浪花少年探偵団・東野圭吾
新装版 浪花少年探偵団・東野圭吾・講談社文庫・2023年2月15日新装版第23刷発行、を読んだ。五編収録のユーモアミステリである。連作短編ではあるが、これが著者の最初の短編集である。収録作品のいくつかを、あらすじ紹介等を以下に。
その朝、竹内しのぶが自分の受け持つ6年5組で生徒の出席をとると、いまだ休んだことのない友宏の返事がなかった。一時限目の授業をしていると、教頭がやってきた。廊下に出ると教頭はいう、友宏の父が亡くなったという連絡があったと。友宏の父は、大阪の大和川の堤防に停まったトラックの中で死んでいるのを発見された。死因は頭部の傷で、トラックの荷台の角に血痕がついていた。トラックは「N建設」のものであるが、彼はその会社の人間ではなかった。社長が一日だけ車を貸したのだった。警察は、現場に妻と息子を連れてきた。妻の話によると、昨夜十一時頃に彼は家を出て行った、行く先は言ってなかった、二万三万持っていった、という。しかし、その金は消えていた。大阪府警の新藤と漆崎は、彼の住むアパートに向かった。アパートの住人の話では、彼は失業中で、家庭内暴力をしていたという。隣の住人に聞き込みに行くと、昨夜十一時頃トラックが出ていくところを妻が「お金持っていかんといて」ととめていた、だがトラックは発進した、と住人の女はいった。それから十一時半頃には、妻が息子を連れてやってきて、夜中に亭主が帰ってきて騒ぐかもしれないけれど辛抱してくれ、といいにきた、という。翌日、新藤と漆崎がもう一度隣人の女に聞き込みに行くと、さっきけばけばしい夜の女っぽいのが隣の戸を叩いていた、犯人の女ではないか、という……(「しのぶセンセの推理」)。
話を聞きにきた刑事に、N建設の社長は被害者とは幼なじみで、若い頃からあほなことばっかりやった仲だという場面がある。ここのところを読み、僕は、東野圭吾のエッセイ「あの頃ぼくらはアホでした」も読んでみたくなりました。この小説の舞台、大阪といえば、著者の生地であるのは有名である。
刑事は、妻の勤め先の工場にも話を聞きにいく。そこのところで「『モダン・タイムス』から何十年も経っているというのに……」という文章があり、何?と思った。調べてみると、ああチャップリンなのね。
そこと同じページには、「最近はファミコン・ブームで」とある。そのファミコンのことから始まるのが、次の「しのぶセンセと家なき子」だ。
ファミコン ── といえばもー僕ら80年代子ども世代は、特に男子においては、全員が三度の飯より熱中している。ファミコンの思い出を語ろうとすれば限りなく出てきて、夜も明けてしまうので、語りたいけど、ここではやめとく。
しのぶの生徒が、買ったファミコンソフトを盗られるという事件が、二件起きた。しのぶは犯人を捕まえることを決意し、二人の生徒を連れて商店街を歩いていると、犯人の少年に遭遇。追いかけるが、逃げ足早く、撒かれてしまう。同じ日、近くの長屋で住人が殺されているのが発見された。発見者は隣に住む主婦で、漬け物石を落としたような謎の音を聞いた、という。被害住人と同居する息子の姿は消えていた……。
この話を読んでいて、いい時代だなあ、と思ったところがある。「未来都市」を売りにきた者のことを中古屋の店主はあっさり教えてくれる(まあ警察相手なので教えるのは当然だが、警察でなくても誰が訊いてもあっさり教えてくれそうな時代だ)し、商品を万引きしようとした子どもに対して今度やったら承知しないとだけで放り出してくれる(子ども相手だが、大人に対しても許してくれそうな時代だ)。お客様のプライバシーだとか、万引きは即刻通報するとか、現代のような、決まりきったカタクツマラヌことはいわない。いい時代だなあ。
で、最後の終わり方もどことなく、いい昭和感でして。
ある日、しのぶは教頭から見合い話を紹介された。見せられた写真の男は、なかなかのイイ風の男だ。別にいまは男に焦ってもいないが、教頭が強く押してくることもあり、見合いしてみることにしたしのぶ。今週土曜日にレストランで待ち合わせ。それを近くで鉄平と原田が聞いていた。二人は新藤に知らせてあげることにした。新藤がしのぶのことを好きだということを、鉄平たちは知っている。新藤を応援したい。そして土曜日、見合いが始まった。鉄平と原田と新藤もレストランに入った。しのぶらの席から離れた席で、その様子をこっそりうかがい、あわよくば邪魔でもしてやろうかと思っていた。男と一緒に来るはずのK工業の社長が来ない。そのうち新藤のポケット・ベルが鳴る。K工業の社長が殺された、という知らせだった……(「しのぶセンセのお見合い」)。
作品中「二代目がボンクラやと苦労するという見本みたいな話ですな」というセリフがあった。これはホンマにそうで、二代目がボンクラでアカンというイメージ、昔もいまもある。政治家にしても社長にしてもなんにしても、上の立場にあるもんらが二代目だとだめぇ〜という例を、わしらいままでさんざ山ほど見聞きしてきてて、ウンザリほとほと呆れとるわー。どうしてくれるんやー!(となぜか大阪弁混ざってる)。二代目でええのていえば、そりゃあんた、スケバン刑事くらいなもんかて笑(でもあれ、土佐弁やったなあ)。
……戯れに大阪弁やってみたが、文庫解説で宮部みゆきがいうように、調子っぱずれになってないだろうか。自信がないのは、僕はよそものの関東人だから。「大阪弁という言葉には、よそものがズカズカ入って行くことのできない、ひとつの世界があるのだ。言葉だけは真似られても、あの独特のニュアンスは、絶対に出せません。あかんねんてなんて言ってみても、調子っぱずれに聞こえてしまうだけです」(355ページ)
「しのぶセンセのクリスマス」について。いくらなんでもおまえら、ケーキつまみ食いするなよ! 衛生的によくないぞ、まじで。
★ 浪花少年探偵団・東野圭吾・講談社・1988年12月刊行単行本。講談社文庫・1991年11月15日発行。講談社文庫新装版・2011年12月15日発行。