打ち合わせ 〜忍路デート(1460字)
「打ち合わせがてらランチ行きませんか」
朝をちょっとすぎた頃、連絡がありました。
そう、今日は小樽のラジオ番組に出るんです。
希望を聞かれましたが、特に食べたいものがなくて。
ずっと前から花銀のうみのやという揚げもののお店に行きたかっただけれど、偶然、前日に行ってしまってました。
「あ、そこ、私も行ってみたかったお店です!」
あー、少し遅かったね^_^
「スープカレーどうですか?」
去年有幌のココイチで食べたスープカレーがおいしかったことを、ふと思い出していました。
スープカレーを勘違いしている人が愛知にはたくさんいるので“本物”のスープカレーが食べたかったのです。
「食べたかったこと」を思い出せてよかった!
車に乗せてもらって西へ。
よく来る北浜橋のすぐ近く。
観光客はめったにこないけど、わたしは大好きな場所でとってもうれしい!
スープカレーを頼んだら自然とビールも付いてきました。
「市販のカレールウでスープカレーを作る人がいるんですよねー」とか、「スープカレーは鍋料理!」とか、「スープカレーで飲んだ後にご飯を食べる」などというこだわりを話しだしてしまう。根っからのおしゃべりなのでしょう。
いい加減にしておかないとな。
「まだ時間があるから、どこか行きたいところがあれば行きませんか」
「じゃあ忍路、忍路海岸。でもちょっと遠くないですか」
自分は自転車かバスでしか行ったことがないので、片道30分弱はかかるつもりで「遠いかな」と言ったけれど、15分弱で着いた気がする。
「トンネルを出た点滅信号を右です」
と案内したのは私です。
忍路というのは、国道から一本入ったどん詰まりなので、用がない人は来ない場所です。
だから小樽市民にもあまり馴染みがないのでしょう。
何度目かなあ、ここ。
愛知県人がイメージする日本海とは少し違うけれど、これも日本海なのだ。
切り立った崖の上から海を見ると、空の色は大きく二つに分かれ、右はグレー左は白。
グレーの雲は、塩谷の先端を薄い膜で隠している。
おそらくあれは雪。
崖下はグレーがかっているものの、なぜか自分の目には碧がかってみえる。
海の色は空の色を反映しているのだから、そんなことはありえないのはずなのにね。
「初めてみた!すっごい風景ですね!」
積丹半島伝いでも、これほどの風景はなかなかないと思う。
思い出した、忍路に来た最初の理由は、北大の研究施設を見に見るためでした。
とってもかわいらしい建物で、小学校の建物かと思ったんですよね。
その建物は岬の影に隠れているみたいに見えるのです。
確かに風雨は直接に影響は受けにくい気はします。
「左右から突き出した岬が忍路の港を守ってるような気がする」なんていうと、なるほど〜と周りを眺めてくれます。ひょっとしてこの気分が共有されたかな?
「駆け落ちしたカップルが台風の夜ここに逃げ混むような小説が書きたいんです」
相変わらず聞かれもしないのに押し付けがましい話ばかりしてしまうのでした。
漁船をながめながら、聞くひと。
車に乗り込み、久しぶりの忍路を後にしました。
スタジオへ直行です。
「表現者って、似たような環境を好むみたいです。豊橋でも二川っていうところがあって、絵描きさんのような人が多々住んでいると聞きますが、僕もその街が大好きで、妻と付き合っていた頃、「ここに住みたいね」などと話していたものです。忍路はそれに似た空気があります。歌うたいのあなたならわかってもらえたかも。どうですか?」
って聞こうとしたけれどそれはやめました。
ぼくはゲストだから、能動的であってはいけないような気がして。