富士谷御杖 訳古今集 初稿 巻第六
1.047.1
古今和歌集巻第六
冬哥
06.0314
題しらす よみ人しらす
竜田河錦をりかく神な月しくれの雨をたてぬきにして
▼竜田河○ヘ 錦○ヲをりカケルゾ 神な月 しくれの雨を たて○トぬき○トにして
06.0315
冬の哥とてよめる
▼冬の哥と○申シてよめる
源宗于朝臣
山さとは冬そさひしさまさりける人めも草もかれぬと思へは
▼山さとは 冬○ハナニカシラズさひしさ○ガ まさツタコトジヤ 人めナドモ草ナドモ かれテシマウと思フテ〈1字歟に重ね書き〉ミレバ
06.0316
題しらす よみ人しらす
大空の月の光し清けれは影みし水そまつこほりける
▼大空の 月の光ガソノヨウニ 清イニヨツテ 影○ヲみタ水○ガナニカシラズ 一バン〈1字歟に重ね書き〉カケニこほツタコトジヤ
06.0317
夕されは衣手さむしみよしのゝよしのゝ山にみ雪降らし
▼夕ニナルト ソ〈゛抹消〉デ○ガさむイゾ みよしのゝ よしのゝ山に み雪○ガ降コトソウナ
06.0318
今よりはつきてふらなん我やとの薄をしなみふれる白雪
▼今カラは 引ツヾイてふツテクレイ 我やとの 薄○ヲをしナビカシテ ふツテアル白雪○ヨ
1.047.2
06.0319 ∥3句訳注圏点4個原状
ふる雪はかつそけぬらし足引の山の滝つせをとまさるなり
▼ふる雪は 片テニナニカシラズ消テシマウコトソウナ 〈足引の◎◎◎◎〉 山の滝つせ○ノ をと○ガまさるなワイ
06.0320
この河にもみちはなかる奥山の雪けの水そ今まさるらし
▼この河に もみちは○ガなかレル 奥山の 雪けの水○ガナニカシラズ 今まさるコトソウナ
06.0321
ふるさとはよしのゝ山し近けれはひとひもみ雪ふらぬ日はなし
▼ふるさとは よしのゝ山ガソノヤウニ 近イニヨツテ イチニチデモみ雪○ノ ふらぬ日はなイ
06.0322
わかやとは雪降しきてみちもなし踏分て問人しなけれは
▼わかやとは 雪○ガフリゝヽシテ みちナドモなイ 踏分てミマウ 人ガソノヤウニなイニヨツテ
06.0323
冬の哥とてよめる 紀貫之
▼冬の哥と○申シてよめる
雪ふれは冬篭せる草も木も春にしられぬ花そ咲ける
▼雪○ガフルト 冬篭○ヲシテヰル 草ナドモ木ナドモ 春にしられぬ 花○ガナニカシラズ咲ける
◆〈5句「咲ける」左傍,朱筆〉散ける〈歌「咲ける」を二重線で見せ消ち,墨筆。朱筆「ける」右傍,墨筆〉ルコトシヤ
06.0324
志かの山こえにてよめる
▼志かの山こえテよめる
紀あきみね
しら雪の所もわかす降しけはいはほにも咲花とこそみれ
▼しら雪ガ 所ナドモわかヌヤウニ フリシコルト いはほにナドモ咲 花とナニヨリモみれ
06.0325
ならの京にまかれりける時にやとれりける所にて
▼ならの京ヘマイリマシテゴザリマスル時にトマリマシテゴザリマスル所デ
よめる 坂上これのり
1.048.1
みよしのゝ山の白雪つもるらし故郷さむく成まさるなり
▼みよしのゝ 山の白雪○ガ つもるコトソウナ 故郷○ガさむウ 成まさるワイ
06.0326
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
ふちはらのおきかせ
浦近く降くる雪は白波の末の松山こすかとそみる
▼浦近ウ 降ツテくる雪は 白波ガ 末の松山○ヲ こすかとナニカシラズみる
06.0327
壬生忠岑
みよしのゝ山のしら雪踏分て入にし人の音つれもせぬ
▼みよしのゝ 山のしら雪○ヲ 踏分て イツテシマウタ人ガ 音つれナドモせぬ
06.0328
しら雪の降てつもれる山さとはすむ人さへや思ひ消らん
▼しら雪の 降ツてつもツテヰル 山さとは すむ人マデガ〈や●〉 キヱヰルヨウニナルデアロウカ
06.0329
雪のふれるをみてよめる
▼雪のふル○ノをみてよめる
凡河内みつね
雪降て人もかよはぬみちなれや跡はかもなく思ひきゆらん
▼雪○ガ降ツて 人ナドモかよはぬ みちジヤニヨツテ 跡はかもなウ キヱヰルノデアロウカ
06.0330
雪のふりけるをよみける
1.048.2
きよはらのふかやふ
冬なから空より花の散くるは雲のあなたは春にやあるらん
▼冬ナリニ 空カラ花ガ 散ツテくる○ノは 雲のアチラは 春デ〈や●〉あるデアロウカ
06.0331
ゆきの木にふりかゝれりけるをよめる
▼ゆきの木にふりかゝツテゴザリマシタノをよめる
つらゆき
冬こもり思かけぬを木のまより花とみるまて雪そふりける
▼冬こもり○デ 思かけぬノニ 木のまカラ 花とみるまて 雪○ガナニカシラズふルコトジヤ
06.0332
やまとのくにゝまかれりける時に雪のふりけるを
▼やまとのくにヘマヰリマシテゴザリマ〈シタ抹消〉スル時に雪のふりマシタノを
みてよめる 坂上これのり
朝ほらけあり明の月とみるまてによしのゝ里にふれる白雪
▼朝ほらけ○ジヤニ あり明の月と みるまてに よしのゝ里に ふツテヰル白雪○カナ
06.0333
題しらす よみ人しらす
けぬか上に又もふりしけ春霞立なはみ雪稀にこそみめ
▼キヱヌソノ上に 又ト云ドモふりカサナレ ○モシ春霞○ガタツヨウニナツタラバみ雪○ハ 稀にナニヨリモみヨウズレ
06.0334
梅花それともみえす久かたのあまきる雪のなへてふれゝは
▼梅花 それ○ジヤトとナドモみえヌゾ 〈久かたの◎◎◎◎◎〉 空ノミヘヌホドフル雪ガ イチメンニふツテヰルニヨツテ
1.049.1
この哥ある人のいはくかきのもとの人まろか哥也
▼この哥サル人ガ申スニハかきのもとの人まろか哥ジヤト
06.0335
むめの花にゆきのふれるをよめる
小野たかむらの朝臣
花の色は雪にましりてみえすともかをたに匂へ人の知へく
▼花の色は 雪にイリコンデ みえヌト云テモ かをナリトモ匂へ 人ガシリ〈テ抹消〉ソウニ
◆〈5句「知」左傍,朱筆〉しる
06.0336
雪のうちの梅のはなをよめる
きのつらゆき
梅のかのふりをける雪にまかひせは誰かことゝヽわきておらまし
▼梅のかガ ふりをイテヰル雪デ まかフニシテミタラバ 誰ガ〈か●〉ソレソレ わケておらウゾ
06.0337
ゆきのふりけるをみてよめる
紀とものり
雪ふれは木ことに花そ咲にけるいつれを梅とわきておらまし
▼雪ガフルト 木ト云木ニ花○ガナニカシラズ 咲テシマウタコトジヤ ドレを梅○ジヤと わケておらウゾ
06.0338 ∥4句左傍訳注2行書き
ものへまかりける人をまちてしはすのつこもりによ
▼サル所へマヰリマシタ人をまツてしはすのつこもりによ
1.049.2
める みつね
我またぬ年はきぬれと冬草のかれにし人は音つれもせぬ
▼我またぬ 年はきテシマウタケレド 冬草ノヤウニ かれテシマウタ人は 音つれナドモせヌゾ
▲ ハナレテ\枯ト放トニヨスル也
◆〈5句「ぬ」を朱筆で抹消,その下に朱筆〉す〈その左傍,墨筆〉ヌ
06.0339
としのはてによめる 在原もとかた
▼としのシマイによめる
あらたまの年のをはりに成ことに雪もわか身もふりまさりつゝ
▼〈あらたまの◎◎◎◎◎〉 年のシマイに 成タビゴトに 雪ナドモわか身ナドモ ふりまさりつゝ
▲ 古ト降トニヨスル也
06.0340
寛平御時きさいの宮の哥合のうた
よみ人しらす
雪ふりて年のくれぬる時にこそつゐにもみちぬ松もみえけれ
▼雪○ガふツて 年のくれテシマウ 時にナニヨリモ トウゝヽもみちセヌ 松ナドモみえルコトナレ
06.0341
としのはてによめる はるみちのつらき
▼としのシマイによめる
きのふといひけふとくらしてあすか河流てはやき月日なりけり
▼きのふといひ けふと○イフテくらして あすか河 流てはやイ 月日デハアルコトジヤ
06.0342
哥たてまつれとおほせられし時によみてたて
▼哥○ヲサシアゲトおほせツケラレタ時によみてサシ
まつれる 紀つらゆき
▼アゲマシタ
1.050.1
ゆく年のおしくもある哉ます鏡みるかけさへにくれぬとおもへは
▼ゆく年ガ おしくウサテモもあるコトカナ ます鏡 みるかけマデガ くれテシマウトおもフニヨツテ