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富士谷御杖 訳古今集 初稿 巻第一
1.010.2
古今和歌集巻第一
春哥上
01.0001
ふるとしに春たちける日よめる
▼ネンナイに春ノたちマシタ日ニよミマシタ○歌トイフ字ヲ略シケル也以下倣之
在原元方
年の内に春はきにけり一とせをこそとやいはむことしとやいはん
▼ネンナイに春はきテシマウタコトジヤ一とせをこそと〈や●〉いはウカことしと〈や●〉いはウカ
春たちける日よめる 紀貫之
01.0002
袖ひちてむすひし水のこほれるを春たつけふの風やとくらん
▼袖ヲヒタシテスクウタ水ガこほツテアルノを春たつけふの風ガ〈や●〉とくデアロウカ
▲ 手ニテ也
01.0003
題しらす よみ人しらす
春霞たてるやいつこみよしのゝよしのゝ山に雪はふりつゝ
▼春霞ノたツテアルノハ〈や●〉ドコジヤゾみよしのゝよしのゝ山に雪はふりテソレナリニ
01.0004
二条のきさきの春のはしめの御うた
雪のうちに春はきにけり鴬のこほれる涙いまやとくらん
▼雪のうちにはるはきテシマウタコトジヤ鴬のこほツテアル涙イマノマニ〈や●〉とくデアロカ
1.011.1
01.0005
題しらす 読人しらす
梅かえにきゐる鴬春かけてなけともいまた雪はふりつゝ
▼梅かえにきテゐる鴬ガ春ヘかけてなクケレドモマダ雪はふりフリスル
▲ 冬カラ
01.0006
雪の木にふりかゝれるをよめる
▼雪ガ木にふりかゝツテアルノをよめる
素性法師
春たては花とやみらん白雪のかゝれる枝に鴬のなく
▼春ガタツト花と〈や●〉みルデアロカ白雪のかゝツテアル枝に鴬ガなく○ノハ
題しらす よみ人しらす
01.0007
こゝろさしふかくそめてし折けれは消あへぬ雪の花とみゆらん
▼こゝろさしヲふかくそめてコノヤウニヲツタモノジヤニヨツテ消テヰルマモナイ雪ガ花とみヱルノカシラヌ
ある人のいはくさきのおほきおほいまうちきみの哥也
▼ある人ガイフニハさきのおほきおほいまうちきみの哥ジヤト
▲ 太 政 大 臣
01.0008
二条のきさきの春宮のみやすん所ときこえ
▼二条のきさきガ春宮のみやすん所と一統ニ申マシ
けるとき正月三日おまへにめしておほせことある
▼タジブン正月三日ゴセンヘめして御意ナドある
あひたに日はてりなから雪のかしらにふりかゝり
▼あひたに日はてりナリニ雪ガかしらにふりかゝり
1.011.2
けるをよませ給ける 文屋やすひて
▼マシタノをよまサセラレマシタ
春の日の光にあたる我なれとかしらの雪となるそ侘しき
▼春の日の光にあたる我ジヤケレドかしらガ雪ト云ヤウニなるガナニカシラズコマツタコトジヤ
▲東宮ノ御恩ニタトフ
01.0009
雪のふりけるをよめる
▼雪ガふりマシタノをよめる
きのつらゆき
霞たち木のめも春の雪ふれは花なきさとも花そ散ける
▼霞モたち木のめも春の雪ガフルト花○ノ木ノなイさとナドモ花ガナニカシラズ散ルコトヂヤ
▲ 張ニヨセタリ
01.0010
春のはしめによめる
ふちはらのことなを 《言直\》
春やとき花や遅きときゝわかん鶯たにもなかすもある哉
▼春ガ〈や●〉サキカ花ガ〈や●〉アトカときゝわかウ為ノ鴬デサヘモ○サテモなかヌコトデハ〈も●〉あるコトカナ
01.0011
春のはしめのうた みふのたゝみね
春きぬと人はいへとも鶯のなかぬかきりはあらしとそ思ふ
▼春ガきテシマウタと人はいフケレドモ鶯のなかぬウチは○春デハあルマイとナニカシラズ思ふ
01.0012
寛平御時きさいの宮の歌合のうた
▼寛平ノ帝ノ御代ニきさいの宮の歌合のうた
1.012.1
源まさすみ 《当純》《近院右大臣\男》
谷風にとくる氷のひまことにうち出る波や春のはつ花
▼谷風デとケる氷のアハヒト云アハヒニうち出る波ガ〈や●〉春のはつ花カ
01.0013
紀とものり
花のかを風のたよりにたくへてそ鶯さそふしるへにはやる
▼花のかを風のたよりにツレダヽセテナニカシラズ鶯ヲさそふ案内にはやる
01.0014
大江千里
鶯の谷よりいつる声なくは春くることを誰かしらまし
▼鶯の谷カラいつる声ガナヒナラバ春ノくることを誰ガ〈●か〉しらウゾ
01.0015
在原棟梁 《業平朝臣男》
春たてと花も匂はぬ山里は物うかるねにうくひすそ鳴
▼春ガタツタレド花ナドモ匂はぬ山里はシンキソウナねにうくひすガナニカシラズ鳴
▲ 身ノコト也 気ノウカヌ
01.0016
題しらす 読人しらす
野辺ちかく家ゐしをれは鶯の啼なる声は朝なゝヽきく
▼野辺ちかウ家ゐヲ此ヤウニシテヰルト鶯の啼ワイソノ声はマイアサきく
01.0017
かすか野はけふはなやきそ若草のつまもこもれり我もこもれり
▼かすか野は○カナラズけふは〈な●〉やイテクレナ〈若草の○○○○○〉つまもこもツテヰル我もこもツテヰル
1.012.2
01.0019 ∥歌の配列は01.0018に先立つ。訳注はない。
み山には松の雪たに消なくにみやこは野への若なつみけり
01.0018 ∥歌の配列は01.0019の後である。
春日野の飛火の野守いてゝみよ今いくかありて若なつみてん
▼春日野の飛火の野守ヨいてゝみよマアいくか○ホドありて○カラ若なヲつンデヨカロゾ
01.0020
梓弓をして春雨けふ降ぬあすさへふらはわかなつみてん
▼〈梓弓○○○○○〉をして春雨ガけふフツタガあすマデふルナラバわかなヲつンデヨカロゾ
01.0021
仁和のみかとみこにおましゝヽける時に人にわ
▼仁和のみかとガみこデゴサアラセラレマシタジフンニ人にわ
▲ 親王
かなたまひける御うた
▼かなヲクダサレマシタ御うた
君かため春の野に出てわかなつむ我衣手に雪はふりつゝ
▼ソコモトノため○ニト思ウテ春の野ヘ出てわかなヲつむワシガソデに雪はふりフリシタ
01.0022
哥たてまつれとおほせられし時よみてたてま
▼哥ヲサシアゲヨとおほせツケラレタ時よみてサシアゲ
つれる つらゆき
▼マシタ
かすかのゝ若なつみにや白妙の袖ふりはへて人のゆくらん
▼かすかのゝ若な○ヲつみに〈や●〉〈白妙の○○○○○〉袖ヲふりノバシて人ガゆくノカシラス
▲ ワザゝヽト
01.0023
題しらす 在原行平朝臣
春のきる霞の衣ぬきを薄み山風にこそみたるへらなれ
▼春ガきる霞の衣ノぬきガ薄サニ山風にナニヨリモみたレルデアリソウニ思ハルヽ
1.013.1
01.0024
寛平御時きさいの宮の歌合によめる
源むねゆきの朝臣
ときはなる松の緑も春くれは今ひとしほの色まさりけり
▼ときはナ松の緑ト云ドモ春ガクルトマアひとしほの色ガまさルコトジヤ
01.0025
歌たてまつれとおほせられし時によみてたてま
▼歌ヲサシアゲイトおほせツケラレタ時によみてサシアゲ
つれる つらゆき
▼マシタ
わかせこか衣春雨ふることに野への緑そ色まさりける
▼〈わかせこか○○○○○〉〈衣○〉春雨ガふる○タビことに野への緑ガナニカシラズ色ガまさルコトジヤ
01.0026 ∥訳注なし
青柳の糸よりかくる春しもそ乱て花のほころひにける
01.0027
西大寺のほとりの柳をよめる
▼西大寺のヘンの柳をよめる
僧正遍昭
浅みとり糸よりかけて白露を玉にもぬける春の柳か
▼浅みとりニ糸ヲよりかけて白露を玉ノヤウニ〈●も〉ツナイデアル春の柳デモアルコトカナ
01.0028
題しらす 読人不知
1.013.2
百千鳥さえつる春は物ことにあらたまれとも我そふり行
▼百千○ノ鳥○ノさえつる春は物ト云ホドノモノガあらたまルケレドモ我ハナニカシラズふり行
01.0029
をちこちのたつきもしらぬ山中におほつかなくも喚子鳥哉
▼アッチコッチのトリツキト云ドモしらぬ山中にフシギニサテモ喚子鳥デハアルコトカナ
01.0030
かりのこゑをきゝてこしへまかり〈に見消〉ける人をお
▼かりのこゑをきゝてこしへマイリマシタ人をお
もひてよめる 凡河内躬恒
春くれは雁かへるなり白雲のみち行ふりにことやつてまし
▼春ガクルト雁ガイヌルワイ〈白雲の○○○○○〉ソノツヒデニコト〈や●〉ヅテヲセウカ
▲ 又白雪
01.0031
帰雁をよめる 伊勢
春霞たつをみすてゝ行雁は花なき里にすみやならへる
▼春霞○ノたつ○ノをみすてゝ行雁は花ノ木ノなイ里にすみ〈や●〉ツケテヰルコトカ
01.0032
題しらす よみ人しらす
折つれは袖こそ匂へ梅花ありとやこゝにうくひすのなく
▼ヲツタソジヤニヨツテ袖ガナニヨリモ匂フコトナレ梅花ガありト思テ〈や●〉こゝにうくひすガなくカ
01.0033
色よりも香こそ哀とおもほゆれ誰袖ふれし宿の梅そも
▼色よりも香ガナニヨリモ哀とおもハルヽコトナレダレ袖ヲサヘタ宿の梅ジヤゾサテモ
01.0034
宿近く梅のはなうへしあちきなくまつ人のかにあやまたれけり
▼宿近ウ梅のはなハうへ〈し゛〉マイゾあちきなくまつ人のニホヒにトリチガヘラレタコトヂヤ
1.014.1
01.0035
むめの花立よるはかりありしより人のとかむるかにそしみける〈ぬる見消〉
▼むめの花立よるバツカリデあツタカラ人ガとかメるかにナニカシラズシユンタコトジヤ
01.0036
むめの花をおりてよめる
東三条の左のおほいまうちきみ
▼ 源常
▲ 大 臣
鶯の笠にぬふてふ梅花おりてかさゝんおひかくるやと
▼鴬ガ笠にぬふトイフ梅花○ジヤカラおりてかさゝウ○モシおひ○ガかくレルカと
01.0037
題しらす 素性法師
よそにのみあはれとそみし梅花あかぬ色香は折てなりけり
▼よそデバツカリあはれとナニカシラズみし梅花アキタラヌホドナ色ヤ香はオツてノウヘノコトジヤ
▲ ○ジヤガ
01.0038
梅花をおりて人にをくりける
▼ ツカハシマシタ
とものり
君ならてたれにかみせん梅花色をもかをも知人そしる
▼君デナシニハダレに〈か●〉みせウゾ梅花色をもかをも知人ガナニカシラズしる
01.0039
くらふ山にてよめる
つらゆき
1.014.2
むめの花にほふ春へはくらふ山やみにこゆれとしるくそ有ける
▼むめの花○ノにほふ春へはくらふ山○ヲやみにこエルケレドハツキリトナニカシラズ有ルコトジヤ
01.0040
月夜に梅花をおりてと人のいひけれはおるとて
▼月夜に梅花をおりて○クレト人ガいひマシタニヨツテおると○申シて
よめる みつね
月夜にはそれともみえす梅花かを尋てそしるへかりける
▼月夜デはそれともみえヌ梅花○ジヤカラかを尋てナニカシラズしるガヨイコトジヤ
01.0041
春の夜むめの花をよめる
春の夜のやみはあやなし梅花色こそみえねかやはかくるゝ
▼春の夜のやみはムヤクナゾ梅花ハ色ハナニヨリモみえマイケレかハ〈やは●●〉かくレルカヤ
01.0042 ∥詞書第1行訳「ヽ」未詳,第3行訳第1挿入「○ガ申スニハ」
はつせにまうつることにやとりける人の家にひさ
▼はつせにサンケイノタビゴトニトマリヽマシタ人の家にひさ
しくやとらてほとへてのちにいたれりけれはかの
▼しウトマラズニヤツトシテカラのちにサジマシタトコロガかの
家のあるしかくさたかになむやとりはあるといひ
▼家の亭主○ガ申スニハコノヨフニシツカリトナやとりはゴザル○ソレニ君ノ心ハアトカタモナクナリタリと○人ヲモツテ内カラいひ
▲ 女ナリ
いたして侍けれはそこにたてりけるむめの花
▼いたしマシタニヨツテそこにタツテゴザリマシタむめの花
をおりてよめる つらゆき
▼をおツてよめる
1.015.1
人はいさ心もしらす故郷は花そむかしの香ににほひける
▼人はドウアルカ心ナドモしらヌガ故郷は花ハナニカシラズむかしの通リノ香デにほフテアルコトヂヤ
01.0043
水のほとりにむめの花さけりけるをよめる
▼水のソバにむめの花さイテゴザリマシタをよめる
伊勢
春ことになかるゝ河を花とみておられぬ水に袖やぬれなん
▼マイ春ゝヽなかレル河を花とみておられぬ水デ袖ガ〈や●〉ぬれルヤウニナロカ
01.0044
年をへて花の鏡となる水は散かゝるをやくもるといふらむ
▼年をへて花の鏡となる水は散かゝる○ノを〈や●〉くもるといふデアロ〈ウ見消〉カ
▲ 塵ニヨセタリ
01.0045
家にありけるむめの花の散けるをよめる
▼家にゴザりマシタむめの花の散けるをよめる
つらゆき
くるとあくとめかれぬ物を梅花いつの人まにうつろひぬらん
▼クレルトイヒアケルトイヒ目モハナサヌ物ジヤノニ梅花いつのアイダにうつろフテシマウタコトジヤシラヌ
01.0046
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
よみ人しらす
むめかゝを袖にうつしてとゝめては春はすくともかたみならまし
▼むめかゝを袖にうつしてとゝめテヲイタナラバ春はすギルとイフテモかたみデアラウ
1.015.2
01.0047
素性法師
散とみてあるへき物を梅花うたてにほひの袖にとまれる
▼○ハア散○ハとみてスマサレソウナ物ジヤノニ梅花ヱシレモナウにほひガ袖にとまツテアルゾ
01.0048
題しらす よみ人しらす
ちりぬともかをたに残せむめの花こひしき時の思いてにせん
▼ちツテシマウともかをナリトモ残せむめの花ヨこひしイ時の思いてにせウホドニ
01.0049
人の家にうへたりけるさくらの花さきはしめ
▼人の家にうへテゴザリマシタさくらガ花さきはしめテ
たりけるを見てよめる
▼ゴザリマシタノを見て
つらゆき
ことしより春しりそむる桜花ちるといふことはならはさらなん
▼ことしカラ春ヲしりそメる桜花○ジヤカラドウゾちるといふことはクセヅカズニアツテクレイ
01.0050 ∥左注補入「○ホ」
題しらす よみ人しらす
山たかみ人もすさめぬさくら花いたくなわひそ我みはやさむ
▼山○ガたかサニ○賞翫スベキ人ト云トモ賞翫セヌさくら花○ナレドキツウ〈な●〉コマリヤルナヲレガ見テ顔ヲ立テヤロウホドニ
又はさとゝをみ人もすさめぬ山さくら
▼又はさとガゝ〈を見消〉○ホサニ人もすさめぬ山さくら
1.016.1
01.0051
山さくらわかみにくれは春霞みねにもおにも立かくしつゝ
▼山さくら○ヲワシ〈か゛〉みにくルト○イヂワルウ春霞○ガ〈○イヂワルウ見消〉みねにもおにも立かくし立カクシスルゾ
01.0052
そめとのゝきさきのおまへに花かめにさくらの花
▼そめとのゝきさきのゴゼンにクハヒンにさくらの花
をさゝせたまへるをみてよめる
さきのおほきおほいまうちきみ
▼忠仁公 摂政太政大臣
年ふれはよはひは老ぬしかはあれと花をしみれは物思ひもなし
▼年ガヘルトよはひは老テシマウガソウハ〈数字抹消〉ソウナレド花をサヘみルト物思ひもなイゾ
▲ 后ニ比ス御女ナレバナリ
01.0053
なきさのゐんにてさくらをみてよめる
▼なきさのゐんデさくらをみてよめる
在原業平朝臣
世中にたえて桜のなかりせは春の心はのとけからまし
▼世中にたえて桜ガなイニシテミタラバ春の心はノンドリトシテアラウゾ
▲ 暗ニ二条后ニ比ス
01.0054
題しらす 読人しらす
いしはしる滝なくもかな桜花たをりてもこんみぬ人のため
▼いしはしる滝ガドウゾナク〈も●〉シタヒコトヤ桜花○ヲたをりてナリトこウみぬ人のためニ
1.016.2
01.0055 ∥詞書欠,注で補入
▼山さくらをみてよめる
素性法師
みてのみや人にかたらん桜花手ことにおりて家つとにせん
▼みてバツカリ〈や●〉人にかたらウカヤ桜花手ことにおツてミヤゲにせウ
01.0056
花さかりに京を見やりてよめる
見わたせは柳さくらをこきませて都そ春の錦なりける
▼見わたせは柳○トさくら○トをこきませて都ハナニカシラズ春の錦デアルコトジヤ
▲ 穂ナドシゴキオトシタ形容ヲ云
01.0057 ∥詞書第2行注記は原状右傍
さくらの花のもとにて年のおひぬることをなけ
▼さくらの花のもとデ年のおひテシマウことをなけ
▲ トイキ
きてよめる きのとものり
▲ツクコト
色もかもおなしむかしにさくらめと年ふる人そあらたまりける
▼色もかもおなしむかしノ通リニさくデアロウズレドモ年ふる人ハナニカシラズあらたまルコトジヤ
▲ 桜ヲヨセタリ 即カハルコト也
01.0058
おれるさくらをよめる
▼おツテアルさくらをよめる
つらゆき
誰しかもとめておりつる春霞立かくすらん山のさくらを
▼誰ガコノヨウニ〈か●〉サテモとめておりタノジヤゾ春霞ガ立かくすデアロウ○ソノ山のさくらを
01.0059
哥たてまつれとおほせられし時によみてたてまつれる
▼哥たてまつれとおほせ○ツケられし時によみてたてまつれる
1.017.1
桜花さきにけらしもあし引の山のかひよりみゆるしら雲
▼桜花○ガさイテシマウタコトソウナサテモ〈あし引の○○○○○〉山のオチアイカラみヱるしら雲ハ
01.0060
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
とものり
みよしのゝ山辺にさける桜花雪かとのみそあやまたれける
▼みよしのゝ山ノ方にさイテアル桜花雪かとハツカリナニカシラズトリチガヘラレルコトヂヤ
01.0061 ∥詞書「の」は前字「月」右下に小さくあって,補入と見える
やよひにうるふ月《の\》ありけるとしによみける
▼三月にうるふ月ガゴザリマシタとしによみける
伊勢
さくら花春くはゝれる年たにも人の心にあかれやはせぬ
▼さくら花○ハ春ノヒトツヨケヒナ年デサヘモ人の心にあかれ〈やは●●〉ヌカヤ
01.0062 ∥詞書第1行注「シ」は「ミ」の誤りであろう
さくらの花のさかりにひさしくとはさりける人の
▼さくらの花のさかりにひさしウシマワレマセナンダ人の
きたりける時によみける
▼サンジマシタ時によみける
よみ人しらす
あたなりと名にこそたてれ桜花年に稀なる人も待けり
▼あたナと名にこそたツテアレ桜花○ハ年に稀ナ人ト云トモマツタコトヂヤ
1.017.2
01.0063
返し 業平朝臣
けふこすはあすは雪とそふりなまし消すは有とも花とみましや
▼○モシけふこヌナラバあすは雪とナニカシラズふツテシマハウ○タトヒ消すニハアルトイフテモ花とみヨウ〈数字抹消〉カヤ
01.0064
題しらす よみ人しらす
ちりぬれはこふれとしるしなき物をけふこそ桜おらはおりてめ
▼ちツテシマ〈ハ抹消〉ウタトイフテハこふルケレドソノゲンハなイ物ジヤニけふナニヨ〈一字抹消〉リモ桜○ヲおルナラハおツテシマ〈一字抹消〉ハウズレ
01.0065
折とらはおしけにもあるか桜花いさやとかりて散まてはみん
▼折とツタナラバおしソウにサテモあるコトカナ桜花ドリヤやと○ヲかツて散まてはみヨウゾ
▲右二首問答ノ心ニ並ベタリ
01.0066
きのありとも
桜色に衣はふかく染てきん花の散なん後のかたみに
▼桜色に衣はふかく染てきヨウゾ花ガチツテシマハウ後のかたみに
01.0067 ∥補入第3は「○花ノ」
さくらの花のさけりけるをみにまうてきたり
▼さくらの花のさイテゴザリマシタノをみにマイリマシ
ける人によみてをくりける
▼タ人によみてをくりける
みつね
わかやとの花みかてらにくる人は散なん後そ恋しかるへき
▼わかやとの花○ヲみかてらに○ミマイニくる人は○花ノチツテシマハウ後ニハナニカシラズ恋しウアリソウナ
1.018.1
01.0068 ∥補入は「○花ノ」
亭子院歌合の時よめる
伊勢
みる人もなき山さとの桜花外の散なん後そさかまし
▼みる人もなイ山さとの桜花外の○花ノチツテシマハウ後ニナニカシラズさかウ