砂漠
気に入った場所で仰向けになった。
夕空に星が見え始めていた。
ビールが飲みたいと思ったが、
それは一瞬で消えた。
私は目を閉じた。
ただ漠と積み重なった、
私の生まれる前からの色々と
私が生まれてからの色々、
私と関係ない色々と関係する色々、
カルマとか怨念とか愛とか幸福とか、
それらが皆
かさかさになって、
ぼろぼろになって、
こなごなになって、
こんなふうになってしまえば清々しいのに…
そんなことを思いながら砂を撫でた。
風がやんだ。
さっきまであんなに吹いていたのに。
ゆったり呼吸ができる。
満足感がからだ中をめぐっている。
やっと終わる…
「お嬢さん…お嬢さん…」
私を呼ぶ声で目が覚めた。
泊まっているホテルの年老いたオーナー夫妻と警官とおぼしき男が、
私の顔をのぞき込んでいる。
(悪いけど放っといて)
私がまた目を閉じようとすると、
三人に抱き起こされてしまった。
(引き戻されてしまう…)
そう思った瞬間、三人が私を抱きしめた。
「一人で行くこともあるまい」
誰が言ったか確かめる間もなく、
私たちは砂になった。