各文字体系の筆記体で重複する字母
1月23日はアメリカ・ロシア・インドなどで手書きの日あるいは筆記体の日である【Handwriting Day】です。
ユニコードではラテン文字の筆記体が数学記号用として採用されているのですが、大文字は英語のものと著しく異なるものがあります。
今回は各文字体系で対応する字母が異なるラテン文字の筆記体を取り上げます。
ユニコードに採用されている筆記体はセリフ系書体の筆記体であるラウンドハンド書体が対象になっているので、フォントによって字形が異なります。
【ユニコードコンソーシアム内の数学用英数字コードチャート】https://unicode.org/charts/PDF/U1D400.pdf
ユニコード14.0からは、筆記体通常書体の大文字《𝒜~𝒵》と異体字セレクタの〈U+FE00 VS01〉との合成でチャンスリー書体に変化します。
A・a【𝓐・𝓪】
英語の筆記体では、ラテン大文字ALPHA《Ɑ》の筆記体が当てられています。
国際音声記号の小文字は、英語の発音表記のように通常の《a》とラテン小文字ALPHA《ɑ》との使い分けがなされる場合、前者はラテン小文字ヴォラピュークAE《ꞛ》の字形に変化しますが、使い分けしない場合《a》は通常の筆記体字形となります。
・【𝒜】ギリシャ《Α》、ロシア《А》
・【𝒶】ロシア《а》
B・b【𝓑・𝓫】
・【ℬ】ギリシャ《Β》、ロシア《В》
・【𝒷】ドイツ=ジュッターリン《𝔟》、ギリシャ《ϐ》、ロシア《в》
C・c【𝓒・𝓬】
1930年代にアフリカの各言語正書法の基準として制定されたでは、スクリプト体の大文字Cがラテン大文字E《E》の筆記体となっていて、この場合、大文字Cのスクリプト体はキリル大文字ES《С》の本来のスクリプト体字形と同型になります。
・【𝒞】アフリカ諸言語(1930年代)《E》、ロシア《С》
・【𝒸】ロシア《с》
D・d【𝓓・𝓭】
ラテン・ギリシャ・キリルの各文字体系では、活字体の大文字の形状が異なっていても、筆記体は共通となっています。
・【𝒟】ギリシャ《Δ》、ロシア《Д》
・【𝒹】
E・e【𝓔・𝓮】
アフリカ諸言語で、ラテン大文字EPSILON《Ɛ》がスクリプト体Eの大文字となっている場合、スクリプト体大文字C《𝒞》がEの大文字となっています。
・【ℰ】アフリカ諸言語(1930年代)《Ɛ》、ギリシャ《Ε》、ロシア《Е》
・【ℯ】ロシア《е》
F・f【𝓕・𝓯】
エウェ語などではフック付きF小文字《ƒ》は英語筆記体の字形が使用され、ドイツ語筆記体のものが本来のラテン小文字F《f》に当てられています。
・【ℱ】
・【𝒻】
G・g【𝓖・𝓰】
アメリカ英語の筆記体は本来の字形と著しくことなっていて、アメリカ式が採用される以前の日本語ローマ字では20世紀中頃までスクリプトG《ɡ》を大型にしたものが使用されていました。
・【𝒢】
・【ℊ】ロシア《д》
H・h【𝓗・𝓱】
アルメニア小文字HO《հ》はローマン体が書体によってはラテン小文字H《h》と同型になることから、筆記体もラテン文字と同型になっています。
・【ℋ】ギリシャ《Η》、ロシア《Н》
・【𝒽】タタール《һ》、アルメニア《հ》
I・i【𝓘・𝓲】
ラテン文字使用言語で、大文字は著しく字形が異なるものが多いです。
フランス式の大文字はギリシャ大文字IOTA《Ι》の筆記体にもなっています。
トルコ語やアゼルバイジャン語の小文字では点無しI《ı》で、ギリシャ小文字IOTA《ι》の筆記体にもなっていて、Catrinityなどで点無しのものが外字として収録されています。
・【ℐ】ウクライナ《І》
・【𝒾】ウクライナ《і》
J・j【𝓙・𝓳】
Catrinityなどでは点無しJ《ȷ》の筆記体が外字として収録されています。
・【𝒥】セルビア《Ј》
・【𝒿】セルビア《ј》
K・k【𝓚・𝓴】
・【𝒦】ギリシャ《Κ》、ロシア《К》
・【𝓀】
L・l【𝓛・𝓵】
ロシアのカフカズ諸語などで補助記号として使用されているキリル文字パーロチカ《Ӏ・ӏ》は、タイプライターなどでローマ数字1《Ⅰ》の代用としてとして使用されるキリル大文字ベラルーシ語=ウクライナ語I《І》に由来していることから大文字のみユニコードに採用され、のちに筆記体などで大小文字の別がある言語があることからユニコード5.0で小文字が採用され、その小文字はラテン小文字L《l》の筆記体の変種に由来しています。
・【ℒ】
・【ℓ】
・【𝓁】カバルダ《ӏ》
M・m【𝓜・𝓶】
アメリカ英語の筆記体では大文字が小文字を大型化したものになっています。
・【ℳ】ロシア《М》
・【𝓂】ロシア《т》
N・n【𝓝・𝓷】
アメリカ英語の筆記体では大文字が小文字を大型化したものになっています。
・【𝒩】ギリシャ《Ν》
・【𝓃】ロシア《п》、アルメニア《ո》
O・o【𝓞・𝓸】
・【𝒪】ロシア《О》アルメニア《Օ》
・【ℴ】ギリシャ《ο》、ロシア《о》、アルメニア《օ》
P・p【𝓟・𝓹】
英語の筆記体小文字は本来のラテン小文字《p》のアレンジになっています。
・【𝒫】ギリシャ《Ρ》、ロシア《Р》
・【𝓅】ロシア《р》、アルメニア《ր》
・【℘】
Q・q【𝓠・𝓺】
伝統的な大文字スクリプト体は、アフリカ諸言語で《Q》が使用されない言語の場合はオープンO《Ɔ》の大文字に当てられています。
Catrinityフォントに見られる筆記体はドイツ式で、ラテン大文字Q《Q》をローマン体に近くアレンジしたものになっていて、この字形がユニコード14.0の標準字形となっています。
・【𝒬】エウェ《Ɔ》、セルビア《Д》
・【𝓆】
R・r【𝓡・𝓻】
ドイツ式では小文字Rの筆記体がフックが波状になった《ꭈ》のようになっている傾向が多いです。
キリル文字CHE《ч》の筆記体はラテン小文字《r》の筆記体と同型のものになるフォントが結構多いです。
・【ℛ】
・【𝓇】ロシア《ч》
S・s【𝓢・𝓼】
英語の大文字筆記体は左右逆のアンパサンドのようになっています。
マケドニア語のキリル大文字DZE《Ѕ・ѕ》の筆記体はラテン文字S《S・s》をほぼそのままの字形に筆記体化していて、ユニコード14.0ではこの字形が標準字形となっています。
・【𝒮】マケドニア《Ѕ》
・【𝓈】ギリシャ《ς》
T・t【𝓣・𝓽】
旧東ドイツ式のドイツ語筆記体ではドイツ小文字T《𝔱》のジュッターリン体のものに由来しています。
・【𝒯】ギリシャ《Γ》, ロシア《Г》
・【𝓉】
U・u【𝓤・𝓾】
ドイツ小文字U《𝔲》の筆記体は、他の字母との区別のためにブリーブ付きU《ŭ》に変化します。
セルビア語やマケドニア語の筆記体ではキリル小文字PE《п》がマクロン付きU《ū》に変化します。
・【𝒰】ロシア《И》、アルメニア《Ս》
・【𝓊】ギリシャ《κ》、ロシア《и》、アルメニア《ս》
V・v【𝓥・𝓿】
英語では下部が丸みのある大文字、ドイツ語では下部が谷のようになっている筆記体大文字となっています。
国際音声記号ではフック付きV《ʋ》がギリシャ小文字ユプシロン《υ》に形状が似ていることから通常の小文字Vを当て、本来の《v》は下部が谷のようになっている字形となります ( 参考👉 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/964073/39 )。
ロシア語ではキリル大文字IZHITSA《Ѵ》をローマ数字5《Ⅴ》の代用として使用される場合があり、筆記体もラテン文字のものとほぼ同一になっています。
・【𝒱】古代教会スラブ《Ѵ》
・【𝓋】国際音声記号《ʋ》、ギリシャ《υ》
W・w【𝓦・𝔀】
・【𝒲】
・【𝓌】
X・x【𝓧・𝔁】
ドイツ大文字X《𝔛》の筆記体は、デンマーク語ではラテン大文字AE《Æ》の筆記体として使用されています。
・【𝒳】ギリシャ《Χ》、ロシア《Х》
・【𝓍】ロシア《х》
Y・y【𝓨・𝔂】
英語式は小文字を大型化したもので、ユニコード14.0の標準字形となっています。
・【𝒴】ロシア《У》
・【𝓎】ロシア《у》、アルメニア《ց》
Z・z【𝓩・𝔃】
ラテン文字筆記体では字形が著しく異なるものが多い字です。
ユニコード14.0の標準字形となっているものは、大文字がストローク付きZ《Ƶ》の筆記体になっているものです。
アフリカ諸言語ではラテン文字EZH《Ʒ・ʒ》の大文字は英語筆記体Z《Z・z》が当てられ、区別がなされています。
・【𝒵】ギリシャ《Ζ》
・【𝓏】
チャンスリー書体
にしき的フォントでは、通常の筆記体大文字と異体字セレクタ〈VS01〉との合成でチャンスリー書体に変化し、また、同フォントのU+F0020~39でチャンスリー書体大文字の外字も採用されています。
キッコー括弧内の筆記体は異体字セレクタ合成による筆記体で、チャンスリー書体の表示テスト用となっています。
【𝒜︀, ℬ︀, 𝒞︀, 𝒟︀, ℰ︀, ℱ︀, 𝒢︀, ℋ︀, ℐ︀, 𝒥︀, 𝒦︀, ℒ︀, ℳ︀, 𝒩︀, 𝒪︀, 𝒫︀, 𝒬︀, ℛ︀, 𝒮︀, 𝒯︀, 𝒰︀, 𝒱︀, 𝒲︀, 𝒳︀, 𝒴︀, 𝒵︀.】