映画の感想 - 一月の声に喜びを刻め

ポスタービジュアルの、あっさん (前田敦子) の美しい横顔が目に止まり、チケットをジャケ買いした。

あっさん主演かと思いきや、四部構成の映画。それぞれに物語が違えば主人公も違う。あっさんは第三部の主人公役で、第四部にも登場した。

物語の展開は、概ねゆっくりで静かだ。
もし円盤化または配信化されたなら、ほとんどのイマドキ消費者は倍速再生を始め、自らのスマホを取り出し弄りたおし、作品をほとんど観ることなく「駄作」とこき下ろすだろう。

だが、登場人物の表情や声量そして間、ちょっとした感情の動きに目をやれば、台詞で語られない物語の筋が見えてくる。公式サイトに書いてあるとおり、深い悲しみを背負った人々の物語だ。

あまり書けないが、救いはある。本作は悲しみに押し潰された人たちの慟哭をさまざまな形で描いており、それぞれの人物が立ち直ったのかどうかも、観客の解釈で異なってくる。

「微味の中にこそ、本当の美味がある」
そんな形容がしっくりくる作品。

映画を観てスカッとしたいなら、本作は全くお勧めできない。こうして書いている自分も、観了後 1 時間が経つのに、頭の中で物語を咀嚼し続けている。

だが、観て良かったかと訊かれれば、自信を持って良かったと答えられる。咀嚼しきれていない現時点で、自分にとって観るべき作品だったという実感も出てきている。なので、お勧めせずにいられる。

蛇足だが、本作のあっさんは本当に美しかった。
個人的に、あっさんの AKB 現役時代は選挙の名場面くらいしか印象がない。卒業後も、ドラマや映画でずっと下駄を履かされている感があり、可哀想ですらあった。だが彼女は、下駄を脱いでもちゃんと俳優として立って歩いていたのだ。

そういう意味でも、観てよかった。

[映画『一月の声に歓びを刻め』オフィシャルサイト 2024年2/9公開]
https://ichikoe.com/

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