雨になった雪❄️(1559字)
神様って本当にいるのかな。
人間だけがかみさま〜って手を合わせてるけど、私も会ったことない。
噂ばっかりだ。
雪を降らせよ」って命令してるのも、神様じゃない。
雪の神様とか雨の神様とかみんな呼んでるけど神様じゃないでしょ。
それぞれ雪や雨を降らせることしかできないんだもの。
言い換えれば、降雪部長とか降雨部長程度のものよ。
決して神様じゃないのさ。
神様ほどのものは、みんなが幸せを感じるためにいるんじゃないの?
私さ、昨日から積丹半島の北に居座って、全力で雪降らせてるんだけどさ、誰か幸せになってんの?
みんなが雪を捨てるから、川が詰まって溢れてるよ。
あっちこっちで人がころんでるし。
あそこのこぐま、見てみなよ。
吹雪でお母さんとはぐれちゃって寂しそうに泣いてるじゃん。
ね、神様。いるなら教えてよ、私なんのために大雪降らせてるの?
ただ迷惑かけてるだけじゃないの?
自称「全能」なら、下々のことをよく見ろっていうの。
私は雪を降らせることしかできないけれど、その道のプロだから、私たちが見せてあげられる幸せがあることを知ってる。
数日前、中央市場の横を歩いてたらおじさん、新しい雪の上をぐるぐる回って足跡つけて写真撮ってたし、別の人は「ゆき⭐︎おたる」って書いて笑ってた。
わかる、ねえ。
私たちに求められてるってそういうことだと思うの。
なんだよ、「24時間で75cm降らせよ」ってさ。
頭きたから70cmの手前でやめたんだよ!
せめてものゆきの意地だよ。
事件は事務所で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ!
こんなにみんなをひどい目に遭わせるなら、私はストライキするよ。
みんなの幸せを見つめながら細かく降らせるよ。
きいてんのー???!!!
「神様、今年も雪のヒステリーが始まりました」
「うむ。なぜ毎年なのだろうか、人を見る目がないのだろうか」
「人を見る目がない神、なんですか、それは」
「あいつはちょっと前に雨になりたかったと言ってたやつだな。望み通り雨にしてやれ」
「はい」
「ちょっと説教してやるか」
「毎年お疲れ様です」
おい、ゆき。
お前は雨になりたかったんだろう?
望み通り雨にしてやる。
しかしな、雨になったところで、今度は大雨の指示が出るかもしれん。
そのときはどうするつもりだ、また逆らうのか。
それは雨になってから考えてもよし、好きにしろ。
それと、春を連れて行け。
少し温かい雨を降らせてこい。
毎年雪は同じことを言ってくる。
世の中には必要悪というものが少なからずある。
万物のバランスを取るためには必須なのだ。
しかしお前たちも苦しむ者を見るのは辛かろう、救いがないからな。
だから今年も前例によって救ってやる。
春と共に毛無山の上で霧となって、雨を降らせてこい。
時期は春の神を通し、追って指示する。
これで良いだろう。
今年の雪はいつもより耐える力がなかったな、優し過ぎたと言おうか。
小樽の春はすこし早くなるな。
あれ?
今誰か話しかけてきたような。
耳元でコソコソって。
でも話しはしっかり聞き取れたな。
なんか雨になれるみたいだ。
自分で降らせた雪を溶かす仕事をもらえたみたいだ。
あ、春ちゃんだ!
「雪ちゃん、あんまり雪がひどいんでちょっと見にきたよ。いっぱい降らせたねー」
「うん。でも私、もうすぐ雨になるから!春ちゃん、手伝ってくれる?あの雪を溶かすんだ。溶かしたらみんなきっと笑顔になるよ」
「うん!やろう!」
春が雪につかまると、雪はだんだんと小さくなっていって、体が透明になった。
透明になった雪の体に春が溶けていく。
「雪ちゃん、雨になったよ!」
「ほんとだーー!!!」
雨になった雪は、体をぶるんと震わせると、細かい水滴になった。
水滴にも春がのっている。
あったかいねーーーーー!!!!
みんな!もう少し待ってて!いまいくからねーー!!!
雪は春を呼んだ。
小樽の春はもうすぐそこだよ。