M-1グランプリ2021雑感〜ギミックからバカの時代へ〜

ツイートで言ったことがだいたいすべてなのですが、頭の中にいろいろあるので整理がてら書き残しておこうと思います。

今年のM-1、2020年のマヂカルラブリーの優勝により、これまでの競技漫才的なボケの数で笑いを積み重ねていって爆発を目指す定石が崩れ、とにかくキャラで序盤から爆発させてそれを如何に持続させたまま終われるかの戦いになってる。20年やって一周回ってものすごい変革期が来た。

最終決戦が始まるまでは、ほとんど誰もが「オズワルドの優勝でしょ」って思っていたところから錦鯉が優勝をかっさらう流れは、久しぶりに感じた「これがM-1なんだよな~」って展開のM-1でした。最終決戦までは絶対にオズワルドが優勝するもんだと思っていました。

本編あとのGYAO!の特番で伊藤さんも言っていましたが、観ていた人の半分以上がそう思っていたのではないでしょうか。本編の最後の最後、富澤さんと塙さんが泣いていたのがとても印象的でした。

今年のM-1は「漫才の変革の瞬間に立ち会えた」というのが僕の感想です。

番組スタートからの30分のうちの前フリの中で、マヂカルラブリー優勝までの軌跡が紹介されると共に、優勝によって芸人たちの心境に変化があったことが触れられていました。「これは漫才なのか?漫才じゃないのか?」が世間的にも話題になったこといによって、「大漫才時代」が到来し、「漫才とは?」という問いをすべての芸人が見直すことになった。出た答えは「笑かしたヤツが一番」であり「おもしろければよい」ということ。

これはつまり、参加芸人の多くは「(和牛やかまいたち世代の洗練されきった)ギミックの時代から、自分たちがおもしろいことをやればよいという時代に変わったんだ」と考えていた、そのような意識変革があったということの表れと感じました。その結果、一番の大バカを貫き通した錦鯉が優勝した格好です。

今、2019年のM-1、一度見直してみてください。ギミックすごすぎます(笑)。

和牛、かまいたちのような、緻密・精密に4分間で笑いを積み上げていくスタイルではなく、大技を一発キメて、キャラを完璧にハメた上で進行する、マヂカルラブリーに近いスタイルが目立ったのが今年のM-1です。ランジャタイやモグライダー、優勝した錦鯉はもちろん、ハライチの大ボケ一発で全編を貫くスタイルもある種それに近いもののように思います。(近年ではトレンディエンジェルの優勝がそれに近い)

ただ、錦鯉の漫才は、ギミックこそ少ないですが実はめちゃくちゃ技巧に満ちています。今大会でツッコミが一番うまいのも渡辺さんで、GYAO!の打ち上げ番組では濱家さんが、まさにクレッシェンドのように「次第に強く」を4分間で表現する能力は渡辺さんが圧倒的に高いと評すほどでした。

ギミックがそもそも少ない設計だからこそ、2本目の「じいさんの頭を最後にゆっくり…」の伏線回収(という名のギミック)を発動した瞬間が、この大会で一番の爆発があったように思います。

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後半は、もうひとつおまけに別の角度のお話。

僕はお笑いは、世の中の空気の写し鏡だと思っています。たまに、「今日の日本における“空気を読む”や“寒い”という概念をつくりだしたダウンタウンは社会の害悪である」というようなことを言う人がいますが、そうではなくて、世の中の空気がそういう方向に傾いていたのを敏感に感じ取って自らの笑いに変えていったのがダウンタウンだったんだと思います。

近年のお笑いが持つ空気というのは、M-1で言えば主にぺこぱのツッコミが象徴的である「やさしいお笑い」「誰も傷つけないお笑い」が主流です。特に第7世代の芸人は、人を傷つけたり蔑んだりするようなボケ・ツッコミはまずしません。

そんな中で、ハライチは全編を通して「否定」を続ける漫才を見せました。「否定する人」「否定する人を否定する人」「否定する人を否定する人を否定する人」、否定がどんな効果を持つのか意味がわからなくなるような構成です。

岩井さんがGYAO!の打ち上げ番組でも繰り返していた「僕らはあれがやりたかったんで、やれてよかったです」というのは、「岩井が叫んで暴れるネタ」を意味していそうなものですが、もしかしたらそうではなくて、「肯定しかない漫才」に対するアンチテーゼであり、「やさしいお笑い」に対する物足りなさを主張しているのかも?と受け取りました。深読みしすぎかもしれませんが、上沼恵美子さんが言っていた「審査員のみなさん、おかしいわ!」は、なぜこのアンチテーゼに気づけないんだという憤りなのかなとも。

(って思ってたら大山さんも言ってました)

ゆにばーすの男女ネタは、男女コンビ自体をネタにする形としては最高峰のようなネタでしたが、それでも順位が伸び悩むのは、「男女の恋愛感情をネタにしているから」ということでしょう。「恋愛」は全人類が共感できるテーマなのかと思われていたのは10年前までで、「男女の恋愛感情」という概念が、今はもう、ちょっとだけ古いんです。男女コンビだからこそ「男女云々」を飛び越えてむしろそこに一切触れないくらいの形のほうが今の時代に合っているのかなと感じました。

そして、もうひとつ。ももの「◯◯顔」のネタ。これも、ルッキズム的な文脈で炎上するかなと思ったら、そこまで炎上していなくて驚きました。(800近いはてブを集めるエントリは出ていましたが、それでもテレビのニュースになるレベルの大炎上クラスでは全然なく)

ネタ自体は、いわば「ルッキズム批判・ルッキズムいじり」なので、むしろ「これぞ、正当なお笑い」という感じがするのですが、それでも(「いやだ」と感じる人が一定数いる以上)批判が出てしまうのは致し方ない範囲なのかなと思います。その上で、順位が伸びないのは「(いい悪いを個人がどう思うのかはまた別として)ルッキズムが扱われいてるネタでは笑いづらい」という空気が間違いなくあると思います。

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ざざざっと書きましたが、ちゃんと書き残しておこうと思うくらい、いろいろと感じることの多いM-1でした。めちゃくちゃおもしろかったです。

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くいしん
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