足切り棒グラフ<2024年版> ~あなたは誘導されている? ~新聞記事の棒グラフを検証~ 6-March-2024
これって誇張、 誘導じゃない? 新聞記事に掲載れている棒グラフはタイトルと同様に直ぐ目に入る位置にある。本文を読まなくてもある程度の内容理解ができることが大切。しかし「この棒グラフは大げさだな」と感じる図版が紙面に登場することがある。実際に新聞記事で使用されている棒グラフを例に検証する。
1 「足切り」棒グラフ (2023年12月14日、東京新聞)
ブロック紙記事「医療の値段」を見てみよう。平均受診費用は1受診当たり2000年からほぼ毎年上昇している。23年間での上昇率は約4割、1.4倍程度まで増加している。しかし図1の棒グラフでは「一見(ひと目見て)5倍以上に増加」したように見えてしまう。読者に対して「医療費が実際よりも過大に上昇」という印象を与えてしまう可能性を指摘したい。棒の高さ変化率の強調は記事自体に誘導があるのではないないか、という疑いも持ってしまう。(図2では同じ医療費数値データを足切り無しで表記)
総務省統計局担当者は「単純な足切り棒グラフ。縦軸に目盛りがあるので不適切とまではいえないが親切なグラフではない」との意見が示された。
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1 「縦軸切り(破線入)足切り」棒グラフ(2023年12月22日、日刊工業新聞)
専門紙記事「低温物流市場規模」について検証。図3と図4も同じ数値データの棒グラフである。図3の棒グラフでは、縦軸0点のすぐ上に破線(二重波線)を入れており棒グラフの高さがあらわす比率が年度変化の数値比率にはなっていない。出展元のグラフを読みやすく改変することは報道機関として正しい姿勢といえるが「足切り」はミスリードを誘発する可能性が高い。読者としては数値の推移にも目を向けてみる必要があるだろう。
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1 「縦軸の縮尺途中変更」棒グラフ(2023年8月2日、毎日新聞)
全国紙記事「保育事故件数の推移」をみてみよう。棒グラフでは縦軸の人数単位がその途中で百倍近く(縮尺で百分の1程度)変化している。同じ縦軸に事故件数と死亡数の両数値が途中で縮尺を変えて表示されている。前出、総務省統計局の担当者からは「これは不適切使用」。
筆者からの「全国総合紙でもある新聞記事に不適切な図が載った場合、指導など何か行動するのか」との問いに対しては「それはしない。ただし学習指導要領、算数・数学の統計の単元において【不適切事例】として示すことは必要かもしれない」という意見であった。
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4 「足切り」された棒グラフの是非
足切り棒グラフについて作成した記者に取材した。「決して誇張や誘導の意図はない。紙面のスペース関係もあり『見やすくする』、『分り易くする』というのが私を含め、大半の記者の意図だと思う(新聞記者)」との返答。またNHK記者によると「足切り棒グラフ自体をこれまであまり意識していませんでした。強調よりは誘導(ミスリード)につながる危険性がありますね。図版作成の参考意見として共有します」との意見であった。他方、将来科学ジャーナリストになることを希望する大学院生からは「そもそも0を起点としていな棒グラフを載せるのは意味がない。折れ線グラフにするべきだ」とのコメントに勇気づけられた。
取材で明らかになったことがある。記者自身が図を作成する機会は少ないようだ。図版作成は整理部や紙面レイアウトを担当する部署が行うことが判ったが、取材をするまでには至らなかった。直接、足切り棒グラフ作成者の見解は得られていない。ただし記者は記事全体にたしての責任があることは明らかだ。他方、読者は図版からの印象だけではなく客観的な数値を確かめる必要がありそうだ