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逆さラテン大文字が使用されるフレイザー文字

フレイザー文字とは中国やミャンマー, タイ, インドなどのリス語で使用されるラテン文字の大文字を改造した文字体系です。
フレイザー文字は《Q・q・ꞯ》を除くラテン文字25文字とそれらを逆さにした字母を用いるのが特徴です。
ユニコードではラテン文字と別扱いで採用されました。

今回はフレイザー文字について取り上げます。


フレイザー文字

ラテン大文字とその逆さの字母で対になる字母は、無気音が本来のラテン大文字, 有気音[ʰ]が逆さ字母という法則が特徴的です。
各種子音字はインド系文字のように中声調のア[ɑ˧]音を含み、ア段は基本的に子音字のみ示され、二重母音や外来語表記用の末子音が来る場合に《》が表示されます。

配列はABC順で、字源となったラテン文字は大文字・小文字・スモールキャピタルの併記となっています。
全角ギュメ内部は本来のラテン字母で、角カッコ内のダーシはフレイザー文字に存在しない字母です。

  • 《A・a・ᴀ》】[ɑ ア]――【《Ɐ・ɐ》】[ɛ エァ]

  • 《B・b・ʙ》】[b バ]――【】[ɣ ガ/ɰ ワ]

  • 《C・c・ᴄ》】[ʨ~ʧ チャ]――【《Ɔ・ɔ》】[ʨʰ~ʧʰ チャ]

  • 《D・d・ᴅ》】[d ダ]――【】[ə ア]

  • 《E・e・ᴇ》】[e エ]――【《Ǝ・ǝ・ⱻ》】[ø オェ] - ラテン文字ターンドEの小文字《ǝ》はシュワーƏ・ə》とは別字扱いでユニコードに採用された。

  • 《F・f・ꜰ》】[ʦ ツァ]――【《Ⅎ・ɟ・ⅎ》】[ʦʰ ツァ]

  • 《G・g・ɢ》】[ɡ ガ]――【《〓・ᵷ》】[ɦ ハ]

  • 《H・h・ʜ》】[x ハ]――【《Ɥ・ɥ》】[―]

  • 《I・i・ɪ》】[i イ]――【《Ị・ᴉ》】[―] - トルコ語やアゼルバイジャン語などのチュルク諸語ラテン文字では《I・ı》と《İ・i》とで分化されている。

  • 《J・j・ᴊ》】[ʥ~ʤ ヂャ]――【】[f ファ] - ラテン小文字では点無しジェイȷ》もある。フレイザー文字FAの異体字にギリシャ文字ガンマΓ》あるいはキリル文字ゲーГ》と同型の字母があり、この場合のラテン文字スモールキャピタルはガンマ》となる。

  • 《K・k・ᴋ》】[k カ]――【《Ʞ・ʞ》】[kʰ カ] - ラテン小文字KRAKʼ・ĸ》というグリーンランド語でかつて使用されていたスモールキャピタルKの変種がある。

  • 《L・l・ʟ》】[l ラ]――【《Ꞁ・ꞁ》】[ɯ ウ]

  • 《M・m・ᴍ》】[m マ]――【《ꟽ・ɯ》】[―]

  • 《N・n・ɴ》】[n ナ]――【〓《〓・〓・ᴎ》】[―]

  • 《O・o・ᴏ》】[o オ/ʊ ウ]

  • 《P・p・ᴘ》】[p パ]――【】[pʰ パ]

  • 《R・r・ʀ》】[ʑ~ʒ ジャ]――【《〓・ɹ・ᴚ》】[z ザ]

  • 《S・s・ꜱ》】[s サ]――【《Ƨ・ƨ》】[―]

  • 《T・t・ᴛ》】[t タ]――【《Ʇ・ʇ》】[tʰ タ]

  • 《U・u・ᴜ》】[u ウ]――【】[y ユィまたはイュ]

  • 《V・v・ᴠ》】[h̃ ンハ]――【《Ʌ・ʌ・ᴧ》】[ŋ ンガ]

  • 《W・w・ᴡ》】[v ヴァ/w ワ/u̯ ゥ]――【《〓・ʍ》】[―]

  • 《X・x・〓》】[ɕ~ʃ シャ]

  • 《Y・y・ʏ》】[ʝ ヤ/i̯ イ]――【𑾰《〓・ʎ》】[ç ヒャ] - 逆さのYはナシ語で用いる拡張字母で、ユニコード13.0で採用された。そのため表示できるフォントが無い場合は逆さのサンセリフY大文字》で代用される場合がある。

  • 《Z・z・ᴢ》】[ʣ ヅァ]

英語などからの借用語表記では、Facebookが〈ꓝꓮꓚꓰꓐꓳꓳꓗ〉となるように英語の綴りをフレイザー文字そのままで代用するケースがあります。

フレイザー文字特殊記号

第4声調ミャボ》は各字母に含まれている声調であることから表記されないことが多く、固有名詞などはハイフン-》で音節をつなげて示し、声調表記は省略される場合があります。
ハッシュタグがユニコードに対応している各種SNSサイトでは声調記号が対応可能ですが、ハイフンは使用できないことからカタカナの長音記号》の半角形で代用されますが、文字化けする場合があります。

  • ミャティ - 高声。

  • ナポ - 降昇。

  • ミャチャ - 緊喉母音・中声。

  • ミャボ - 中声。

  • ミャナ - 緊喉母音・昇降。

  • ミャジョエ - 昇降。

  • ˍアのわたり音

  • ʼアン[ɑ͂] - 鼻音化記号。外来語表記ではNGA》あるいはNA》が母音字の後に配置されることで、鼻音化のアポストロフの代用となる。

  • -】固有名詞や借用語のつなぎ記号

  • 】カンマ。

  • 】終止符。

フレイザー文字による日本語表記

清音は有気音子音字を使用し、高アクセントはミャティ《◌ꓸ》で示します
(例: ꓕ-ꓞꓶꓸ-ꓬ「タツヤ」)。
ウ段は日本語と同じ発音の《》[ɯ]があるのですが、英語などと同じく《》[u]で示す傾向があるようです。
撥音[ɴ, -n-, -m-, -ŋ-, -ɲ-]はアポストロフ《◌ʼ》で示し、語頭のンは《ꓶʼ》で示します。
子音と二重母音による音節を示す場合に限りア《》は表示されます。

  • 】ア/【ꓮꓬ】アイ・アエ/【ꓮꓪ】アウ・アオ

  • 】イ

  • 】ウ/【】ウ(ス, ツ, ズの場合)/【ꓴꓬ】ウイ

  • 】エ/【ꓰꓬ】エイ・エー

  • 】オ/【ꓳꓪ】オウ

  • 】カ/【ꓘꓮꓬ】カイ/【ꓘꓮꓪ】カウ/【ꓘʼ】カン

  • ꓘꓲ】キ

  • ꓘꓴ】ク

  • ꓘꓰ】ケ

  • ꓘꓳ】コ

  • 】カ行/【ꓘꓬ】キャ行/【ꓘꓪ】クァ行

  • 】ガ行/【ꓖꓬ】ギャ行/【ꓖꓪ】グァ行

  • 】サ行

  • 】シャ行/【ꓫꓲ】シ

  • 】ザ行・ヅァ行/【】ザ行(語中)/【】ジャ行(語中)

  • 】タ行

  • 】チャ行/【ꓛꓲ】チ

  • 】ツァ行

  • 】ダ行

  • 】ヂャ行・ジャ行/【ꓙꓲ】ヂ

  • 】ナ行

  • 】ハ行/【】ヒャ行/【ꓧꓬ】ヒャ行

  • 】ファ行

  • 】バ行

  • 】パ行

  • 】マ行

  • 】ヤ行

  • 】ラ行

  • 】ワ行

  • 】ヴァ行

  • 】鼻濁音ガ行.

ユニフォン文字

フレイザー文字と同じくラテン文字の大文字のみ使用する文字体系に英語の人工文字として生まれ、ユロック語フパ語などアメリカの諸言語の文字体系として用いられるユニフォン文字があります。原則的に大文字のみで表記され、小文字が必要となる場合はスモールキャピタルが使用されます。
ユニコードコンソーシアムに小文字も追加申請が行われ2度却下されました。ユニコードではスモールキャピタルIɪ》の大文字として古代ラテン文字Zに似た字形》がU+A7AEに配置されたことから、ユニフォン文字はフレイザー文字と異なりラテン文字と統合されることになりました。
フレイザー文字に存在しない逆さラテン大文字《Z》が[ʒ]音を示すために用いられ、フレイザー文字にもある逆さのV》が英語の広いオー[ɔː]音を表します。
ユニコードの私用領域に外字コードが配置され、にしき的フォントなどで私用されています。

ユニフォン文字に同型字が存在するフレイザー文字を取り上げます。発音はユニフォン文字のものを示しています。

  • 】[æ アェ]

  • 】[b ブ]

  • 】[ʧ チ](※トロワ語用)

  • 】[d ド]

  • 】[e~ɛ エ]

  • 】[ə ア](※米先住民諸語用)

  • 】[f フ]

  • 】[ɡ グ]

  • 】[h ヘ]

  • 】[ʤ ヂ]

  • 】[k ク]

  • 】[l ル, ɫ ゥ]

  • 】[m ム]

  • 】[n ヌ・ン]

  • 】[ɔː オー]

  • 】[p プ]

  • 】[ɹ ル; ˞ ァ; ː ー]

  • 】[s ス]

  • 】[t ト; ɾ ル]

  • 】[ð ズ](※旧字形)

  • 】[ʌ ア; -ə ア]

  • 】[v ヴ]

  • 】[ɔː オー; ɑ ア, ɒ オ]

  • 】[w ゥ]

  • 】[x ハ](※フパ語用)

  • 】[j ィ]

フレイザー文字による逆さラテン文字の代用

ラテン文字使用言語の固有名詞には逆さ及び左右逆の字母が使用されるケースがあり、ユニコードでは存在しないことから正しい表記が使用できないケースがあります。
逆さ・左右逆のラテン字母外字がそろっているフォントは稀です。

代表的なものにスウェーデンの男女混成バンド・ABBAがいて、本来は〈AꓭBA〉と表記し、アバと読まれます。
全文フレイザー文字の場合は〈ꓮꓭꓐꓮ〉と表記でき、ツイッター上でハッシュタグ対応ができます。
アニメ『∀ガンダム』は数学記号の《》を使用するのですが、フレイザー表記を使用した『ꓯガンダム』や拡張ラテン文字表記を使用した『Ɐガンダム』でターンエーを表すことができ、ツイッター上でハッシュタグに対応できるようになります。

フレイザー文字に存在しない左右逆のサンセリフ体ラテン文字を使用する例では、eスポーツチームのLIVEEVILは〈LIVEƎVI⅃〉と表すことができ、ツイッターのハッシュフラッグではこの表記になっています。