各言語のラテン文字正書法に似せた日本語ローマ字表記6

6/12のエスペラントの日にちなんで、エスペラント語ラテン文字による日本語ローマ字表記について取り上げます。
ちなみに国際エスペラント語の日は7/26で、ザメンホフの日は12/15です。

エスペラント語ローマ字は日本語ローマ字と発音がほぼ共通なものがほとんどですが、一部はダイアクリティカル付き字母で示されます。
母音の発音は関西弁など西日本の方言音とほぼ共通です。
エスペラント語における日本語からの借用語は、名詞語尾《-o》[オ]を付加するのがルールで、Kapao[カパーオ]「河童」のように二重母音になるケースも見られます。

エスペラント式ローマ字

エスペラント同人社・刊『国際語エスペラント独習書』で1920年代当時のエスペラント式ローマ字表が記載されていて、国立国会図書館デジタルライブラリーで閲覧できます。
ツは〈cu〉, ヤは〈ja〉などスラブ諸語のラテン文字表記に合わせた綴りになっています。
二重母音はイ段はヨー《J j》、ウ段はウォー《Ŭ ŭ》をそれぞれ用います。
日本語翻字に用いられるエスペラント語ラテン文字です。
エスペラント語版ウィキペディアによるエスペラント式日本語翻字は、ヒが〈ĥi〉, ジが〈ĝi〉と〈ĵi〉, ズ・ヅが〈dzu〉になるなど大正時代に制定されたエスペラント式ローマ字と一部異なります。
長音記号は存在しないため、母音の連字又は母音1文字で示されます。

A】ア/【AA】アア/【AJ】アイ/【】アウ/
I】イ/【IJ】イイ/【II】イイ・イー/【】イウ/
U】ウ/【UJ】ウイ/【UU】ウウ・ウー/
E】エ/【EJ】エイ・エー/【】エウ/【EE】エエ・エー/
O】オ/【OJ】オイ/【】オウ/【OO】オオ・オウ・オー.
K】カ行/【KJ】キャ行/【】クァ行/【S】サ行/
Ŝ】シャ行/【T】タ行/【Ĉ】チャ行/【C】ツァ行/
N】ナ行・ン/【NJ】ニャ行/【H】ハ行/【HJ ; Ĥ】ヒャ行/
F】ファ行/【M】マ行/【MJ】ミャ行/【J】ヤ行/
R】ラ行/【RJ】リャ行/【Ŭ】ワ行.
G】ガ行/【GJ】ギャ行/【】グァ行/【Z】ザ行/
Ĵ】ジャ行(現行表記では語中)/【D】ダ行/
Ĝ】ヂャ行・ジャ行/【DZ】ヅァ行・ザ行(ズのみ)/
B】バ行/【BJ】ビャ行/【P】パ行/【PJ】ピャ行/
V】ヴァ行.

※代替表記では、ワ行音及び二重母音のウはX式では〈UX〉, H式で〈U〉とあります。X式とH式によるサーカムフレックスの代用では、シャ行音は〈SX ; SH〉, 語頭ジャ行音・ヂャ行音は〈GX ; GH〉, 語中ジャ行音は〈JX ; JH〉, チャ行音は〈CX ; CH〉, ヒの異表記は〈HXI ; HHI〉となります。

🔷現行エスペラント式ローマ字における日本語音節の綴りで注意すべき表記です。
子音と子音の間のウ段[-ɯ-]が無声母音に変化したときは、ウーU u》が省略されることがあります。

ĜI- ; -ĴI-】ジ/【DZU- ; -ZU-】ズ/【DJU】デュ/【FJU】フュ/
ŜŜI ; SŜI】ッシ/【ĜĜI ; ĴĴI】ッジ/【ĈĈI ; TĈI】ッチ/
CCU ; TCU】ッツ/【ĤII ; HII】ヒイ/【MBA】ンバ/
MPA】ンパ/【MMJOŬ ; MMJOO】ンミョウ.

エスペラント語ラテン文字と別文字体系

エスペラント語ではキリル文字やシェイヴィアン文字、仮名文字による表記法が考案されています。
キリル文字によるエスペラント語表記法は、セルビア語キリル文字がベースで、タタール語やベラルーシ語などから拡張キリル文字を取り入れています。
ジャン・ウェスリー・スターリングさんが考案したシェイヴィアン文字を使用したエスペラント語表記法はシャーヴァ文字(出典: https://esperanto.us/sxava_alfabeto/)と呼称され、英語版ウィキペディアで紹介されています。本来のシェヴィアン文字と一部発音が異なる字母が見られ、ユニコードに採用されていない合字も多いです。二重母音〈〉[au アウ]の《𐑲》と〈〉[eu エウ]の《𐑱》が加わったり、《𐑰》がヤ行音[j],《𐑞》がヅァ行音[ʣ]を示したり、ウ[u]とワ行音[w]が《𐑪》で統一されたり、一部字母が本来のシャーヴァ文字と異なる別方式であるセルギオ・ポグロフスキーさんの方式がエスペラント語版ウィキペディアで見られます。
仮名文字を使用したエスペラント語表記法は大学書林・刊『エスペラント四週間』などに見られ、クホーĤ ĥ》に対応する拡張カタカナはサーカムフレックス《ˆ》をハ行音の字母の㊤に付加する方式となっているのですが、ユニコードに定義されていない表記です。
また、エスペラント語ラテン文字では本来使用されない字母による置き換え表記も多数存在します。

A・a】アー[a ア] : キリル《А・а》, シャーバ《𐑨
B・b】ボー[b ブ] : キリル《Б・б》, シャーバ《𐑚
C・c】ツォー[ʦ ツ] : キリル《Ц・ц》, シャーバ《𐑔
Ĉ・ĉ】チョー[ʧ チ] : キリル《Ч・ч》, シャーバ《𐑗
D・d】ドー[d ド] : キリル《Д・д》, シャーバ《𐑛
E・e】エー[e エ] : キリル《Е・е》, シャーバ《𐑧
F・f】フォー[f ふ] : キリル《Ф・ф》, シャーバ《𐑓
G・g】ゴー[ɡ グ] : キリル《Г・г》, シャーバ《𐑜
Ĝ・ĝ】ヂョー[ʤ ヂ] : キリル《Џ・џ》, シャーバ《𐑡
H・h】ホー[h ホ] : キリル《Һ・һ》, シャーバ《𐑣》 - H式ではサーカムフレックスの代用で、子音基本字との連字となる。
Ĥ・ĥ】クホー[x ㋩] : キリル《Х・х》, シャーバ《𐑙
I・i】イー[i イ] : キリル《И・и》, シャーバ《𐑦
J・j】ヨー[j ィ] : キリル《Ј・ј》, シャーバ《𐑢
Ĵ・ĵ】ジョー[ʒ ジュ] : キリル《Ж・ж》, シャーバ《𐑠
K・k】コー[k ク] : キリル《К・к》, シャーバ《𐑒
L・l】ロー[l る] : キリル《Л・л》, シャーバ《𐑤
M・m】モー[m ム] : キリル《М・м》, シャーバ《𐑫
N・n】ノー[n ヌ・ン] : キリル《Н・н》, シャーバ《𐑵
O・o】オー[o オ] : キリル《О・о》, シャーバ《𐑩
P・p】ポー[p プ] : キリル《П・п》, シャーバ《𐑐
R・r】ロー[r ル] : キリル《Р・р》, シャーバ《𐑮
S・s】ソー[s ス] : キリル《С・с》, シャーバ《𐑕
Ŝ・ŝ】ショー[ʃ シュ] : キリル《Ш・ш》, シャーバ《𐑖
T・t】トー[t ト] : キリル《Т・т》, シャーバ《𐑑
U・u】ウー[u ウ] : キリル《У・у》, シャーバ《𐑪》 - H式ではウォー《Ŭ》[w]の代わりに用いられる。
Ŭ・ŭ】ウォー[w ゥ] : キリル《Ў・ў》, シャーバ《𐑘
V・v】ヴォー[v ヴ] : キリル《В・в》, シャーバ《𐑝
Z・z】ゾー[z ズ] : キリル《З・з》, シャーバ《𐑟
Q・q】クーオ[kv クヴ] : キリル《КВ・кв》, シャーバ《𐑒𐑝》 - QWXY式では[x]音。
W・w】ヴァーヴォ[w ゥ, v ヴ] : キリル《Ў・ў, В・в》, シャーバ《𐑘, 𐑝》 - QWXY式では[w]音。
X・x】イーキソ[ks クス] : キリル《КС・кс》, シャーバ《𐑒𐑕》 - QWXY式では[ʃ]音で、連字〈TX〉が[ʧ]音。X式ではサーカムフレックスの代用で、子音基本字との連字となる。
Y・y】イプシローノ[j- ィ, -i イ] : キリル《Ј・ј, И・и》, シャーバ《𐑢, 𐑦, 𐑰》 - QWXY式では[ʒ]音で、連字〈DY〉が[ʤ]音。

DZ・dz】[ʣ ヅ]: キリル《ДЗ・дз》, シャーバ《𐑛𐑟, 𐑞》 - ポクロフスキー式シャーバ文字における推測字母名は“ヅォー”。
NG・ng】[ŋɡ ング]: キリル《НГ・нг》, シャーバ《𐑵𐑜
NK・nk】[ŋk ンク]: キリル《НК・нк》, シャーバ《𐑵𐑒