実話怪談 徒競走
Kさんが中学生の時の話だ。体育祭の徒競走での出来事だそうである。Kさんはピストルの音と共に走りだした。Kさんは足が速く、順位は一位だった。
レースが中盤に差し掛かったころだった。
カッ、カッ、カッ、カッ。
およそシューズが立てそうにない、乾いた音が、Kさんの背後から聞こえてきた。音は次第に近づいてくる。
こんなに早い生徒がいたのか。Kさんは驚き、そしてその顔は曇った。
Kさんは陸上部だった。そのため本番ではない、こんなレースで負けるわけにはいかないと考えていた。
さらに強く地面を蹴る。Kさんのスピードは上がった。ゴールはもう目の前だった。しかし。
カッ、カッ、カッ、カッ。
背後の足音はずっと付いてきていた。音からして全く距離を離せていないようだった。
ふと、奇妙なことに気づいた。
この喧騒の中、なんでこんなにはっきり聞こえるんだろう。
次第に足音は近づき、そしてKさんを抜かしていった。
誰も、いない?
足音は聞こえるのに、誰もそこにはいなかった。
Kさんのすぐ目の前で、ゴールテープが切られた。恐らく気づかなかったのだろう。放送委員のアナウンスは、Kさんのゴールを告げていた。
誰か、あれに気づいてないのか?
周りを見渡したが、どうやら自分しか気づいていないようだった。Kさんの手には一位の旗が渡された。
体育祭にはKさんの母親が応援に来ていた。彼女はKさんをカメラで撮っていた。写真のKさんの背後には黒い大きなシミが映っていた。母親はカメラの故障を疑っていたが、Kさんはそうではない事を知っていた。