カフカズ・アルバニア文字による日本語翻字
かつてアゼルバイジャン/ジョージア/ロシア・ダゲスタンのアグバン語で使用されたカフカズ・アルバニア文字による日本語表記などを考えてみました。
カフカズ・アルバニア文字はジョージア文字フツリ体やアルメニア文字と共に5世紀に生まれ、12世紀頃まで使用されていたアルファベット系文字体系です。
大文字のみが存在する文字体系で、左から右に表記されます。
アグバン語は同じカフカズ諸語に属するウディ語と関連性が高く、単語もほぼ受け継がれているものが多いです。
近年はユニコードに採用されたことから、Noto Sans Caucasus AlbanianやXim Sans Handwrittenなどのフォントが登場しました。
日本語翻字
対応するウディ語の現行キリル文字とアゼルバイジャン語ベースのラテン文字(現行正書法では《Z》が[z]と[ʣ]双方の音を示すため、[ʣ]音は《Ź》で表記)、も併記しております。
同じカフカズ諸語のジョージア文字のように放出音[ʼ]―キリル文字旧正書法ではパーロチカ《Ӏ・ӏ》, 1994年式ラテン文字ではトルコ語I《I・ı》―で無声破裂音を示しております。
推測発音は英語版ウィキペディアの【Caucasian Albanian script】の項目を参考にしています。
【𐔰《А・а / A・a / ა・Ⴀ・ⴀ / Ա・ա》】ア[a]
【𐔼《И・и / İ・i / ი・Ⴈ・ⴈ / Ի・ի》】イ[i] - ジョージア文字ではヤ行音も母音字を使用。
【◌𐔺《Й・й / Y・y / ჲ・Ⴢ・ⴢ / Յ・յ》】◌イ[-j] - 二重母音の場合。
【𐕒𐕡《У・у / U・u / უ・Ⴓ・ⴓ / ՈՒ・Ու・ու》】ウ[u] - アルメニア語〈ՈՒ〉, ギリシャ語〈ΟΥ〉, フランス語〈OU〉のようにO《𐕒》[o オ]とW《𐕡》[w ゥ]連字で示す。
【◌𐕡《У・у / U・u / უ・Ⴓ・ⴓ / Ւ・ւ》】◌ウ[-w] - 二重母音の場合。
【𐔴《Э・э, Е・е / E・e/ ე・Ⴄ・ⴄ / Է・է, Ե・ե》】エ[e] - アルメニア文字では語頭はĒ《Է》, 語中はE《Ե》で示し、後者に対応する。
【𐔶《Э・э, Е・е / E・e / ჱ・Ⴡ・ⴡ / Է・է, Ե・ե》】エー[eː] - アルメニア文字Ē《Է》やジョージア文字《ჱ》に対応する母音字で、唯一の長母音字。ウ段・オ段は長音表記が使用されないが、ア段・イ段は連字で示される。
【𐕒《О・о / O・o / ო・Ⴍ・ⴍ / Օ・օ, Ո・ո》】オ[o] - アルメニア文字では語頭はŌ《Օ》, 語中はO《Ո》で示し、前者に該当する (後者の《Ո》に対応する字母はÅ《𐕈》[ɒ オまたはア])。
【𐕄《Кʼ・кʼ / Kʼ・kʼ / კ・Ⴉ・ⴉ / Կ・կ》】カ行[kʼ] - アゼルバイジャンのウディ語旧ラテン文字正書法では《Q・q》。
【𐕚《С・с / S・s / ს・Ⴑ・ⴑ / Ս・ս》】サ行[s]
【𐕝《Ш・ш / Ş・ş / შ・Ⴘ・ⴘ/ Շ・շ》】シャ行[ɕ] - 現代日本語標準語の発音。
【𐕜《Тʼ・тʼ / Tʼ・tʼ / ტ・Ⴒ・ⴒ / Տ・տ》】タ行[tʼ]
【𐕉《Ч・ч / Ç・ç / ჩ・Ⴙ・ⴙ / Ճ・ճ》】チャ行[ʨ] - 現代日本語標準語の発音。アゼルバイジャンのウディ語旧ラテン文字正書法では《Č・č》。
【𐕠《Ц・ц / Ś・ś / ც・Ⴚ・ⴚ / Ծ・ծ》】ツァ行[ʦ] - アゼルバイジャンのウディ語旧ラテン文字正書法では《Ц・ц》。
【𐕎《Н・н / N・n / ნ・Ⴌ・ⴌ / Ն・ն》】ナ行・ン[n]
【𐔿《НЙ・Нй・нй / NY・Ny・ny / ნი・ႬႨ・ⴌⴈ / ՆՅ・Նյ・նյ》】ニャ行[nʲ] - 推測発音はロシア語〈НЬ〉[nʲ ニ]に近い。
【𐕆《ГЬ・Гь・гь / H・h / ჰ・Ⴠ・ⴠ / Հ・հ》】ハ行[h]
【𐕔《Ф・ф / F・f / ჶ・Ф・ɸ / Ֆ・ֆ》】ファ行[f] - 現代ジョージア語や古アルメニア語ではファ行は有気音パ行《ფ・Ⴔ・ⴔ / Փ・փ》[pʰ プ]で示し、カフカズ・アルメニア文字のP《𐕢》[p プ]に対応。
【𐕌《М・м / M・m / მ・Ⴋ・ⴋ / Մ・մ》】マ行・ン[m]
【𐔺《Й・й / Y・y / ჲ・Ⴢ・ⴢ / Յ・յ》】ヤ行[j] - ウディ語キリル文字ではアゼルバイジャン語キリル文字の《Ј・ј》の流れをくむ《Й◌》で表記。
【𐕙《Р・р / R・r /რ・Ⴐ・ⴐ/ Ռ・ռ, Ր・ր》】ラ行[r] - カフカズ・アルバニア文字の発音は[r ル]。アルメニア文字では《Ր・ր》[ɹ ル/ɾ ル]が日本語の語中音と同じだが語頭は《Ռ・ռ》[r ル]で表記される。
【𐕛《В・в / V・v / ვ・Ⴅ・ⴅ / Վ・վ》】ワ行・ヴァ行[v] - 本来のワ行音の字母はW《𐕡》があるが、アゼルバイジャン語やロシア語に合わせてV《𐕛》[v ヴ]が使用される。
【𐔲《Г・г / G・g / გ・Ⴂ・ⴂ / Գ・գ》】ガ行[ɡ]
【𐕕《ДЗ・Дз・дз / Ź・ź / ძ・Ⴛ・ⴛ/ Ձ・ձ》】ザ行・ヅァ行[ʣ] - アゼルバイジャンのウディ語旧ラテン文字正書法では《ZI・Zı・zı》。
【𐔵《З・з / Z・z / ზ・Ⴆ・ⴆ / Զ・զ》】ザ行(方言音の語中)[z] - 英語・フランス語経由からの借用語では語頭でも用いられる。
【𐕃《ДЖ・Дж・дж / C・c / ჯ・Ⴟ・ⴟ / Ջ・ջ》】ジャ行・ヂャ行[ʥ] - 現代日本語標準語の発音。
【𐔻《Ж・ж / J・j / ჟ・Ⴏ・ⴏ / Ժ・ժ》】ジャ行(方言音の語中)[ʑ] - トルコ語経由での借用語では語頭でも用いられる。
【𐔳《Д・д / D・d / დ・Ⴃ・ⴃ / Դ・դ》】ダ行[d]
【𐔱《Б・б / B・b / ბ・Ⴁ・ⴁ / Բ・բ》】バ行[b]
【𐕗《Пʼ・пʼ / Pʼ・pʼ / პ・Ⴎ・ⴎ / Պ・պ》】パ行[p]
日本語キリル文字からの翻字
現代ウディ語キリル文字ではヤ行音はイー・クラートコエ《Й》と母音字の組み合わせで表記される傾向があります。
【𐕚𐔺《СЙ・Сй・тй / SY・Sy・sy / სჲ・ႱჂ・ⴑⴢ / ՍՅ・Սյ・սյ》】シャ行[sʲ] - 推測発音はロシア語〈СЬ〉[sʲ シ]に近い。
【𐕜𐔺《ТЙ・Тй・тй / TY・Ty・ty / ტჲ・ႲჂ・ⴒⴢ / ՏՅ・Տյ・տյ》】チャ行[tʲʼ] - 推測発音はロシア語〈ТЬ〉[tʲ チ]に近い。
【𐕋《ЦЙ・Цй・цй / ŚY・Śy・śy / ცჲ・ႺჂ・ⴚⴢ / ԾՅ・Ծյ・ծյ》】チャ行[ʦʲ] - 推測発音はウクライナ語〈ЦЬ〉[ʦʲ ツィ]に近い。
【𐕏《ДЗЙ・Дзй・дзй / ŹY・Źy・źy / ძჲ・ႻჂ・ⴛⴢ / ՁՅ・Ձյ・ձյ》】ヂャ行[ʣʲ]・ジャ行 - 推測発音はウクライナ語〈ДЗЬ〉[ʣʲ ヅィ]に近い。
【𐕁《ДЙ・Дй・дй / DY・Dy・gy / დჲ・ႣჂ・ⴒⴢ / ԴՅ・Դյ・դյ》】ヂャ行[dʲ] - 推測発音はロシア語〈ДЬ〉[dʲ ヂ]に近い。
【𐕀《Х・х / X・x / ხ・Ⴞ・ⴞ / Խ・խ》】ハ行[x] - かつてキリル文字が使用されていたラテン文字使用言語では日本語ハ行[h ハ, ç ヒ]に《X》が当てられる傾向が高い。
【𐔺𐔰《Я・я / YA・Ya・ya / ჲა・ჂႠ・ⴢⴀ / ՅԱ・Յա・յա》】ヤ・ャ[ja] - ウディ語キリル文字は原則的に《ЙА》で表記。
【𐔺𐕒𐕡《Ю・ю / YU・Yu・yu / ჲუ・ჂႳ・ⴢⴓ / ՅՈՒ・Յու・յու》】ユ・ュ[ju] - ウディ語キリル文字は原則的に《ЙУ》で表記。
【𐔺𐔴《Е・е, ЬЕ・ье / YE・Ye・ye / ჲე・ჂႤ・ⴢⴄ / Ե・ե, ՅԵ・յե》】イェ・ェ[je] - ウディ語キリル文字は原則的に《ЙЕ》で表記。
【𐔺𐔰《Ё・ё / YO・Yo・yo / ჲო・ჂႭ・ⴢⴍ / ՅՈ・Յո・յո》】ヨ・ョ[jo] - ウディ語キリル文字は原則的に《ЙО》で表記。
【𐕛《О・о / O・o /ო・Ⴍ・ⴍ / Ո・ո》】-ヲ[-o] - 助詞の場合。
【𐕎ʼ《НЪ・нъ / Nʼ・nʼ / ნʼ・Ⴌʼ・ⴌʼ / Ն՚・ն՚》】ンア行・ンヤ行[-n.◌] - 硬音符で子音を分離した場合の表記。
英語発音準拠の表記
【𐕐《Ш・ш / Ş・ş / შ・Ⴘ・ⴘ/ Շ・շ》】シャ行[ʃ]
【𐕖《Ч・ч / Ç・ç / ჩ・Ⴙ・ⴙ / Ճ・ճ》】チャ行[ʧ]
【𐕑《ДЖ・Дж・дж / C・c / ჯ・Ⴟ・ⴟ / Ջ・ջ》】ジャ行・ヂャ行[ʤ]
【𐔷《Ж・ж / J・j / ჟ・Ⴏ・ⴏ / Ժ・ժ》】ジャ行(方言音の語中)[ʒ]
【𐔾《Л・л / L・l / ლ・Ⴊ・ⴊ / Լ・լ》】ラ行[l] - 海外の人名に《L》系の表記が含まれている場合。
【𐕅《ЛЙ・Лй・лй / LY・Ly・ly / ლჲ・ႪჂ・ⴊⴢ / ԼՅ・Լյ・լյ・》】リャ行[lj] - 海外の人名に《LY-》系の表記が含まれている場合。
各文字体系の影響を受けた綴り
【𐕚𐔼】シ[si] - ポリヴァノフ式キリル文字〈СИ〉及び訓令式ローマ字〈SI〉。
【𐕜𐔼】チ[tʼi] - ポリヴァノフ式キリル文字〈ТИ〉及び訓令式ローマ字〈TI〉。
【𐕕𐔼】ジ・ヂ[ʣi] - ポリヴァノフ式キリル文字〈ДЗИ〉。