富士谷御杖 訳古今集 初稿 巻第二
1.018.2
古今和歌集巻第二
春哥下
02.0069
題しらす 読人しらす
春霞たなひく山の桜花うつろはむとや色かはり行
▼春霞○ノ たなひく山の 桜花 うつろはウト云コトテ〈●や〉 色○ガかはツテ行○ノカ
02.0070
まてといふにちらてしとまる物ならはなにを桜に思まさまし
▼まてといふ○ノに ちらズニサヘとまる 物ならは なにを桜ノ上ヘタテヽ 思ハウゾ
02.0071
残りなく散そめてたき桜花ありて世中はてのうけれは
▼残りなウ チルハナニカシラズカクベツナコトヤ 桜花 ナガラヘテ世中○ノ シマイガうイコトジヤニヨツテ
02.0072
このさとにたひねしぬへしさくら花ちりのまかひに家ち忘て
▼このさとに たひねしテモシマイソウナ さくら花○ノ チルモヤゝヽデ 家ち゛○ヲ忘て
02.0073
うつせみの世にもにたるか花桜さくとみしまにかつちりにけり
▼〈うつせみの○○○○○〉 世にサテモにテアルコトカナ 花桜○ハ さく○ハとみタ間に カタテニちツテシマウコトヂヤ
02.0074
僧正遍昭によみてをくりける
▼僧正遍昭によンテツカハシマシタ
これたかのみこ
桜花ちらはちらなんちらすとて故郷人のきてもみなくに
▼桜花○ヨ ちルナラバちツテシマヘ ちら〈す゛〉ズニヰルトイフテ 故郷人カ きてもみモセヌノニ
1.019.1
02.0075 ∥詞書注「マシテ」原状
雲林院にて桜の花のちりけるをみてよめ
▼雲林院デ桜の花のちりマシテをみてよめ
る そうく法師
さくら散花の所は春なから雪そふりつゝ消かてにする
▼さくら○ノ散 花の場所は 春ナリニ 雪ガナニカシラズふりフリシテ キヱニクガルヤウスジヤ
02.0076
桜の花のちり侍けるをみてよみける
▼桜の花ガちりマシテゴザリマシタノをみてよみける
そせい法師
花ちらす風のやとりは誰か知我にをしへよゆきてうらみん
▼花○ヲちらす 風の居所は 誰ガ〈か●〉シツテヰルゾ 我にをしへテクレヨ ゆイてフソクイハウ
02.0077
うりむ院にて桜の花をよめる
▼うりむ院デ桜の花をよめる
そうく法師
いさ桜われも散なん一さかりありなは人にうきめみえなん
▼ドリヤ桜○ヨ われもチツテシマハウゾ 一さかり○ガ あツテカラハ人に うイめ○ヲみラレルヤウニナラウカラ
02.0078
あひしれりける人のまうてきてかへりにける
▼あひしツテヲリマスル人ガマイリ〈てき見消〉マシてかへツテシマイマシタ
後によみて花にさしてつかはしける
▼後によンデ花にさイてつかはしける
1.019.2
つらゆき
ひとめみし君もやくると桜花けふは待みてちらはちらなん
▼ひとめみタ 君ナドモ〈や●〉くる○デアロウカと 桜花 けふは待○ツテみて ちルナラバちツテシマヘ
02.0079
山のさくらをみてよめる
春霞なにかくすらん桜花ちるまをたにもみるへき物を
▼春霞○ハ ナニシニかくすテアロウゾ 桜花○ノ ちるまをナリトモ みるハヅナ物ジヤノニ
02.0080
こゝちそこなひてわつらひける時に風にあた
▼気分ヲソンシてナヲリカネマシタ時に風にあた
らしとておろしこめてのみ侍けるあひたに
▼〈し゛〉ルマイと○ゾンジてヒキコモツテバ〈カ抹消〉ツカリヲリマシタあひたに
おれるさくらのちりかたになれりけるをみてよめる
▼おツテアツタさくらのちりクチになツテゴザリマシタノヲみてよめる
藤原よるかの朝臣 《典侍》
たれこめて春のゆくゑもしらぬまに待し桜もうつろひにけり
▼○簾帳ナドヲたれこめて 春のユキ方ナドモ しらぬまに マツテヰマシタ桜も うつろフテシマウタコトジヤ
02.0081
東宮雅院にて桜の花のみかは水にちりてな
▼東宮ノ雅院デ桜の花ガみかは水にちツてな
▲ 御溝
かれけるをみてよめる
1.020.1
すかのゝ高世
枝よりもあたに散にし花なれはおちても水の泡とこそなれ
▼枝カラト云ドモ あた゛に散テシマウタ 花ジヤニヨツテ おちて○カラも水の 泡とナニヨリモなれ
02.0082
桜のはなのちりけるをよみける
▼桜のはなガちりけるをよみける
貫之
ことならはさかすやはあらぬ桜花みる我さへにしつ心なし
▼ソウナウテカナハヌコトナラバ ○一向さかず〈やは●●〉ニスマスコトハナラヌカヤ 桜花 みる我マデガ ソハゝヽトスル
▲チライデ
02.0083
さくらのこととくちるものはなしと人のいひ
▼さくらの〈こ゛〉ヤウニハヤウちるものはなイと人ガいひ
けれはよめる
▼マシタニヨツテよめる
桜花とくちりぬともおもほえす人の心そ風も吹あへぬ
▼桜花○ハ ハヤ〈ク歟抹消〉ウちツテシマウとも オモハレヌ 人の心ハナニカシラズ 風ナドモ吹テヰルマモナイ
▲ ハヤクウ〈ロウ歟抹消〉ツロウ心
02.0084 ∥第3句補入はひらがな・漢字により,カタカナは訳注
さくらの花のちるをよめる
▼さくらの花のちる○ノをよめる
紀友則
久堅の光のとけきしつ心なくはなのちるらむ
▼〈久堅の○○○○○〉 光ノノンドリトシタ ○春の日にナセ ソハゝヽト はなガちるテアロウゾ
1.020.2
02.0085
春宮のたちはきの陣にてさくらの花のちるを
▼春宮のたちはきの陣゛デさくらの花のちる○ノを
よめる 藤原よしかせ 《好風》
春風は花のあたりをよきてふけ心つからやうつろふとみん
▼春風は 花のキンヘンを ヨケてふけ ○花ノ心〈つ゛抹消〉カラ〈や●〉 うつろふとみヨウホ〈゛歟抹消〉ドニ
02.0086
さくらのちるをよめる
▼さくらのちる○ノをよめる
凡河内躬恒
雪とのみ降たにあるを桜花いかにちれとか風の吹らむ
▼雪と○ミヱルヤウニバツカリ フル○ノデサヘあるノニ 桜花○ヲ トノヤウニちれと○ト云テ〈か●〉 風ガ吹コトデアロウゾ
▲ シヾウ
02.0087
ひえにのほりてかへりまうてきてよめる
▼ひえにのほツてモド〈リ歟抹消〉ツテマイリマシテカラよめる
貫之
山たかみみつゝ我こし桜花かせは心にまかすへらなり
▼山○ガたかサニ みテソレナリニ我モドツタ 桜花○ヲ かせは心に まかすデアリソウニ思ハルヽ
▲ ミイゝヽ
02.0088
題不知 《一本\》大伴黒主
春雨のふるは涙かさくら花ちるをおしまぬ人しなけれは
▼春雨ガ ふる○ノは涙か さくら花○ノ ちる○ノをおしまぬ 人ハコノヨウニなイニヨツテ
1.021.1
02.0089
亭子院歌合哥
▼亭子院ノ歌合ノ哥
つらゆき
さくら花ちりぬる風の名残には水なき空に波そ立ける
▼さくら花○ノ ちツテシマウタ風の ウネリには 水○ノなき空に 波ガナニカシラズタツコトシヤ
▲ 余波也
02.0090
ならの御門の御うた 《平城天皇 大同天子》
故郷と成にしならのみやこにも色はかはらす花は咲けり
▼故郷と ナツテシマウタならの みやこデも 色はかはらす○ニ 花はサイタコトジヤ
02.0091
春の哥とてよめる
▼春の哥と○申シてよめる
良峰むねさた
花の色は霞にこめてみせすともかをたにぬすめ春の山かせ
▼花の色は 霞にこめて みせヌト云テモ かをナリトモぬすめ 春の山かせヨ
02.0092
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
▼寛平○ノ帝ノ御時○代ニきさいの宮の哥合のうた
素性法師
花の木も今はほりうへし春たてはうつろふ色に人ならひけり
▼花の木〈も゛未詳〉ト云ドモ モウゝヽほりうへマイゾ 春ガたツト うつろふ色に 人○ガならフタコトジヤ
1.021.2
02.0093
題しらす よみ人しらす
春の色のいたりいたらぬ里はあらしさけるさかさる花のみゆらん
▼春の色ガ イタリイカナンタリ 里はあルマイニ ○ナゼさイテアルノヤさかズニアル 花ガみヱルデアロウゾ
02.0094 ∥詞書補入「○申テ」原状のまま
はるの哥とてよめる
▼はるの哥と○申テてよめる
貫之
みわ山をしかもかくすか春霞人にしられぬ花やさくらん
▼みわ山を ソノヨウウニサテモかくすコトカナ 春霞 人にしられぬ 花ガ〈や●〉さく故デアロウカ
02.0095 ∥第2句補入「○ノ方ヘ」は「へに」の訳である。
雲林院のみこのもとに花みに北山のほとり
▼雲林院のみこのもとに花みに北山のヘンヘ
にまかれりける時によめる
▼サンジマシタ時によめる
そせい
いさけふは春の山へにましりなん暮なはなけの花の陰かは
▼ドリヤけふは 春の山○ノ方ヘへに ハイツテシマ〈ウ見消〉ハウゾ 暮テシマウタ〈ウタは2字重ね書き〉ラバナサソウナ 花の陰カイノウ
02.0096
春のうたとてよめる
いつまてか野へに心のあくかれん花しちらすは千世もへぬへし
▼いつまて〈か●〉 野ノ方ヘ心ガ あくかれウゾ ○モシ花サヘちらヌコトナラバ 千世もへテシマヒソウナ
1.022.1
02.0097 ∥詞書「題しらす」欠落
読人しらす
春ことに花のさかりはありなめとあひみむことは命なりけり
▼春ことに 花のさかりは あルヤウニナラウズレドモ あひみヨウことは 命次第ノコトジヤ
02.0098
花のこと世の常ならはすくしてしむかしは又もかへりきなまし
▼花のヤウニ 世ガ常デアルナラバ すく゛しテ来タ むかしは又も モドツテク〈ル歟に重ね書き〉ルヤウニナロウ
02.0099
ふく風にあつらへつくる物ならはこの一本はよきよといはまし
▼ふく風に あつらへつケる 物デアルナラバ このイツホンは よケよといはウニ
02.0100
まつ人もこぬ物ゆへに鶯の鳴つる花をおりてける哉
▼まつ人も こぬ物ノクセに 鶯の ナイタソ〈1字に重ね書き〉ノ花を お〈右傍ツ歟抹消)ツテシマウタコトカナ
02.0101
寛平御時きさいの宮の歌合の哥
藤原興風
さく花はちくさなからにあたなれと誰かは春をうらみはてたる
▼さく花は ドレモスツヘリ あたナケレド 誰ガ〈かは●●〉春をうらみキツタゾイ
02.0102
春かすみ色の千種にみえつるはたなひく山の花のかけかも
▼春かすみ○ノ 色ガサマゝヽに みえタノハ たなひく山の 花のかけカサテモ
02.0103
在原元方
霞たつ春の山へはとをけれと吹くる風は花のかそする
▼霞○ノたつ 春の山ノ方は とをイケレド 吹くる風は 花のかガナニカシラズする
1.022.2
02.0104
うつろへる花をみてよめる
▼うつろフテアル花をみてよめる
みつね
花みれは心さへにそうつりける色にはいてし人もこそしれ
▼花ヲミルト 心マデにナニカシラズ うつツタコトジヤ 色にはイタスマイゾ 人ナドモ〈こそ●●〉しれ○バワルイニ
02.0105
題不知 よみ人しらす
鶯のなく野辺ことにきてみれはうつろふ花に風そ吹ける
▼鶯の なく野辺ト云野ベヘ きてみル所ガ うつろふ花に 風ガナニカシラズ吹クコトジヤ
02.0106
ふく風を鳴てうらみよ鶯は我やは花に手たにふれたる
▼ふく風を 鳴てうらみよ 鶯は 我○ハ〈やは●●〉花に 手デモふれタカヤ
02.0107
典侍洽子朝臣
ちる花のなくにしとまる物ならは我うくひすにおとらましやは
▼ちる花の なくノデサヘとまる 物デアルナラバ 我うくひすに おとらウカヤ
02.0108
仁和の中将のみやすん所の家に哥合せんとて
▼仁和の中将のみやすん所の家デ哥合○ヲせウと〈て抹消〉
しける時によみける
▼イタシマシタ時によみける
藤原後蔭
1.023.1
花のちることやわひしき春霞たつたの山の鶯のこゑ
▼花のちる ことガ〈や●〉わひしイノカ 春霞○ノ たつたの山の 鶯のこゑ○ハ
02.0109
うくひすのなくをよめる
▼うくひすのなくノをよめる
そせい
木つたへはをのか羽風に散花を誰におほせてこゝらなくらん
▼木つたフト ジブンノ羽風デ 散花ジヤニ 誰におほせて コノイカイコトなくデアロウゾ
02.0110
鶯の花の木にてなくをよめる
▼鶯ガ花の木デなくをよめる
みつね
しるしなき音をもなく哉鶯のことしのみちる花ならなくに
▼ゲンノナイ 音をサテモなくコトカナ 鶯ガ ことしバツカリちる 花デハナイノニ
▲ 此一句言マワシテ心ウベシ
02.0111
題しらす 読人しらす
駒なめていさみにゆかん故郷は雪とのみこそ花は散らめ
▼駒○ヲナラベテ ドリヤみにゆかウ 故郷は 雪トミヘルヤウニバツカリナニヨリモ 花は散デアロウズレ
02.0112 ∥2句「●」左傍
ちる花を何かうらみん世中に我身もともにあらん物かは
▼ちる花を ナンノ〈か●〉うらみウゾイノ 世中に 我身もイツシヨに あらウ物カイ〈2字歟抹消〉ノ
02.0113
小野小町
1.023.2
花の色はうつりにけりな徒にわか身世にふるなかめせしまに
▼花の色は うつツテシマウタコトジヤナア ムザゝヽト わか身○ノ世にふる なかめヲシテヰタ間ニ
02.0114
仁和の中将のみやすん所の家に哥合せんと
▼仁和の中将のみやすん所の家デ哥合○ヲせウと
しける時によめる
▼イタシマシタ時によめる
そせい
おしと思ふ心はいとによられなん散花ことにぬきてとゝめん
▼おし○イと思ふ 心はいとノヤウニ よられテクレ〈1字抹消〉イ 散花トイフ花ヲ ツナイデとゝめウ
02.0115
志賀山越に女のおほくあへりけるによみて
▼志賀山越デ女ガイカイコトユキアヒマシタノによンデ
つかはしける 貫之
▼つかはしマシタ
梓弓はるの山へをこえくれはみちもさりあへす花そ散ける
▼〈梓弓○○〉 はるの山ノ方を こえテクルト みちもヨケテヰルマモナウ 花ガナニカシラズ散ルコトジヤ
02.0116
寛平御時きさいの宮の哥合の哥
春の野にわかなつまんとこし物を散かふ花に道はまとひぬ
▼春の野に わかな○ヲつまウと○思フテ キタ物ジヤニ 散かふ花デ 道はまとフテシマウタ
02.0117
山寺にまうてたりけるによめる
▼山寺にサンケイシテヲリマシ〈タ歟抹消〉テよめる
1.024.1
やとりして春の山へにねたるよは夢のうちにも花そ散ける
▼トマツて 春の山ノ方に ねテイルよは 夢のうちにも 花ガナニカシラズ散ルコトジヤ
02.0118
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
吹風と谷の水としなかりせはみ山かくれの花をみましや
▼吹風と 谷の水とガ コノヤウニナヒニシテミタラバ み山かくれの 花をみヨウカイ
02.0119
志賀よりかへりけるをうなともの花山に入て
▼志賀カラモドツテマイル女と〈゛〉も〈ガ抹消〉ガ花山ヘハイツて
藤花のもとに立よりてかへりけるによみてをくり
▼藤花のシタヘ立よツてイニマシタノによンテヤリ
ける 僧正遍昭
よそにみてかへらん人に藤の花はひまつはれよ枝はおるとも
▼ヒトヽホリみて かへらウ人に 藤〈1字歟抹消〉の花ヨ ○はひまトクレよ ○タトヘ枝はおると○云〈抹消歟〉テ〈1字抹消〉も
02.0120
家に藤花さけりけるを人の立とまりて見
▼家に藤花○ノゴザリマシタノヲ人ガ立とまツて見
けるをよめる
躬恒
わかやとにさける藤波立かへりすきかてにのみ人のみるらん
▼わかやとに さイテアル藤波○ヲ ナセ立モドリ すき〈か゛〉ニクウハツカリ 人ガみるデアロウゾ
1.024.2
02.0121
題しらす よみ人しらす
今もかもさき匂ふらん橘のこしまのさきの山吹の花
▼今ト云ドモ〈かも●●〉 さき匂ふデアロウカサ〈モ歟抹消〉テモ 橘の こしまのさきの 山吹の花○ハ
02.0122
春雨ににほへる色もあかなくにかさへなつかし山ふきのはな
▼春雨デ にほフテアル色も あかヌノニ かマデガなつかし○イゾ 山ふきのはな○ハ
02.0123
やまふきはあやなゝさきそ花みんとうへけん君かこよひこなくに
▼やまふきは ムチヤ〈1字末梢〉ニさクコトハ必スナ 花○ヲみヨウと○云テ うへタデアロウ君か こよひキモセヌノニ
02.0124
よし野川のほとりに山吹のさけりけるをよめる
▼よし野川のヘンに山吹ガさイテゴザリマシタノをよめる
貫之
よし野川きしの款冬ふく風に底のかけさへうつろひにけり
▼よし野〈○末梢〉川○ノ きしの款冬○ガ ふく風デ 底のかけマデガ うつろフテシマウタコトジヤ
02.0125
題不知 よみ人しらす
蛙なく井手の款冬ちりにけり花のさかりにあはまし物を
▼蛙○ノなく 井手の款冬○ガ ちツテシマウタコトジヤ 花のさかりに あはウデアツタノニ
▲カイル
この哥はある人のいはくたちはなのきよともかうたなり
▼この哥はある人の申スニハたちはなのきよともかうたジヤト
▲ 清原贈太政大臣 嵯峨后父
02.0126
春の哥とてよめる そせい
1.025.1
思とち春の山へにうちむれてそこともいはぬ旅ねしてしか
▼気ノアフタドウシ 春の山ノ方に うちむれて そこと定メタコトモナイ 旅ね○ヲして○ミタイコトカナ
02.0127
はるのとくすくるをよめる
▼はるのハヤウすギる○ノをよめる
みつね
梓弓はる立しより年月のいるかことくもおもほゆる哉
▼〈梓弓○○〉 はる○ガ〈2字歟重ね書き〉タツテカラ 年月ガ 矢ヲイルトヲナジ位ニサテモ おもハレルコトカナ
02.0128 ∥詞書注なし。第1句傍訓は,訳注時の記入とも思われるが,訳注も加えられているので,本体として扱う。
やよひに鶯の声のひさしうきこえさりける
をよめる つらゆき
鳴《なき》とむる花しなけれは鶯もはては物うく成ぬへら也
▼なイテとメる 花ガコノヤウニナイニヨツテ 鶯も シマイはキブシヤウニ ナツテシマウハツニ思ハルヽ
02.0129
やよひのつこもりかたに山をこえけるに山川
▼やよひの月末に山をこえマシタガ山川
より花のなかれけるをよめる
▼カラ花ガなかれけるをよめる
深養父
花ちれる水のまにゝヽとめくれは山には春もなく成にけり
▼花○ノちツテアル 水ニツイテ サガシテクルトコロガ 山には春も なウ成ツテシマウタコトジヤ
1.025.2
02.0130
春をおしみてよめる
▼春をおしンデよめる
元方
おしめともとゝまらなくに春霞かへるみちにし立ぬと思へは
▼おしムケレドモ とゝまリモセヌノニ 春〈ガ歟抹消〉霞○ガ イヌルみちヘコノヤウニ タツテシマウタと思フテミルト
02.0131
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
興風
声たえすなけや鶯一とせにふたゝひとたにくへき春かは
▼声たえズニ なけサ鶯○ヨ 一年に 二度トテモ くルハヅナ春カイノ
02.0132
やよひのつこもりの日花つみよりかへりける
▼やよひのつこもりの日花つみカラモドリマシタ
女ともをみてよめる
躬恒
とゝむへき物とはなしにはかなくも散花ことにたくふ心か
▼とゝメソウナ 物と〈2字歟に重ね書き〉イワデハナイノニ はかなウサテモ 散花○トイフ花ことに ツレダツ心カナ
▲ 女ニ比セリ
02.0133
やよひのつこもりの日雨のふりけるに藤花を
▼やよひのつこもりの日雨ガふりマシタに藤花を
1.026.1
おりて人につかはしける
▼おツて人につかはしける
なりひらの朝臣
ぬれつゝそしゐて折つる年の内に春はいくかもあらしと思へは
▼ぬれナリニ何ハトモアレ ゼヒトモニ折ツタゾ ネンナヒに 春はいくかも あルマイと思フニヨツテ
02.0134
亭子院の歌合に春のはてのうた
▼亭子院の歌合に春のシマイのうた
みつね
けふのみと春を思はぬ時たにもたつことやすき花のかけかは
▼けふハツカリと 春を思はぬ 時デサヘも たつこと○ノシヨイ 花のかけカイノ