ルメイカ語の文字による日本語表記
1997年から2022年まで11月9日はウクライナでウクライナ語の日及びウクライナの言語と文学の日で、ʼ23年から10月27日に記念日の日にちが変更となり、日本国内の記念日である文字・活字文化の日と同日となりました。
ウクライナの言語と文学の日は、ウクライナ国内の各種言語における記念日となっています。
ウクライナの言語でインド・ヨーロッパ語族ギリシャ語派の言語でルメイカ語が使用されている地域があり、マリウポリ・ギリシャ語とも呼ばれています。
ルメイカ語はキリル文字とギリシャ文字の双方が使用され、ギリシャ文字24文字、基本キリル文字33文字の範囲内で表記されます。
ルメイカ語については英語版ウィキペディア及び英語版ウィクショナリーに詳しく記載されています。
ルメイカ語の文字体系についての注意点
ルメイカ語キリル文字では連字〈ГК, ДЪ, ТЪ〉がギリシャ文字《ΓΚ, Δ, Θ》に対応し、硬音符《Ъ・ъ》が摩擦音を示す特殊記号として採用され、シータ《Θ・θ》に対応する〈ТЪ・Тъ・тъ〉は英語の無声TH[θ ス], デルタ《Δ・δ》に対応する〈ДЪ・Дъ・дъ〉は英語の有声TH[ð ズ]にそれぞれ対応します。
字母表に含まれないが実際は使用する単語が見られる子音字シチャー《Щ・щ》は日本語本来のシャ行音[ɕ]を表し、ギリシャ語〈Σκυλί〉[スキリ]と同ルーツの単語である〈Щилы́ / Σςτςςιλί〉[シルィー]「犬《🐕》」を表すなど固有語にも用いられます。
ルメイカ語ギリシャ文字では、シグマ《Σ・σ・ς》の連字〈ΣΣ・Σσ・Σς・σσ・ςς〉[ʃ シュ]が語末の場合、ファイナルシグマ《ς》の連字〈ςς〉で表され、チャ行音[ʧ]は〈ΤΣΣ・Τσσ・Τςς・τσσ・τςς〉で表します。英語版ウィクショナリーに記載されている文例は、常に小文字がファイナルシグマ《ς》のみで表されるものが見られ、ウクライナ語版ウィキペディアの【Румейська мова】の項目では字母表でファイナルシグマのみ記載されていることから現行正書法の用法と思われます。
母音はイオタ《Ι・ι》がキリル文字表記のイー《И・и》[i イ]とイェルィ《Ы・ы》[ɨ ゥイ]の2つの発音及びキリル文字表記における語末の軟音符《Ь・ь》[ʲ ィ]の役割を示し、ユプシロン《Υ・υ》はキリル文字表記のウー《У・у》に合わせて常にウ段[u]を表します。
ルメイカ語ギリシャ文字では《Η, Ξ, Ψ, Ω》は廃字となっていますが、キリル文字表記でイェルィ《Ы・ы》と表記されるイオタの[ɨ]音を例示するために、ウクライナ語キリル文字ウィー《И・и》[ɪ イ]のルーツであるイータ《Η・η》で表すアイデアがありえそうです。
ルメイカ語の文字体系による日本語の母音の転写・翻字
ルメイカ語キリル文字と異なるウクライナ語キリル文字及び現代ギリシャ語ギリシャ文字も記載しています。
ギリシャ文字表記ではトノスアクセント《΄》が全文大文字表記以外で常に表示されますが、キリル文字表記ではウクライナ語同様、力点《ˊ》は辞書・教科書・参考書のみで表示されます。
日本語の長音表記はウーの《У꞉・у꞉》やオウの《О꞉・о꞉》のようにウクライナ式日本語キリル文字と同じくU+A789《꞉》が用いられると推測されるのですが、ウクライナ語のように省略されると思われます。
なお、アー〈АА・Аа・аа / ΑΑ・Αα・αα〉やヤー〈ЯА・Яа・яа / ΓΙΑΑ・Γιαα・γιαα〉などア段, イー〈ИИ・Ии・ии / ΙΙ・Ιι・ιι〉やニー〈НИИ・Нии・нии / ΙΙ・Ιι・ιι〉などイ段は母音字で長音を表し、新潟[ニイガタ]は〈Ниигка́та / Νιινκάτα〉―ウクライナ語では〈Ніїґата〉, 現代ギリシャ語では〈Νιιγκάτα〉―となります。
A【キリル《А・а , А́・а́》―希《Α・α , Ά・ά》】ア[a]
I【キリル《И・и , И́・и́》―希《Ι・ι , Ί・ί》】イ[i] - ウクライナ語キリル文字では《І・і , І́・і́》。
Y【キリル《Ы・ы , Ы́・ы́》―希《Ι・ι , Ί・ί》】イ[ɨ] - ティ・ディなど特殊音の場合。ウクライナ語キリル文字では《И・и , И́・и́》。
U【キリル《У・у , У́・у́》―希《Υ・υ , Ύ・ύ》】ウ[u] - 現代ギリシャ語ギリシャ文字では〈ΟΥ・Ου・ου , Ού・ού〉。
E【キリル《Э・э , Э́・э́》―希《Ε・ε , Έ・έ》】エ[e] - ウクライナ語キリル文字では《Е・е , Е́・е́》。英語などヨーロッパの言語経由で借用された日本語単語に由来する単語ではイェー《Е・е , Е́・е́》がエ段を表す場合があると思われる。
O【キリル《О・о , О́・о́》―希《Ο・ο , Ό・ό》】オ[o]
半母音
Y【キリル《Й・й》―希《ΓΙ-・Γι-・γι- , -Ι・-ι》】ヤ行・二重母音イ[j]
YA【キリル《Я・я , Я́・я́》―希《ΓΙΑ・Για・για , -ΙΑ・-ια》】ヤ[ja]
YI【キリル《ЙИ・Йи・йи , ЙИ́・Йи́・йи́ ; -ЬИ・-ьи , -ЬИ́・-ьи́》―希《ΓΙ・Γι・γι , -Ι・-ι》】イィ[ji] - ウクライナ語キリル文字では《Ї・ї , Ї́・ї́》。
YU【キリル《Ю・ю , Ю́・ю́》―希《ΓΙΥ・Γιυ・γιυ , -ΙΥ・-ιυ》】ユ[ju] - 現代ギリシャ語ギリシャ文字では《ΓΙΟΥ・Γιου・γιου , -ΙΟΥ・-ιου》。
YE【キリル《Е・е , Е́・е́》―希《ΓΙΕ・Γιε・γιε , -ΙΕ・-ιε》】イィ[ji] - ウクライナ語キリル文字では《Є・є , Є́・є́》。
YO【キリル《ЙО・Йо・йо , ЙО́・Йо́・йо́ ; -ЬО・-ьо , -ЬО́・-ьо́》―希《ΓΙΟ・Γιο・γιο , -ΙΟ・-ιο》】ヨ[ji] - 日本語キリル文字本来の翻字ではヨー《Ё・ё》が用いられるが、ルメイカ語ではウクライナ語キリル文字と共通の表記となる。
WA【キリル《ВА・Ва・ва , ВА́・Ва́・ва́》―希《ΒΑ・Βα・βα》】ワ[βa] - ウクライナ語キリル文字による日本語表記から。
ルメイカ語の文字体系による日本語の子音の転写・翻字
ルメイカ語キリル文字表記で拗音を表す軟音符《Ь・ь》の箇所は、ア段の場合はヤー《Я・я》, ウ段の場合はユー《Ю・ю》, エ段の場合はイェー《Е・е》―ウクライナ語キリル文字ではウクライナ語イェー《Є・є》―に置き換えられます。
重子音はGGA〈ГГКА・ггка / ΝΚΑ・νκα〉[ッガ], NKA〈НКА・нка / Ν᾽ΚΑ・ν᾽κα〉[ンカ]という風に表記され、キリル文字表記ではウクライナ語に合わせて重子音が表記される場合があったり、ギリシャ文字表記では単独子音字の場合は重子音で促音を表しますが、連字の場合、単子音表記になる場合があります。
ギリシャ文字表記ではG・NG〈ΝΚ・Νκ・νκ〉[ɡ グ/-ŋk- ンク/-ŋɡ- ング]とD・ND〈ΝΤ・Ντ・ντ〉[d ド/-nt- ント/-- ンド]と語源による発音が著しく異なりますが、B・MB〈ΜΠ・Μπ・μπ〉[b ブ/-mb- ンブ]における鼻子音と無気音の組み合わせはNP〈ΝΠ・Νπ・νπ〉[-mp- ンプ]で区別が可能です。
K【キリル《К・к》―希《Κ・κ》】カ行[k ク]
KY【キリル《КЬ・Кь・кь》―希《ΚΙ・Κι・κι》】キャ行[kʲ キ]
KW【キリル《КВ・Кв・кв》―希《ΚΥ・Κυ・κυ》】クァ行[kw クワ]
G【キリル《ГК・Гк・гк》―希《ΝΚ・Νκ・νκ》】ガ行[ɡ グ] - 現代ギリシャ語ギリシャ文字では《ΓΚ・Γκ・γκ》, ウクライナ語キリル文字では《Ґ・ґ》。
GY【キリル《ГКЬ・Гкь・гкь》―希《ΝΚΙ・Νκι・νκι》】[ɡʲ ギャ行]
GW【キリル《ГКВ・Гкв・гкв》―希《ΝΚΥ・Νκυ・νκυ》】グァ行[ɡw グワ]
NG【キリル《НГ・Нг・нг》―希《ΝΚ・Νκ・νκ》】[ŋɡ ンガ行] - ウクライナ語キリル文字では《НҐ・Нґ・нґ》。
S【キリル《С・с》―希《Σ・σ・ς》】サ行[s ス] - 現行ギリシャ文字表記である常にファイナルシグマ《ς》のみを使用する方式の場合、サは〈ςα〉, シ[sʲi]及びスィ[sɨ]は〈ςι〉, スは〈ςυ〉, セは〈ςε〉, ソは〈ςο〉。
SH【キリル《ШЬ・Шь・шь , Щ・щ》―希《ΣΣ・Σσ・σσ・Σς・ςς》】シャ行[ʃ シュ/ɕ シ] - ギリシャ語ギリシャ文字ではサ行とシャ行はいずれもシグマ《Σ・σ・ς》で表記され区別されない。ギリシャ文字表記で常にファイナルシグマ《ς》のみを使用する方式の場合、シャは〈Σςα / Шя〉, シは〈Σςι / Ши〉, シュは〈Σςυ / Шю〉, シェは〈Σςε / Ше〉, ショは〈Σςο / Шьо〉。
DZ【キリル《ДЗ・Дз・дз》―希《ΤΖ・Τζ・τζ》】ザ行[ʣ ヅ]
Z【キリル《З・з》―希《Ζ・ζ》】ザ行[z ズ]
DZH【キリル《ДЖЬ・Джь・джь》―希《ΤΖΖ・Τζζ・τζζ》】ジャ行[ʤ ヂ/ʥ ヂ]
ZH【キリル《ЖЬ・Жь・жь》―希《ΖΖ・Ζζ・ζζ》】ジャ行[ʒ ジュ/ʑ ジ]
T【キリル《Т・т》―希《Τ・τ》】タ行[t ト] - 外来音のティは〈Τι / Ты〉[tɨ トゥイ], テュは〈Τιυ / Тю〉, トゥは〈Τυ / Ту〉。
CH【キリル《ЧЬ・Чь・чь》―希《ΤΣΣ・Τσσ・τσσ・Τςς・τςς》】チャ行[ʧ チ/ʨ チ] - ギリシャ語ギリシャ文字ではツァ行とチャ行はいずれもタウとシグマの連字〈ΤΣ・Τσ・τσ・τς〉で表記され区別されない。ギリシャ文字表記で常にファイナルシグマ《ς》のみを使用する方式の場合、チャは〈Τςςα / Чя〉, チは〈Τςςι / Чи〉, チュは〈Τςςυ / Чю〉, チェは〈Τςςε / Че〉, チョは〈Τςςο / Чьо〉。
TS【キリル《Ц・ц》―希《ΤΣ・Τσ・Τς・τσ・τς》】ツァ行[ʦツ ] - ギリシャ文字表記で常にファイナルシグマ《ς》のみを使用する方式の場合、ツァは〈Τςα / Ца〉, ツィは〈Τςι / Ци〉, ツは〈Τςυ / Цу〉, ツェは〈Τςε / Цэ〉, ツォは〈Τςο / Цо〉。
D【キリル《Д・д》―希《ΝΤ・Ντ・ντ》】ダ行[d ド] - 外来音のディは〈Ντι / Ды〉[dɨ ドゥイ], デュは〈Ντιυ / Дю〉, ドゥは〈Ντυ / Ду〉。
ND【キリル《НД・Нд・нд》―希《ΝΤ・Ντ・ντ》】ンダ行[nd ンド]
N【キリル《Н・н》―希《Ν・ν》】ナ行[n ン・ヌ]
NY【キリル《НЬ・Нь・нь》―希《ΝΙ・Νι・νι》】ニャ行[nʲ ニ]
X【キリル《Х・х》―希《Χ・χ》】ハ行[x ハ]
XY【キリル《ХЬ・Хь・хь》―希《ΧΙ・Χι・χι》】ヒャ行[xʲ ヒ]
F【キリル《Ф・ф》―希《Φ・φ》】ファ行[f フ]
B【キリル《Б・б》―希《ΜΠ・Μπ・μπ》】バ行[b ブ]
BY【キリル《БЬ・Бь・бь》―希《ΜΠΙ・Μπι・χι》】ビャ行[bʲ ビ]
MB【キリル《МБ・Мб・мб》―希《ΜΠ・Μπ・μπ》】ンバ行[mb ンブ]
P【キリル《П・п》―希《Π・π》】パ行[p プ]
PY【キリル《ПЬ・Пь・пь》―希《ΠΙ・Πι・πι》】ピャ行[pʲ ピ]
M【キリル《М・м》―希《Μ・μ》】マ行[m ム・ン]
MY【キリル《МЬ・Мь・мь》―希《ΜΙ・Μι・μι》】ミャ行[mʲ ミ]
R【キリル《Р・р》―希《Ρ・ρ》】[r ラ行]
RY【キリル《РЬ・Рь・рь》―希《ΡΙ・Ρι・ρι》】リャ行[rʲ リ]
W=V【キリル《В・в》―希《Β・β》】ワ行・ヴァ行[v ヴ]
N'【キリル《Нʼ・нʼ》―希《Ν᾽・ν᾽》】ンア行[-n.a- ンア他] - 日本語キリル文字本来の翻字ではエヌと硬音符の連字〈НЪ・Нъ・нъ〉が用いられるが、ルメイカ語ではウクライナ語キリル文字と共通のアポストロフ《ʼ》で区切る表記となる。
N'Y【キリル《НʼЯ・нʼя , НʼЮ・нʼю , НʼЙО・нʼйо》―希《ΝΓΙΑ・νγια , ΝΓΙΥ・νγιυ , ΝΓΙΟ・νγιο》】ンヤ行[-n.ja- ンヤ/-n.ju- ンユ/-n.jo- ンヨ] - ギリシャ文字表記ではヤ行のガンマ《Γ・γ》で母音と半母音の切れ目を示す。
外来音
H【キリル《Г・г》―希《Γ・γ》】ガ行[ɣ グ] - ウクライナ語ではヘー《Г・г》[ɦ ホ]は英語ラテン文字エイチ《H・h》に対応。
TH【キリル《ТЪ・Тъ・тъ》―希《Θ・θ》】サ行[θ す]
DH【キリル《ДЪ・Дъ・дъ》―希《Δ・δ》】ザ行[ð ず]
L【キリル《Л・л》―希《Λ・λ》】ラ行[l る]
LY【キリル《ЛЬ・Ль・ль》―希《ΛΙ・Λι・λι》】リャ行[lʲ り]
ルメイカ語の文字体系による日本語単語の表記例
ウクライナ語と現代ギリシャ語を併記しています。
🔣えもじ=絵文字【Эмо́дзи / Εμότζι】[エモヅィ] - 🇺🇦〈Емодзі〉/🇬🇷〈Εμότζι〉。
🍢おでん【О́дэн / Όντεν】[オデン] - 🇺🇦〈Суші〉/🇬🇷〈Όντεν〉。
🌸さくら=桜【Саку́ра / Σακύρα】[サクラ] - 🇺🇦〈Сакура〉/🇬🇷〈Σακούρα〉。
🍣すし=寿司【Су́ши / Σύςςι】[スシ] - 🇺🇦〈Суші〉/🇬🇷〈Σούσι〉。
🍡だんご=団子【Да́нго / Ντάνκο】[ダンゴ]
🍱べんとう=弁当【Бэнто́ / Μπεν᾽τό】[ベント] - 🇺🇦〈Бенто〉/🇬🇷〈Μπεντό〉。
🏮まつり=祭【Мацу́ри / Ματςύρι】[マツリ] - 🇺🇦〈Мацурі〉/🇬🇷〈Ματσούρι〉。
🔡ろーまじ=ローマ字【Рома́дзи / Ρομάτζι】[ロマヅィ] - 🇺🇦〈Ромадзі〉/🇬🇷〈Ρομάτζι〉。
なお、ウクライナ製日本語単語で〈Кірідзі / キリ字〉[キリーヅィ]は“日本語キリル文字”を意味し、ウクライナ語キリル文字による日本語表記法を表します。キリ字はルメイカ語では〈Кири́дзи / Κιρίτζι〉[キリヅィ]となります。