富士谷御杖 訳古今集 初稿 巻第九
1.59.2
古今和歌集巻第九
羇旅哥
09.0406 ∥訳「○波ノ上ニ月ガアルガ」は3句左傍に記されている。5句訳「出」は訳文中にある。
もろこしにて月をみてよみける
▼もろこしデ月をみてよみける
安陪仲麿
あまの原ふりさけみれはかすかなるみかさの山に出し月かも
▼あまの原○ヲ トホウ見ノゾンダトコロガ○波ノ上ニ月ガアルガ かすかニアル みかさの山デ 出タ月カサテモ
この哥はむかしなかまろをもろこしにものならはし
▼この哥はむかしなかまろをもろこしヘガクモン
につかはしたりけるにあまたの年をへてえかへり
▼につかはしたりマシタトコロガあまたの年をへてヨウモドツテ
まうてこさりけるをこのくにより又つかひまかり
▼マヰリマセナンダガこのくにカラ又遣唐使○ガマヰリ
いたりけるにたくひてまうてきなんとていてたち
▼ツキマシタノニツレタツテマヰロウトゾンジテいてたち
けるにめいしうといふところのうみへにてかのくにの
▼マシタ処ガ明〈明抹消〉州といふところのうみへ゛デかのくにの
人むまのはなむけしけりよるになりて月の
▼人○ガセンベツヲイタシマシタよるになツて月ガ
1.60.1
いとおもしろくさしいてたりけるをみてよめるとなん
▼イカウおもしろウさしいてマシタノをみてよめる○ノジヤとナア
かたりつたふる
▼かたりつたヘマシタ
09.0407
おきのくにゝなかされける時にふねにのりていて
▼おきのくにヘなかされマシタ時にふねにのツていて
たつとて京なる人のもとにつかはしける
▼たつと○申シて京ニアル人のもとヘつかはしける
小野たかむらの朝臣
わたの原八十島かけて漕いてぬと人にはつけよあまの釣舟
▼わたの原○ヲ オホクノ島○ヲかけて 漕いてテシマウタト 人にはつけよ あまの釣舟○ヨ
09.0408
題しらす 読人しらす
都いてゝけふみかのはらいつみ河かはかせさむし衣かせ山
▼都○ヲいてゝ けふみかのはら いつみ河 かはかせ○ガさむイ 衣○ヲかせ山
▲〈2句「み」以下左傍〉見ルトカケタル也 〈5句「かせ」以下左傍〉借トカケタル也
09.0409 ∥左注2行訳「○」原状
ほのゝヽとあかしのうらの朝霧に島かくれ行舟をしそ思ふ
▼ホンノリト あかしのうらの 朝霧に 島ヘか゛くれ行 舟をソノヤフニナニカシラズ思ふ
このうたはある人のいはくかきのもとの人まろ
▼このうたはサる人カ申スニハかきのもとの人まろ
かうたなり
▼か○うたジヤト
1.60.2
09.0410 ∥詞書2行訳「マヰイ」原状
あつまのかたへともとする人ひとりふたりいさなひて
▼あつまの方へともとイタス人ひとりふたりサソヒアフテ
いきけりみかはのくにやつはしといふ所にいたれりける
▼マヰイマシタみかはのくにやつはしといふ所にイキツキマシタ
にその河のほとりにかきつはたいとおもしろくさけり
▼処ニその河のヘンにかきつはた○ガイカウおもしろウサイテゴザリ
けるをみて木のかけにおりゐてかきつはたと
▼マシタノヲみて木のかけヘ○馬カラおりゐてかきつはたと
いふいつもしをくのかしらにすへてたひの心を
▼いふいつもし゛をくのウヘヘすへてたひ゛の心を
よまむとてよめる
▼よまウト申シてよめる
在原業平朝臣
から衣きつゝ馴にしつましあれははるゝヽきぬる旅をしそ思ふ
▼から衣 きテソレナリニ馴テシマウタ つま○ガソノヤフニアルニヨツテ はるゝヽきテシマウタ 旅をソノヤウニナニカシラズ思ふ
09.0411 ∥詞書1行訳注なし
むさしのくにとしもつふさのくにとの中にある
▼むさしのくにとしもつふさのくにとの中にある
すみたかはのほとりにいたりてみやこのいと恋し
▼すみたかはのヘンヘイキツイてみやこガイカウ恋し
うおほえけれはしはし河のほとりにおりゐて思
▼うオモワレマシタニヨツテチトノマ河のヘンヘ○馬カラおりゐて思
1.61.1
やれはかきりなくとをくもきにけるかなと思
▼やルトコロガかきりなウとをウサテモきテシマウタコトカナとホツ
わひてなかめをるにわたしもりはや舟にのれ日も
▼トシテウツトリトシテイタ処ニわたしもり○ガハヤウ舟にのれ日も
くれぬといひけれは舟にのりてわたらんとするに
▼くれテシマウといひマシタニヨツテ舟にのツてわたらウとイタス処ニ
みな人ものわひしくて京に思ふ人なくしも
▼みな人ウソわひしウて京に思ふ人○ガなイデモ
あらすさるおりにしろきとりのはしとあしと
▼ナイサウアルおりにしろイとりのクチバシとあしと○ノ
あかき河のほとりにあそひけり京にはみえぬ
▼あかイノ○カ河のヘンデあそンデヰマシタ京デはみえぬ
とりなりけれはみな人みしらすわたしもりにこ
▼とりデゴザリマシタニヨツテみな人みしらす○ソコデわたしもりにこ
れはなにとりそととひけれはこれなんみやこ鳥
▼れはなにとりジヤゾととひマシタ処ガこれ○ガナアみやこ鳥○ジヤ
といひけるをきゝてよめる
▼といひマシタノをきイてよめる
名にしおはゝいさことゝはむ都鳥わか思ふ人はありやなしやと
▼名にソノヤフニオフテヰルコトナラバ ドリヤことゝはウ 都鳥○ヨ わか思ふ人は あルカなイカと
09.0412
題しらす よみ人しらす
1.61.2
北へ行かりそ鳴なるつれてこし数はたらてそ帰るへらなる
▼北へ行 かり○ガナニカシラズ鳴ワイ ツレダツテキタ 数はたらズニナニカシラズ イヌルデアリソウニ思ハルヽ
この哥はある人おとこ女もろともに人のくにへま
▼この哥はサる人男女もろともに他国へマ
かりけりおとこまかりいたりてすなはち身まかり
▼ヰリマシタおとこマヰリツキマシテヤニワニ死ンデシマイ
にけれは女ひとり京へかへりけるみちにかへるかりの
▼マシタニヨツテ女ひとり京へモドリマスみちデかへるかりの
なきけるをきゝてよめるとなんいふ
▼なきマシタノをきイてよミマシタとナア申マスル
09.0413 ∥作者「乙」欠落原状
あつまのかたより京へまうてくとてみちにてよ
▼あつまの方カラ京へマヰリマスルト云テみちテよ
める
山かくす春のかすみそうらめしきいつれ都のさかひなるらん
▼山○ヲかくす 春のかすみ○ハナニカシラズ うらめしイゾ ドレガ都の さかひデアルデアロウゾ
09.0414
こしのくにへまかりける時しら山をみてよめる
▼こしのくにへマヰリマシタ時しら山をみてよめる
みつね
きえはつる時しなけれはこしちなるしら山の名は雪にそ有ける
▼きえヌク 時○ガソノヤフニなイニヨツテ こしちニアル しら山の名は 雪デナニカシラズ有ルコトジヤ
1.62.1
09.0415
あつまへまかりける時みちにてよめる
▼あつまへマヰリマスル時みちデよめる
つらゆき
いとによる物ならなくに別路の心ほそくもおもほゆる哉
▼いとノヤフニよる 物デハナイノニ 別路ガ 心ほそウサテモ おもハレルコト〈2字歟に重ね書き〉カナ
09.0416
かひのくにへまかりける時みちにてよめる
みつね
夜をさむみをく初霜をはらひつゝ草の枕にあまた旅ねぬ
▼夜ガさむサニ をく初霜を はらフテソレナリニ 草の枕に 数旅ねぬ
◆〈5句訳「数」朱筆で抹消し,その右傍に朱筆〉あまたゝひねぬ 〈そのさらに右傍,墨筆〉数ヘンねテシマウタ
09.0417
たちまのくにのゆへまかりける時にふたみのうらと
▼たち゛まのくにのゆへマヰリマシタ時にふたみのうらと
いふ所にとまりてゆふさりのかれいひたうへけるに
▼いふ所にとまツて夕さりの飯ヲタ〈へ゛〉ベマシタ処〈1字抹消〉ニ
ともにありける人ゝヽうたよみけるついてによめる
▼ともデヲリマシタ人ゝヽうた○ヲよみマシタついてによめる
ふちはらのかねすけ
ゆふつく夜おほつかなきを玉くしけふたみの浦はあけてこそみめ
▼ゆふつく夜○デ トラマヘドコロモナイノニ○ソレコヨヒ見ルハムヤクナコトヨ 〈玉くしけ◎◎◎◎◎〉 ふたみの浦は ○夜ガあけてナニヨリモみヨウズレ
1.62.2
09.0418
これたかのみこのともにかりにまかりける時にあまの
▼これたかのみこのともにかりにマヰリマシタ時にあまの
河といふ所のかはのほとりにおりゐてさけなと
▼河といふ所のかはのヘンに○馬カラおりゐてさけなと
のみけるついてにみこのいひけらくかりして
▼のみマシタついてにみこガオホセラルヽコトニハかり○ヲして
あまのかはらにいたるといふ心をよみてさかつ
▼あまのかはらヘいたるといふ心をよンデさかつ
きはさせといひけれはよめる
▼きは○コノ方させとオホセラレタニヨツテよめる
なりひらの朝臣
かりくらしたなはたつめにやとからんあまのかはらに我はきにけり
▼かりくらし たなはたつめに やと○ヲからウ あまのかはらヘ 我はきテシマウタコトジヤ
09.0419
みこのうたをかへすゝヽよみつゝ返しえせすなり
▼みこのうたをナンベンモゝヽ〈モ抹消〉よみテソレナリニヘン哥ヲヨウせすなツテ
にけれはともに侍てよめる
▼シマイマシタニヨツテともデヲリマシてよめる
きのありつね
一とせにひとたびきます君まては宿かす人もあらしとそ思ふ
▼イチネンニ ○タツタイチドゴサル 君○ヲまツテヰテハ 宿かす人ナド あルマイトナニカシラズ思ふ
1.63.1
09.0420
朱雀院のならにおはしましたりける時にたむ
▼朱雀院ガならヘオ出アソバサレ〈1字歟抹消〉マシタ時にたむ
け山にてよみける
▼け山デよみける
すかはらの朝臣
このたひはぬさもとりあへす手向山もみちの錦神のまにゝヽ
▼コンドは ぬさナドモとりあへヌカラ 手向山○ノ もみちの錦○ヲ 神の御心次第ニナサレ
09.0421
素性法師
たむけにはつゝりの袖もきるへきにもみちにあけるかみやかへさむ
▼たむけには 袈裟ノ袖デモ きるハヅジヤニ もみちにアイテヰル かみ○ガ〈や●〉かへさウカ