ジョージア文字の日本語表記について
4/14はジョージアでジョージア語の日です。
今回はジョージア文字による日本語表記について取り上げます。
ジョージア語版ウィキペディアによる日本の固有名詞表記(日本の都道府県のテンプレート参照)を中心としています。
ジョージア文字について
ジョージア文字は標準字形である小文字のみのムヘドルリ[მხედრული]体、タイトルケースのみに用いる大文字のムタヴルリ[ᲛᲗᲐᲕᲠᲣᲚᲘᲗ]体、大文字のアソムタヴルリ[ႠႱႭႫႧႠႥႰႳႪႨ]体と小文字のヌスフリ[ⴌⴓⴑⴞⴓⴐⴈ]体で構成され各種欧文のように大小文字の別が用いられる聖職文字フツリ[Ⴞⴓⴚⴓⴐⴈ]体があります。
ジョージア文字と近隣言語による日本語表記
ムヘドルリ・ムタヴルリ体/フツリ大小文字/ラズ語ラテン文字/アブハズ語キリル文字です。
見出しのラテン文字は現行ジョージア語ローマ字表記で、ラテン文字翻字で放出音を示すアポストロフ《ʼ》の付く字母が日本語の無声破裂音に対応します。逆にアポストロフの付かないラテン字母は無声有気破擦音で、日本語の無声破擦音に対応します。
ジョージア語やラズ語では、日本語の借用語で《ン》で終わる単語の場合は〈ოდენი〉[オデニ]「おでん《🍢》」のように必ず名詞を示すイ《-ი》を付加します。
ジョージア語では、シャ行・ジャ行・チャ行は日本の人名・地名などは子音字とイ段の字母の連字で示す傾向になっていますが、ジョージア語版ウィキペディアの【იაპონური ენა】の項目では、ヘボン式ローマ字に対応するジョージア字母で表記され、英語経由での借用語では〈ფუჯი〉[プヂ]「富士《🗻》」―ユニコードの絵文字名称で富士山は〈მთა ფუძი〉[ムタ・プヅィ]と表記―のように表記されます。
ジョージア語では〈ტოტორი〉[トトリ]「鳥取」のように促音は表記されず、イ段を除き〈ძიუდო〉[ヅィユド]「柔道《🥋》」のように長母音は表記されません。
A【ა・Ა / Ⴀ・ⴀ / A・a / А・а】ア[ɑ]
I【ი・Ი / Ⴈ・ⴈ / I・i / И・и】イ[i] - ラズ語ラテン文字はトルコで使用されるが、大文字は点付き《İ》ではなく通常の字形。
U【უ・Უ / Ⴓ・ⴓ , ႭჃ・Ⴍⴣ・ⴍⴣ / U・u / У・у】ウ[u] - フツリでは当初オン《Ⴍ・ⴍ / ო・Ო》とウィ《Ⴣ・ⴣ / ჳ・Ჳ》の連字〈ႭჃ・Ⴍⴣ・ⴍⴣ〉で表記されていた。
E【ე・Ე / Ⴄ・ⴄ / E・e / Е・е】エ[ɛ]
O【ო・Ო / Ⴍ・ⴍ / O・o / О・о】オ[ɔ]
Kʼ【კ・Კ / Ⴉ・ⴉ / Ǩ・ǩ, Kʼ・kʼ / К・к】カ行[kʼ]
KʼI-【კი-・ᲙᲘ- / ႩႨ-・Ⴉⴈ-・ⴉⴈ- / ǨY・Ǩy・ǩy, KʼY・Kʼy・kʼy / КЬ・Кь・кь】キャ行[kj] - ラズ語及びアブハズ語ジョージア文字では〈კჲ・ᲙᲲ〉[kʼʲ]。
KʼV-【კვ-・ᲙᲕ- / ႩႥ-・Ⴉⴅ-・ⴉⴅ- / ǨV・Ǩv・ǩv, KʼV・Kʼv・kʼv / КӘ・Кә・кә】クァ行[kw]
G【გ・Გ / Ⴂ・ⴂ / G・g / Г・г】ガ行[ɡ]
GI-【გი-・ᲒᲘ- / ႢႨ-・Ⴂⴈ-・ⴂⴈ- / GY・Gy・gy / ГЬ・Гь・гь】ギャ行[ɡj] - ラズ語及びアブハズ語ジョージア文字では〈გჲ・ᲒᲲ〉[ɡʲ]。
GV-【კვ-・ᲙᲕ- / ႩႥ-・Ⴉⴅ-・ⴉⴅ- / GV・Gv・gv / ГӘ・Гә・гә】グァ行[ɡw]
S【ს・Ს / Ⴑ・ⴑ / S・s / С・с】サ行[s]
SI-【სი-・ᲡᲘ- / ႱႨ-・Ⴑⴈ-・ⴑⴈ- / SY・Sy・sy / СИ-・Си-・си-】シャ行[sj] - ラズ語ジョージア文字では〈სჲ・ᲡᲲ〉。
SH【შ・Შ / Ⴘ・ⴘ / Ş・ş / ШЬ・Шь・шь】シャ行[ʃ] - ジョージア語における日本の地名表記では拗音を含む表記に限り用いられる。
DZ【ძ・Ძ / Ⴛ・ⴛ / Ž・ž / Ӡ・ӡ】ザ行[ʣ]
DZI-【ძი-・ᲫᲘ- / ႻႨ-・Ⴛⴈ-・ⴛⴈ- / ŽY・žy / ӠИ-・Ӡи-・ӡи-】ジャ行[ʣj] - ラズ語ジョージア文字では〈ძჲ・ᲫᲲ〉。日本語のジャ行音[ʥ]を示す拡張アブハズ・キリル文字は《Ӡʼ・ӡʼ》(語中のジャ行音[ʑ]では《Ҙ・ҙ》)。
Tʼ【ტ・Ტ / Ⴒ・ⴒ / Ť・ť, Tʼ・tʼ/ Т・т】タ行[tʼ]
TʼI-【ტი-・ᲢᲘ- / ႲႨ-・Ⴒⴈ-・ⴒⴈ- / ŤY・Ťy・ťy, TʼY・Tʼy・tʼy / ТИ-・Ти-・ти-】チャ行[tʼj] - ラズ語ジョージア文字では〈ტჲ・ᲢᲲ〉。
CH【ჩ・Ჩ / Ⴙ・ⴙ / Ç・ç / Ч・ч】チャ行[ʧʰ] - ジョージア語における日本の地名表記では拗音を含む表記に限り用いられる。
J【ჯ・Ჯ / Ⴟ・ⴟ / C・c / ЖЬ・Жь・жь】ヂャ行・ジャ行[ʤ]
・TS【ც・Ც / Ⴚ・ⴚ / Ʒ・ʒ, 3・3 / Ц・ц】ツァ行[ʦʰ] - ラズ語ラテン文字《3》の本来の小文字は字下げした数字の《3》。
・D【დ・Დ / Ⴃ・ⴃ / D・d / Д・д】ダ行[d]
・DIU【დიუ・ᲓᲘᲣ / ႣႨႳ・Ⴃⴈⴓ・ⴃⴈⴓ / DYU・Dyu・dyu / ДИУ・Диу・диу】デュ[dju] - ラズ語ジョージア文字では〈დჲუ・ᲓᲲᲣ〉。
N【ნ・Ნ / Ⴌ・ⴌ / N・n / Н・н】ナ行・ン - ジョージア語では姓名以外の語末には必ずイニ《-ი・-Ი / -Ⴈ・-ⴈ》が付加され、ニ[ni]と発音される。ンの次に母音字が来る場合は〈ნ-ი・Ნ-Ი〉[ンイ]のようにハイフンを用いる。
NI-【ნი-・ᲜᲘ- / ႬႨ-・Ⴌⴈ-・ⴌⴈ- / NY・Ny・ny / НИ-・Ни-・ни-】ニャ行[nj] - ラズ語ジョージア文字では〈ნჲ・ᲜᲲ〉。
H【ჰ・Ჰ/ Ⴠ・ⴠ / H・h / H・h / Ҳ・ҳ】ハ行[h]
HI-【ჰი-・ᲰᲘ- / ჀႨ-・Ⴠⴈ-・ⴠⴈ- / HY・Hy・hy / ҲИ-・Ҳи-・ҳи-】ヒャ行[hj] - ラズ語ジョージア文字では〈ჰჲ・ᲰᲲ〉。
P【ფ・Ფ / Ⴔ・ⴔ / P・p / Ԥ・ԥ, Ҧ・ҧ】ファ行[pʰ] - ジョージア文字には本来の[f]音を示すフィ《ჶ・Ჶ》が存在するが、ジョージア語には存在しない発音のため使用されない。
PI-【ფი-・ᲤᲘ- / ႴႨ-・Ⴔⴈ-・ⴔⴈ- / PY・Py・py / ԤИ-・Ԥи-・ԥи-, ҦИ-・Ҧи-・ҧи-】フャ行[pʰj] - ラズ語ジョージア文字では〈ფჲ・ᲤᲲ〉。
・B【ბ・Ბ / Ⴁ・ⴁ / B・b / Б・б】バ行[b]
・BI-【ბი-・ᲑᲘ- / ႡႨ-・Ⴁⴈ-・ⴁⴈ- / BY・By・by / БИ-・Би-・би-】ビャ行[bj-] - ラズ語ジョージア文字では〈ბჲ・ᲑᲲ〉。
・Pʼ【პ・Პ / Ⴎ・ⴎ / P̌・p̌, Pʼ・pʼ / П・п】パ行[pʼ] - ユニコードではラズ語ラテン文字のキャロン付きPが採用されていないため、合成で示す。
・PʼI-【პი-・ᲞᲘ- / ႮႨ-・Ⴎⴈ-・ⴎⴈ- / P̌I-・P̌i-・p̌i-, PʼI-・Pʼi-・pʼi- / ПИ-・Пи-・пи-】ピャ行[pʼj] - ラズ語ジョージア文字では〈ტჲ・ᲢᲲ〉。
・M【მ・Მ / Ⴋ・ⴋ / M・m / М・м】マ行[m]
・MI-【მი-・ᲛᲘ- / ႫႨ-・Ⴋⴈ-・ⴋⴈ- / MY・My・my / МИ-・Ми-・ми-】ミャ行[mj] - ラズ語ジョージア文字では〈მჲ・ᲛᲲ〉。
・IA【ია・ᲘᲐ / ႨႠ・Ⴈⴀ・ⴈⴀ / YA・Ya・ya, -IA・-ia / ИА・Иа・иа】ヤ・ャ[ja], イア[ia] - ラズ語ジョージア文字のヤは常に〈ჲა・ᲲᲐ〉。
・II【იი・ᲘᲘ / ႨႨ・Ⴈⴈ・ⴈⴈ / YI・Yi・yi, -II・-ii / ИИ・Ии・ии】イィ・ィ[ji], イイ[iː]
・IU【იუ・ᲘᲣ / ႨႳ・Ⴈⴓ・ⴈⴓ , ႨႭჃ・Ⴈⴍⴣ・ⴈⴍⴣ / YU・Yu・yu, -IU・-iu / ИУ・Иу・иу】ユ・ュ[ju], イウ[iu] - ラズ語ジョージア文字のユは常に〈ჲუ・ᲲᲣ〉。
・IE【იე・ᲘᲔ / ႨႤ・Ⴈⴄ・ⴈⴄ / YE・Ye・ye, -IE・-ie / ИЕ・Ие・ие 】イェ・ェ[je], イエ[ie] - ラズ語ジョージア文字のイェは常に〈ჲე・ᲲᲔ〉。
・IO【იო・ᲘᲝ / ႨႭ・Ⴈⴍ・ⴈⴍ / YO・Yo・yo, -IO・-io / ИО・Ио・ио】ヨ・ョ[jo], イオ[io]
・R【რ・Რ / Ⴐ・ⴐ / Р・р】ラ行[r]
・RI-【რი-・ᲠᲘ- / ႰႨ-・Ⴐⴈ-・ⴐⴈ- / RY・ry / РИ-・Ри-・ри-】リャ行[rj] - ラズ語ジョージア文字では〈რჲ・ᲠᲲ〉。
・L【ლ・Ლ / Ⴊ・ⴊ / L・l / Л・л】ラ行[l] - 英語などに由来する固有名詞に使用。
・LI-【ლი-・ᲚᲘ- / ႪႨ-・Ⴊⴈ-・ⴊⴈ- / LY・Ly・ ly / ЛИ-・Ли-・ли-】リャ行[lj] - ラズ語ジョージア文字では〈ლჲ・ᲚᲲ〉。
・V【ვ・Ვ / Ⴅ・ⴅ / V・v / В・в】ワ行・ヴァ行[v] - ジョージア語の旧正書法ではサーカムフレックス付きウン《უ̂》でワ行音[w]を示していた。
本来のジョージア文字日本語表記と異なる字母
かつてアブハズ語で使用されていたジョージア文字表記に見られるものです。
以前までアブハズ語版ウィキペディアの【Аиапон бызшәа】の項目でかつて示されていたアブハズ語日本語表記に基づくものが中心です。
ラズ語ラテン文字で借用語が原綴と同じ場合、ジョージア文字の有気音子音字が用いられる場合があります。
K【ქ・Ქ / Ⴕ・ⴕ / K・k / Қ・қ】カ行[kʰ]
KI-【ქი-・ᲥᲘ- / ႴႨ-・Ⴔⴈ-・ⴔⴈ- / KY・Ky・ky / ҚИ-・Қи-・қи-】キャ行[kʰj]
SH【შჾ・ᲨᲾ / – / Ş・ş / Ш・ш】シャ行[ʂ~ɕ] - 日本語のシャ行音[ɕ]を示す拡張アブハズ・キリル文字は《Ҫ・ҫ》。
T【თ・Თ / Ⴇ・ⴇ / T・t / Ҭ・ҭ】タ行[tʰ]
TSI【ცი-・ᲪᲘ- / ႺႨ-・Ⴚⴈ-・ⴚⴈ- / ƷY・ʒy, 3Y・3y / ЦИ-・Ци-・ци-】チャ行[ʨ] - 日本語のチャ行音を示す拡張アブハズ・キリル文字は《Цʼ・цʼ》。
KH【ხ・Ხ / Ⴞ・ⴞ / X・x / Х・х】ハ行[x] - アブハズ語では日本語のハ行は《ხ・Ხ》で示される傾向がある。
KHY【ხჾ・ᲮᲾ / – / XY・Xy / ХЬ・хь】ヒャ行[xʲ] - アブハズ語版ウィキペディアの【Аиапон бызшәа】の項目でかつて示されていた日本語のヒャ行音を示す表記は〈хь〉だった。
P【ფ・Ფ / Ⴔ・ⴔ / P・p / Ԥ・ԥ, Ҧ・ҧ】パ行[pʰ]
PI-【ფი-・ᲤᲘ- / ႴႨ-・Ⴔⴈ-・ⴔⴈ- / PY・Py・py / ԤИ-・Ԥи-・ԥи-, ҦИ-・Ҧи-・ҧи-】ピャ行[pʰj]
UA【უა・ᲣᲐ / ႳႠ・Ⴓⴀ・ⴓⴀ / UA・Ua・ua / УА・Уа・уа】ワ[wa] - アブハズ語。
拡張ジョージア文字
ジョージア語でかつて使用されていた字母または各種言語で追加された字母です。
メグレル語でも使用される字母がありますが、借用語は原則的にジョージア語と同じ綴りで表記されます。
ˉ【ˉ / – / – / ꞉】ー[ː] - スバン語では長音を示すマクロンが使用される。アブハズ語キリル文字の長音記号は辞書などの場合に限り用いられる。
Ā【ა̄・Ა̄ / – / – / А꞉・а꞉】アー[ɑː] - スバン語で使用。ジョージア文字とマクロンの合成はフォント未対応の場合、文字化けしやすい。
Ī【ი̄・Ი̄ / – / – / И꞉・и꞉】イー[iː] - スバン語で使用。
・Ū【უ̄・Უ̄ / – / – / У꞉・у꞉】ウー[uː] - スバン語で使用。
Ē【ე̄・Ე̄ / – / – / Е꞉・е꞉】エー[ɛː] - スバン語で使用。
EI【ჱ・Ჱ / Ⴡ・ⴡ / EY・Ey・ey / ЕИ・Еи・еи】エー[eː] - スバン語で使用。かつてジョージア語でも二重母音エイ〈ეი・ᲔᲘ〉[ei]を示すために使用されていた。
Ō【ო̄・Ო̄ / – / – / О꞉・о꞉】オー[ɔː] - スバン語で使用。
Ō【ჵ・Ჵ / Ⴥ・ⴥ / OU・Ou・ou / ОУ・Оу・оу】オー[oː] - かつてジョージア語で使用されていたが、現行正書法では日本語からの借用語ではオ段長音は表記されない。
・F【ჶ・Ჶ / Ф・ɸ / F・f /Ф・ф】ファ行[f] - ラズ語・スバン語で使用。フツリ体はオセット語表記用に存在するが、ユニコード未登録のため、大文字はギリシャ文字《Φ》あるいはキリル文字《Ф》といった類似の字母, 小文字は国際音声記号フィー《ɸ》で代用される。
Y【ჲ・Ჲ / Ⴢ・ⴢ / Y・y /И・и, Ь・ь】ヤ行[j] - ラズ語・スバン語で使用。かつてジョージア語でも使用されていた。メグレル語における借用語では、ジョージア語同様イニ《ი・Ი / Ⴈ・ⴈ》が用いられる。アブハズ語でヒエ《ჲ・Ჲ》はキャ行《კჲ・ᲙᲲ》[kʲ]とギャ行《კჲ・ᲙᲲ》[ɡʲ], ヒャ行《ხჲ・ᲮᲲ》[xʲ]に限り拗音符《Ь・ь》[ʲ]として用いられる。
W【ჳ・Ჳ / Ⴣ・ⴣ / V・v / У・у】ワ行[w] - スバン語で使用。かつてジョージア語ではウィ[wi]を示すために使用されていた。
・W【ჿ・Ჿ / – / V・v / Ә・ә】合拗音[ʷ] - アブハズ語で使用されていた。他にもアブハズ語ではそり舌音化記号《ჾ・Ჾ》が使用されていた。クヮ《კჿა・ᲙᲿᲐ / КӘА・Кәа・кәа》[kʼʷa]とグヮ《გჿა・ᲒᲿᲐ / ГӘА・Гәа・гәа》[ɡʼʷa]。
・ʼ【ჸ・Ჸ / – / – / –】ッ・無音[ʔ] - スバン語で使用。