の軍事車両などで識別用シンボルとして使用され、ロシア軍のウクライナ侵攻支持のマークとして使用されてきている状況がニュースに流れてから、ゼットの字を使用することの自粛が目立ちつつあるようです。
日本のメディアにおけるゼット/ゼータの字
日本のアニメ・漫画・ゲームなどでは《Z》の字がスーパーヒーロー・スーパーヒロインのシンボルとして多用されてきました。
永井豪先生原作の漫画で、東映アニメ制作によりフジテレビ系列でアニメ化された『マジンガーZ』で主役巨大ロボットの名称に採用され、架空物質・超合金Zに由来するバンダイグループのポピーの“超合金”ブランドのダイキャスト製玩具も大ヒットし、アニソン歌手の水木一郎さんによる主題歌も大ヒットし、サビのラストフレーズは彼の決めゼリフとなりました。
東映制作のテレビ東京系ドラマ『快傑ズバット』では、ストローク付きゼット《Ƶ》がシンボルマークになっていて、タイトルロゴにも含まれています。スーパーヒーローのズバットが悪人たちを懲らしめる内容で、用心棒とのいろいろな勝負が話題になり、主演の俳優・宮内洋さんの代表作となりました。スポンサーのタカトクトイスの“Z合金”ブランドから取り入れたと思われるタイトルになっているようです。
タツノコプロの『タイムボカン』シリーズの一作であるフジテレビ系アニメ『ゼンダマン』では、架空国家ナンダー国出身の男女ペアであるゼンダマン1号・2号がいろいろな時代にタイムスリップして“命のもと”を狙う悪の戦隊・アクダマンを懲らしめる内容で、『快傑ズバット』と同じくスポンサーのタカトクトイスの“Z合金”ブランドから取り入れたと思われるタイトルで、Zの字は“善玉”を意味し、ゼンダマンが人文字でZポーズを取り入れる決めポーズもありました。
サンライズ制作のメーテレ系アニメ『機動戦士Ζガンダム』は、ギリシャ文字ゼータを取り入れたタイトルになっていて、中盤から主役ロボットのモビルスーツ・Ζガンダムが登場し、続編『機動戦士ガンダムΖΖ』では後継機体のΖΖガンダムが登場しました。派生作品『SDガンダム外伝』シリーズでは剣士ゼータガンダムや闘士ダブルゼータが登場しました。
東映アニメ制作のフジテレビ系アニメ『ドラゴンボールZ』は、鳥山明先生による原作漫画『ドラゴンボール』がサイヤ人編に入ってから改題されたタイトルで、主人公たちはƵ戦士と呼称され、巨悪と戦う内容になっています。ストローク付きゼット《Ƶ》の字は“究極”を意味しているもので、
円谷プロ制作の特撮『ウルトラ』シリーズの一作であるテレビ東京系『ウルトラマンZ』ではギリシャ文字の字母名に由来するパワーアップ形態に2段変身するウルトラマンゼットが登場し、第19話でウルトラマンAがゼットの由来が“最後”であることを語り、宇宙規模の戦いを終わらせる意味合いを持たせるものとなっています。英語タイトルの『Ultraman Zett』はドイツ語ツェットの字母名―ドイツ語ラテン文字における最終字母は、エスツェット Eszett《ẞ・ß》―に由来し、中国語タイトルの『泽塔奥特曼 / 澤塔奧特曼 / Zétǎ Àotèmàn』はギリシャ語ゼータに由来するラテン語及びイタリア語の字母名に由来しています。
グループ名では、男性ロックバンドのB'zや女性アイドルユニットのももいろクローバーZ, 男性アイドルユニットのA.B.C-Zがいて、ももいろクローバーZは“最強”を意味しています。いろいろな有名人がZポーズを生み出してきました。
海外の文化などにおけるゼット/ゼータ
何度も映画化されてきたアメリカのヒーロー小説『怪傑ゾロ』の影響で、ラテン文字のゼットの字がヒーローらしさを醸し出す演出で、日本のヒーローものなどに大きな影響を与えました。
海外では〈ZZZ〉で眠っている擬音語の表現を示し、ユニコード絵文字で《💤》と《😴》が採用されました。
アメリカでは1月1日が“Z Day”というZから始まる固有名詞の記念日が制定されています。
ゼットの字が原則的に使用されないラテン文字使用言語
ラテン文字使用言語で《Z》が使用されない言語ではアイスランド語が代表的で、1973年にアイスランド語正書法からZが廃止され、原則的に《S》あるいは連字〈TS〉に置き換えられるようになりました。
ベトナム語のローマ字表記法であるクォックグーでは、北部方言でザ行音に当たる《D》あるいは《R》がZの代わりに用いられ、ダ行音はストローク付きD《Đ・đ》がラテン文字本来のDを示す字母として用いられています。
近年ゼットの使用がベトナム語で認められるようになってからは、本来の借用語表記から英語そのままの綴りに置き換えられるようになり、教育関連で混乱が起こっている状況です。
おわりに
(※R4/4/3更新)
ロシア軍のウクライナ侵攻後に、日本におけるロシアに関するキャラクターがタブー化されつつあったり、ロシア人及びロシアに何らかの形で関わった世界各国・地域の人々がひぼう中傷などで差別される事態が起こるようになったり、戦争に全く関わりのないロシア文化が危機を迎えつつある状況です。
今回の戦争の影響が長引いたら、ローマ字ゼット《Z・z》及びそのルーツであるギリシャ文字ゼータ《Ζ・ζ》を固有名詞など作品・商品に使用することが困難になることから、各言語文化にも大きな影響を持たらすものとなっています。
ゼットポーズをパフォーマンスに使用する日本の有名人も自粛する傾向も目立ちつつある中で、アニソン歌手の水木一郎さんは代表作であるアニメ『マジンガーZ』の同名主題歌に思い入れが深いことから、ロシア軍のウクライナ侵攻とは無関係の古今東西の創作から生まれたゼットの字における“表現の自由”を守るために、同曲の1フレーズから生まれた決めゼリフを使い続ける宣言をしたことが話題になっています。
スイスのチューリッヒ保険では、世界各地の法人会社でチューリッヒの頭文字のゼットの字を使用したロゴマークの見直し検討及びSNSでの使用が自粛されています。
ドイツのバイエルン州とニーダーザクセン州では、ロシア軍支持目的でゼットを使用した場合に禁錮刑にする条例が出されました。
ラトビアではゼット及びブイの字を使用禁止を公布したのですが、ラトビア語ラテン文字正書法の変更は現段階では不明です。
ウクライナではゼットの字の全面禁止が要望されている状況で、各言語のラテン文字正書法から国際音声記号、更にはゼットの字に似た字母を持つ各言語の文字体系に大きな影響が出てきそうです。
ロシアと無関係のゼットあるいはゼータにまつわる各作品が封印作品になる恐れもあり、ウクライナ国内の被害者への配慮で使用禁止となる可能性もありえそうな状況です。
ゼット/ゼータを使用している過去の作品や企業・商品名が“ロシア軍と無関係”であることを伝える動きがあってほしいです。
一日も早く平和が戻ってほしいと祈っております。