良いゴール?悪いゴール? ’23-'24 WEリーグ第1節 ベレーザ対パルセイロレディース
良いゴールとはどんなゴールなのだろうか?
FIFAが制定するその年に得点されたゴールの中で最も優れたゴールに送られるプスカシュ賞の2023年の候補を見ると、そこには様々なゴールが候補に挙げられている。
個人の素晴らしいスキルにより生まれたゴールからチーム全体の美しい連携により生まれたゴールまで受賞候補は幅広く、「良いゴール」を判断する基準には様々な要因が含まれることを示唆している。
ダブルピヴォットが生んだ芸術的ゴール
2023年11月12日、3年目となる日本女子サッカープロリーグ WEリーグの新シーズンの幕が開けた。
過去2シーズンは早々にリーグ優勝争いから離脱したベレーザは昨季途中までマイナビ仙台レディースの監督を務めた松田岳夫監督を招聘。
新体制となり迎えたWEリーグカップでは2勝1分と好調なスタートを切ったが残り2試合で8失点し失速。グループリーグで敗退した。
そのような中迎えたリーグ開幕戦はホーム西が丘にAC長野パルセイロレディースを迎えての一戦となった。
試合は開始早々10分にコーナーキックからキャプテン村松が頭で得点を奪い先制。69分には北村菜々美が追加点を挙げるが75分に1点を返されスコアを2−1とした。
「2−0は危険なスコア」という常套句が頭に浮かぶ試合終盤、84分にそのゴールは生まれた。
69分に前線の土方がCB松田と交代したことによりダブルピヴォットの一角を担いプレーしていた宮川が中央でボールを受けると、もう一人のピヴォットである木下が前線へ走り出す
その木下へ宮川が芸術的な浮き球のパスを入れると、木下は足にぴたっと止める素晴らしい技術を見せ
木下は勝負を決定づける3点目を奪った。
ゴールが象徴する松田ベレーザの課題
複数ポジションをこなすことが出来る選手がパス、トラップ、シュート等の全ての面で高い技術を持つ個の質の高さは、ベレーザの特徴であり伝統である。
そんなベレーザ”らしさ”を象徴するようなゴールであったが、一方で、現在の松田ベレーザの抱える課題を象徴する場面でもあった。
今シーズンのベレーザは、昨シーズンまでのポジショナルな考え方を基本に、保持・非保持・それらの切り替えの4つの場面で主導権を握ることを目指す戦いから、旧来の守備を監督が整備し攻撃は個の即興性に任せる戦いを基本としている。
今季発刊されたオフィシャルイヤーマガジンでは藤野あおばが
とその変化を語っている。
この”即興性”と松田監督が求める”前へのアグレッシブさ”は、現在選手がボールを受けるために自由にポジションを変えることや、サイドで前線の選手がボールを持ったときにフルバックの選手が全速力でオーバーラップすることに現れており、これらの動きは昨季までの「チームが”居るべき場所”の認識を共有し、誰かがそのポジションに入ると、他にいるべきポジションに誰かが入れ替わりで入る」といういわゆる”ローテーション”とは異なる。
そのため、今季のベレーザはポゼッション時にフルバックやフォワードの選手が中盤まで降りてくると、ダブルピヴォットの2人はポジションを入れ替えるのではなく、動きやすいスペースを作るかパスの受け手となるように前線に動こうとして中盤のいるべき場所にいない場面が多い。
13分のこのシーンではレフトバックでプレーする宮川が内側に入り、更に中央へボールを運ぶと
菅野はドリブルのスペースを空けるため後退。一本のパスで決定的な場面を作ることができる菅野、木下の両6番が2人ともゴールから遠ざかる位置取りとなった。
また17分には土方が前線からボールを受けるために下がってくると、サイドの空いたスペースへ6番の木下が侵入
またしてもダブルピヴォットのどちらもピッチの中央からいない状況を作った。
個人の高い技術を発揮し生まれた3点目も同様に、ダブルピヴォットの一人は相手の中盤のラインの外側、もう一人は相手の最終ラインの裏へ走っており、
本来6番の選手が埋めるべき相手の最終ラインと中盤のラインには誰もいない状況が生まれている。このゴールが素晴らしいゴールであることは間違いないが、この状況はチームとして良いものなのかどうかは意見が分かれるのではないだろうか。
今季のベレーザの様に、4−4−2を基本としながら空いたスペースを埋めずに自由に動くと、相手が人数のミスマッチを作ってきた時に対応が遅れることがしばしばある。そのため、現在のベレーザの形では相手が5トップで攻撃をしてきた場合、または5バックで守備をしてきた時に苦戦が予想され、今季ベレーザが僅差の試合を勝ちきれるかどうかの分かれ道になるのではないだろうか。