テレンス・コンランを知っているか
2024年10月24日から東京ステーションギャラリーにて開催しているテレンス・コンラン展に行ってきた。
「The Conran Shop」を訪れたことがある人は多いだろう、ただ創業者のコンラン氏について知っている人は意外と少ないのではないか。
筆者自身も、「英国でデザイン業界に貢献した、すごい人」という認識しか持っておらず、圧倒された。
これはIKEAかHabitat(ハビタ)か
デザイナーとしてキャリアをスタートさせたコンランは1960年代、
ホームデザイン商品を中心としたHabitatというショップを展開させる。
思いのほかマスプロ感の強い、カラフルなデザインの商品が沢山売られる。
世界大戦後の陰鬱とした空気、人々の心にに彩りを添えたに違いない。
そこにはIKEAに初めて訪れた時のような感覚と雰囲気があった。
もっとインテリア好きを唸らせる表現が欲しかったが、一番しっくりくるのがIKEAだった。(アラサーの筆者世代は、IKEAがおしゃれでかわいい北欧インテリアのとっかかりになっている人が多いのである。)
要は北欧の要素が強かったのだと思うが、シンプルで目惹かれる、自宅に添えたいと思わせるデザインの数々は感動そのものだった。
食環境を侮るな
コンランは食(ただ食べるだけではなく芸術そして事業としても)にかなりの重きを置いていた。
食へのプライドを持っている我々日本人の感性には響くものがある。
Butlers Wharf Chop HouseやBlue Birdなど生涯数多くのレストランを展開したコンラン氏はイギリスの食文化への貢献度も非常に高かった。
南仏のような陽がさす中での食環境へ強い憧れがあったというコンラン氏、曇りがちなイギリスの気候下ではなかなか実現しえない、彼なりの「素敵」で「理想的」な食環境を求めたのかもしれない。
それでもデザインを創り続ける
お気に入りの椅子に座ってデザインのラフ画を作る、週明けにラフ画を事務所に持ち込んでモック作成にとりかかる。晩年まで続けたというから驚きだ。年を重ねたからあれができない、もう学生ではないからこれができないなどと御託を並べてぼんやり過ごしている自分が情けなくなる。(コンラン氏が自分と同じ土俵に立っている訳はないことは重々承知している)
アンリ・マティスも晩年、体調不良と向き合い、自分が生涯できる表現方法を見出した。
筆者はコンラン氏でもなければマティスでもない。それでも情熱を向けた何かを続けることに御託は要らない。だからコンラン氏はコンランであり生涯デザイナーなのだ、と購入した図録を見返しながら思った。
コンランの意思は日常に
戦後のイギリスと日本。大陸から切り離された我々にはなんとなく通ずるものがあった気がする。シンプルでちょっと良いのを日常に取り入れながら暮らしていく。そして大切にしていく。
当たり前のようだが現代の日本でこの意思がどのくらい残っているのか。
少なくともこの展覧会を訪れた人の心には、根ざしていってほしい。