富士谷御杖 訳古今集 初稿 巻第四
1.030.2
古今和歌集巻第四
秋哥上
04.0169
秋たつ日よめる 藤原敏行朝臣
秋きぬとめにはさやかに見えねとも風の音にそおとろかれぬる
▼秋ガきテシマウタト めにはハツキリト 見えヌケレドモ 風の音デナニカシラズ おとろかれテシマウゾ
04.0170 ∥詞書注「マヰマシテ」は「リ」欠落歟
秋たつ日うへのをのことも賀茂のかはらに
▼秋たつ日殿上人とも賀茂のかはらデ
かはせうえうしけるともにまかりてよめる
▼かはユサンヲイタシマシタともにマヰマシ〈タ抹消〉テよめる
貫之
河風の涼しくもあるかうちよする浪とともにや秋は立らん
▼河風ガ 涼しウサテモあるコトカナ うちよセる 浪とイツシヨニ〈や●〉 秋は立デアロウカ
04.0171
題不知 よみ人しらす
わかせこか衣のすそを吹かへしうらめつらしき秋の初かせ
▼わかせこか 衣のすそを 吹かへし うらめつらしイ 秋の初かせ○ヤ
04.0172 ∥訳注なし
きのふこそさなへとりしかいつのまにいなはそよきて秋風のふく
▼きのふこそ さなへとりしか いつのまに いなはそよきて 秋風のふく
1.031.1
04.0173
秋風の吹にし日より久堅のあまの河原にたゝぬ日はなし
▼秋風ガ 吹イテシマウタ日カラ 〈久堅の◎◎◎〉 あまの河原にたゝぬ日はなイ
◆〈2句「吹」右傍朱筆〉ふき ∥訳注「イテシマウタ」はその右,他の訳注と比べて本体から離れる
04.0174
久かたの天のかはらのわたしもり君わたりなはかちかくしてよ
▼〈久かたの◎◎◎◎◎〉 天のかはらの わたしもり○ヨ 君○ガわたツテシマウタラバ かち○ヲかくしテクレヨ
04.0175
天河もみちを橋にわたせはや七夕つめの秋をしもまつ
▼天河○ニ もみちを橋に わたスニヨツテ〈や●〉 七夕つめガ 秋をカギツテもまつ○カ
04.0176
こひゝヽてあふよはこよひ銀河霧たちわたりあけすもあらなん
▼こひゝヽて あふよはこよひ○ジヤゾ 銀河○ニ 霧たちわたツテ あけすニドウゾアツテクレイ
◆〈3句「銀河」左傍朱筆〉天川
04.0177
寛平御時なぬかの夜うへにさふらふをのこ
▼寛平御時なぬかの夜殿上ニツメテヰルをのこ
とも哥たてまつれとおほせられける時に人
▼とも○ニ哥サシアゲイトおほせられける時に人
にかはりてよめる
▼にかはツてよめる
とものり
あまの河あさ瀬しら浪たとりつゝわたりはてねは明そしにける
▼あまの河○ノ あさ瀬○ヲシラヌノデしら浪 たとツテ〈ツ歟抹消〉ソレナリニ わたりシマワヌノニ ナニカシラズ明〈そ●〉テシマウタコトジヤ
▲ ウチヨセナリ
04.0178
おなし御とき后の宮の哥合のうた
藤原興風
1.031.2
契けん心そつらき織女の年に一たひあふは逢かは
▼契ツタデアロウ 心ガナニカシラズつらイ 織女の 年に一たひ あふノハ逢ノカイ〈ノ抹消〉
04.0179
なぬかの日の夜よめる
凡河内躬恒
年ことにあふとはすれと七夕のぬるよの数そすくなかりける
▼マイネンに あふとはスルケレド 七夕の ネルよの数ガナニカシラズ すくなウアルコトジヤ
04.0180
たなはたにかしつる糸のうちはへて年のをなかく恋やわたらん
▼たなはたに かしタソノ糸ノヤウニ うちはへて 年のをなかウ 恋〈や●〉わたロウカ
04.0181
題不知 そせい
こよひこん人にはあはし七夕のひさしき程に待もこそすれ
▼こよひこウ 人にはあフマイ 七夕の ひさしイ程に 待ナドモスレバワルイニ
04.0182 ∥第2句訳注「〈る〉」は,歌「ゝ」右傍が空白のままである
なぬかのよのあかつきによめる
源むねゆきの朝臣
今はとてわかるゝ時は天河わたらぬさきに袖そひちぬる
▼今はトイフテ わかレ〈る〉時は 天河○ヲ わたらぬさきに 袖ガ何カシラズひちテシマウ
04.0183
やうかの日よめる みふのたゝみね
1.032.1
けふよりは今こん年のきのふをそいつしかとのみ待わたるへき
▼けふカラは ヲ〈1字抹消〉ツツケコウ年の きのふをナニカシラズ イツノコトゾトハツカリ 待わたリソウナ
04.0184
題しらす よみ人しらす
木のまよりもりくる月の影みれは心つくしの秋はきにけり
▼木のまカラ もりくる月の 影○ヲみれは 心つくしの 秋はきテシマウタコトジヤ
04.0185
おほかたの秋くるからに我身こそかなしき物と思ひしりぬれ
▼ゼンタイの 秋○ガくるニツケテ 我身ヲナニカシラズ かなしイ物ジヤト 思ひしツテシマウタレ
◆〈第3句訳「カシラズ」に朱筆で重ね書き〉ヨリモ
04.0186
我ためにくる秋にしもあらなくに虫のねきけはまつそ悲しき
▼我ために くる秋ニカギルデモ アリモセヌノニ 虫のね○ヲキクト ナニカナシニナニカシラズ悲しイ
▲ 一番ガケニ
04.0187
物ことに秋そ悲しきもみちつゝうつろひ行をかきりと思へは
▼物トイフホドノ物ガ 秋ハナニカシラズ悲しイ モミヂシイゝヽシテ うつろひ行ノヲ かきりジヤトキガツクト
04.0188
ひとりぬる床は草葉にあらねとも秋くるよひは露けかりけり
▼ひとりネる 床は草葉デ アリモセヌケレド 秋くるよひは 露けクアルコトジヤ
04.0189
これさたのみこの家の哥合のうた
いつはとは時はわかねと秋のよそもの思ふことのかきりなりけり
▼いつはトイフテハ 時はわかヌケレド 秋のよハナニカシラズ もの思ふことの かきりデアルコトジヤ
04.0190
かむなりのつほに人ゝヽあつまりて秋の夜おし
▼かむなりのつほに人ゝヽあつまツて秋の夜○ヲおし
む哥よみけるついてによめる
1.032.2
みつね
かくはかりおしと思ふよをいたつらにねてあかすらん人さへそうき
▼コレホド おし○イと思ふよを ムザゝヽト ねてあかすデアロウ 人マデナニカシラズうイ
04.0191 ∥4句訳「サ」は「デ」であるべき歟。墨色が濃く,後筆かもしれない。
題しらす よみ人しらす
しら雲にはねうちかはし飛雁の数さへみゆる秋のよの月
▼しら雲に はね○ヲうちかはし○テ 飛雁の 数マサガみゆる 秋のよの月○ヤ
04.0192 ∥5句訳「○ノガ」は,まず「ノ」と記して改めて「ガ」と記した歟。あるいは「わたる」の後に補入したつもり歟。
さ夜中とよは更ぬらし雁かねのきこゆる空に月わたるみゆ
▼さ夜中と よは更テシマウタコトソウナ 雁かねの きこヱる空に 月○ノガわたるみヱルゾ
04.0193
これさたのみこの家の哥合によめる
大江千里
月みれは千々に物こそ悲しけれ我身ひとつの秋にはあらねと
▼月○ヲみルト 千々に物ガナニヨリモ 悲しイコトナレ 我身ひとつの 秋デはアリモセヌケレド
04.0194
忠岑
久かたの月の桂も秋は猶もみちすれはやてりまさるらん
▼〈久かたの◎◎◎◎◎〉 月の桂トイヘトモ 秋はヤツハリ もみちすルニヨツテ〈や●〉 てりまさるデアロウカ
04.0195
月をよめる 在原元方
1.033.1
秋の夜の月の光しあかけれはくらふの山もこえぬへら也
▼秋の夜の 月の光ガコノヤウニ あかイニヨツテ くらふの山と云ドモ こえテシマイソウニオモハルヽ
04.0196 ∥詞書訳「□」不明,「シ」第1画に見える点状のもの一つあり,「シ」を記し始めて中止した歟
人のもとにまかれりける夜きりゝヽすのなき
▼人のもとヘマヰリマ□シタ夜きりゝヽすガなき
けるをきゝてよめる
▼けるをきイてよめる
藤原たゝふさ
きりゝヽすいたくな鳴そ秋のよのなかき思は我そまされる
▼きりゝヽす○ヨ キツウ〈な●〉鳴クナ 秋のよの なかイ思は 我ガナニカシラズまさツテアル
04.0197
是貞のみこの家の哥合のうた
としゆきの朝臣
秋のよのあくるもしらすなくむしは我こと物や悲しかるらん
▼秋のよの あケルノモしらす○ニ なくむしは 我トヲリニ物○ガ〈や●〉 悲しウアルデアロウカ
04.0198
題不知 よみ人しらす
秋萩も色つきぬれは蛬わかねぬことやよるは悲しき
▼秋萩ナドモ 色つイテシマウタニヨツテ 蛬○モ わかねぬトヲリニ〈や●〉 よるは悲しイカ
04.0199
あきの夜は露こそことにさむからし草むらことに虫のわふれは
▼あきの夜は 露○ガナニヨリモベツダンニ さむウアルソウナ 草むらトイフ草村ニ 虫ガわふルノハ
1.033.2
04.0200
君しのふ草にやつるゝ故郷は松むしのねそ悲しかりける
▼君○ヲしのふ 草デやつレル 故郷は 松むしのねガナニカシラズ 悲しウアルコトジヤ
04.0201
秋の野にみちもまとひぬ松虫の声するかたに宿やからまし
▼秋の野デ みちもまとフテシマウタガ 松虫の 声○ノするかたに 宿○ヲ〈や●〉からウカ
04.0203 ∥0202歌は欠落,0205の後に朱筆で補われる。
もみち葉のちりてつもれる我やとに誰を松虫こゝら鳴らん
▼もみち葉の ちツてつもツテアル 我やとに 誰を松虫 コノイカイコト鳴テアロウゾ
04.0204
ひくらしの鳴つるなへに日は暮ぬと思ふは山の陰にそ有ける
▼ひくらしの 鳴イタソノヤサキニ 日は暮テシマウタハト 思ふは山の 陰デナニカシラズアルコトジ〈1字抹消〉ヤ
04.0205
日くらしのなく山里の夕暮は風より外にとふ人もなし
▼日くらしの なく山里の 夕暮は 風より外に とふ人ナドモなイ
04.0202 ∥行間に朱筆で書き記す。訳注カタカナは墨筆。
秋の野に人まつむしの声すなりわれかとゆきていさとふらはん
▼秋の野に 人○ヲまつむしの 声ガスルワイ われかとゆきて ドリヤとふらはウ
04.0206
はつかりをよめる 在原元方
まつ人にあらぬ物から初かりのけさ鳴こゑのめつらしき哉
▼まつ人デ ナイモノヽクセニ 初かりの けさ鳴こゑガ めつらしイコトカナ
04.0207
是貞のみこの家の哥合のうた
とものり
秋風に初かりかねそ聞ゆなるたか玉章をかけてきつらん
▼秋風デ 初かりかねカナニカシラズ 聞ヱルワイ タレガフミを かけてきタノ〈デ抹消〉ジヤゾ
04.0208
題しらす よみ人しらす
1.034.1
我門にいなおほせ鳥のなくなへにけさ吹風に雁はきにけり
▼我門デ いなおほせ鳥ガ なくヤサキニ けさ吹風に 雁はきテシマウタコトジヤ
04.0209
いとはやも鳴ぬる雁か白露の色とる木々も紅葉あへなくに
▼イカウハヤウサテモ 鳴イテシマウ雁カナ 白露ガ 色とる木々ト云トモ 紅葉テヰルマモナイノニ
04.0210
春霞かすみていにし雁かねは今そ鳴なる秋霧のうへに
▼春霞 かすみてインダ 雁かねは 今ナニカシラズ鳴ワイ 秋霧のうへデ
04.0211
よを寒み衣かりかね啼なへに萩の下葉もうつろひにけり
▼よガ寒サニ 衣○ヲかりかね 啼ヤサキに 萩の下葉ナドモ うつろフテシマウコトジヤ
この哥はある人のいはく柿本人丸かなりと
▼この哥はある人のいはく柿本人丸か○哥シヤト申マスル
04.0212
寛平御時后の宮の哥合のうた
藤原菅根朝臣
秋風に声をほにあけてくる舟はあまのとわたる雁にそ有ける
▼秋風に 声をほノヤウニあけて くる舟は あまのとわたる 雁デナニカシラズアルコトジヤ
04.0213
雁の鳴けるをきゝてよめる
躬恒
うきことを思ひつらねて雁かねの鳴こそわたれ秋のよなゝヽ
▼うイことを 思ひツヾケて 雁かねガ 鳴ナニヨリモわたれ 秋のマイヨゝヽ
1.034.2
04.0214
是貞のみこの家の哥合の哥
忠岑
山里は秋こそことに侘しけれ鹿のなくねにめをさましつゝ
▼山里は 秋ガナニヨリモカクベツニ 侘しイコトナレ 鹿のなくねデ めをサマシゝヽシテ
04.0215
よみ人しらす
おく山に紅葉ふみわけなく鹿のこゑ聞時そ秋は悲しき
▼おく山デ 紅葉○ヲふみわけ なく鹿の こゑ○ヲ聞時ガナニカシラズ 秋は悲しイ
04.0216
題しらす
秋はきにうらひれをれはあし引の山下とよみ鹿の鳴らん
▼秋はきデ 〈ボの゛抹消歟〉ホ〈ト歟に重ね書き〉ツトシテヰルトコロニ 〈あし引の◎◎◎◎◎〉 ○ナセ山下ヒヾクホド 鹿ガ鳴テアロウゾ
04.0217
あき萩をしからみふせて鳴鹿のめにはみえすて音のさやけさ
▼あき萩を しからみふせて 鳴鹿ガ めにはみえズニアツテ 音ガハツキリトシタコトハイ
04.0218
これさたのみこの家の哥合に
藤原としゆきの朝臣
秋萩の花さきにけり高砂の尾上の鹿はいまやなくらん
▼秋萩の花○ガ さイテシマウタコトジヤ 〈高砂の◎◎◎◎◎〉 尾上の鹿は イマゴロ〈や●〉なくデアロウガ
1.035.1
04.0219 ∥2句訳に楷書「枝」とあり,歌の行書についての注
むかしあひしりて侍ける人の秋の野にあひ
▼むかしチカヅキデゴザリマシタ人ガ秋の野デあフ
てものかたりしけるついてによめる
▼てハナシヲイタシマシタついてによめる
みつね
秋萩のふる枝にさける花みれはもとの心はわすれさりけり
▼秋萩の フルイ枝にサイテアル 花○ヲみタトコロガ もとの心は わすれズニアルコトジヤ
▲〈2句歌「枝」行書の中,おそらく読み仮名〉ヱ
04.0220 ∥作者「よみ」脱落歟
題不知 人しらす
あき萩の下葉色つく今よりや独ある人のいねかてにする
▼あき萩の 下葉○ノ色つく 今カラ〈や●〉 独ある人ガ いネニクガルデアロウカ
04.0221
鳴わたる雁の涙やおちつらん物思ふやとの萩の上の露
▼鳴わたる 雁の涙カ〈や●〉 おちタノデアロウカ 物思ふやとの 萩の上の露○ハ
04.0222
萩の露玉にぬかむととれはけぬよしみむ人は枝なからみよ
▼萩の露○ヲ 玉ノヤウニぬかウト思フテ とれは消テシマウタ ヨイハサテミヨウト思フ人は 枝ナリニみよ
ある人のいはくこのうたはならのみかとの御哥也と
04.0223 ∥1句訳「ツ」は「ヲツ」であるべき歟
折てみはおちそしぬへき秋萩の枝もたはゝにをけるしら露
▼折ツてみタラバ おちテナニカシラズシマイソウナ 秋萩の 枝ナドモタワムホドニ をイテアルしら露○ガ
04.0224
萩か花散らんをのゝ露霜にぬれてをゆかんさ夜は更とも
▼萩か花○ノ 散デアロウをのゝ 露霜に ぬれてコチハゆかウ ○タトヒさ夜はフケルトイフテモ
1.035.2
04.0225
是貞のみこの家の哥合によめる
文屋あさやす
秋の野にをくしら露は玉なれやつらぬきかくるくものいとすち
▼秋の野に をくしら露は 玉ジヤヤラ つらぬきかケる くものいとすち○ヲミレハ
04.0226 ∥1句訳「名」もある
題しらす 僧正遍昭
名にめてゝおれるはかりそ女郎花我おちにきと人にかたるな
▼名デ賞翫シテ おツタはかりジヤゾ 女郎花○ヲ 我おちテシマウタと 人にかたるな
04.0227
僧正遍昭かもとにならへまかりける時におとこ
▼僧正遍昭かもとヘト志シテならへマヰりマシタ時におとこ
山にてをみなへしをみてよめる
▼山デをみなへしをみてよめる
ふるのいまみち
女郎花うしとみつゝそ行過るおとこ山にしたてりと思へは
▼女郎花 キガヽリナコトとみテソレナリニ何カシラズ 行過る おとこ山にコノヤウニ たツテヰルと思フニヨツテ
04.0228
これさたのみこの家の哥合のうた
敏行朝臣
1.036.1
秋の野にやとりはすへし女郎花名をむつましみたひならなくに
▼秋の野に やとりはシソウナ 女郎花 名ガむつましサニ たひデハナヒノニ
04.0229
題不知 をのゝよしき
をみなへしおほかる野へにやとりせはあやなくあたの名をや立なん
▼をみなへし おほクアル野へに やとりシタラバ ムヤクニあたの 名を〈や●〉タツテシマハウ
04.0230
朱雀院の女郎花合によンテサシアゲ
▼朱雀院の女郎花合によみてたてまつり
ける 左のおほいまうちきみ《本院贈太政大臣》
をみなへし秋の野風にうちなひき心ひとつを誰によすらん
▼をみなへし 秋の野風に うちなひイテ 心ひとつを 誰によセルデアロウゾ
04.0231
藤原定方朝臣 《三条右大臣》
秋ならてあふことかたき女郎花あまのかはらにおひぬ物ゆへ
▼秋デナウテハ あふことノムツカシキ 女郎花 あまのかはらに ハヱヌモノヽクセニ
04.0232
貫之
たか秋にあらぬ物ゆへ女郎花なそ色に出てまたき移ふ
▼たか秋デ アリモセヌモノヽクセニ 女郎花 ナンジヤゾ色に出て ハヤカラ移ふゾ
04.0233
躬恒
1.036.2
妻こふる鹿そ鳴なる女郎花をのかすむ野の花としらすや
▼妻○をこふる 鹿ガナニカシラズ鳴ワイ 女郎花 オテマヘかすむ野の 花としらヌカヤ
04.0234
をみなへし吹過てくる秋風はめにはみえねとかこそしるけれ
▼をみなへし 吹過てくる 秋風は めにはみえヌケレド かガナニヨリモ明白ナレ
◆〈3句歌「え」に朱筆で重ね書き〉へ
04.0235
忠岑
人のみることやくるしき女郎花秋霧にのみ立かくるらん
▼人のみる ことガ〈や●〉ジユツナイカ 女郎花 秋霧にハツカリ 立かくレルデアロウ
▲ シヾウ
04.0236
ひとりのみ詠るよりはをみなへし我すむ宿にうへてみましを
▼ひとりハツカリ 詠メるよりは をみなへし 我すむ宿に うへてみヨウノニ
◆〈2句歌「詠」左傍朱筆〉なかむ
04.0237 ∥詞書訳「外方」は「ほかざま」「そとざま」「とかた」などで定め難い。直後の「へ」は歌のもので,訳注ではない。
∥詞書2行訳「ゴザ」は歌「り」とともに「ゴザり」である歟
物へまかりけるに人の家にをみなへしうへ
▼外方へマヰリマシタ所ガ人の家にをみなへし○ヲうへ
▲アル所
たりけるをみてよめる
▼テゴザマシタノヲみてよめる
兼覧王
女郎花うしろめたくもみゆる哉あれたるやとに独たてれは
▲女郎花○ガ コヽロガヽリニサテモ みゆるコトカナ あれテアルやとに 独タツテヰルニヨツテ
04.0238
寛平御時蔵人所のをのこともさか野に
▼寛平御時蔵人所のをのことも○ガさか゛野ヘ
花みんとてまかりたりけるときかへるとて
▼花○ヲみヨウト申シテマヰリマシタときモドルト申シテ
1.037.1
みな哥よみけるついてによめる
▼みな哥○ヲよみけるついてによめる
平貞文
花にあかて何かへるらん女郎花おほかる野へにねなまし物を
▼花にフソクナニ ナニシニモドルノデアロウゾ 女郎花○ノ タントアル野へに ねテシマハウ物ジヤニ
04.0239
是貞のみこの家の哥合によめる
敏行朝臣
なに人かきてぬきかけし蘭くる秋ことに野へを匂はす
▼なに人○ガ〈か●〉 きてぬきかけタノゾ 蘭 くる秋ことに 野へを匂はす○ハ
04.0240
ふちはかまをよみて人につかはしける
▼ふちはかまをよンデ人につかはしける
貫之
やとりせし人のかたみか藤はかま忘られかたきかに匂ひつゝ
▼やとりヲシタ 人のかたみか 藤はかま○ハ 忘られニクイ かに匂ひニホヒスル
04.0241
蘭をよめる そせい
ぬししらぬ香こそ匂へれ秋のゝにたかぬきかけし藤はかまそも
▼ぬし○ヲしらぬ 香ガナニヨリモ匂フテヰレ 秋のゝに タレガぬきかけタ 藤はかまジヤゾサテモ
1.037.2
04.0242
題しらす 平さたふむ
今よりはうへてたにみし花薄ほに出る秋はわひしかりけり
▼今カラハ うへてデモみマイゾ 花薄○ノ ほにデル秋は わひしウアルコトジヤ
04.0243
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
在原むねやな
秋の野の草の袂か花薄ほに出てまねく袖とみゆらん
▼秋の野の 草ガ袂〈か●〉 花薄○ガ ほに出てまねく 袖とみヱルデアロウハ
04.0244
素性法師
我のみやあはれと思はむ蛬なく夕かけのやまとなてしこ
▼我ハツカリ〈や●〉 あはれと思はウカヤ 蛬 なく夕かけの やまとなてしこ○ハ
04.0245
題不知 よみ人しらす
みとりなるひとつ草とそ春はみし秋は色ゝヽの花にそ有ける
▼みとりナ ヒトイロノ草とナニカシラズ 春はみタガ 秋は色ゝヽの 花デナニカシラズ有ルコトジヤ
04.0246
もゝ草の花のひもとく秋の野に思ひたはれん人なとかめそ
▼もゝ草の 花ガひもとく 秋の野デ 思ひタハムレウホドニ 人〈な●〉とかめテクレナ
04.0247
月草に衣はすらん朝露にぬれての後はうつろひぬとも
▼月草デ 衣はすらウ 朝露に ぬれてカラ後は イロガカハツテシマハウとも
1.038.1
04.0248
仁和の御門みこにおはしましける時ふるの滝御
▼仁和の御門○ノみこデゴザアラセラレマシタ時ふるの滝○ヲ御
▲ 親王
覧せんとておはしましけるみちに遍昭か母の
▼覧アソバソウト思召テオイデアソバサレマシタみちに遍昭か゛母の
家にやとり給へりける時に庭を秋の野につくり
▼家に○オやとりアソバサレマシタ時に庭を秋の野につくり
ておほん物かたりのついてによみてたてま
▼て〈○オ抹消〉御ハナシのついてによンてサシア
つりける 僧正遍昭
▼ゲマシタ
里はあれて人はふりにし宿なれや庭も籬もあきの野らなる
▼里はあれて 人はふりテシマウタ 宿ジヤニヨツテ〈や●〉 庭も籬も あきの野ノヤウニアルノカ