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記憶

「こないだ、コスモス見に行ってきたに!おまえがむかーし連れて行ってくれたとこだわ」
着信に返信したら、聞こえてきたおふくろの朗らかな声。
「もうだいぶまえだけど、えーっとほれ、春日井だわ」
「春日井のコスモス?」
記憶を探すが、出てこない。
春日井へ連れて行った記憶もないし、コスモスを見に行った記憶もない。

実家暮らしの頃、おふくろを連れて頻繁にドライブしてたので、行った可能性を100%否定する自信はないが、それにしても断片的な記憶すら出てこない。
いや、それ以前に自分の遠い過去の記憶すら曖昧になりつつあって、思い出補正と現実がごっちゃになっているのではないかと疑うことすらある。
だってもうこの体、60年使ってるんですもの。
持っていても仕方ない記憶なんて、頭が判断して、ポイポーイですよ。
それでなくとも脳の容量が縮小している。
親子といえど、年を取るに従って、差は縮まっていく。
70才と90才なんて、30才と35才くらいの違いしかない。
そんなもんですよ。

「春日井のコスモス、あんたと一緒に行ったがや。施設の人が乗せてってあげるっていうもんで行ってきた!すごいきれいだったよ!」
何も思い出せないが、本人はたいそう喜んでいる。
「お前が連れてってくれたもんで、私はそこの場所がわかったんだで、絶対言っとるよ」
ボケてはいないので、自分の記憶より彼女が言うことの方が信用できる気がしてきた。
知っていたから来れたと言う事実は重い。。

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