かきごおり
夏にかき氷ほど食べたいものはない。
なのに親に連れられて食べて以来、食べたことがない。
ひとりじゃなくなってかき氷の存在が少しズームアップ。
「暑いねぇ。かき氷食べたくない?」
「出かけるの面倒くさいし、部屋の中に居れば涼しいじゃん」
食べたい気持ちを打ち消すように言う。
なんでだろう。
「ほれ、かわいやのかき氷おいしいって、ラジオで話題になっとったで」
ラジオを持ち出したな。
わかった、意地になることもない、行くことにしよう。
「言い出しっぺが運転してね」
車で10分ほどでかわいやに着いた。
なんで戸口が全開なの?
窓も全開なの?
暑さと闘いながら食うの?
「その方がおいしいじゃないの」
やられた。。。
脳が溶ける…
「わたしいちごでいいや。あんた、何がいい?」
「ミルク金時」
「おにいさん、いちごとミルク金時ね!」
機械でしゃりしゃり削る。
しゃりしゃりしゃりしゃり。
この音も対夏戦略の一環だ。
でてきた。
かき氷、氷、固体化した水。
それにあずきと練乳がかけられている。
氷なのに、550円もするのか。
「どうしたの、溶けちゃうよ」
「うん」
さくっとスプーンを入れて、口に入れる。
右奥歯の虫歯に少し触った。ちょびっとしみるが大したことはない。
「かき氷とフラッペの違いを知ってるか」
「はぁ、何言ってんの。さっさと食べなさいよ。暑いんでしょ」
「これはかき氷だ。かんなと同じで、刃物で薄く削っている。フラッペは基本的に氷を砕いたものだ。細かく細かく砕くことで、かき氷を真似ているが、遠く及ばない」
「何ぶつぶつ言ってんだよ。暑さでおかしくなったかい?少しくれよ」
妻はもう半分以上食べ終えている。シャカシャカ混ぜでいた自分のスプーンで、ミルク金時の一番美味しいところをすくっていった。
「おい!そこを持って行くかよー!」
「子供みたいなこと言わないの!」
ずいぶんとあんこが減った…
そもそもかき氷は氷を削ったものだ。
一般販売ルートに載せるために開発したのが、カップ入りかき氷。
しかし店で食べるかきごおりとは以って非なるものである。
作った時はかき氷だったかもしれないが、保冷の段階で固まってフラッペに変化してしまうのだ。
うーん。
「早く食べなよ!溶けちゃうぞ!」
「ちょっと溶けかかったところがうまいんだよ。うん?」
だれだ?かなは、少なくなったいちごかき氷を啜っている。
暑さのせいか、加齢によるか、最近幻聴が多いな。
「どちらでもないよ。わたしかき氷です。早くおいしいうちにたべて。じゃないとジュースになっちゃうよ」
「ほらみろ、いつまでもぶつぶつ言ってるから、かき氷まで催促してるよ。早く食べなよ」というと彼女は今度はミルクのところをごっそり持っていった。
「あぁ、おいしかったね。少し体冷えたね」
「うん。おれは薄味の氷水飲んでたみたいだったけどな」
「さっさと食べないからだよ。 ごちゃごちゃ能書き垂れてるからだよ。しかしかき氷にまで催促されてるのは初めてみたわ」
「え、かなにも聞こえたのか?」
「聞こえたよ」
口の周りをぺろぺろなめながら、かなはウインクした。