夢の世界、圧巻のディオール展
ディオールの創業70周年を記念して、パリ装飾美術館で2017年7月から8月に開催されたこの展覧会が、その後ロンドン、ニューヨーク、上海などを巡り、日本にやってきた。
それはまさに、その名の通り「夢の世界」であった。
ディオールは日本に最初に進出した西洋のファッションブランドで、1953年に帝国ホテルで初めてのファッションショーが開催された。
子どもの頃から庭園や浮世絵などの日本文化に触れていたディオールは、日本の生地にも敬意をもっていた。龍村美術織物の生地を使った作品には、 ”Rashomon(羅生門)”や”Utamaro(歌麿)”、”Tokio(東京)”といった名前がつけられたほどだ。
いまや誰もが知る「クリスチャン・ディオール」の日本での歴史は、ここから始まったのである。
会場内の展示物は膨大な数だ。
華々しいドレスはもちろん、数えきれないほどある。
驚いたのは、「こんなものまで見せてくれるのか!」という類のものである。
鉛筆書きのデザイン画の数々。
古いものには「19 DEC 1949」 のスタンプが押してある。
そして、おそらく日本進出の頃のものと思われる日本語の仕様書。
これには目が釘付けになった。
よく残っていたなと思う。
白い台紙に貼り付けてあるテープの劣化具合から、貴重な資料として大事に保管されているのだろう。
「白の部屋」といわれる空間に展示されているものは、なんとトワルだったのだ。
トワルとは、紙に描かれたデザイン画を、モデリストが三次元の形にしたものである。
ピン打ちのままのもの、装飾の刺繍なのか柄の絵をマジックで直接描いたり貼ったりしてるものなど。なんてリアル!
かつてパタンナーの仕事をしていた自分にとって、仕様書とトワルを見られたことは、夢のような空間にいながらも、ディオールの制作現場をのぞき見したような心持ちになるのだ。
そうそう、こうやって作っているんだよな……と。
私はこの写真を見て涙が出そうになった。
羨ましさと同時に、彼女たちの喜びが想像できてしまったのだ。
やっとテレビ放送が始まった頃、海外の情報などほとんど知らなかったであろう。
初めて見る美しいドレス、美しいモデルさんたち。
連日夜なべの作業だったかもしれないが、心躍る日々だったのではないかと思う。
ショーが成功に終わったときの達成感は、当事者のみの特権だ。
彼女たちのおしゃべりが聞こえてくるようだった。
「好き」を仕事にするって、こういうことなんだ、本当は。
オートクチュールのドレスは贅沢の極みだ。
作り上げるまでの時間の長さという、物理的なことだけではない。
デザイナーの天才的なセンス、さまざまな職人たちの技巧と叡智、素材を作り上げる技術。
経験、勘、ひらめきなどが裏打ちされた結晶なのだ。
高額になるのは必然だろう。
さらにそれが「贅沢」といえるのは、実際に着ている時間の短さである。
パーティでの数時間。
制作にかけた時間にくらべたら、ほんの一瞬だ。
身に纏う芸術、ほこらしげな刹那。
庶民の私たちは着て楽しむことはできないが、見られる芸術として、別世界で作り続けてほしいと思う。
今回の展覧会は展示物もさることながら、会場内の空間演出も目を見張るものばかりだ。
服の美しさ、豪華さをさらに引き立てる、壮大で絢爛な舞台がある。
時の経過を忘れてしまう、これが「夢の世界」だ。
そんな夢心地から、容赦なく意識を現実に引きずり戻したのがスマホのバッテリー残量だった。
ありがたいことに、写真も動画も撮影OKなので撮りまくった。
(ストロボは禁止)
会場を出たときには、かろうじて5%……
この数字、私の残りの人生でディオールのドレスを着られる可能性かしら。
いや、もっと低いだろうな。
クリスチャン・ディオール様
メルシー!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?