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ΗとΕ~広いエと狭いエ~
1月23日はEメールの日で、ラテン文字Eのルーツであるギリシャ文字Ε関連として、前回のΩとΟに引き続き、ギリシャ文字のΗとΕを取り上げます。
ラテン文字のエイチ《H・h》と同じセム系文字ヘートをルーツとするギリシャ文字のイータ《Η・η》は古典ギリシャ語では広いエー[ɛː]音だったのですが、現代ギリシャ語ではイオタ《Ι・ι》と同じイ[i]音に変わりました。
狭いエ[e]音を表すエプシロン《Ε・ε》は発音はほぼ現在も同じです。
現代ギリシャ語で“電気の”を意味する〈Ηλεκτρονικό〉[i.lek.tro.ni.ˈko イレクトロニコ]と同源の英語〈Electoronic〉のアメリカ発音[ˌiː.lɛk.ˈtɹɑn.ɪk イーレクトラニック]又は[ɪ.ˌlɛk.ˈtɹɑn.ɪk イレクトラニック]と母音がほぼ共通となっています。
イータとエプシロンに対応する各文字体系の字母
イータはコプト文字やキリル文字などでは母音字、ラテン文字やゴート文字などでは子音字に分かれました。
ラテン文字《H》ではロマンス諸語ではルーマニア語などの例外を除いて無音となりましたが、フランス語では無声と有声の厳格な区別がなされています。
キリル文字《И》はベラルーシ語を除いて[i]音およびそれに近い発音を示しています。
ドイツ語やオランダ語などゲルマン諸語及びイタリア語などロマンス諸語のイー《E》は、短母音が広いエ[ɛ]音で長母音が狭いエー[eː]となっている傾向で、英語やフランス語では語末が無音になったことで、英語では〈母音+子音+E〉で長母音あるいは二重子音を示す用法が生まれました。
【𐤄 / 𐤇】フェニキア、ポエニ - 後期ポエニ文字ではラテン文字の影響を受けて、ヘーがエ[e]を表す母音字となった。
【𐌇 / 𐌄】古代ギリシャ、エトルリア
【Η・η / Ε・ε・ϵ】ギリシャ
【𐊧 / 𐊤】カリア
【Ⲏ・ⲏ / Ⲉ・ⲉ】コプト、ヌビア
【𐌷 / 𐌴】ゴート
【H・h / E・e】ラテン
【H・h / E・e, Ɛ・ɛ】エウェ
【И・и / Є・є】古代教会スラブ:キリル文字
【И・и / Е・е】ブルガリア
【И・и / Е・е, Э・э】ロシア - 硬母音字E《Э》が追加された。
【И・и / Е・е, Є・є】ウクライナ - 古代教会スラブ語本来のIE《Є》が軟母音字イェ[je]を示すために復活した。
【Й・й / Е・е, Э・э】ベラルーシ - I《И》が単独で母音字としては用いられない。
【И・и, Һ・һ / Е・е, Э・э】タタール、カザフ - ラテン小文字H由来のSHHA《Һ》が追加された。
【Է・է / Ե・ե】アルメニア - 現代語では共に広いエ[ɛ]だが、後者は語頭ではイェ[jɛ]を示す。
【Ⴡ・ⴡ / Ⴄ・ⴄ】ジョージア:フツリ
【Ჱ・ჱ / Ე・ე】ジョージア:ムヘドルリ
【𐔶 / 𐔴】アグバン - 前者は長音エー, 後者は短音エ。
【Ⰺ・ⰺ, Ⰹ・ⰹ / Ⰵ・ⰵ】古代教会スラブ:グラゴル文字
【ܐܶ・ܐܷ / ܐܺ・ܐܻ】シリア - イータ大文字《Η》に由来する母音記号“ハバーサー”はイ[i], エプシロンのアンシャル体《ϵ》に由来する母音記号“ルバーサー”は広いエ[ɛ]をそれぞれ示します。
各文字体系における広いエ[ɛ]及びアェ[æ]と狭いエ[e]の翻字
東南アジアのインド系文字やハングルでは、広いエ[ɛ]は英語の短音ア《A》[æ]に用いられる傾向にあります。
※インド系文字の母音字に付加されていない形式の母音記号合成は便宜上、Aを基字とした仮想の合成表記で示しています。
【E・e, AIR・air ; A・a / AI・ai, AY・ay, A◌E・a◌e】英
【E・e ; Ä・ä / E・e】ドイツ
【E・e / Ê・ê】ベトナム
【È・è, Ê・ê / É・é】フランス
【Ɛ・ɛ / E・e】アカン、エウェ
【Ε・ε / Ε・ε ; ΕΫ・Εϋ・εϋ】ギリシャ
【𐌰𐌹 / 𐌴】ゴート
【Е・е / Е・е ; ЕЙ・Ей・ей】ブルガリア、ウクライナ
【Е・е / Е・е ; ЕЈ・Еј・еј】ブルガリア、ウクライナ
【Э・э, Е・е / Э・э, Е・е ; ЕЙ・Ей・ей】ロシア、ベラルーシ
【Є・є / Є・є】古代教会スラブ
【Է・է, Ե・ե / Է・է, Ե・ե ; ԷՅ・Էյ・էյ, ԵՅ・Եյ・եյ】アルメニア
【Ე・ე・Ⴄ・ⴄ / Ე・ე・Ⴄ・ⴄ ; ᲔᲘ・ეი・ႤႨ・Ⴄⴈ・ⴄⴈ】ジョージア
【Ꭱ / Ꭱ】チェロキー
【איי / א・אה】ヘブライ
【איי / ע】イディッシュ
【إ・إي・ي / إ・إي・ي】アラビア
【اي・ي / اي・ي】シンド、ジャウィ
【ائ・ئ / ائ・ئ】南アゼルバイジャン
【ای・ی / اه・ا・ه】ペルシア
【اے・یـ・ـیـ・ے / اے・یـ・ـیـ・ے】ウルドゥー
【ئې・ې / ئې・ې】ウイグル
【ئێ・ێ / ئە・ە ; ئێ・ێ】ソラニー
【އެ / އޭ ; އެ】ディベヒ
【ܐ・ܐܝ / ܐ・ܐܝ】アッシリア現代アラム
【ए・अे ; ऐ・अै / ए・अे】ヒンディー、サンスクリット
【ए・अे ; अॅ / ए・अे】マラーティー
【এ・অে / এ・অে】アッサム
【এ・অে ; অ্যা / এ・অে】ベンガル
【এ・অে ; অ্যা / এ・অে ; এই・অেই】ビシュヌプリヤ
【ਐ / ਐ ; ਏ・ਅੇ】パンジャブ
【ཨེ་・ཨེ། ; ཨཻ་・ཨཻ། / ཨེ་・ཨེ།】チベット
【ཨེ་・ཨེ། / ཨེ་・ཨེ།】ゾンカ
【ꯀꯦ / ꯀꯦ】マニプーリ
【ઍ, એ / એ】グジャラート
【ଏ・ଅେ / ଏ・ଅେ】オリヤー
【ᱮ / ᱮ】サンタル
【எ・அெ / எ・அெ】タミル
【ఎ・అె / ఎ・అె】テルグ
【ಎ・ಅೆ / ಎ・ಅೆ】カンナダ
【എ・അെ / എ・അെ ; എയ്・അെയ്】マラヤラム
【ඇ・ඈ / එ・අෙ ; ඒ・අේ】シンハラ
【အဲ / အေ ; အက်】ビルマ
【ဢႄ / ဢေ ; ဢေး】シャン
【𑄃𑄳𑄃 / 𑄆・𑄃𑄬】チャクマ - 狭いエ段は、母音字か母音記号付きAのいずれかが用いられる。
【អេ ; អែ / អ៊ី】クメール
【เอ็-, เอ ; แอ / เอ็-, เอ】タイ
【ເອັ-, ແອ / ເອັ-, ເອ】ラオ
【에 ; 애 / 에, 에이】韓国
【エ / エ ; エー・エイ】日本
【አ / ኤ ; ኤይ】アムハラ
【ⵉ / ⵉ】アマジグ
【ꗡ / ꔀ】ヴァイ
【𞤉・𞤫 / 𞤉・𞤫】フラニ
英語や現代ギリシャ語の綴りの影響で《E》がイ段に変わるもの
ギリシャ文字EPSILON《Ε・ε》の字母名が日本語でエプシロンから本来の英語音と異なる〈イプシロン〉に変化したように、英語の影響でラテン文字《E》がイ段[i]系の発音に変わった借用語表記に用いられる言語がインド系文字などで目立っています。
日本語の絵文字からの借用語〈Emoji〉では、ラテン文字イー《E》に電子メールの〈E-mail〉などの関連から“イーモジ”と解釈される影響もあるようです。
単独のEの綴りで、長音イーになった場合で綴りが変わるものは《Ē》で示します。
【E・HE《Η・η》】ギリシャ - 現代英語音では現代ギリシャ語のイに近いイー[iː]。
【E《إي》】アラビア - 正則アラビア語では本来、エ段が存在しない発音。
【E《ای》】ペルシア
【E《ٸی》】ソラニー
【E《इ・अि》】ヒンディー、ネパール、マラーティー、ビハール
【E《ই・অি》】ベンガル、アッサム
【E《ꯏ・ꯑꯤ》】マニプーリ
【E《ഇ・അി》】マラヤラム
【E《အီ》】ビルマ
【E《อิ》; Ē《อี》】タイ
【E《이》】韓国
【E《イ》】日本 - Eveが〈イブ〉のように短音化した借用語もある。固有名詞は各言語本来のローマ字表記に基づきエ段となる。
【E《ኢ》】ティグリニャ