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ヒンディー語の書写用文字
1月10日は国際ヒンディー語の日です。
ヒンディー語ではデーヴァナーガリー文字の他に草書体のカイティナーガリー文字と商人の間で用いられるマハージャニー文字が用いられる場合があります。
マハージャニー文字は字母が統一されていないことから、1つの発音に複数の子音字があったり、1つの字母に複数の発音があったり、ランダー文字のように母音記号を使用しない方式や従来のインド系文字と同じく母音記号を使用する方式があります。
カイティナーガリー文字はビハール語のカイティー文字とやや異なるのですが、ユニコードではカイティー文字と統合されています。
カイティー文字はデーヴァナーガリー文字と対になっています。
カイティー文字はビハール語ボージュプリー方言から派生したフィジー・ヒンディー語の文字としてデーヴァナーガリー文字と共に使用されてきたのですが、現在のフィジー・ヒンディー語は英語の影響を受けたラテン文字正書法が主に使用されます。
マハージャニー文字は、ユニコードに採用されたものでは三省堂・刊『言語学大辞典(別巻)世界文字辞典』の文字表に記載されている母音記号が採用されていないため、母音記号が省略される表記や子音字と母音字との組み合わせで音節を示す表記となります。
カイティー文字とマハージャニー文字
マハージャニー文字は標準化されていないことから推測表記で示します。
外来語表記用のチャンドラ・オー《ऑ》に対応する字母は存在しないため、アー《आ》に対応する字母で代用表記します。
子音字単独では語頭と語中では曖昧母音ア[ə]あるいは[ʌ]を含み、語末では子音のみの発音となります。
母音字
A【𑂃 / 𑅐《अ》】ア[ə, ʌ]
Ā【𑂄 / 𑅐𑅐《आ》】アー[ɑː]
I【𑂅 / 𑅑《इ》】イ[i]
Ī【𑂆 / 𑅑《ई》】イー[iː]
U【𑂇 / 𑅒《उ》】ウ[u]
Ū【𑂈 / 𑅒《ऊ》】ウー[uː]
Ṛ【𑂩𑂱 / 𑅭𑅒《ऋ》】リ[ri] - マハージャニー文字では“RAとUの連字”或いはRAのみで示す。
E【𑂉 / 𑅓《ए》】エー[eː]
AI【𑂊 / 𑅓 , 𑅑《ऐ》】アェー[ɛː]
Ô【𑂄 / 𑅐《ऑ》】オ[ɔ]
O【𑂋 / 𑅔《ओ》】オー[oː]
AU【𑂌 / 𑅔 , 𑅒《औ》】アォー[ɔː]
子音字
K【𑂍 / 𑅕《क》】カ[k]
Q【𑂍𑂺 / 𑅕𑅳《क़》】クヮ[q カ]
KH【𑂎 / 𑅖《ख》】カハ[kʰ カ]
X【𑂎𑂺 / 𑅖𑅳《ख़》】ハ[x ハ]
G【𑂏 / 𑅗《ग》】ガ[ɡ]
Ǧ【𑂏𑂺 / 𑅗𑅳《ग़》】ガ[ɣ]
GH【𑂐 / 𑅘《घ》】ガハ[ɡʰ ガ]
Ṅ【𑂑 / 𑅪𑅳, 𑅧《ङ》】ンガ[ŋ ン] - マハージャニー文字では“ヌクタ付きBA”のような字形が見られる。
C【𑂒 / 𑅙《च》】チャ[ʧ]
CH【𑂓 / 𑅚《छ》】チャハ[ʧʰ チャ]
J【𑂔 / 𑅛《ज》】ジャ[ʤ ヂャ]
Z【𑂔𑂺 / 𑅛𑅳《ज़》】ザ[z]
JH【𑂕 / 𑅜《झ》】ジャハ[ʤʰ ヂャ]
Ñ【𑂖 / 𑅝, 𑅧《ञ》】ニャ[ɲ ン]
Ṭ【𑂗 / 𑅞《ट》】タ[ʈ]
ṬH【𑂘 / 𑅟《ठ》】タハ[ʈʰ タ]
Ḍ【𑂙 / 𑅠《ड》】ダ[ɖ]
Ṛ【𑂚 / 𑅲《ड़》】ラ[ɽ]
ḌH【𑂛 / 𑅡《ढ》】ダハ[ɖʰ ダ]
ṚH【𑂜 / 𑅡𑅳《ढ़》】ラハ[ɽʰ]
N【𑂝 / 𑅢《ण》】ナ[ɳ]
T【𑂞 / 𑅣《त》】タ[t̪]
TH【𑂟 / 𑅤《थ》】タハ[t̪ʰ タ]
D【𑂠 / 𑅥《ध》】ダ[d̪]
DH【𑂡 / 𑅦《ध》】ダハ[d̪ʰ ダ]
N【𑂢 / 𑅧《न》】ナ[n]
P【𑂣 / 𑅨《प》】パ[p]
PH【𑂤 / 𑅩《फ》】パハ[pʰ パ]
F【𑂤𑂺 / 𑅩𑅳《फ़》】ファ[f]
B【𑂥 / 𑅪《ब》】バ[b]
BH【𑂦 / 𑅫《भ》】バハ[bʰ バ]
M【𑂧 / 𑅬《म》】マ[m]
Y【𑂨 / 𑅛《य》】ヤ[j ヤ/-e エ]
R【𑂩 / 𑅭《र》】ラ[r]
L【𑂪 / 𑅮《ल》】ラ[l]
Ḷ【𑂪𑂺 / 𑅮𑅳《ळ》】ラ[ɭ] - ヒンディー語では使用されない字。
V【𑂫 / 𑅯《व》】ヴァ[v ヴァ/w ワ/-o オ]
Ś【𑂬 / 𑅰𑅳《श》】シャ[ʃ シャ] - マハージャニー文字では本来、ヌクタ記号が付加されない。
Ṣ【𑂭 / 𑅖𑅳《ष》】シャハ[ʃ シャ/-ʂ- シュ]
S【𑂮 / 𑅰《स》】サ[s]
H【𑂯 / 𑅱《ह》】ハ[h]
カイティー文字による日本語音節表記
ヒンディー語デーヴァナーガリー文字による日本語翻字を置き換えたものです。
語末のキは本来長音の[キー]を示す〈𑂍𑂲〉, 語末のクは本来長音の[クー]を示す〈𑂍𑂴〉のように短音であっても長音で示すルールとなっています。
【𑂃・𑂅・𑂇・𑂉・𑂋】ア・イ・ウ・エ・オ
【𑂍𑂰・𑂍𑂱・𑂍𑂳・𑂍𑂵・𑂍𑂷】カ・キ・ク・ケ・コ
【𑂏𑂰・𑂏𑂱・𑂏𑂳・𑂏𑂵・𑂏𑂷】ガ・ギ・グ・ゲ・ゴ
【𑂮𑂰・𑂬𑂱・𑂬𑂳・𑂬𑂵・𑂬𑂷】サ・シ・ス・セ・ソ
【𑂔𑂺𑂰・𑂔𑂱・𑂔𑂺𑂳・𑂔𑂺𑂵・𑂔𑂺𑂷】ザ・ジ・ズ・ゼ・ゾ
【𑂞𑂰・𑂒𑂱・𑂞𑂹𑂮𑂳・𑂞𑂵・𑂞𑂷】タ・チ・ツ・テ・ト
【𑂠𑂰・𑂔𑂱・𑂔𑂺𑂳・𑂠𑂵・𑂠𑂷】ダ・ヂ・ヅ・デド
【𑂢𑂰・𑂢𑂱・𑂢𑂳・𑂢𑂵・𑂢𑂷・𑂢𑂹】ナ・ニ・ヌ・ネ・ノ・ン
【𑂯𑂰・𑂯𑂱・𑂤𑂺𑂳・𑂯𑂵・𑂯𑂷】ハ・ヒ・フ・ヘ・ホ
【𑂥𑂰・𑂥𑂱・𑂥𑂳・𑂥𑂵・𑂥𑂷】バ・ビ・ブ・ベ・ボ
【𑂣𑂰・𑂣𑂱・𑂣𑂳・𑂣𑂵・𑂣𑂷】パ・ピ・プ・ペ・ポ
【𑂧𑂰・𑂧𑂱・𑂦𑂳・𑂦𑂵・𑂦𑂷】マ・ミ・ム・メ・モ
【𑂨𑂰・𑂨𑂱・𑂨𑂳・𑂨𑂵・𑂨𑂷】ヤ・イィ・ユ・イェ・ヨ
【𑂪𑂰・𑂪𑂱・𑂪𑂳・𑂪𑂵・𑂪𑂷】ラ・リ・ル・レ・ロ
【𑂫𑂰・𑂫𑂱・𑂫𑂳・𑂫𑂵・𑂫𑂷】ワ/ヴァ・ヰ[ウィ]/ヴィ・ウゥ/ヴ・ヱ[ウェ]/ヴェ・ヲ[ウォ]/ヴォ
【𑂍𑂹𑂨𑂰・𑂍𑂹𑂨𑂳・𑂍𑂹𑂨𑂷】キャ・キュ・キョ
【𑂍𑂹𑂍𑂰・𑂮𑂹𑂮𑂰・𑂬𑂹𑂬𑂰・𑂞𑂹𑂞𑂰】ッカ・ッサ・ッシャ・ッタ
【𑂒𑂹𑂒𑂰・𑂞𑂹𑂞𑂹𑂮𑂳・𑂣𑂹𑂣𑂰・𑂤𑂺𑂹𑂤𑂺𑂳】ッチャ・ッツ・ッパ・ッフ
【𑂃𑂁𑂍𑂰・𑂃𑂁𑂏𑂰】アンカ・アンガ
マハージャニー文字表記改良案
マハージャニー文字は複数の読みが存在する母音字があったり、存在しない子音字があることから、個人的な改良案を考えてみました。
Ī【𑅑𑅑《ई》】イー[iː] - Iの連字。
Ū【𑅒𑅒《ऊ》】ウー[uː] - Uの連字。
Æ【𑅓𑅳《ऍ》】アェ[æ] - Eにヌクタ記号を付加。
AI【𑅐𑅑《ऐ》】アェー[ɛː] - AとIの連字。
Ô【𑅔𑅳《ऑ》】アォ[ɔ] - Oにヌクタ記号を付加。
AU【𑅐𑅒《औ》】アォー[ɔː] - AとUの連字。
Y【𑅝𑅳《य》】ヤ[j] - ラオ文字ヨー・ヤー《ຢ》[j]がニョー・ニュン《ຍ》[ɲ]から派生したことにちなんで、NYAにヌクタ記号を付加。