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ウイグル語アラビア文字における日本語表記

6月15日はウイグル語の日です。

今回はウイグル語アラビア文字による日本語表記について取り上げます。

注意点

ウイグル語アラビア文字では語頭の母音を示す場合や末子音の次が母音・拗音の場合、担母音記号であるハムザ付きヤーئ》で子音と母音の区切りを示します(例: ンア〈نئا〉, ンヨ〈نئيو〉)。この方式はタイ文字のオー・アーン》やラオ文字のオー・オー》などと共通です。
ラテン文字表記ではンエ〈NʼË・nʼë〉という風に隔音記号ʼ》を使用し、キリル文字表記では硬音符Ъ・ъ》で区切る方式となります(例: ンア〈НЪА・нъа〉, ンヨ〈НЪЁ・нъё〉)。
アラビア文字表記言語では珍しく、ハイフン-》を使用して区切る方法もあります。

二重母音はイェーي》[イ]及びウェーۋ》[ウ]といった半母音字を使用する方式あるいは母音間をハムザئ》で区切る方式があります。

ウイグル語アラビア文字フェー[f]の字形は、本来の字形である上1点付きクヮーフڧ》とアラビア文字使用言語共通のファーف》の2種類があり、ファーは大学書林・刊『現代ウイグル語四週間』やウイグル語版『ウィキペディア』で使用される字形となっています。


ウイグル語アラビア文字では促音《》は子音字の連字で表記されますが、長母音《》は省略される場合があります。
語中の撥音《》は、カ行《كـ》・ガ行《گـ》の前ではンゲーـڭـ》, パ行《پـ》・バ行《بـ》・マ行《مـ》の前ではメーـمـ》, 他はネーـنـ》で示します。

日本語表記用ウイグル語アラビア文字

・ʼ【ئ ، ء : ئـ ؛ ـئـ ؛ ـئ】ア行 - 字母名はハムザ。ハムザ付きヤーの語末形と独立形はウイグル語では使用されない。
・A【ئا ، ا : ـئا ، ـا】ア[a~ɑ]
〘アイ《ئاي》, アイ《ئائى》, アオ《ئائو》, アン《ئان》〙
・I【ئى ، ى : ئىـ ، ىـ ؛ ـئىـ ، ـىـ ؛ ـئى ، ـى】イ[i/ɨ] - アリフ・マクスーラの語頭形と語中形はアラビア語では使用されない。ウイグル語キリル文字では発音や外来語の語源によっては《И・и》と《Ы・ы》の2種で書き分けられる。ウイグル語日本語表記のヒは〈خى〉[χɨ フィ]ではなく〈ھى〉[hi ヒ]となる(例:〈ھىروشىما〉[ヒロシマ]「広島」)。
〘イア《ئىئا》, イイ《ئىئى》, イエ《ئائې》, イン《ئىن》〙
・U【ئۇ ، ۇ : ـئۇ ، ـۇ】ウ[u]
〘ウア《ئۇئا》, ウエ《ئۇئې》, ウン《ئۇن》〙
・Ë【ئې ، ې : ئېـ ، ېـ ؛ ـئېـ ، ـېـ ؛ ـئې ، ـې】エ[e] - 本来の日本語の発音に対応する字。現行ラテン文字ではダイエレシス付きEË・ë》で、現行ラテン文字正書法採用当初はアキュート付きEÉ・é》が使用されていた。現行キリル文字正書法では語頭も常にイェーЕ・е》で表記される。
〘エア《ئېئا》, エイ《ئېي》, エン《ئېن》〙
・E【ئە ، ە : ـئە ، ـە】エ[ɛ/æ] - アラビア文字ハー《ه》と同型の母音字で、独立形と語末形で示される字であることから、ユニコードではAEہ》を使用。キリル文字表記ではアェーӘ・ә》, 旧ラテン文字表記ではシュワーƏ・ə》と表記される字で、三重の〈مىئە〉[ミエ]や愛媛の〈ئەخىمە〉[エフメ]などに見られることからウイグル語キリル文字で《Э・э》と表記される場合の借用語表記に用いられると思われる。
〘エア《ئەئا》, エイ《ئەي》, エン《ئەن》〙
・O【ئو ، و : ـئو ، ـو】オ
〘オア《ئوئا》, オイ《ئوي》, オオイ《ئوئى》, オン《ئون》〙

・K【ك : كـ ؛ ـكـ ؛ ـك】カ行
〘カ《كا》, キ《كى》, ク《كۇ》, ケ《كې》, コ《كو》〙
・G【گ : گـ ؛ ـگـ ؛ ـگ】ガ行
〘ガ《گا》, ギ《گى》, グ《گۇ》, ゲ《گې》, ゴ《گو》〙
・S【س : سـ ؛ ـسـ ؛ ـس】サ行
〘サ《سا》, スィ《سى》, ス《سۇ》, セ《سې》, ソ《سو》〙
・SH【ش : شـ ؛ ـشـ ؛ ـش】シャ行 - キリル文字表記で《Ш・ш》, 旧ラテン文字表記ではピンインに合わせた《X・x》となる。
〘シャ《شا》, シ《شى》, シュ《شۇ》, シェ《شې》, ショ《شو》〙
・Z【ز : ـز】ザ行
〘ザ《زا》, ズィ《زى》, ズ・ヅ《زۇ》, ゼ《زې》, ゾ《زو》〙
・J【ج : جـ ؛ ـجـ ؛ ـج】ジャ行・ヂャ行 - キリル文字表記で《Җ・җ》となる。
〘ジャ《جا》, ジ《جى》, ジュ《جۇ》, ジェ《جې》, ショ《جو》〙
・ZH【ژ : ـژ】(語中の)ジャ行 - キリル文字表記で《Ж・ж》, 旧ラテン文字表記では《Ⱬ・ⱬ》となる。
〘ジャ《ژا》, ジ《ژى》, ジュ《ژۇ》, ジェ《ژې》, ショ《ژو》〙
・T【ت : تـ ؛ ـتـ ؛ ـت】タ行
〘タ《تا》, ティ《تى》, トゥ《تۇ》, テ《تې》, ト《تو》〙
・CH【چ : چـ ؛ ـچـ ؛ ـچ】チャ行 - キリル文字表記で《Ч・ч》, 旧ラテン文字表記ではピンインに合わせた《Q・q》となる。
〘チャ《چا》, チ《چى》, チュ《چۇ》, チェ《چې》, チョ《چو》〙
・TS【تس : تسـ ؛ ـتسـ ؛ ـتس】ツァ行 - キリル文字表記で《Ц・ц》, 旧ラテン文字表記ではピンインに合わせた《C・c》となる。
〘ツァ《تسا》, ツィ《تسى》, ツ《تسۇ》, ツェ《تسې》, ツォ《تسو》〙
・D【د : ـد】ダ行
〘ダ《دا》, ディ《دى》, ドゥ《دۇ》, デ《دې》, ド《دو》〙
・DZ【دز : ـدز】ヅァ行・(語頭の)ザ行 - ウイグル語キリル文字表記で日本語のザ行音が《ДЗ・Дз・дз》で示される場合の翻字。
〘ヅァ《دزا》, ヅィ《دزى》, ヅ《دزۇ》, ヅェ《دزې》, ヅォ《دزو》〙
・N【ن : نـ ؛ ـنـ ؛ ـن】ナ行・ン
〘ナ《نا》, ニ《نى》, ヌ《نۇ》, ネ《نې》, ノ《نو》〙
・X【خ : خـ ؛ ـخـ ؛ ـخ】ハ行[χ] - 日本語のハ行音はハ・ヘ・ホの場合と同音であるヘー・ドーチャッシュミー《ھ》ではなくウイグル語キリル文字ハーХ・х》に合わせてヘーخ》で示される。現行ラテン文字表記ではキリル文字表記と字形の形状が共通の《X・x》だが、旧ラテン文字表記では日本語ローマ字表記と共通の《H・h》となる。
〘ハ《خا》, ヒ《خى》, フ《خۇ》, ヘ《نې》, ノ《نو》〙
・H【ھ : ھـ ؛ ـھـ ؛ ـھ】ヒャ行[h/hj] - 日本語のハ行音でヒの場合は[çi]に近い[hi]と発音する《ھى》で示される。この場合はキリル文字表記で《Һ・һ》, 旧ラテン文字表記では《Ⱨ・ⱨ》となる。
〘ヒャ《ھيا》, ヒ《ھى》, ヒュ《ھيۇ》, ヒェ《ھيې》, ヒョ《ھيو》〙
・F【ڧ : ڧـ ؛ ـڧـ ؛ ـڧ】ファ行 - ウイグル語アラビア文字本来の字形。
〘ファ《ڧا》, フィ《ڧى》, フ《ڧۇ》, フェ《ڧې》, フォ《ڧو》〙
・F【ف : فـ ؛ ـفـ ؛ ـف】ファ行 - アラビア文字使用言語共通字形。
〘ファ《فا》, フィ《فى》, フ《فۇ》, フェ《فې》, フォ《فو》〙
・M【م : مـ ؛ ـمـ ؛ ـم】マ行
〘マ《ما》, ミ《مى》, ム《مۇ》, メ《مې》, モ《مو》〙
・Y【ي : يـ ؛ ـيـ ؛ ـي】ヤ行・拗音 - キリル文字表記でヤは《Я・я》, ユは《Ю・ю》, イェは《ЙЕ・Йе・йе ; ЬЕ・ье》, ヨは《Ё・ё》。
〘ヤ《يا》, イィ《يى》, ユ《يۇ》, イェ《يې》, ヨ《يو》〙
・R【ر : ـر】ラ行
〘ラ《را》, リ《رى》, ル《رۇ》, レ《رې》, ロ《رو》〙
・L【ل : لـ ؛ ـلـ ؛ ـل】ラ行 - 外国語由来の固有名詞に用いる。
〘ラ《لا》, リ《لى》, ル《لۇ》, レ《لې》, ロ《لو》〙
・W【ۋ : ـۋ】ワ行・合拗音・ヴァ行[w]
〘ワ・ヴァ《ۋا》, ウィ・ヰ・ヴィ《ۋى》, ウゥ・ヴ《ۋۇ》, ウェ・ヱ・ヴェ《ۋې》, ウォ・ヲ・ヴォ《ۋو》〙
・NG【ڭ : ڭـ ؛ ـڭـ ؛ ـڭ】鼻濁音ガ行[ŋ] - キリル文字表記では原則的に《Ң・ң》だが、借用語表記の場合は〈НК・Нк・нк ; НГ・Нг・нг〉という風に置き換えられる場合がある。
〘ンカ《ڭكا》, ンガ《ڭگا》〙