新旧ウズベク語アラビア文字について
10月21日はウズベキスタンでウズベク語の日です。
ウズベク語アラビア文字は20世紀前半に生まれたヤンギ・イムロと現行の南ウズベク語正書法の2つが各言語版ウィキペディアで知られている表記です。
ヤンギ・イムロは母音を厳密に表記でき、ウイグル語など中央アジアのチュルク諸語における現行アラビア文字正書法に大きな影響を与えました
ウズベク語のアラビア文字
ヤンギ・イムロは後継であるウイグル語アラビア文字と同じく、担母音記号《ئ》でア段を表します。
中東の南ウズベク語の現行正書法ではペルシア語やパシュトー語など近隣言語に合わせて、語頭にアリフ《ا》を配置してア段を示す方式や子音字の語頭・語中の場合はア段として発音する各種インド諸言語の文字体系に近い方式、アラビア・ペルシア借用語表記用字母を導入した伝統的表記に変容しています。
アラビア文字表記は、新旧正書法でユニコードのアラビア字母が異なるものがあるので、注意が必要です。
母音字と担母音記号
A/А【《ئە・ە》―🈟《ا・ه》】[a~æ ア] - ヤンギ・イムロではAE《ە》, 新正書法では語末の場合HEH《ه》が用いられる。
I/И【《ئى・ى》―🈟《ای・ی》】[i イ/ɨ ゥイ] - ヤンギ・イムロではアリフ・マクスーラ《ىـ・ـىـ・ـى》, 新正書法ではペルシア語YEH《یـ・ـیـ・ـی》が用いられる。
U/У【《ئۇ・ۇ》―🈟《او・و》】[u ウ]
E/ЭまたはЕ【《ئې・ې》―🈟《اې・ې》】[e エ]
O/О【《ئا・ا》―🈟《آ・ا》】[ɒ~ɔ オ] - アリフは多くのアラビア文字使用言語における“読みの母”としてはア段となるが、ウズベク語では新旧共にタジク語アラビア文字と同じくオ段となる。
Oʻ・ oʻ/Ў・ў【《ئو・و》―🈟《اۉ・ۉ》】[o オ] - 新旧正書法共に日本語のオ段[o]はアリフ《ا》で表すのがルール。
ʼ/Ъ【《ئ・ء》―🈟《ء・أ・ئ・ؤ》】[ʔ ッ/無音] - ウズベク語ハムザ HAMZA《ء》は末子音と次に来る母音あるいはヤ行音の区切りに用いられる。
ʼ/Ъ【《ئ・ء》―🈟《ع》】[-ʔ ッ/ʔ- ア行] - 南ウズベク語ではAIN《عـ・ـعـ・ـع》は主にアラビア語・ペルシア語表記に用いられ、ハワイ語からの借用語で逆カンマ《ʻ》を意味する〈ʻOkina / Ъокина〉[オキナ]はヤンギ・イムロでは〈ئاكىنە〉, 新正書法では〈عاکینه〉と表記される。
半母音字
二重母音の2番目にも用いられます。
Y/Й【《ي》―🈟《ی》】[j ィ/i イ] - ヤンギ・イムロではアラビア語YEH《يـ・ـيـ・ـي》, 新正書法ではペルシア語YEH《یـ・ـیـ・ـی》が用いられる。英語ラテン文字など語末の母音字ワイ《Y・y》を含む固有名詞の翻字では語末の母音字としても用いられる。
YA/Я【《يە》―🈟《ي・يه》】[ja~jæ ヤ] - ヤンギ・イムロでは《يـ・ـيـ・ـيه》, 新正書法では《یە・ـیە・ـیە》。
YI/ЙИ【《يى》―🈟《یی》】[ji イィ/jɨ ユィ] - ヤンギ・イムロでは《يىـ・ـيىـ・ـيى》, 新正書法では《ییـ・ـییـ・ـیی》。
YU/Ю【《يۇ》―🈟《یو》】[ju ユ] - ヤンギ・イムロでは《يۇ・ـيۇ・ـيۇ》, 新正書法では《یو・ـیو・ـیو》。
YE/Е・ЙЕ・ЬЕ【《يې》―🈟《یې》】[je イェ] - ヤンギ・イムロでは《يېـ・ـيېـ・ـيې》, 新正書法では《یېـ・ـیېـ・ـیې》。
YO/Ё【《يا》―🈟《یا》】[jɒ~jɔ ヨ]
YOʻ/ЙЎ・ЬЎ【《ئو・و》―🈟《اۉ・ۉ》】[jo ヨ] - ヤンギ・イムロでは《يو・ـيو・ـيو》, 新正書法では《یۉ・ـیۉ・ـیۉ》。
U/У【《ۋ》―🈟《ۋ》】[w ゥ]
W・w/Ԝ・ԝ【《ۉ》―🈟《و》】[w ゥ] - 英語などの固有名詞において、ヴァ行音[v]のWAW《ۋ》との区別を明確化するための表記に用いられる俗用表記。ヤンギ・イムロ制定当時のヴァ行音[v]・ワ行音[w]の字形は共にキルギス語YU《ۉ》の字形になっている解説が見られる。
子音字
K/К【《ك》―🈟《ک》】[k ク] - ヤンギ・イムロではアラビア語やウイグル語と同じくカーフ KAF《كـ・ـكـ・ـك》, 新正書法ではペルシア語など中東の諸言語に合わせてケーヘー KEHEH《کـ・ـکـ・ـک》が用いられる。
Q/Қ・қ【ق】[q ク]
G/Г【گ】[ɡ グ]
NG/НГ【《ڭ》―🈟《نگ》】[ŋ ン/ŋɡ ング] - ヤンギ・イムロではウイグル語と同じくンゲー NG《ڭـ・ـڭـ・ـڭ》, 新正書法ではラテン・キリル両文字体系に合わせてヌーンとガーフの連字《نگـ・ـنگـ・ـنگ》が用いられる。
Gʻ・gʻ/Ғ・ғ【غ】[ɣ グ/ʁ ル]
S/С【س】[s ス]
S/С【《س》―🈟《ث》】[s ス] - 南ウズベク語におけるTH[θ ス]音を表す借用語専用字。但し、英語THの場合はTEH《ت》[t ト]が用いられる場合がある。
SまたはC/СまたはЦ【《س》―🈟《ص》】[s ス] - アラビア文字SAD《ص》[ᵴ ス]と同字源であるツァディー《ץ・צ》[ʦ ツ]が現代ヘブライ語及びイディッシュ語においてキリル文字TSE《Ц・ц》[ʦ ツ]に対応することから、ウズベク語キリル文字表記でツァ行音がサ行音[s]に変化した借用語を示す場合などに用いられる。なおウズベク語ラテン文字ツェー《C・c》[s ス]は英語の固有名詞の場合にカ行音[k]で発音されることから、英語ラテン文字からの翻字でウズベク語キリル文字エス《С・с》もカ行音[k]で発音される場合がある。
SH/Ш【ش】[ʃ シュ]
Z/З【ز】[z ズ]
Z/З【《ز》―🈟《ذ》】[z ズ] - 南ウズベク語における有声TH[ð ズ]音を表す借用語専用字。但し、英語THの場合はDAL《د》[d ド]が用いられる場合がある。
Z/З【《ز》―🈟《ض》】[z ズ] - 南ウズベク語における借用語専用字。
Z/З【《ز》―🈟《ظ》】[z ズ] - 南ウズベク語における借用語専用字。
J/Ж【ژ】[ʒ ジュ] - フランス語やスラブ諸語などの借用語では常にJEH《ژ》に用いる。
JまたはDJ/ЖまたはДЖ【ج】[ʤ ヂ] - 固有語における発音は《J・j / Ж・ж》[ʤ ヂ]で、英語などの借用語でキリル文字表記ではデーとジェーの連字〈ДЖ・Дж・дж〉になる場合は常にJEEM《ج》を用いる。
DZ/ДЗ【دز】[ʣ ヅ] - 日本語に由来する借用語でザ行音を示す。
T/Т【ت】[t ト]
T/Т【《ت》―🈟《ط》】[t ト] - 南ウズベク語における借用語専用字。
CH/Ч【چ】[ʧ チ]
TS/ТСまたはЦ【تس】[ʦ ツ] - 語中のツァ行音を示す。
N/Н【ن】[n ンまたはヌ]
H/Ҳ・ҳ【《ھ》―🈟《ح》】[h ホ] - ペルシア語ではアラビア語からの借用語専用字、南ウズベク語ではHEH《هـ・ـهـ・ـه》が母音字にも使用されるため、借用語などの子音字に用いられる場合がある。
H/Ҳ・ҳ【《ھ》―🈟《ه》】[h ホ] - ハ行音のHEH《هـ・ـهـ・ـه》は、ヤンギ・イムロでは常にハ行音[h]はヘー・ドーチャッシュミー HEH DOACHASHMEE《ھـ・ـھـ・ـھ》で表し、母音ア段はAE《ـە》で示す。
X/Х【خ】[x ハ] - 日本語に由来する借用語でハ行音を示す場合がある。
F/Ф【ف】[ɸ フ] - ウイグル語アラビア文字では上1点付きQAF《ڧ》に変化しているが、ネット上では共通アラビア文字の字形が用いられることが多い。
B/Б【ب】[b ブ]
P/П【پ】[p プ]
M/М【م】[m ムまたはン]
R/Р【ر】[r ル]
L/Л【ل】[l ル]
V/В【ۋ】[v ヴ/w ゥ/-f フ]