各言語のラテン文字正書法に似せた日本語ローマ字表記5
5/18のことばの日及び5/20のローマ字の日にちなんで、オランダ語ラテン文字正書法による日本語ローマ字表記です。
オランダ語ラテン文字は江戸時代の蘭学研究関連などで用いられたこともあり、当時の日本語に似た音声を示す工夫がなされました。
名前の読み間違いを防ぐためにドイツ語のラテン文字に合わせた日本語翻字案を考えてみました。
現代オランダ語風日本語ローマ字
オランダ語の現行正書法に合わせた日本語ローマ字翻字です。
長音表記はオオ〈OO〉[oː オー]などのように母音字の連字で示します。但しイ段の〈IE〉とウ段の〈OE〉は例外です。
エイの〈IJ・ij〉は合字となっている《IJ・ij》で示されるように、2番目のイェー《J》は小文字にしないルールになっています。
ガ行のヘー《G》の本来の音は摩擦音[ɣ]で、カタカナによるオランダ語翻字では同じ摩擦音ガ行を持つスペイン語・現代ギリシャ語・アラビア語翻字と異なり“ハ行”の字母で表記するルールですが、各言語の[ɣ]のカタカナ翻字に合わせてガ行音の字母を使用します。
ヴァ行のフェー《V》の本来の音は英語と同じ[v]で、カタカナによるオランダ語翻字では無声化した“ファ行”の字母で表記する傾向があります。
ジャ行は〈DZJ〉で示すのですが、オランダ語ラテン文字によるアラビア語翻字では〈DSJ〉と表記される場合があります。
【A】ア/【AI】アイ/【AUW】アウ/【I】イ/【IEUW】イウ/
【IË】イエ/【OE】ウ/【OEI】ウイ/【E】エ/【IJ】エイ/
【EEUW】エイウ/【EW】エウ/【O】オ/【OI】オイ/【OË】オエ.
【AA】アー/【IE】イー/【OEH】ウー/【EE】エー/
【OO】オー・オオ・オウ.
【K】カ行/【KJ】キャ行/【S】サ行/【SJ】シャ行/【T】タ行/
【TSJ】チャ行/【TS】ツァ行/【N】ナ行・ン/【NJ】ニャ行/
【H】ハ行/【HJ】ヒャ行/【F】ファ行/【M】マ行/【MJ】ミャ行/
【J】ヤ行/【R】ラ行/【RJ】リャ行/【W】ワ行.
【G】ガ行/【GJ】ギャ行/【Z】ザ行/【DZJ】ジャ行・ヂャ行/
【ZJ】ジャ行(語中)/【D】ダ行/【DZ】ヅァ行/【B】バ行/
【BJ】ビャ行/【P】パ行/【PJ】ピャ行/【V】ヴァ行.
🔷オランダ語の発音に合わせた日本語音節の綴りです。
【KAA】カー/【KIE】キー/【KOE】ク・クー/【KIJ】ケイ/
【KEE】ケー/【KOO】コー・コウ/【KOË】コエ.
【KJA】キャ/【KJOE】キュ/【KJO】キョ/【KJOO】キョウ.
【SJI】シ/【SJOE】シュ/【DZJI】ジ・ヂ/【DZJA】ジャ/
【ZOE】ズ・ヅ/【TSJI】チ/【TSJOE】チュ/【TSOE】ツ/
【TIE】ティー/【TJOE】テュ/【TOE】トゥ/【DIE】ディー/
【DJOE】デュ/【DOE】ドゥ/【NJOE】ニュ/【HIE】ヒー/
【FOE】フ/【FJOE】フュ/【JA】ヤ/【JOE】ユ/
【JO】ヨ/【WA】ワ/【VOE】ヴ.
【CKA】ッカ/【SSJI】ッシ/【DDZJI】ッジ/【SSOE】ッス/
【TTSJI】ッチ/【TTSOE】ッツ/【PPOE】ップ/
【NKOE】ンク/【NGOE】ング/【NDZJA】ンジャ/
【NTSJA】ンチャ/【NNJA】ンニャ/【MBOE】ンブ/
【MPOE】ンプ/【MMOE】ンム.
江戸時代の蘭学式ローマ字の方式
江戸時代の蘭学ではオランダ語式ローマ字表記でいろいろな表記が見られます。
主に現代日本語のローマ字や現行オランダ語と異なるものを取り上げます。
国会図書館デジタルライブラリー内『文明源流叢書. 第1巻』(国書刊行会)で確認できます。
🔴『蘭学階梯』著者:大槻玄沢(1788年)
【Œ=OE・œ=oe】ウ/【Y・y=ij】エイ/
【ſ=ʃ・s】サ行小文字/【∂】ダ行小文字筆記体/
【F】ハ行/【JA・IA】ヤ/【U・Ú】ユ/
【JO・IO】ヨ/【L】ラ行.
🔴『蘭学逕』著者:藤林普山(1810年)
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00011060
【U】ウ/【Y】エイ/【F】ハ行/【V】ハ行/
【DS】ヅァ行=ズァ行.
※“定的識字”と呼称される錬金術記号などに由来する特殊記号もいくつか見られます。
【🜍】硫黄/【⌛】一時/【Ʒ・ʒ】一銭/【🝰】一日一夜/【🝲】五分/
【🜔】塩/【🝪】蒸露缶・蓋/【🜿】酒石/【🜘】石塩/【🝔】石鹸/
【🝎】天石/【🝕】尿/【🝑】灰/【℈】八銭/【ẞ・ß】半/
【🜆】腐金の水/【℞】薬方/【🝯】夜.