今更の「コンビニ人間」感想(ネタバレ注意)
今回は今更ながら村田 沙耶香氏著「コンビニ人間」を読んだので、感想を書いていきたい。
主人公について
私が感じたのは、いわゆる高IQな人、という感じである。
周囲との価値観の違いに違和感や疲労を感じつつも、自分の感情により認知をゆがませることなく観察し、判断していく安定感を感じた。
白羽氏について
主観と客観の乖離した人物像として作中では描かれている。
だが、自分は恥ずかしながら既視感を感じてしまった。
例えば、「自分は起業できれば認められる」といったワードは、香ばしさもさることながら自分を見ているようであった。
物語について
序盤はコンビニという世界に関して、その中の人間関係を中心に語られている。
描かれている内向きな人間関係は、胃がぎゅっとなるが世俗の人間関係の縮図として興味深かった。
しかし、私がそれ以上に心を揺さぶられたのは前述した2人の関係性である。
当初の2人の関係性は同じ職場の人という立ち位置である。
コミュニティの中のメインキャラクターではないという書き方で似た者同士に描かれているが、社会から求められる役割に冷めている主人公と飲み込まれる白羽は対照的である。
途中からこの関係性は一変する。
お互いに同棲や彼氏彼女として第三者に紹介するなど、対外的には「付き合っている」と認識されるようになる。
そして、その関係性をひっくり返すような終わり方も鮮やかだ。
タイトルの伏線を回収するかのように、主人公はコンビニ店員の役割を宿命として受け入れ、白羽からの要求を断り、自分の人生を歩んでいく。
そんな主人公の生き方を自立しているな、と尊敬する一方で
当初は主人公を口では拒絶していた白羽が最後は勝手に主人公を自分の物語の中に取り込んでいるのは、もはや愛おしさすらある。
あくまでも自分の人生の中の登場人物として完結している主人公の価値観に比べて白羽は主人公を利用したと思っていたら利用されていたというオチにも解釈ができる。
感想
二人の関係性を考えてみて、自分の知り合いに主人公のような気質の人と同じような関係性に陥っているのではないか、とシンパシーを感じた。
自分の心には白羽のような自分がいて、心のどこかでは「自分は出来るのではないか」という淡い期待を捨てられない心を捨てきれない。
そんな感情を受け入れつつ、一方的に学習していく主人公的な立場の知り合いと関係性が酷似しているのではないか、そう気づかされた。
また、主人公と白羽の間の白羽の感情を主人公が冷静に対処策を紐解いていく補完関係や、一時的に同じような人と出会えたという喜びや安堵から結局は同じというわけではない、と気づいてすれ違っていく変化を男女の関係を交えずに表現している。
個人的にはここに、作者の類まれな文才に嫌でも気づかされる。
本書では、白羽は終始一貫して「自己中な人」として描かれており、その心理状態からの脱出方法は述べられていない。
彼のような人間が世の中にどれほどいるかはわからないが、白羽のような人間に変化が起きるのはどういうときなのか、勉強していきたい。